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中国は日中FTA締結に冷めた?

中国ビジネスレポート 金融・貿易
馬 成三

馬 成三

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2007年12月30日

記事概要

 東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が開催された際、併せて開催された中国・ASEAN首脳会談と中日韓首脳会談は、今年11月(シンガポール)でそれぞれ第11回と第8回になる。今回の中国・ASEAN首脳会談と日中韓首脳会談において、温家宝・中国首相は東アジア経済協力に対する中国の姿勢について詳しく説明したが、日中首脳会談を含め、日中FTAにはほとんど触れなかったことが印象的である。

東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が開催された際、併せて開催された中国・ASEAN首脳会談と中日韓首脳会談は、今年11月(シンガポール)でそれぞれ第11回と第8回になる。今回の中国・ASEAN首脳会談と日中韓首脳会談において、温家宝・中国首相は東アジア経済協力に対する中国の姿勢について詳しく説明したが、日中首脳会談を含め、日中FTAにはほとんど触れなかったことが印象的である。

 

中日FTAに関する朱鎔基首相の提案と小泉首相の拒否

2002年11月のASEAN首脳会談の開催(カンボジア・プノンペン)に合わせて、日中韓国首脳会談も開催され、同会談における最も注目された出来事は、朱鎔基・中国首相(当時)が日中韓自由貿易協定(FTA)に関する提案を行なったことといえよう。

日本の新聞報道によると、当時朱鎔基首相は日中韓自由貿易地域の実現に関する研究に触れて、「FTAが実現可能かどうかも含めて研究を進めたい」との考えを表明した上で、「中日韓を自由貿易地域にすることには意味がある」と、3カ国間でのFTA締結を提案した。

朱鎔基首相の提案に対して、小泉首相(当時)は中国とのFTAを中長期的課題と応じながら、当面の中国の課題であるWTOの実施状況を見守りたいとの旨を述べたことにとどまった。つまり日中FTA締結に対して、中国は「積極的」、日本は「消極的」という姿勢の差が、内外にはっきり示されたのである。

朱鎔基首相が上記の提案を行なった背景には、WTO加盟の勢いを受けて対外開放をさらに進めようとの意思を表明すると同時に、日本国内にも台頭していた「中国脅威論」を払拭し、欧米の地域主義へ対抗すべく、中日共同で東アジアの地域協力を推進しようという思惑があったようである。

一方、小泉首相の慎重な姿勢は、複雑な要因によるものとみられる。日中間の相互信頼の欠如や、対中FTA計画に対する日本国内の「強い抵抗」などがそれである。「強い抵抗」は農業など一部の産業から来ているだけでなく、「タカ派」とも呼ばれる対中強硬派の影響も無視できないものがあった。

小泉首相の対応に対して、日本国内から「東アジア経済統合にどう取り組むのかの戦略が見えない」、「難題を克服する政治的意思がない」との批判があった(宗像直子・経済産業研究所上席研究員「東アジア経済統合と日米中関係─日本の戦略はどうあるべきか─」)。

一方、朱鎔基首相の提案に対する小泉首相の反応は、中国国内でも大きな反響を呼んだようである。日中間のFTA締結に関して「中国は積極的だが、日本は消極的」(王毅・中国駐日大使)という認識が中国国内に定着し、また日本の態度もあって、中国のシンクタンクの間では、日本とのFTA交渉について慎重派は増えていることも事実である。

 

日中FTAに触れなかった今年(2007年)の首脳会談

2007年11月、福田首相と温家宝首相は相次いで日中首脳会談と日中韓首脳会談に臨み、「アジア重視」の福田首相の誕生もあって、二つの会談では近年見られなった雰囲気があったと伝えられている。日中韓首脳会談では、日中韓のFTAに関する研究の継続や投資協定の締結交渉促進などを確認しただけで、日中韓FTAの推進や日中FTAへの言及はなかったようである。

中国側の発表によると、温家宝首相は複数の会談で東アジア協力に関する中国の立場を詳しく説明し、なかでも「10+1を基礎に、10+3(日中韓)を主要チャンネルに、東アジアサミット(10+3+オーストラリア、ニュージーランド、インド)を重要戦略フォーラムとして、長短相補い、相互促進を実現する」という基本的スタンスを明らかにしている。

