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労働争議新規定の考察:書面の労働契約を締結しないことに対する不適切な処罰の「抜け穴」を如何に効果的に塞ぐか

中国ビジネスレポート 労務・人材
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丁志龍

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2026年2月6日

2008年から実施された「労働契約法」では、「書面の労働契約の締結」を使用者の法に依拠した労働者の雇用に関する基本的な要求として定め、且つ当該要求を履行しない場合の具体的な罰則を明確にしており、具体的には「2倍の給与の支給」、「無期労働契約の締結と見なす(こと)」がある。そのような背景から、中国における労働契約の締結率も大幅に上がり[1]、労働者権益の保障と企業による雇用の規範化が大きく促進されることとなった。

ただし、この問題は実務運用上の複雑性があることもわかっており、それは例えば、「書面の労働契約の締結」責任を使用者側だけに過度に負担させてしまうと、誠実さに欠ける一部の労働者は使用者の制度や実務運用上の「抜け穴」を利用し、悪意により使用者に「2倍の給与の支給」[2]を請求するようになり、そうなると使用者の雇用コストを不当に増やすだけではなく、調和のとれた労働関係を構築するうえでも不利であることは間違いない。このほか、書面の労働契約の締結において、例外情況は考慮すべきかどうか、2倍の給与の支払基準はどのように確定すべきか、「無期労働契約の締結と見なす」ときに「2倍の給与の支給」も考慮すべきかどうか等といった問題も存在する。

2025年9月1日から実施されている「労働争議案件の審理に適用する法律に関する最高人民法院による解釈(二)」(以下「解釈二」という)は、前述の係る問題について更なる回答をしており、これは使用者が「書面の労働契約の締結」に関する問題をより円滑に処理できるよう助けるものである。本文章では、これを項目ごとに解説し、説明する。

一、書面の労働契約が未締結であった場合の制度上の抜け穴を利用し、悪意により2倍の給与の支給を要求する情況に「ノー」と言う

労働関係において労働者が通常弱い立場にあることを考慮し、「労働契約法」は「書面の労働契約の締結」の義務及び責任を主に使用者に負わせ、且つ「労働契約法」では、書面の労働契約が未締結であったときの「2倍の給与の支給」という罰則の適用について例外規定が設けられておらず、これは双方が法に依拠して書面の労働契約を締結しなければ、使用者はいずれも労働者に2倍の給与を支給する法的責任を負わなければならないと解釈されやすい。

司法の実務上、労働者が「2倍の給与」を取得する目的のため、「書面の労働契約が未締結」であった場合の規則の抜け穴を悪意をもって利用する事例が実際に少なからず発生していることもわかっており、よくある手法として、主に以下のようなものがある。

● 締結を故意に引き延ばすもの。従業員はまず様々な理由をもって、労働契約の締結のタイミングを引き延ばし、1 か月が経過し、もうこれ以上は延期できないというタイミングを見計らって、退職を申し出る。その後、労働仲裁を申立て、労働契約が未締結であったとして2倍の給与の差額を主張する。

● 職務上の便宜を利用して締結しない。特に高級管理職又は人事等の労働契約の締結に関する業務を担当する従業員が、他の従業員にはいずれも正常に書面の労働契約を締結する手続きを履行するよう求めておきながら、自身の書面の労働契約は意図的に締結せず、離職後に労働仲裁を申立て、2倍の給与の差額を主張する。

● 契約を持ち去り又は破棄する。従業員が離職時に書面の労働契約を持ち去るか、又は契約を見せて欲しいと手にした後で破り捨て[3]、その後、労働仲裁を申立て、書面の労働契約が未締結であったとして2倍の給与の差額を主張する。

● 他人に署名させる。人事には、労働契約を家に持ち帰ってよく確認すると言って、労働契約をその場ではわざと締結せず、その機会を利用して他人に代わって署名させた労働契約を会社に提出する。その後、労働仲裁を申立て、書面の労働契約が未締結であったとして2倍の給与の差額を主張し、会社が契約を提示した後、従業員はその場で否認して筆跡鑑定を申請する。

● 特別な署名方式を使用する。従業員は時間が経つと文字が消えるインクを使って署名し、時間が経つことで署名の文字がすべて消え、会社が既に労働契約を締結したことを証明できないようにさせることで、2倍の給与の差額を主張する。

