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「十一・五計画」と中国貿易

中国ビジネスレポート 金融・貿易
馬 成三

馬 成三

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2005年10月18日

<金融・貿易>

「十一・五計画」と中国貿易

馬 成三

 中共16期5中全会(2005年10月)は、「十一・五計画に関する中共中央の提案」を採択し、国務院はこの提案に基づき、「十一・五計画要綱」を作成し、2006年3月の全人代でそれを承認する予定である(中国政府は「十一・五」から「計画」とう表現を「規画」=企画に変更したが、本稿では依然「計画」を使う)。「十一・五計画」は2010年までの中国の経済・社会に関する課題と展望を示すもので、貿易を含む対外開放問題が重要な内容となっている。

■ 5年以内に中国は米国を抜き、世界一の「輸出大国」になるか ■

 改革開放がスタートした1980年代以降、中国は五つの5ヵ年計画を制定・実行したが、うち貿易が最も高い伸び率(米ドルベース)を示したのは、「十・五計画」(2001〜05年)にほかならない。中国税関によると、2001〜04年における貿易総額の年平均伸び率は、約25%に達し、2005年も前年比20%前後増になる見込みである(1〜8月は前年同期比23.5%増)。つまり「十・五計画」期間における中国貿易の年平均伸び率は、「六・五計画」〜「九・五計画」平均の約2倍に相当する数字になるのである(図表2-10)。

図表2-10 5カ年計画別中国貿易の年平均伸び率の推移(単位:%)

輸出入
輸出
輸入
実質GDP
六・五(1981-85年)
12.8
8.6
16.1
10.8
七・五(1986-90年)
10.6
17.8
4.8
7.9
八・五(1991-95年)
19.5
19.1
19.9
11.6
九・五(1996-00年)
11
10.9
11.2
8.3
十・五(2001-05年)
24.9
24.2
25.7
8.7

注:「六・五」〜「九・五」は実績、「十・五」は2001〜04年の実績。
資料:中国税関、国家統計局による。

 「十・五計画」は2005年の貿易総額の目標を6800億ドルと定めているが、同目標は2003年時点ですでに超過達成し、2005年には計画の約2倍の規模になるのが確実である。「十・五計画」の貿易目標を大幅に超過達成できたのは、複数の要因によるとみられるが、その一つに計画目標が低く設定されたという事実がある。

 アジア通貨危機の影響で中国の貿易総額は1998年に「マイナス」成長に陥り、1999年には回復をみせたものの、1997年よりやや多い3606億ドルにとどまった。これを背景に、中国政府は当初2005年の貿易総額の目標を6500億ドルに決めたが、2000年に前年比3割以上増という予想外の好調を受けて、急遽計画目標を「余地のある」6800億ドルへと上方調整したのである。

 「十・五計画」期間における中国貿易の急拡大は、WTO加盟の影響に負うところも少なくない。WTO加盟に伴う市場開放は中国の輸入を促進したこと、WTO加盟を受けて、外国企業の対中直接投資は新しいブームを迎え、中国の機械・設備・中間財輸入と工業製品の輸出を促進したことなどがそれである。

 中共中央の提案は2010年の貿易総額に関する目標値を明らかにしていないが、主管官庁である商務省が公表した目標では、輸出入合計で2兆億ドルとなっている。2005年の実績である1兆3000万億ドル前後(予測値)をベースにして、年平均伸び率は9%になる計算である。輸出額と輸入額の目標値を同じ1兆億ドルとすれば、同期間の年平均伸び率はそれぞれ約7.5%と約10.5%になる。

 このような年平均伸び率は、「十・五計画」期間よりもちろんのこと、「天安門事件」と経済調整の影響で貿易の伸びが大きく落ち込んだ「七・五計画」(1986-90年)のそれ(年平均9.3%増)をも下回る。1980年代以降における中国のGDPの成長率と貿易額の増加率を調べると、貿易額の年平均増加率は一貫して実質GDPの成長率をかなり上回っていたが、商務省が提示した2010年の貿易総額で計算すれば、その年平均伸び率は実質GDPのそれ(8%前後)とはほとんど変わらない水準になる。

 これに対して、商務省国際貿易経済協力研究院は、実質GDPの年平均成長率が7%、8%と9%という三つのケースを前提に、2010年の中国貿易総額はそれぞれ2兆5400万ドル、2兆6500万ドルと2兆7600万ドルを超え、年平均伸び率ではそれぞれ約13.5%、14.5%と15.4%に達すると予測している。

 中位予測通りでいけば、2008年前にも中国はドイツを抜き、米国に次ぐ世界第二位の「貿易大国」になる。輸出だけをとってみると、2010年には中国は世界輸出に占めるシェアを、2004年の6%から10%に上昇させ、米国とドイツを抜き、世界一の「輸出大国」に浮上するとの予測(OECDの予測、2005年9月)も出されている。

 「十・五計画」期間には中国の輸入は輸出より高い伸び率を示した(2001〜04年の実績)が、この傾向は「十一・五計画」期間にも続いていくものと予想される。商務省国際貿易経済協力研究院の予測(中位予測)では、2010年には中国輸出額は1兆3400億ドル(年平均伸び率は14.2%)、輸入額は同1兆3100億ドル(同14.7%)となる。貿易収支は依然として出超を維持するが、「十・五計画」期間末期より縮小される見込みである。

■ 懸念される貿易摩擦の激化 ■

 政府部内及び政府系シンクタンクの間では、「十一・五計画」期間の貿易発展における重要課題として、輸出の量的拡大よりも高付加価値化など輸出商品構成の改善や先進的機械・設備の輸入拡大を強調する向きが強い。その背景には中国の輸出拡大は環境汚染、エギルギーや他の資源の供給緊迫、対外貿易摩擦の多発など諸問題をもたらし、経済的・社会的「コスト」がますます高くなっているとの認識がある。

