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ログイン2024年5月1日
冬に入り、雨や雪といった悪天候が増えることで、従業員の出退勤途中における事故も増加する。筆者はこのところ、労災認定に関する多くの相談を受けているが、本文では、労災について差し当たり理解し、判断しやすいよう、関係する法律規定を踏まえ、労災認定の細かな点、とりわけ出退勤途中に負傷したケースの労災認定について考察する。
Q1.労災と認定されるうえでの法定状況とはどのようなものか?
「労災保険条例」第14条の規定によると、従業員が以下の状況のいずれかに該当する場合、労災と認定されることになる。
1.業務時間中及び業務場所において、業務上の原因により事故に遭い負傷したとき。
2.業務時間の前後に業務場所において、業務と関係のある準備又は片付けの性質を有する業務に従事することにより、事故に遭い負傷したとき。
3.業務時間中及び業務場所において、業務上の職責を履行したことにより暴力などの突発的な傷害を受けたとき。
4.職業病に罹患したとき。
5.業務のための外出期間に 、業務上の原因により負傷し又は事故が発生し行方不明になったとき。
6.通勤途中において、本人の主要な責任によらない交通事故又は都市の路線交通、旅客用フェリー、列車での事故に遭い負傷したとき。
7.法律、行政法規で労災と認定されるべきと定められているその他の場合。
このほか、「労災保険条例」第15条では「みなし労災」とされる3通りの状況を定めており、それは、業務時間中及び業務場所において、突発的な疾病により死亡し又は48時間以内に応急手当をしたにも関わらず死亡した場合、災害救助等の国の利益、公共の利益を守る活動中に負傷した場合、従業員が以前に軍隊で兵役に服し、戦闘、公務により負傷して身体障害が残り、革命身体障害軍人証を取得している者が使用者において業務した後に古傷が再発した場合である。第16条は、故意に犯罪を犯し、酒酔い又は薬物を摂取し、自傷又は自殺するという3通りの状況は労災又はみなし労災と認定してはならない状況を明確にした。
Q2.業務時間、業務場所、業務上の原因とはどのように理解するべきか?
この「業務3要素」について、実践において、裁判所は事件の具体的な状況に基づき把握判断するが、地域ごとに一定の相違がある。「労災保険行政案件の審理に係る若干の問題に関する最高人民法院による規定」(以下、「規定」をいう)を踏まえ、本文では以下の通り理解する。
1.業務時間:従業員の労働契約で約定された業務時間又は使用者が規定した業務時間及びその残業時間が含まれる。
2.業務場所:使用者が日常的な生産経営活動に従事することを効果的に管理することのできる区域や、従業員が特定の業務を遂行するために関与する使用者以外の関連区域、従業員が業務のためにその職責に関連する複数の業務地を往来する合理的な区域を指す。
3.業務上の原因:従業員が業務時間及び業務場所において、生産経営活動に従事する上で直接に事故に遭い負傷した場合も含むが、業務中に従業員が合理的かつ必要な生理上の需要を一時的に解決する際に不安全な要素により事故に遭い負傷した場合も含む。また、使用者が従業員をレクリエーションやスポーツ行事に参加させることを手配し又は実施することは、業務上の原因とみなすべきであるが、使用者が業務の名義で従業員を食事や観光、レジャー娯楽などの活動に参加させ、また従業員が業務のための外出期間中に業務上の職責と関係のない活動に従事することで従業員が負傷した場合、業務上の原因とはしない。
【判例】「業務上の原因」の証明責任について
●上海(2009)滬01行終829号の判例においては、従業員が必要な生理上の需要を解決する際に不安全な要素のために受けた不慮の傷害について、労災と認定することを裁判所は支持した。
●使用者が社会保障部門の労災認定の決定を認めない状況に対しては、使用者が従業員の負傷は業務以外の原因によるものであることを証明するものとし、さもなければ、証明不能の法律効果を負わなければならない。
Q3.準備又は片付けの性質を有する業務とはどのように理解するべきか?
一般的に、準備又は片付けの性質を有する業務とは、業務開始前の合理的な時間内に、業務と一定の関係があり、又は法律法規、業界作業規程、使用者規則制度の規定に基づき、業務を遂行するための準備又はその後の事務をいうと考えられている。例えば、輸送や材料、工具の準備などの予備的な業務、及び清掃や安全な貯蔵、工具と衣類の片付けなどの仕上げ作用等であり、従業員の職種、職場、業務などを踏まえ、具体的に取り扱う必要がある。
【判例】退勤時にオフィスエリアを離れる際の労災認定について
●北京(2022)京行申1256号の判例では、従業員が会社で打刻して退勤し、オフィスビルの入り口の階段で転倒した際の負傷に対しては、労災と認定することを裁判所は支持した。
●裁判所の認識では、実践において「片付け業務」の条件に適合するかどうかを判断する際に、「業務時間の前後であること」と「業務場所」という2つの要素を踏まえて総合的に考慮しなければならず、当該従業員が退勤し、会社が所在するオフィスビルの入り口の階段を通ることは業務が終わった後の日常的な行為に該当し、かつその「打刻して退勤すること」と「オフィスビルの入り口で転倒したこと」は連続した動作であり、これについて一方から切り離してしまうのは好ましくない。
Q4.業務上の職務を履行したことにより暴力などの不慮の傷害を被った場合はどのように理解するべきか?