● 会社の管理上の抜け穴を利用する。会社の移転又は文書整理の際に、労働契約紛失の機会を利用し労働仲裁を申立て、書面の労働契約が未締結であったとして2倍の給与の差額を主張する。

前述のような事例に対し、多くの地域では地方の司法解釈を通じて、「使用者の責に帰することができない場合、2倍の給与の罰則は免除できる」ことについて明確にしている。例えば、「労働争議紛争案件の審理における若干の解決が困難な問題に関する浙江省高級人民法院民一廷による回答(2012)」第一条では、書面の労働契約締結は使用者の法定義務であるが、どうしても使用者の責に帰すことのできない理由[4]で書面の労働契約が未締結であった状況において、労働者がこれにより2倍の給与を主張した場合は支持しなくてよいと定めている。ほかにも、北京、上海、安徽、山東等の地域でも類似した解釈が公布されている。ただし、注意すべきこととしては、地域によって「使用者の責に帰することのできない理由」に関する判定基準は異なる。例えば、烏魯木斉市中級人民法院は、労働者が書面の労働契約締結を拒否したからといって、必ずしも使用者の責に帰すことのできない状況に該当するものとは限らないと考え、労働者が書面の労働契約締結を拒否した原因を判断する必要があり、「形式上の締結」と「実質的な履行」を厳格に区別すべきであり、使用者が形式上は契約の締結を誘引する動作を完了させたとしても、契約内容に重大な瑕疵(例えば、白紙条項)が存在したために、労働者が労働契約の締結を拒否したのであれば、やはり使用者の責に帰する状況であると見なすべきだとしている。

今回の「解釈二」は、信義誠実の原則及び労働者と使用者双方の合法的権益を均衡に保護するという考えのもとで書面の労働契約が未締結であった場合に、使用者は2倍の給与を支給する必要はないという例外状況を明確にしており、具体的には以下のとおりである。

第七条:労働者は使用者が書面の労働契約を締結しなかったことを理由に、使用者に対し2倍の給与の支給を請求する場合、人民法院は法に依拠して支持する。ただし、使用者が以下のいずれかの状況が存在することを立証できる場合は、この限りではない。

(一)不可抗力により締結されなかった場合

(二)労働者本人の故意又は重大な過失により締結されなかった場合。

(三)法律、行政法規で定めるその他の場合。

この規定が実施されることで、各地の審判基準が統一されていくだけでなく、一部の誠実さを欠く労働者が悪意により使用者に2倍の給与の支給を求めるといった抜け穴を塞ぐうえでも役立つはずである。

ただし、同時に使用者に注意してもらいたいのだが、「解釈二」の意見募集案と比較すると、「解釈二」は「労働者自身の理由により未締結であった場合」が「労働者本人の故意又は重大な過失により未締結であった場合」へと調整されている。即ち、「労働者の軽微な過失」に該当した場合、使用者は「2倍の給与の支給」義務が免除されず、これは使用者の立証責任及び管理責任に対しても一定の要求を課すものである。

このほか、筆者の認識では、使用者が書面の労働契約締結を管理する過程で、以下の予防措置を講じることにより、使用者の関係するリスクをさらに回避することができると考える。

● 締結プロセスの厳格化。従業員本人が労働契約に自ら署名し、且つ会社が用意したサインペンを使うようにすることで、署名に偽造、改ざん、消失又は鑑定困難というリスクが存在しないようにし、且つ労働契約のコピー又は電子版を遅滞なく残しておくことを推奨する。

● 労働関係は遅滞なく終了させること。正当な理由なく書面の労働契約締結を拒否する従業員に対しては、使用者は 1 か月の期間満了前に、書面で労働関係の終了を通知すべきである(このとき、使用者は経済補償金を支払う必要がまだない)。

● 雇用管理を規範化すること。内部の規則制度を整備し、雇用を規範化にし、管理上の抜け穴を防止する。書面の労働契約の締結と管理、雇用管理、規則制度と職務責任の研修、社会保険管理、給与管理等の各業務について、すべてプロセスの標準化を行う。

● 証拠を残しておくこと。書面の労働契約締結を通知した証拠、例えば、メール内容のスクリーンショット、SMS記録、従業員の領収記録等を保存しておくようにし、また、従業員が締結を拒否した証拠、例えば、「現時点では署名しない」と返事したチャット記録、録音等を残しておくようにする。

