<貿易・金融>
中国の技術輸出と輸出管理制度
馬 成三
近年、中国政府は「科教立国」(科学・教育立国)や「成長方式の転換」をモットーにして、ハイテク製品輸出と技術輸出に力を入れている。また大量破壊兵器拡散防止が国際的な課題となっているなか、中国政府は技術輸出管理制度の整備にも積極的に取り組んでいる。
しかし、中国の統計にはハイテク製品輸出に関する数字を定期的に公表しているのに対して、技術輸出に関する統計はまだ整備されていないのも事実である。本稿では、現時点で利用できるデータをベースに、中国の技術輸出と同輸出政策、輸出管理制度について考察してみたいことにする。
(1)技術輸出の推移 長い間、中国の技術貿易は、技術導入(輸入)だけを行うという一方的なものであった。1960年代初めから中国は一部の発展途上国に対して、一部の農産品栽培技術、水産品養殖技術および手工業技術の輸出を行なったものの、対外経済技術援助や国際技術協力に伴うものしかなかった。中国にとって、貿易という形で技術輸出をスタートさせたのは、改革開放政策が実行した1970年代末以降のことである。
1980年代後半に入ってから、中国政府は技術輸出政策を確立したと同時に、技術輸出に関する許認可制度の整備や技術経営企業の認定などにも取り組むようになった。1986年10月、国務院が「国外技術市場の開拓と技術輸出管理の強化に関する報告」(対外経済貿易省と国家科学技術委員会が制定)を批准したことを受けて、中国の技術輸出は初めて軌道に乗った。
実際、1980年代後半には技術ライセンス、技術サービスとプラントを含む中国の技術輸出は前半よりはるかに高い伸び率を示した。対外経済貿易省(現在は商務省)の統計によると、1980〜85年における中国の技術輸出は合計で38件、契約金額で6800万ドルにとどまったが、1986〜90年には655件、契約金額で21億ドル7100万ドルへと急拡大した(馬洪・孫尚清編『現代中国経済大事典』中国財政経済出版社1993年、第2169頁)。 他方、中国の技術輸出の内容も農業技術を中心とするものから多業種にわたるものへ、伝統的な技術から比較的先進的な技術へと多様化されている。輸出先として東南アジア、西アジアと南アジアなど発展途上国は中心となっているが、米国、日本やドイツを含む先進国への輸出も行われている。
1990年代に入ってから中国の技術輸出の規模はさらに拡大した。技術輸出額(契約ベース)をとってみると、2000年1年間だけでの中国の技術輸出額(契約ベース)は85億ドル6500万ドルと、1980年代の合計よりも高い数字を記録した。しかし、技術導入と比べて、技術輸出は中国の対外経済活動において重要な地位をまだ占めていないのが現状である。
そのしるしの一つとして、中国は技術輸出に関する正式な統計をまだ整備していないことが挙げられる。主管官庁である商務省などはよくハイテク製品の輸出を、技術輸出の指標にしているが、中国のハイテク製品輸出のうち、中国企業自前のブランドや知的財産権を持つものはまだ少なく、8割以上(2005年)は外資系企業により行われているのが事実である。
国際的には技術貿易とは一般的に特許権、実用新案権、ノウハウなど対価を伴う国際間の技術取引を指し、その輸出と輸入の収支を一国の技術水準を表す重要な指標としている。これに対して、中国の技術輸出とは中国国内の会社、企業、科学研究機関およびその他の組織、個人(外資系企業や他の在中国の機構、個人を含まない)が、貿易や経済技術協力の方式で海外の会社、企業、機関および個人に技術を提供することを指すもので、技術輸出の範囲も技術導入と同様、技術ライセンス、ノウハウ、製品開発・生産技術の譲渡、技術サービスのほか、技術に関するプラント輸出や対外工事請負も入っている。
実際、中国の技術輸出額においてエンジニアリング、コンサルティング、ノウハウ、特許など「ソフト」の部分は低い比重しか占めていない。たとえば、1980年代後半には技術輸出に占めるプラント輸出などの比重は5割未満であったが、1990年代初めに紡績、水力発電、製紙、ガラス製造やタイヤ製造などのプラントを中心に9割に上昇した。1990年代末には大型設備、プラント輸出やハイテク製品の輸出は中国の技術輸出金額全体の95%以上を占めている。
この意味からみれば、1990年代以降における中国の技術輸出額の急拡大は、輸出方式または統計方式の変化によるところが大きいとみられる。つまり1980年代前半の単純な技術輸出からプラントやハイテク製品(中国企業が自前の特許権を有する製品)などを含むという形に変化したのである。
中国の統計方式をとってみても、中国の技術輸出規模は技術導入規模を大きく下回っているのが現状である。たとえば、2000年の技術導入額は181億ドル7600万ドルに達しているのに対して、同年の技術輸出額(いずれも契約ベース)は85億ドルと、技術導入の半分以下にとどまっている(対外経済貿易省編『中国対外経済貿易年鑑』2001年版第119〜120頁)。
