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ログイン2005年2月12日
1990年代に入ってから中国への直接投資は急拡大し、1993年以降、中国が発展途上国の中で最大の直接投資受入国となり続けている。昨年(2004年)には金融引き締めなど「経済調整」で、固定資産投資の前年比伸び率が低下している中、中国への直接投資額は実行ベースで前年比13.3%増の606億ドルと、史上初めて600億ドルを突破した(表)。
諸外国・地域の企業を中国に向かわせる理由の一つに、中国の外資優遇措置の実行があるとみられる。中国政府は1970年代末から外国直接投資を誘致するため、外国企業の投資・経営に適する「小気候」(特別な環境)の構築に大きな力を注いできたが、外資企業への優遇措置の実行はその柱の一つとなっている。
これまでに形成された中国の外資優遇措置は、1)各種の減免税措置を中心に、「内資企業」(中国資本の企業)より外資企業を優遇すること、2)地域的には内陸部より沿海部、中でも経済特区に進出する外国企業を特に優遇する(いわゆる「地域別傾斜政策」)といったところに特徴がある 。
これらの外資優遇措置は中国の直接投資受け入れの拡大に寄与してきた一方、市場経済化推進の明確化や産業政策の導入に伴い、いくつかの矛盾点も露呈した。1)外資企業に対する優遇と、公正な競争を求める市場経済化との矛盾、2)沿海部に対する優遇と、地域格差是正との矛盾、(3)特別地域への優遇と、業種的選別の強化を求める産業政策との矛盾などが、それである。
WTO加盟(2001年12月)を契機に、外資企業への優遇政策の是正を含む、公正な競争環境の整備はこれまで以上に求められるようになった一方、外資政策の「安定性」と「連続性」を重視する意見も強かった。しかし、今年に入ってから、外資企業への優遇税制の調整に関する議論は急速に活発化している。財政省の高官は、「内資・外資企業所得税一本化の機が熟す」「いまこそ最高のチャンス」との認識も示している。
(1)注目される財政省の宣言
これまで中国政府は外資を誘致するため、外国企業に対していくつかの税制優遇措置を採っていた。例えば、1994年以前、大中型国有企業の企業所得税の税率は55%となっていたのに対して、外資系企業のそれは30%(地方所得税を含むと33%)、深センなど経済特区内または経済技術開発区内の外資系企業(後者の場合、生産型企業に限る)なら、さらに15%に低減される。経営期限が10年以上の生産型企業に対して、「二免三減」(利潤が出た最初の2年間は免税、その後の3年間は税金半減)という優遇措置も適用される。
1994年以降、中国政府は「社会主義市場経済体制」の確立の一環として、国有企業の企業所得税率の引き下げ(3%の地方所得税を含めて、33%へ)を実行したが、内資企業の実効税率と外資企業のそれとは、依然として大きな格差がある。財政省の試算によると、内資企業の実効税率は外資企業の所得税率より10ポイント〜12ポイントも高いという。
今年に入ってから、これまで長期間にわたって議論されていた内資・外資企業所得税の一本化問題は、再びクローズアップされるようになった。1月11日、謝旭人・国家税務総局長は企業所得税制改革を支持するとの態度を表明したのに続き、翌日の1月12日に金人慶・中国財政相は「2005年全国財政学会年会」において、「内資・外資企業所得税を一本化させることは切迫した課題となり、現在、実施の機が熟し、さらに遅延してはいけない」との発言を行なった。
謝旭人総局長と金人慶財政相より突っ込んだ形でこの方針を伝えたのは、1月16日に開催された「中国経済情勢報告会」における楼継偉・財政次官の発言にほかならない。楼次官は「国内資本・外資企業の所得税一本化の機はすでに熟した」との見方を示した後、新しい税制の要点を初めて披露し、内外から大きな反響を呼んだ。
楼次官は内資・外資企業所得税の一本化に関する税制改革の方向として、「簡税制」(税制の簡素化)「寛税基」(課税ベースの拡大)、「低税率」(低税率の実行)に要約している。その要点は以下の通りである。
認可件数(件)
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契約金額
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実行金額
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2000年
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22,347( 32.1)
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623.80( 51.3)
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407.15( 1.0)
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2001年
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26,140( 17.0)
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691.95( 10.9)
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468.78( 15.1)
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2002年
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34,171( 30.7)
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827.68( 19.6)
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527.43( 12.5)
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2003年
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41,081( 20.2)
