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逆転した日中貿易の相互依存度

中国ビジネスレポート 金融・貿易
馬 成三

馬 成三

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2004年10月10日

<金融・貿易>

逆転した日中貿易の相互依存度

馬 成三

1970年代上半期からの約四半世紀の間、日中貿易の相互依存関係に際立ったアンバランスがあった。中国貿易において日本は大きな存在感を示していたのに対して、日本貿易において中国は低い比重しか占めていなかったのがそれである。しかし、1990年代以降、中国経済の台頭と日本経済の停滞を反映して、日中貿易の相互依存関係も大きな変化をみせ、2004年上半期には両者が逆転し、日本貿易総額(輸出入合計)に占める対中貿易の比重は、中国貿易に占める対日貿易の比重を超えたのである(表1、表2)。

表1 日本貿易に占める対中貿易のシェアの推移(単位:%)

  輸出入総額 日本の輸出 日本の輸入
1970 2.2 2.9 1.3
1980 3.5 3.9 3.1
1985 6.2 7.1 5
1990 3.5 2.1 5.1
1995 7.4 5 10.7
2000 9.9 6.3 14.5
2003 15.6 12.2 19.7
2004 16.1 12.9 20.2
注:カッコは日本貿易全体に占めるシェア(%)。2004年は1〜7月の数字。
資料:財務省貿易統計

表2 中国貿易における対日貿易のシェアの推移(単位:%)

  輸出入総額 中国の輸出 中国の輸入
1970 17.6 9.9 25
1980 22.4 20.9 23.8
1985 30.4 22.3 35.6
1990 14.4 14.5 14.2
1995 20.5 19.1 22
2000 17.5 16.7 18.4
2003 15.7 13.6 18
2004 14.9 12.8 17

注:2004年は1〜7月の数字。 
資料:中国税関統計(1970年は中国対外貿易部の「業務統計」)。

これまでの長い間、日本が維持し続けてきた中国の最大の貿易パートナーの地位は、2004年上半期にはEUに取って代わられ、同8月には中国の対米貿易総額も対日貿易総額を抜き、日本は中国の最大の貿易パートナーから第3位に転落したのである。今後、米国、EUや韓国などの攻勢を前にして、日本の比重はさらに低下していく可能性もある。

日本の最大の貿易パートナーに浮上した中国

これまでの日本貿易の相手国・地域別構造は、輸出と輸入との両方で米国に依存するところに最大の特徴があったが、日中貿易の急拡大により、この構造は大きく塗り替えられている。1990年に日本の対米貿易の13%未満だった対中貿易総額は、2004年上半期には対米貿易の85%に拡大し、香港を入れると、すでに対米貿易を超え、中国が日本の最大の貿易パートナーと浮上している。

日本の輸入相手国として、中国は2002年より米国を抜き、トップの座を勝ち取った。日本の輸出において、2000年に米国の5分の1(1990年は15分の1)に過ぎなかった中国の比重は、2004年上半期には同6割近くへと拡大し、香港を入れると、中国市場が米国の85%にあたる規模となった。

日中貿易の相互依存関係の変化は、日中経済の相互依存度の変化にも反映されている。ジェトロの試算によると、1990年に0.2%だった日本経済(GDP)の対中依存度は、2002年には1.0%(2003年は1.5%)と5倍(同7.5倍)に上昇したのに対して、中国経済の対日依存度は1990年の1%をピークに低下し続け、2002年には日本経済の対中依存度をはるかに下回った0.3%となった(表3、表4)。

表3  主要国・地域経済の対中依存度の変化(単位:%)

国・地域 1980 1985 1990 1995 2000 2001 2002
日本 0.5 0.9 0.2 0.4 0.6 0.7 1
米国 0.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.2 0.2
カナダ 0.3 0.3 0.2 0.4 0.3 0.4 0.3
英国 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.1
フランス 0 0.1 0.1 0.2 0.2 0.2 0.2
ドイツ 0.1 0.3 0.2 0.3 0.5 0.6 0.7
イタリア 0.1 0.2 0.1 0.2 0.2 0.3 0.3
韓国 0 0 0 1.9 4 4.3 5
香港 4.4 22.4 27 40.8 42.2 43 28.1
シンガポール 2.6 1.9 2.2 3.3 5.9 6.3 7.9
タイ 0.4 0.7 0.3 1 2.3 2.5 2.8
マレーシア 0.9 0.5 1.4 2.1 3.4 4.3 6.7
フィリピン 0.1 0.3 0.1 0.3 0.9 1.1 3.8
インドネシア 0 0.1 0.7 0.9 1.8 1.6 1.7
中国への依存度は、各国・地域の輸出(GDPの財貨・サービスの輸出)÷名目GDP
×全輸出に占める中国向け輸出の割合。ジェトロの経済分析部吉田真浩氏が提供したデータによると、
2003年の日本経済の対中依存度は1.5%。
資料:ジェトロ「日本の経済関連データ集」(http://www.jetro.go.jp/ec/j/trade/excel/data-e2.xls)。

表4 主要国・地域経済の対日依存度(単位:%)