表 1997〜99年における中国の技術輸出の内訳(単位:億ドル)
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1997年 |
1998年 |
1999年 |
技術輸出総額 |
55.2 |
66.9 |
75.5 |
うちハイテク製品 |
12.2 |
23.5 |
28.9 |
技術およびプラント |
20.7 |
22.6 |
23.8 |
大型設備 |
20.5 |
18.8 |
20,6 |
技術サービス・技術コンサルタント |
1.8 |
2.0 |
2.1 |
注:ハイテク製品は中国企業が自前の特許権を有する製品を指す。 資料:『中国対外経済貿易年鑑』2000年版第62頁。
(2)技術輸出政策 中国政府は1980年代後半から相次いで技術輸出奨励策を打ち出し、第7次5か年計画(1986〜90年)には「積極的に技術輸出を拡大する」ことを明記した。同計画期間中、中国政府は一連の技術輸出振興措置を取り始めた。広州輸出交易会で技術輸出コナーを設けたり、香港、深圳、上海などで対外技術交易会を開催したり、海外で行われた国際技術交易会に積極的に参加したりすることがそれである。
1990年代後半以降、中国政府は「科技興貿」(「科学技術による貿易振興」)という政策を打ち出し、ハイテク製品や技術輸出を拡大することを、中国の貿易発展、貿易成長方式の転換を図るための柱と位置づけていると同時に、ハイテク製品や技術輸出を振興するための諸施策も制定している。 中国の技術輸出政策は、政府が技術輸出企業に求めている諸原則から窺うことができる。 1.中国の法律・法規を遵守すること。 2.中国の外交、対外貿易と科学技術に関する政策に符合し、国際慣習を参考にすること。 3.中国が対外に署名した協定に決められた義務を守ること。 4.国家の安全と社会公共利益に危害をもたらしてはいけないこと。 5.中国の対外貿易の発展、科学技術の進歩および対外経済技術協力の促進に利すること。 6.中国の経済的・技術的権益と国際市場における中国製品の競争地位を守ること
(3)技術輸出管理制度の整備
技術輸出の拡大や国際機関への加盟に伴い、中国は1980年代後半以降、技術輸出管理に関する法律・法規を相次いで制定・公布した。WTO加盟(2001年)を契機に施行したものとして、「技術輸出入管理条例」、「技術輸出禁止・輸出制限管理条例」「技術輸出入登記管理弁法」(いずれも2002年1月1日より実施)などがある。
うち、「技術輸出入管理条例」は奨励対象の技術輸出や技術輸出の許認可、輸出契約の登記などのほか、核技術、核両用品の関係技術、監視化学品の生産技術、軍事技術などの輸出に対し、関係法律に基づき、厳格な管制を行うことも規定している(同条例の第45条)。
核技術、核両用品の関係技術、監視化学品の生産技術、軍事技術などの輸出に関する法律は、主に「核両用品および関係技術輸出管制条例」(1998年公布)、「化学品および関係設備・技術輸出管制規則」(2002年公布)、「生物両用品および関係設備・技術管制条例」(2002年公布)、「ミサイルおよび関係品目・技術輸出管制条例」(2002年公布)などがある。
「核両用品および関係技術輸出管制条例」は、核兵器不拡散という国際義務を履行すべく、核両用品と関係ある技術の輸出を管制し、関係輸出に対しライセンス管理制度を実行することを再確認するとともに、輸出経営者登録制度、輸出審査認可手続きおよび規則違反行為処罰規則などを明確化している。
「化学品および関係設備・技術輸出管制規則」は、管制リストに列挙された品目とその技術輸出に対し、ライセンス制度を実行し、輸入側が中国の提供する化学品および関係設備・技術を化学兵器の貯蔵、加工、生産、処理あるいは化学兵器を製造する化学品の生産に使用しないことを保証し、公表した最終用途以外の用途に使用したり、公表した最終ユーザー以外の第三者に譲渡したりしてはならないことを求めている。
「生物両用品および関係設備・技術管制条例」は、「化学品および関係設備・技術輸出管制規則」と同じように、輸出ライセンス制度や輸出経営者登録制度の実行を決めていると同時に、生物兵器の目的への使用や公表した最終用途以外のその他の用途への使用、公表した最終ユーザー以外の第三者への譲渡を禁止している。上記の「管制規則」はまた輸出経営者に対し登録管理制度を実行するとともに、相応の輸出審査認可制度と処罰措置を設けている。
「ミサイルおよび関係品目・技術輸出管制条例」も、ミサイルおよび直接ミサイルに用いる品目と技術、およびミサイルと関係ある両用品目と技術の輸出に対しライセンス管理制度を実行し、輸出の受け入れ側は、公表された最終用途以外の用途に使用したり、公表された最終ユーザー以外の第三者に譲渡したりすることを禁止することとなっている。
(06年10月記・4,058字) 静岡文化芸術大学 文化政策学部教授 馬成三
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