 中でも対外貿易摩擦の多発は、今後中国貿易の発展に大きな影響を及ぼしかねないとの懸念が少なくない。実際、1990年代後半以降、中国輸出の急拡大もあって、中国商品を対象とするAD(アンチ・ダンピング)調査・訴訟が急増し、中国は世界でAD調査やセーフガード(緊急輸入制限)措置の最大のターゲットとなっている。商務省によると、2004年末まで中国の商品を対象とするAD調査案件は600件を超え、対象商品は4000品目に及んでいる。そのうち、米国によるAD調査やセーフガード措置はかなり大きなシェアを占めている。

 米国は中国の最大輸出市場で、2004年の中国輸出において対米輸出は21%を占めており、香港経由の輸出を計算に入れれば、同シェアは3割を超えているとみられる。中米貿易における最大の問題は中国側の大幅な出超を示していることである。米国側の統計では、2000年に838億ドルだった米国の対中入超幅は2004年には1619億ドルへと、対日入超幅の2倍以上にあたる規模に達した(中国側の統計では803億ドル)。

 巨額な対中貿易赤字は米国の議会や一部の企業、労働組合の不満を呼んでいる。近年、米国政府が対中AD調査やセーフガード措置を発動したり、元の切り上げを求めたりするのも以上の背景による。2005年1〜8月、米国は中国の6品目の商品を対象にAD調査などを行ない、約11億ドルの中国商品が影響を受けている。AD調査の件数では前年同期より減少しているものの、知的財産権に関する調査件数は大幅に増えているのが注目される。

 2010年までの数年間において、米国経済情勢は依然として不透明が続いていくと予想されているだけに、中国の対米輸入拡大や元の更なる切り上げなど対中圧力を強化する恐れがある。しかし、中国の対米出超は、日本のそれと性質的に異なり、経済のグローバル化、特に国際間の産業移転によるところが大きいところに特徴がある。つまり「世界の工場」となった中国の対米出超の拡大は、他の東アジア諸国・地域の対米出超の縮小に伴って生じたものである。中国側の試算によると、中国対米出超の約7割は対中進出外国企業の対米輸出によるもので、うち対中進出の米国多国籍企業内貿易を除けば、米国の対中貿易赤字は3割ほど減少する。

 またハイテク産業を中心に、多くの米国企業にとって、中国は重要な市場となっている。米国の航空機メーカーであるボーイング社の予測では、今後20年間で中国は2600機の旅客機(金額で2130億ドル)を輸入し、中国が米国以外で最も有望な市場となり続ける見込みである。中国経済の高成長を維持することは、米国経済を含む世界経済にとって大きな意義を持っているとの認識が、米国政府を含む多くの識者に浸透しつつある。

 2005年9月のG7会議では、米国は元の変動幅をさらに拡大するよう求めたものの、厳しい対中批判が影を潜め、猶予期間を与える姿勢に徹した(『日本経済新聞』2005年9月24夕刊)ことはその表れといえよう。これらの動向から判断して、中米貿易摩擦は米議会などの圧力で時々問題化される可能性があっても、中国の対米輸出拡大を制限するほど重大な障害にならないだろうとみられる。

■期待される地域経済協力の進展 ■

 「十一・五計画」期間における中国貿易の発展に好影響をもたらすだろう要因としていくつか指摘されている。中国経済が依然として高成長を維持できることや、諸外国の対中投資は「十・五計画」期間ほどの伸び率を期待できなくても、高い水準で推移していくこと、FTAなど地域経済協力の進展などがそれである。

 なかでも中国とASEAN諸国は2010年までに7000に上る一般的品目の関税率を0〜5%に引き下げ、保護を必要とする他の品目も対象品目数の減少や関税率の引き下げを行なうこととなっている。中国はオーストラリアなど資源供給国との間でもFTA計画を積極的に推進している。これらのFTA計画は中国の輸出拡大や資源供給の確保を図る上で重要な役割を果たすものと期待されている。

 中国にとって、日本、韓国とロシアを含む北東アジア諸国は重要な貿易パートナーで、2004年に中国貿易の四分の一を担っている。しかし、同地域は政治・歴史・領土などの諸問題を抱えており、日中関係、日韓関係と日露関係が複雑な様相を呈しているのも事実である。地方政府を含む中国政府は北東アジア地域経済協力の枠組みの構築に強い意欲を示しているものの、上記の諸要因から考えると、2010年までは実質的進展は期待できないだろうとみられる。

 一方、中韓や中露など両国間の貿易関係はますます緊密の度を強めている。なかでも韓国の対中貿易は高い伸び率を示し、2005年上半期には韓国はEU、台湾、ASEANを抜き、中国にとって、日本に次ぐ二番目の輸入相手国と浮上した。エネルギーなどロシアの対中資源輸出拡大で、中露貿易も確実に拡大していくものとみられる。

 2003年までに中国の最大貿易パートナーだった日本は、中国貿易に占める地位低下を見せているものの、2010年までは依然として大きなシェアを占めることができるであろう。2010年の中国貿易総額が2兆6000万ドル(商務省国際貿易経済協力研究院の中位予測)に拡大し、中国貿易総額に占める対日貿易のシェアが11.5%(2004年の実績は14.5%、2005年上半期は13.4%)を維持することができれば、2010年の日中貿易総額は2004年実績の2倍弱にあたる約3000億ドルになる計算である。

(05年10月記・4,624字)
静岡文化芸術大学
文化政策学部教授馬成三

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