ASEANとの首脳会談において、温家宝首相は中国・ASEAN投資取り決め交渉の加速化、自由貿易圏の全面的構築などに触れ、ニュージーランド首相との会談では中国・NZのFTA交渉の年内妥結を目指すことで合意したが、日中首脳会談では日中FTAや日中韓FTAに関する言及はなかったようである。

同年12月初め、日中間で初めてのハイレベル経済対話が行なわれたが、同会話においても中国側の代表は日中FTAに触れなかった。中国側の団長である曾培炎副首相が行なった基調発言を調べると、「中日両国はアジアにおける最大の経済体として世界経済の安定と東アジア経済の繁栄を促進する上で重要な責任を持っている」ことを指摘した上、東アジア地域における経済協力については「中日韓協力、ASEANと中日韓との協力の促進」だけを強調したのである。

日中ハイレベル対話における日本側の主管庁は外務省となっているのに対して、中国側の主管官庁は商務部(省)であった。商務省を代表して発言した陳徳銘副部長(薄煕来に代わって商務部長に就任する予定と見られている)は、「中国は東アジア経済一体化を大変重視する」ことを表明した上、当面の課題として「現在進めているFTA交渉を促進し、10+3のシステムを深化させ、東アジアサミットのフォーラムとしての役割を十分発揮する」ことを具体的に挙げている。

東アジア経済協力における日中両国の役割については、陳副部長は「引き続き交流と協力を強め、東アジア地域協力の勢いの維持に努め、共同で東アジア経済の一体化を推進する」だけを提案し、日中間のFTAを言及しなかった。

 

日中FTAで最大の恩恵を受ける日本

日中韓の経済発展段階、産業(特に製造業)の競争力及び現行の関税水準からみれば、日中韓FTAまたは日中FTAを締結する場合、日本が得られる恩恵は中国より大きいということは、日本の研究機関を含む多くの研究に示されている。その理由として、中国の関税率が日本より高く、引き下げの余地が大きいことや、日本の対中輸出品には高付加価値の製品が中心で、その大量輸入で中国の関係産業の育成にマイナスが大きいことなどが挙げられている。

今年のASEAN首脳会議に合わせて、日中韓の研究機関の共同研究成果として、「日中韓FTAの可能性と展望に関する共同研究報告書及び政策提言」というレポートが発表された。同レポートは中国の国務院発展研究中心(DRC)、日本の総合研究開発機構(NIRA)と韓国の対外経済政策研究院(KIEP)が共同で作成したもので、「過去に実施された分析を更新並びに深化させて、日中韓FTAの経済的効果に関する包括的な調査を実施した」ところに最大の特徴がある。

同レポートでは日中韓FTAは日中韓3カ国のすべての国にマクロ経済的利益をもたらすとの結果が確認されたが、実質国内総生産(GDP)の予想増加率は国によりかなりの差がある。うち韓国のそれは5.26%と最も高く、中国のそれは韓国の約18分の1、日本のそれ(0.41%)より3割も低い0.30%にとどまっている。

各国の製造業に対する生産効果及び貿易効果をみると、日本と韓国はいずれも五つの分野(日本は繊維、機械設備、鉄鋼、自動車と石油化学製品、韓国は繊維、衣料、電子機器、鉄鋼と石油化学製品)で恩恵が受けられるのに対して、中国にとって恩恵が受けられる分野は二つの分野(衣料と電子機器)しかない。

一方、短期的にマイナス影響を受ける分野として、日本は一つ(衣料)、韓国は二つ(機械設備と自動車)にとどまっているのに対して、中国では四つの分野(繊維、機械設備、自動車と石油化学製品)も数えられている(表1)。

 

