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ログイン2007年6月20日
中国の貿易黒字の急拡大、それに伴う外貨準備高の急増や米国などとの「摩擦」の多発を背景に、中国の貿易政策は従来の輸出振興から輸入重視へと調整を迫られている。昨年(2006年)以来、中国政府はすでに一連の輸入促進策を実行し、現在、輸入促進に関する新たな制度・措置の導入も検討している。
中国の貿易黒字の急拡大、それに伴う外貨準備高の急増や米国などとの「摩擦」の多発を背景に、中国の貿易政策は従来の輸出振興から輸入重視へと調整を迫られている。昨年(2006年)以来、中国政府はすでに一連の輸入促進策を実行し、現在、輸入促進に関する新たな制度・措置の導入も検討している。
中国の貿易政策調整、特に輸入促進は、対米貿易黒字の削減を狙う色彩が強いが、実際、中国の最大輸入相手国である日本にとって、より大きな意味を持っているといえよう。
輸出振興を貫いていた中国の貿易政策
深刻な供給不足に悩まされていた計画経済時代では、中国の貿易振興策といえば、機械・設備や穀物など「不足なもの」の輸入に必要な外貨を賄うための輸出振興に集中されていた。この方針は、1959年に打ち出された輸出に対する「五つの優先」策に具現されている。「五つの優先」とは、国家計画の中での輸出商品の手配、生産、原材料および包装材料の供給、政府購入、輸送を優先させることである。
その具体措置として、輸出企業に対する税の減免、外貨内部留保、輸出用農産物生産者への食糧・肥料供給による奨励、資金援助、輸出奨励金制度の実行などがとられていた。量と質の両方で輸出供給力を向上させるため、中国政府は1960年から「輸出専門工場」などを多く設立した。
1970年代末以降、中国は改革開放政策の実行に踏み切り、「国内国外の二種類資源の利用、国内国外の二種類市場の開拓」という方針を明確に打ち出した。これを受けて、政府は体系的な貿易振興、特に輸出振興策を整備してきた。1980年代における輸出振興策の一つに、「輸出生産基地」(その前身は「輸出専門工場」など)の整備である。対外貿易省(現在は商務省)の統計によると、1990年現在、全国で「輸出生産基地」は1万以上もあり、中国輸出全体の4割以上を担っていた。
今ひとつの輸出振興策は、輸出補助金の供与である。当時、硬直な為替制度の下で人民元が過大評価されていたこともあって、政府は国家の輸出計画の実行で赤字を出す企業を救済するため、実際の「外貨獲得コスト」(人民元で計算した輸出コストを、外貨で計算した販売価格で割ったもの)に照らして、輸出企業に財政補助金を提供していた。
1986年7月、中国がガット復帰を正式に申請したことを契機に、輸出補助金制度はガットの原則に違反するものとして、その廃止を迫られていた。実際、中国政府は1988年に新しい貿易体制改革の一環として「請負経営制」を導入した際、輸出への財政補助金枠を3年間凍結することを決め、1990年にはさらに輸出補助金制度そのものを廃止した。
1992年以降、市場経済化の明確化に伴い、中国は市場メカニズムによる貿易調整機能の整備に本格的に取り組むようになったが、為替制度改革(為替レートの調整)と貿易金融機関の設立、輸出戻し税制の導入がその中心となっている。
うち為替制度改革は朱鎔基首相(当時)の「四大改革」の一つとして行なわれたもので、公定レートを廃止し、実勢レートである「外貨調整センター」のレートと一本化させたことがそのポイントとなっている。この改革により、元の対米ドルレートは1ドル=5.8元から同1ドル=8.7元へと33%も切り下げられた。
WTO加盟(2001年末)を受けて、中国はWTOの規定に合わない輸出促進措置を廃止し、関税引き下げや非関税措置の廃止など市場開放を進めなければならない一方、市場開放のインパクトを緩和するため、WTOの規定に合う輸出促進措置の導入も重要課題と浮上している。