二、「書面の労働契約が未締結であった」場合、必ずしもすべて「2倍の給与」を支給しなければならないわけではない

1.労働契約が法に依拠して自動的に更新される場合は支給しない。

労働契約が法律に依拠し自動的に更新されることについて、「労働契約法」第四十五条[5]、「労働契約法実施条例」第十七条[6]及び「労働組合法」第十九条[7]にそれぞれ定められている。これまで、法に依拠し自動的に更新される場合、労働契約を引き続き書面で締結しなければならないか否か及び書面で締結しなければ「2倍の給与の支給」が発生するか否かという問題については、全国範囲では明確な規定が定められておらず、各地における司法実務の手法も統一されていなかった。例えば、(2020)粤14民終1159号の判決においては、法院は、服務期間が満了していないため労働契約の履行を継続していながら、書面の労働契約が未締結である場合、使用者はやはり書面の労働契約が未締結であったことによる2倍の給与の差額を支払うべきだと判断した。

今回、「解釈二」の第八条はこの問題に正面から答え、これらの情況は「使用者が書面の労働契約を未締結であった状況に該当しない」ことを明確にしており、そうであるならば、使用者は「2倍の給与の支給」責任を余計に負担する必要がなく、この方面の争いを根本的に解決するうえでも有益である。

2.無期労働契約の締結が予定される場合は支給しない

「労働契約法」第十四条第三項の規定によると、使用者が雇用日から1年間、労働者と書面の労働契約を締結しない場合、労働者と無期労働契約を締結したものとみなされる。これまでの司法の実務上、無期労働契約を締結したとみなされた労働者からの書面の無期労働契約締結の主張は支持すべきであり、その点については、基本的に異論はない。ただし、「無期労働契約を締結したとみなされる」労働者は、2倍の給与の支給を同時に主張することができるか否か及びどのように主張するかという問題について、各地における手法は統一されていない[8]。このため、「労働人事争議の仲裁と訴訟の整合性に関する人的資源社会保障部、最高人民法院による意見(一)」(人社部発[2022]9号)は、これまでに個別に規定を設け、これらの労働者からの雇用日から1年を超えた後の2倍の給与の請求は支持すべきではないことを明確にした。

今回の「解釈二」の第9条は、この問題に対し正面から答えており、それは中国全土の次元から裁判の立場を正式に統一するうえで役立つものとなる。筆者の認識では、「2倍の給与の支給」という罰則の目的は、主に使用者が労働者との書面の労働契約を速やかに締結するよう促すことにあり、「労働契約法」第十四条第三項に定められる無期労働契約と見なす条項は「擬制」に該当し、法律上では使用者が従業員と無期労働契約をすでに締結した擬制とみなすことができ、法律で求められる書面の労働契約の締結という目的はすでに達成されることになり、当然ながら、「無期労働契約を締結したものとみなされる期間」における余分な2倍の給与を支払う責任を使用者に改めて負わせてはならない。

三、労働契約期間満了後の継続雇用に関する取扱い

「書面の労働契約を遅滞なく締結しなかった」ことについて、実務上は更に特別な状況も存在しており、即ち労働契約が期間満了後も、労働者が引き続き使用者の下で働いているが、双方が書面の労働契約を締結していなかった場合である。

2021年1月1日から実施されている「労働争議案件の審理に適用する法律に関する最高人民法院による解釈(一)」(以下「解釈一」という)第三十四条の規定によれば、労働契約期間満了後も、労働者が引き続き元の使用者の下で働き続け、元の使用者が異議を述べない場合、双方は元の条件で労働契約の履行を継続することに同意したものとみなされる。一方が労働関係を終了すると申し出た場合、人民法院はこれを支持しなければならない。「解釈一」は当該期間について「事実上の労働関係」という認定をしているが、その意味するところとしては、引継ぎ「書面の労働契約の締結」を行うよう求めるはずであり、したがって、司法の実務運用上、多くの見方としては、このような状況下では使用者は「2倍の給与」を支給する必要があると識している。しかしながら、少数の地方、例えば河南省地域にある法院など、このような場合、双方は元の条件で労働契約を継続的に履行することに同意したとみなすことができるため、元の労働契約は終了しておらず、労働者の権利はそのまま元の労働契約に守られており、使用者は元の労働契約の期間満了後に2倍の給与の差額を支払う必要はないと認識している。

