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日系企業社員の告発状を読む(11)

中国ビジネスレポート 労務・人材
田中 則明

田中 則明

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2006年12月30日

記事概要

告発状を読んだ董事長の次の感想は、「A総経理に全く情状酌量の余地がないような発言に終始している」でした。

 

告発状を読んだ董事長の次の感想は、「A総経理に全く情状酌量の余地がないような発言に終始している」でした。

 

 董事長によれば、彼は中国の子会社経営にあたり、2001年に出版された「中国進出企業の労働問題」(馬成三、ジェトロ)のp.146で紹介された中国の古い諺「疑人不用,用人不疑(疑うなら用いるな、用いるなら疑うな)」を金科玉条として、A総経理に全幅の信頼を置いて経営を任せて来たとのことです。

 

 この中国の諺に初めて触れた時、董事長は、「これだ!これだ!」とまさに欣喜雀躍したそうです。中国での経営、労務管理に全く道が見出せずに難渋していた折、「中国人は信頼されると張り切って働く」との解説付きでこの諺が目に飛び込んで来た時、「さすが、中国、労務管理に関しても、既に古くから研究が進んでいて、このような名言があるんだ」と迷いが一遍に吹き飛んだのだそうです。

 

 以来、一貫して、一人の総経理=A総経理に全幅の信頼を寄せ続けて来たそうです。

 

 ところが、この告発状は、「あなたが全幅の信頼を置いている人物は、信頼するに足らない人物で、疑ってかからなければいけない。用いてはいけない」と言うのです。

 

 董事長にとっては、これは、由々しきことです。なぜなら、この指摘が正しいとすれば、中国の古い諺を信じたそのこと自体が間違っていたということになってしまうし、自分に如何に人を見る目がなかったかを認めることになってしまうからです。いや、それどころか、「信じたことが間違い」となれば、少し大げさに聞こえるのを恐れずに言えば、「改宗」を迫られることになるからです。信念、信条の大転換を迫られることになってしまうからです。

 

 当然、経営者である董事長は悩み抜いたそうです。眠れないほど悩んだそうです。そして、もう一度、告発状をつぶさに読み返して見たそうです。

 

 その結果、董事長は、「この告発状によって、A総経理は、総経理として失格とは決め付けられない」との確信に至ったそうです。

 

その理由は、既に述べたような告発状の書き手の「書き方の拙さ」以外に、いや、それよりもっと大事な理由として、この告発状の書き手の「ものの見方が一方的に過ぎる」という点に気が付いたというのです。別の表現を使えば、告発者の者の見方は、告発者と被告発者に対して決して公平ではない、いや、それどころか、かなり不公平、かなり偏ったものの見方をしていると言わざるを得ないと見抜いたからだというです。

 

 どういうことかと言いますと、A総経理の会社のトップとしての資質に欠ける点として上げられた以下諸点

 人間性 1.利己的である。

     2.他人に対する思いやりが欠如している。

 能力  1.管理能力が欠如している。

     2.業務能力が欠如している。

のうち、先ず、能力に関して言えば、「社員が辞めたのは全てA総経理の管理能力がないからだ」と短絡的に決め付けられないのではないかと考えというのです。仮に管理能力不足が関わっていたにしても、それが唯一の原因と決め付けられるだろうかと考えたというのです。

 

更に、問題なのは、「業務能力」の部分で、A総経理は、部下の営業部長や人事部長や開発者より能力的に劣ると言い切っている部分が気になったそうです。なかんずく問題なのは、幾つかの商談がA総経理の口出しが原因で不成功に終わった、「何も分からぬ総経理が口さえ出さなければ、全てうまく行ったのに」というような口調で書かれているが、自分が信用した経営者が自分の会社に利益をもたらす商談を故意につぶすなどという事があるだろうか?逆ではないのか?営業部長が自分の成績の為に無理に成約を成し遂げようとして、それに経営者である総経理が待ったをかけたというのが真相ではないのか?もしそうであれば、会社のため、ひいては董事長の為に奮闘してくれているのは、A総経理であって、営業部長ではない。・・・・

 

 また、管理能力の面でも、親会社の経営者としての自分を顧みるに、経営者が時として社員の目に「厳しく」映るのはよくあることで、投資者の利益を考えて、一生懸命会社の資源を無駄にしないように頑張っているからではないか?・・・・

 

 董事長は、このように考えを推し進め、告発者が恐らく意図したであろう、A総経理失格の結論は留保したとのことです。

 

 いかがですか?

 

 なにやら、

 

董事長・A総経理=資本家 と 告発者=労働者

 

の対立の構図も垣間見えて来ますね。

 

 結果として、このケースにおいては、告発者の訴えは、董事長には届かなかったことになります。

 

そして、この董事長は、今でも「用人不疑,疑人不用」を心底信じ、A総経理に全幅の信頼を置いて、経営を任せています。(2006年12月記・1,907字)

 

 

                         (続く)

 

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