2004年7月に施行された修正後の『対外貿易法』は第9章の「対外貿易促進」で、主要な貿易振興措置を明記しているが、中には貿易金融機関などの設立のほか、輸出戻し税制の改善、企業への情報サービスの充実、中小企業の貿易や民族自治地区・未発達地区への貿易活動への支援などが含まれている。
昨年(2006年)以来の政策変化
輸出重視の政策志向は、第10次5か年計画(2001~05年)までの5か年計画にも反映されている。改革開放政策が実行されてから2005年までに中国は五つの「国民経済・社会発展5か年計画」(以下は「5か年計画」とする)を制定したが、どの計画にも「輸出の拡大」または「外貨獲得能力の増強」などの内容が盛り込まれている。うち第8次5か年計画(19991~95年)には「各種の輸出振興政策の継続・実行」も明記されている。
第9次5か年計画(1996~2000年)期間に中国貿易は連年黒字を出し、5年間合計で1495億ドルの黒字を計上したにも関わらず、第10次5か年計画(2001~05年)には依然として「商品とサービスの拡大に努める」という政策目標を打ち出している。第10次5か年計画をスタートさせた前年(2000年)の全人代における朱鎔基首相(当時)の「政府活動報告」は「各種の輸出奨励政策を貫徹・実行し、輸出の拡大に努める」ことも呼びかけている。
第10期全人代第4回会議(2006年3月)に採択された「第11次5か年計画(原文は「規画」)要綱」(2006~10年)は初めて方針転換を示した。つまり従来の「輸出拡大」や「輸出振興」といった表現が消え、「輸入の積極的拡大」の節(同「要綱」の第35章第2節)を設けるようになったのである。
そして「輸出入をほぼ均衡させる政策をとり、我が国の経済発展における輸入の役割を発揮させるようにする。輸入税制を整備し、先進的技術、中核設備とその部品及び国内で不足しているエネルギー、原材料の輸入を拡大し、資源輸入先の多様化を図る」といった基本方針も挙げられている。
今年(2007年)3月開催された第10期全人代第5回会議で温家宝首相が行なった「政府活動報告」は、さらに「輸出入構成を最適化させ、貿易の成長方式を転換し、貿易黒字が大きすぎる問題の緩和に努めなければならない」ことを強調している。
実際、昨年以来、中国は一連の輸入拡大策をとっている。
1.一部の商品を対象に輸入奨励税制の導入。商務省と中国税関は2006年11月から石炭、石油製品、酸化アルミニウムなどの26品目の資源類製品に対して0~3%の暫定輸入税率を実施し、同年末にさらに「導入奨励技術リスト」に入っている149種類の技術を輸入する中国企業に対して、企業所得税の減免措置を実行することを公表した。
2.輸入手続の簡素化。今年4月に中国商務省と中国税関は新しい「自動許可証管理リスト」を作成し、鋼材、プラスチック原料、一部の機械設備を含む338品目を許可証管理の対象から外した。
3.長い間、中国の輸出拡大に大きな貢献をしていた「中国輸出商品交易会」(「広交会」)を、第101期(2007年4月)より「中国輸出入商品交易会」(China Import and Export Fair、CIEF)に改称し、初めて「輸入展」(輸入コーナー)を設けた。商務省によると、36の国家・地域の314社(うち日系企業は9社)はこの「輸入展」に出展した。
4.加工貿易用輸入部品の国内販売に対する規制緩和。今年7月から加工貿易用輸入部品などを国内販売に転じる場合、一部の商品(割当対象製品など)を除いて、その認可権を商務省または省レベルの管理部門(商務局など)から下部の担当部門に移譲する。
昨年以来、中国政府は輸出抑制と輸出商品構成の改善を図るため、また鉄鋼やアルミ合金、革、農薬、一部の非鉄金属など輸出商品に対して、輸出関税の適用、輸出許可証管理、輸出禁止、輸出還付税率の引き下げなどの措置をとっている。
商務省は今後国際経験を参考にして輸入奨励融資政策を実施することや、関税など経済的手段により、重要な機械設備、先進的技術、重要部品、重要な資源の輸入を重点的に奨励することを検討し、中国企業がFTA協定や最貧困へのゼロ関税待遇などを活用し、周辺諸国・地域や最貧国からの輸入拡大を誘導する方針も明らかにしている。