その他、注意してもらいたいこととして、この場合に、使用者は引継ぎ1か月間の「履行猶予権」を享由するか否かの問題についても、各地の司法実務における意見は統一されていない。例えば、北京と重慶等の地域では、初回の雇用時に締結した労働契約と違い、労働契約期間満了後の2倍の給与の計算において、使用者は労働契約の初回締結時に享有できた1か月間の履行猶予権を享有しなくなると考えられている。一方、上海、江蘇及び深圳などの地域では、労働契約を更新する場合であっても、1か月間の履行猶予権を享有すると考えられている。

今回の「解釈二」はこの問題について、「解釈一」の内容を部分的に踏襲しており、第十一条において、労働契約の期間満了後、労働者が引き続き使用者の下で働き、使用者が1か月を超えても、異議を表明しない場合、労働者が使用者に対し元の条件で労働契約を更新するよう請求した際に、人民法院は法に依拠して支持するべきであると定められている。ただし、「解釈一」と比較すると、今回の「解釈二」は「労働契約を更新するべきか否か」という問題に関して、使用者に1か月間の異議表明期間を追加で付与しており、この内容が前述の「猶予期間」に影響を与えるかどうかにも更に関心を払う必要がある。

四、2倍の給与の具体的な計算基準について

「解釈二」第六条の規定によると、使用者が法に依拠し労働者と書面の労働契約を締結しなかった場合、労働者に支払うべきの2倍の給与は月単位で計算しなければならない。1か月未満の場合、当月の実際の勤務日で計算する。これについて、注目すべきポイントは以下のとおりである。

まず、「解釈二」の意見募集案と比べ、「解釈二」では1か月未満の場合の日数の計算が「給与計算日」から「実際の勤務日」へと調整されており、文字通りの解釈によれば、これは例えば、法定休日、年次有給休暇、出産休暇等のように、実際に出勤して労働を提供しなかった日数をいずれも計算の対象に含めないことを意味しており、ある程度において使用者のコストを軽減することになる。

次に、2倍の給与における月給の計算基数について、「司法解釈二」では具体的な説明を示していない。この問題に関して、現在の司法実務においては、地域によって大きな違いが存在する。例えば、上海では、給与基準を約定している場合には、約定に基づいて計算するが、約定がない又は約定が不明確な場合は、通常の勤務時間の月給を基準として計算するとしている。北京では、直接に通常通りに支給する給与の基準で2倍の給与を支払うべきとしている。その他、ここでの「給与」には、具体的にどのような項目が含まれるべきか、どのような項目が控除されるべきかについても、地域ごとに認定には多くの違いが存在する。したがって、新たな統一された規定が公布されるまでは、やはり地域ごとに現在の地方性規定と司法実務の基準に準じて対処していなかければならないと思われる。

(作者:里兆法律事務所 丁志龍、山月)

 

[1] 2008年その年に限り、中国全土で重点的に展開された使用者の「労働契約法」遵守状況等の個別検査活動において、労働保障監察による法律執行行動を通じて、使用者に対し1561.7万人の労働者と労働契約を補完して締結することを命じた。

[2] 例えば、2013年海淀法院の労働争議白書の中では、職場における誠実さの欠如により案件数が激増し、一部の労働者が使用者の管理上の抜け穴を利用して頻繫に訴訟を起こし利益を得ようとする行為が存在すると明確に指摘している。

[3] 実務では、破った署名ページをすぐさま飲み込むことで、証拠を完全に消し去ろうとした極端な事例に、筆者は遭遇したことがある。

[4] 「使用者の責に帰すことのできない理由」と認定できる状況として、次のものが挙げられる。労働者が労働契約締結を拒否したこと、又は人事管理担当どの職権を利用して意図的に労働契約を締結しなかったことを証明できる十分な証拠を使用者がもっている場合、労災従業員が労災による有給の休業期間中にある場合、女性労働者が出産休暇中又は母乳育児休暇中にある場合、労働者が疾病又は私傷のため病気休暇中にある場合、その他客観的な理由のため使用者が労働者と労働契約を遅滞なく締結することができなかった場合。

[5] 具体的には、「労働契約法」第四十二条に定められた使用者が労働契約を解除してはならない場合(「医療期間内」にある、「女性従業員の三期中」等の場合)を指す。

[6] 具体的には、従業員の服務期間がまだ満了していない場合を指している。

[7] 具体的には、末端の労働組合の専任主席、副主席又は委員の任期が満了していない場合を指している。

[8] 多くの地域では仲裁時効を超えたことを理由として、無期労働契約を締結したとみなされた場合の二倍の給与の主張を支持しない。

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