国・地域 1980 1985 1990 1995 2000 2001 2002
米国 0.7 0.5 0.8 0.9 0.7 0.6 0.5
カナダ 1.4 1.2 1.2 1.4 0.8 0.7 0.7
英国 1.4 1.9 3.1 3.8 2.9 2.8 2.6
フランス 0.2 0.2 0.4 0.4 0.4 0.4 0.4
ドイツ 0.1 0.2 0.3 0.2 0.3 0.3 0.3
イタリア 0.5 0.6 1 1.2 1.1 1.1 1
中国 0.2 0.3 1 0.8 0.4 0.4 0.3
韓国 6.5 6.5 3.6 5.8 9 10.6 10.2
香港 10.6 13 16.8 12 12.4 10.1 9.4
シンガポール 7.7 7.2 12.6 12.6 12.2 13.3 7.3
タイ 4.8 5.5 5.4 5.5 8.5 8.1 7.1
マレーシア 4 3 9 10.7 11.3 11.3 10.5
フィリピン 9.1 12.3 10.2 12.2 17.1 16.3 13.5
インドネシア 1.8 1 1.4 1.4 3.7 3.6 3.4
注:表3の注を参照。
資料:表3に同じ。

日本経済新聞社が日本と中国のビジネスマン約200人を対象に実施したアンケート調査によると、「今後関係を強化すべき国」として、日本側は「中国」を挙げる回答者の比率は43.5%と、「米国」を挙げた比率(19.4%)の2倍以上に達したのに対して、中国側は「米国」を挙げる回答者は31%と「日本」を挙げた比率(4.0%)をはるかに超えているというアンバランスが浮き彫りにされている(2004年6月22日付け『日本経済新聞』朝刊)。この調査結果は、実は日中貿易及び日中経済の相互依存度の変化を反映しているといえよう。

「失われた10年」と嘆かれた日本経済はようやく薄明が見え、2003年の実質GDPの前年比成長率が2.6%と2年ぶりにプラスに転じたが、これを支えた要因の一つに対中輸出の増大がある。日本輸出増加分に占める中国向け輸出増の割合をみると、2002年と2003年にそれぞれ約4割と7割に達し、香港向けの輸出分を入れると、同割合がさらに高くなる(表5)。数年前まで盛んに喧伝された「中国脅威論」が影を潜め、これに取って代わって「中国特需論」や「中国活用論」が登場したのも、上記の背景がある。

表5 東アジア各国・地域の輸出総額の増加に占める対中国輸出増の割合(単位:%)

    日本 香港 台湾 韓国 タイ シンガポール
中国 2002年 38.8 79.4 49.7 46.2 42.2 46.3
2003年 67.6 61.7 87.7 36.2 22.1 19.8
中国圏 2002年 60.8 78 92 58.6 60.5 63
2003年 92.4 65.5 67.5 51.9 33.7 40.3
注:中国圏は中国、香港及び台湾を含む。
資料:経済産業省『通商白書』2004年版。

中国の最大貿易パートナーから第3位に転落した日本

中国が改革開放政策を実行した直前の1970年代末時点で、日本はすでに中国の最大の輸入相手国と、香港に次ぐ2番目の輸出市場となり、長い間、中国の最大の貿易パートナーの地位を維持し続けていた。しかし、中国の「全方位的開放」の推進に伴い、中国貿易に占める日本の比重は低下傾向を示している。

2004年上半期には、中国貿易総額に占める日本の比重は、前年同期比1.2ポイントも低い15%と、ピークだった1980年代半ばの半分となり、中国の最大の貿易パートナーの座も拡大したEUに取って代われた(表6)。同8月に入ると、中国の対米貿易総額がわずかながら対日貿易総額を抜き、中国にとって、日本はEUと米国に次ぐ第3位の貿易パートナーに転落した。

表6  2003年中国の主要貿易相手国・地域(単位:%)

国・地域 輸出入総額 中国の輸出 中国の輸入
1.日本 15.7(14.9) 13.6(12.8) 18.0(17.0)
2.米国 14.8(14.8) 21.1(21.1) 8.2(8.5)
3.EU 14.7(15.4) 16.5(18.2) 12.9(12.7)
4.香港 10.3(9.4) 17.4(16.8) 2.7(2.0)
5.ASEAN 9.2(9.1) 7.1(7.2) 11.5(11.0)
6.韓国 7.4(7.9) 4.6(4.7) 10.4(11.0)
7.台湾 6.9(6.9) 2.1(2.3) 12.0(11.5)
8.ロシア 1.9(1.8) 1.4(1.3) 2.4(2.3)
9.オーストラリア 1.6(1.7) 1.4(1.5) 1.8(2.0)
10.カナダ 1.2(1.4) 1.3(1.4) 1.1(1.3)
注:カッコは2004年1〜7月の数字。2004年はEU25(2003年はEU15)。
資料:中国税関統計。

日本の強力なライバルとして、EU企業は対中貿易と対中投資との両方において攻勢を強めている。1997年の長江・三峡ダムの発電機を巡る国際入札で、日本企業連合はEU企業連合に負けたのがその好例である。新幹線建設に関する入札においても日本企業はEU企業からの挑戦を受けている。