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1,150.70( 39.0)
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535.05( 1.4)
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2004年
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43,664( 6.3)
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1,534.79( 33.4)
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606.30( 13.3)
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累計
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508,941
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10,966.08
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5,621.01
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注:カッコは対前年増減率(%)。累計は1979年以降の累計。
資料:中国商務省。
(2)三つの狙い
中国政府が内資・外資企業所得税を一本化させる狙いとして、三つほど挙げられる。
一つ目は、税制改革を通じて中国企業の税負担を軽減し、企業の設備投資の拡大と活力の増強を図ることである。中国政府は国有企業改革と市場経済化を推進すべく、早くから国有企業の負担軽減と民営企業の育成を強調してきたが、その財源の確保が課題となっている。企業所得税の一本化は、大多数を占めている内資企業にとっては税負担の軽減を意味することで、短期的には国の税収減につながる可能性が高い。
近年、中国経済の高成長を背景に、税収入が大幅に増加している。財政省の発表によると、2004年中国の財政収入は前年比5500億元(約7兆1500億円)も増加し、増加額では過去2年間分にあたる規模となっている。財政省が、「現在は一本化を図るべき時期で、いまこそ最高のチャンス」との認識を示した背景には、近年の税収増が税制改革の推進に良い条件を提供できるとの判断がある。
企業所得税を一本化させる今ひとつの狙いは、内資企業の不満の解消と、公平な競争環境の整備である。中国市場を巡る企業間の競争において、内資企業、中でも民営企業への差別がよく指摘されている。WTO加盟とそれに伴う民営企業への期待の高まりを背景に、民営企業への差別を廃止し、民営企業に公正な競争環境を提供することを求める意見が増えている。毎年の全人代や政治協商会議の場で財政省と国家税務総局に提出した提案のうち、企業所得税制の一本化に関するものが数多く含まれているという。市場経済化を目指す中国にとっては、内資・外資企業所得税の一本化は、改革の目標に合致し、改革のさらなる推進に必要不可欠とされている。また所有制の違いにより異なった税率を実施することは、「税の徴収と管理にも困難をもたらしている」(財政省)との弊害もある。
企業所得税を一本化させる背景には、外資導入において量よりも質の向上を重視するという中国政府の姿勢がある。近年、中国の外国直接投資受け入れは急拡大しているものの、質の面では技術集約的産業より労働集約的産業への投資が多く、香港・台湾からの投資が欧米先進国からのそれを大きく上回っているといった問題も存在している。
労働集約的産業への投資の増加は、中国国内の雇用拡大に寄与する一方、資源消費の増大、農地減少・環境破壊の深刻化などマイナス面も露呈している。また経済特区など沿海部に立地する外資系企業への優遇は、地域間の経済発展のアンバランスや、それを背景とする地域所得格差の拡大などの問題ももたらしている。
1990年代半ばの経験からみれば、中国の外資政策の調整は国内経済情勢の変化とも関係している。当時、中国政府は経済過熱を抑制すべく、投資抑制など経済調整を行なったが、外国投資に対して業種的選別の強化を狙う「外国企業投資指導目録」の公布(1995年6月)や、外資系企業の生産設備・中間財輸入関税免除措置の廃止(1996年4月)などの措置も採った。
昨年から、中国政府は経済の過熱を防止・抑制すべく、投資抑制など引き締め策を取っていたが、限られた効果しか現われていないのが現状である。国家統計局の発表では、2004年の国内総生産(GDP)が実質で前年比9.5%増と、むしろ前年のそれ(9.3%)より高い数字を示している。うち固定資産投資の前年比伸び率は、幾分鈍化したものの、依然として25.8%の高率を見せている。地方政府や一部の企業の投資意欲は依然として強く、利上げなど追加抑制策を取るだろうとの観測も出されている。
今回、固定資産投資のコントロールなど「経済調整」が行なわれているなか、地方政府を含む中国政府は外国企業投資に対しては依然として奨励の姿勢を取っているのが特徴である。しかし、経済の過熱が収まらない場合、外国からの投資を「聖域化」する政策を修正する可能性もある。企業所得税の一本化は、この流れの一環と看做されることもできよう。
(3)実行は早くても2006年以降になるか
内資・外資企業所得税を一本化させるためには、現行の「外商投資企業及び外国企業所得税法」(1991年公布)と「企業所得税暫定規定」(1993年公布)を一本化させるための法律の改正が必要である。財政省は今年3月に開催する全人代に審議をかける考えを持っているようであるが、全人代が開催するまでの時間が少なく、2月前半に大連休の春節も入っていることなどから、上記の考えは現実的ではないとの見方が強い。
また内資・外資企業所得税の一本化については、外資導入を主管する中央官庁である商務省との調整も不可欠となっている。商務省が外資政策の「安定性」と「連続性」を重視する姿勢を取っているだけに、財政省と商務省との政策調整に時間がかかる可能性もある。これらの状況から判断して、一本化の実施は早くても来年(2006年)以降になるとみられる。
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