「規定」第5条によると、「業務上の職責を履行したことにより暴力などの不慮の傷害を被ること」には二重の意味がある。
1つは、業務時間中及び業務場所において、従業員が業務上の職責を履行したことにより暴力という傷害を被ることをいい、その場合、暴力という傷害は業務上の職責を履行することと因果関係があるということ。
もう1つは、業務時間中及び業務場所において、従業員が業務上の職責を履行している間に不慮の要素により人的危害を被ることをいい、例えば、工場敷地での出火、作業場の家屋の倒壊及び使用者のその他施設が不安全であることでもたらされた傷害などである。
Q5.業務のための外出期間とはどのように理解するべきか?
「規定」第5条によると、業務のための外出期間には以下のものが含まれる。
1.従業員が使用者の指示を受け、又は業務上の必要により業務場所以外で業務上の職責と関係のある活動に従事する期間。
2.従業員が使用者の指示を受けて外出し、学習又は会議に出席している期間。
3.従業員が業務上必要なその他の外出活動に従事している期間。
業務のための外出期間に、従業員が業務又は使用者の指示を受けて外出する学習、会議とは無関係の個人活動に従事し負傷した場合、労災とは認定しない。
Q6.通勤途中とはどのように理解するべきか?
「規定」など関係する規定に基づき、以下に例示する状況を「通勤途中」として認定することができる。
1.合理的な時間内に、業務地と住所地、通常の居住地、会社宿舎との間の合理的な経路を往復し通勤する途中。
2.合理的な時間内に、業務地と配偶者、両親、子女の居住地との間の合理的な経路を往復し通勤する途中。
3.日常業務、生活に必要な活動に従事し、かつ合理的な時間内に合理的な経路で通勤する途中。
4.合理的な時間内に、合理的なその他の経路で通勤している途中。
通勤途中の労災の画定について、一般的に労災事故の被害者の保障に有利であるという立場から、「合理的な経路」と「合理的な時間」という2つの重要な要素をめぐり、「通勤途中」について全面的かつ正確な理解を行う。注意しなければならないのは、単純に時間の長さを考慮の基準としてはならず、空間、時間及び移動目的を総合的に考慮に入れなければならず、具体的には、以下の通りである。
●空間:従業員が居住地から業務地までの間を通る合理的な経路とは、二つの地点の間の最も直接で、最も通じている経路を含み、従業員がその業務、帰宅及び日常生活に密接な関係のある事務(例えば、野菜市場へ買い物に行ったり、学校へ子供を迎えに行ったりすること)に対処するための経路、又は豪雨による道路の不通、交通の異常な渋滞などといった正常時とは異なる状況のために正当に迂回する経路も含まれる。
●時間:従業員が居住地から業務地まで、又は業務地から居住地に到着するまでの合理的な時間は、業務地から居住地までの距離、道路の通行状況、交通手段の種類と性能、気候変動状況などの要素を総合的に勘案する必要がある。「合理的な時間」の「開始と終了時刻」も実際の状況に基づいて合理的に調整しなければならず、それには、従業員の正常な業務時間の開始と終了時刻も含まれるが、従業員の定刻より早めの出勤、定刻より遅めの退勤、残業時間の開始と終了時刻も含まれる。
●目的:従業員には「通勤途中」の合理的な目的がなければならず、即ち、従業員が通過する経路は、「通勤」を目的としているか、又は「通勤」に密接な関係のある事務を処理するためでなければならない。もしも従業員がその前提のもとで、途中で他の場所に行き日常業務や生活に必要で合理的な事務を行うとき、その経路は依然として「通勤途中」であると認定される。
もしも従業員が前記の空間、時間、目的の条件を満たしているならば、定刻より早めに出発して出勤し、又は出勤中に休みを取得して病院に通ったり、休暇を取らずに定刻より早めに退勤したりするなどの正常時とは異なる状況の途中で事故に遭った場合も、労災と認定することができる。使用者が従業員の定刻より早めの出勤、退勤などの労働規律違反行為を理由に異議を申し立てたとしても、「通勤途中」の合理的な目的の認定を阻む法定事由にはならない。
Q7.本人の主要な責任によらない交通事故又は都市の路線交通、旅客用フェリー、列車の事故による負傷とはどのように理解するべきか?
1.本人の主要な責任によらないとは、即ち、本人に「責任がない」又は「副次的な責任」又は「同等の責任」をいう。「本人の主要な責任」に対する判定は、権限ある機関が出した結論的な意見及び裁判所の効力が生じた裁判等の法律文書を根拠としなければならない。
2.「交通事故」とは、道路上で車両が過失又は不慮の事態により死傷又は財産の損失がもたらされた事件をいう。まず、もしも通勤途中において交通事故による負傷ではなく、正常な状況であるならば、それは労災と認定されることはできず、二輪車で走行中の転倒などはよく見られるが、労災には該当しない。次に、たとえ交通事故が発生したとしても、事故の主要な責任が従業員自身にあり、例えば、従業員が速度超過で走行し正常に走行していた自動車に衝突して負傷した場合などは、通常、労災扱いとはならない。
3.「都市の路線交通、旅客用フェリー、列車での事故による負傷」とは、輸送事故の傷害をいうが、負傷原因が輸送事故でなければ、労災と認定することはできない。例えば、通勤途中に雨で地下鉄駅の階段が濡れて滑り、従業員が滑ってケガをした場合、通常、労災扱いとはならない。
本文では、読者が係る状況下での労災か否かについて差し当たりの判断を下すことができるよう、労災認定の法定状況に対し、とりわけ通勤途中で発生した負傷の労災認定の認識に対し簡潔に考察した。実践において、労災認定は従業員の負傷の原因、時間、場所及びその他の詳細な状況を踏まえ総合的に判断する必要がある。
(作者:里兆法律事務所 董紅軍、黄宇)
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