1990年代後半以降、政治関係を含むEUと中国の関係は緊密の度を高めている。1998年よりEUは中国と指導者の定期会合制度を設立し、トップの相互訪問などを頻繁に行なっている。EUは明白な対中政策を持ち、これまでに「EU・中国関係の長期政策」(1995年)や「中国と全面的なパートナー関係の構築」(1998年)など五つの対中政策に関する文書を出している。

1970年代末以降、米中国交樹立と中国の改革開放政策の実行を受けて、20年間も中断した米中貿易は、日中貿易に追いかけている。1970年代末に日中貿易の5分の1に過ぎなかった米中貿易は、2004年上半期には日中貿易に比肩するようになり、中でも対日輸出の6分の1未満だった中国の対米輸出は対日輸出の1.6倍まで拡大した。

中国にとって、米国は最大の輸出市場と、最大の出超発生源となっている。米国の統計によると、2003年の米国の対中貿易赤字は対日赤字の約2倍にあたる1241億ドルに達している。中国は対米輸入を促進すべく、数回にわたって輸入拡大ミッションを米国に派遣し、多額な購入契約を結んだ。今後、対米輸入拡大の圧力の増大もあって、中国貿易に占める対米貿易の比重はさらに拡大していくものと予想される。

日本にとって、中国市場における今ひとつのライバルに韓国がある。2003年の韓国の対中輸出は前年比約5割も増加し、中国が米国を抜いて韓国の最大の輸出先となった。韓国の対中輸出品は日本製品と競合するものが多く、デジタル家電を含む家電や携帯電話などにおいて、日本製品と激しい競争を展開している。

対中貿易の拡大につながる韓国企業の対中投資も目を見張るものがある。2002年までの韓国企業の対中投資(実行金額)は累計で日本企業の4割にとどまっていたが、2003年(単年度)は日本の約9割まで拡大し、2004年上半期には日本のそれを超えている。

日本の巻き返しはあるか

日本は対中貿易を拡大させる上で多くの「強み」を持っている。米国に次ぐ世界第二の経済大国として、製造業をはじめ多くの産業において依然として強い競争力を持っていること、中国と緊密な補完関係を形成していること、中国との経済交流の歴史が長く、地理的距離から見た貿易結合度が高いことなどである。

他方、対中貿易の拡大に支障をもたらしかねない問題の存在も否めない。その一つは、「経熱政冷」(経済関係は熱いが、政治関係は冷たい)という歪んだ日中関係である。近年、貿易や投資を含む日中経済関係は史上最高の緊密度を示しているのに対して、小泉首相の靖国神社参拝など「歴史認識」問題など、政治関係はギクシャクが続き、これを反映して中国人の対日感情には厳しいものがある。

中国政府と主流マスコミは、政治関係を含む日中関係のさらなる発展を主張しているが、「日本新幹線導入に反対するネット署名運動(2003年)などに象徴されるように、民間の「反日感情」は日中経済関係にマイナス影響を及ぼす恐れがある。

今ひとつの問題は対中円借款供与の急減である。近年、中国経済の高成長と日本の財政難、自民党内の対中強硬論の台頭などを背景に対中円借款の供与額は減少し続け、2003年度には過去最高の半分以下の水準となり、同年度の中国からの見込み償還額を下回っている。

日本の対中円借款は、中国の経済発展、特にインフラの整備に寄与したと同時に、日本の機械・設備などの対中輸出の拡大にも大きな促進効果があった。中国市場での日本の優位が絶えず他の先進国の挑戦に晒されている中、日本にとって円借款の供与が有力な競争手段となっていただけに、円借款の急減は他の国・地域との競争にどのような影響を与えるかが注目される。

日中貿易の拡大を牽引している要因に、日本の製造業の対中投資がある。機械設備や部品の対中輸出と中国からの「逆輸入」との両方を通じて、日中貿易の拡大に寄与している対中投資だが、中国のWTO加盟を受けて、投資動機として中国を加工基地とするものから中国市場をターゲットにするものへのシフト、業種的にはサービス分野への拡大といった変化も生じ、これにより日中貿易への促進効果を低減させる可能性がある。

中国市場を巡る競争の激化を前にして、中国のダイナミックな発展を日本経済の再生に生かすべく、日本はいかに自分の「強み」を発揮してこの競争に勝つかが課題となっている。これまでに日本企業は対中ビジネスを拡大するため、たゆまぬ努力を払い、大きな成功を収めたが、現在政府ベースでの環境作りの必要性は高まっている。

中には「経熱政冷」といった歪んだ日中関係の是正や、日中または日中韓、ASEAN+日中韓のFTA締結などが求められている。中でも日中または日中韓、ASEAN+日中韓のFTA締結は、域内競争の活発化による日本経済の活性化や対中ビジネスチャンスの拡大のほか、東アジア地域の経済繁栄と安定を図る上でも大きい意義を持つ。

(04年10月記・6,052字)
静岡文化芸術大学
文化政策学部教授馬成三

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