最大の狙いは貿易黒字(特に対米貿易黒字)の縮小
中国政府が貿易政策の調整に踏み切った最大の背景は、中国の貿易黒字の増大、特に対米貿易黒字の増大にほかならない。多くの発展途上国と同様、長い間、中国は貿易収支において入超を続けていた。改革開放以降、海外の機械設備と消費財への需要増大や輸入制限の緩和により、一時入超幅の拡大も見せていた。例えば、1985年の入超幅は149億ドルと、同年輸出額の半分強にあたる規模を記録した。
しかし、1990年代後半に入ってから、輸出の急増に伴い、中国の貿易収支は大きく改善し、従来の入超から出超へと転じた。1994年に54億ドルだった出超幅は、1998年には史上最高の436億ドルに急拡大した。1999~2001年の3年間、出超幅は一旦縮小したが、2002年以降再び増加を示した。
日本で「ベストセラー」となった米国籍中国系人・ゴードン・チャン(章家敦)はその著書『やがて中国の崩壊がはじまる』において、WTO加盟で中国の貿易収支は大幅な赤字に転落し、人民元レートも暴落することを予測したが、WTO加盟(2001年末)以降の中国貿易収支の推移を見ると、中国の貿易黒字はむしろ拡大基調を続け、2006年には2075億ドル(2005年は1020億ドル)と初めて2000億ドル台に達した。
中国の貿易黒字を貿易相手別に見ると、対米貿易黒字は最も大きなシェアを占めている。中国税関統計によると、中米貿易において中国側が1993年から出超に転じから、出超幅は拡大し続けている。1993年に63億ドルだったそれが、2000年に297億ドルへ、2006年には1443億ドルと、中国貿易黒字全体の7割を占めている。
他方、米国商務省の統計では、米国側は1980年代半ばから対中入超が生じ、1990年に100億ドル程度だったそれが2000年に838億ドルに拡大し、2006年には2326億ドルと、米国の貿易赤字の28.4を占めている。長い間、対米出超国として日本は最大の比率を示し続けていたが、2000年より日本の地位は中国に取って代わられ、2006年には米国の対中赤字幅は、対日のそれ(884億ドル)の2.6倍に相当するようになった。
中国の対米出超(米国の対中入超)は中米双方の統計とも示されているが、両方の統計には大きな差がみられる(2006年には両方の差は883億ドル)。両国の統計の差や中国の対米出超をもたらした要因についての説明は、別の機会に譲りたいが、中国の大幅な対米出超(米国の対中入超)は中米関係における大きな問題となっているのが実状である。
中国は対米出超を減らすことを、対米関係を改善・強化する上での重要課題と位置づけ、対米輸入拡大など多くの対策をとっている。中米両国は昨年12月に中米戦略対話をスタートさせ、今年5月に第2回目の会合を開催したが、中国の対米出超(米国の対中入超)の縮小が最初から重要議題とされている。
対米輸入を増やすため、近年中国は毎年のように買い付けミッションを米国に派遣している。昨年呉儀・副首相の訪米に合わせて訪米した買い付けミッションは162億ドルの輸入契約を結んだ。今年5月初めからの3週間の間、200社の中国企業は米国の24の州(25の都市)を訪問し、総額200億ドル(約2兆4000億円)に上る米国産品の購入契約をまとめた。投資関係の契約を含むと、中米企業間で合計138の契約を結び、契約金額は326億ドル(約4兆円)にも達している。
政府系のシンクタンクを含む中国政府部内では、中国にとって、輸入拡大は貿易収支のアンバランス(大幅な出超)を是正するための手段ではなく、「発展途上国として国民経済の発展において輸入は輸出より重要な意味を持つことを再認識し、中国の貿易政策を従来の輸出振興から「中性」政策に転換させるべきだ」との意見も出されている。(2007年5月記 4,639字)
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