表1 日中韓FTAの分野別産業効果

  中国 日本 韓国
繊維
衣料
電子機器 /
機械設備
鉄鋼 /
自動車
石油化学製品

     注:「+」は短期的にプラス、「-」は同マイナス、「/」は中間。

資料:中国国務院発展研究中心(DRC)、日本総合研究開発機構(NIRA)、

韓国対外経済政策研究院(KIEP)「日中韓FTAの可能性と展望に関する

共同研究報告書及び政策提言」(2007年11月)。

 

 日中韓FTAまたは日中FTAが日中製造業にもたらす生産効果及び貿易効果の差は、主に日中両国の関係産業の競争力と、関税水準の差から来ている。上記の日中韓共同研究によると、衣料品など少数の例外を除いて、日本の製造業部門は中国より強い競争力を持っている。

WTO加盟を受けて、中国の関税水準は大幅に低下しているものの、日本より依然として高い数字を示している。製造業に適用される単純平均実行関税率では、日本は2.8%にとどまっているのに対して、中国はまだ日本の3倍以上(9%)の高水準となっている(韓国は6.6%)。

また日本の無税製品の割合は41%だったのに対して、中国のそれは8.5%しかない(韓国は13.3%)。中国の高関税製品(関税率が平均で15%以上)は2006年には16%に減少したものの、依然として日本のそれ(13.6%)より多い(韓国は9.2%)。

加重平均の実行関税率をみると、日本の工業製品のそれは1.1%と、中国のそれ(4.6%)の4分の1以下にとどまっている。つまり日中韓FTA日中FTAが締結されても、日本の関税率の引き下げ余地があまりないため、中国の対日輸出への促進効果も限られるものにとどまると予想される。

 

表2 日中韓の実効関税率の比較(2005年、%)

  全品目 農産品 工業製品
中国 4.9 11.4 4.6
日本 2.5 16.9 1.1
韓国 9.2 113.5 4.0

注:実効関税率は各品目の貿易量の加重平均。

資料:経済産業省『通商白書』2007年版。

 

日中韓FTAまたは日中FTAの締結で日本が打撃を受けるだろう産業は、「斜陽産業」とよばれる労働集約的産業にとどまるのに対して、中国が打撃を受けるだろう産業には今後成長する余地の大きいものとして、国が重点的に育成すべき産業が多いという差も無視できない。

中国とFTAを締結したら、日本の農業は打撃を受けるだろうとの議論も見られるが、日本農業の政治的影響力の大きさや、他の国々とのFTAまたはEPA(経済連携協定)の交渉における日本側の対応からみれば、日本の農産物市場が外国に開放する可能性は非常に薄いと言わなければならない(元々中国の農産物は大きな輸出余力も持っていない)。

日中韓FTAまたは日中FTAが日中両国にもたらすだろう効果の差は、日中貿易における相互依存度とも関係している。1990年代以降、日中貿易は急拡大し、日本貿易全体に占める同シェアも大幅に上昇しているが、中国貿易全体に占める同シェアはむしろ低下している。2006年の数字を取ってみると、日本貿易全体に占める対中貿易のシェアは17.2%(香港を含むと20.3%)と実質、最大の数字を示しているのに対して、中国貿易に占める対日貿易のシェアは11.8%と、EUと米国に次ぐ第3位にランクされている。

 

表3 日中貿易の相互依存度の推移(単位:%)

  日本貿易の対中依存度 日本貿易の対中依存度(香港を含む) 中国貿易の対日依存度
1990 3.5   14.4
1995 7.4 11.3 20.5
2000 9.9 13.4 17.5
2005 17.0 20.3 13
2006 17.2 20.3 11.8

  注:依存度は貿易全体に占める相手国との貿易のシェア。

資料:日本貿易の対中依存度は日本通関統計、中国貿易の対日依存度は中国税関統計。

 

中国の輸出市場として、日本のシェアは9.5%と1割未満だったのに対して、日本の輸出全体に占める対中輸出のシェアは14.3%(香港向けを入れると19.9%)にも達している。また中国の対日輸出において日本企業を中心とした外資系企業による分は6割を占めていることも注目される。つまり日中韓FTAまたは日中FTAの締結で中国の対日輸出がある程度増加した場合でも、その受益者には日本企業がかなり入ることになるのである。(2007年12月記・4,598字)

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