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ログイン2008年7月17日
今年3月の全人代が閉幕した後の記者会見で、温家宝首相は「意外」の発言をした。「国内外の不確定要因が多い」ことを理由に、中国経済にとって「今年は最も困難な一年」との発言である。今年6月に、温首相は中国経済の現状について「予想よりうまく行っている」との認識を示したが、さる7月17日に国家統計局が発表した上半期の中国経済統計からみれば、温首相の予見はかなりあたっているといえる。
今年3月の全人代が閉幕した後の記者会見で、温家宝首相は「意外」の発言をした。「国内外の不確定要因が多い」ことを理由に、中国経済にとって「今年は最も困難な一年」との発言である。今年6月に、温首相は中国経済の現状について「予想よりうまく行っている」との認識を示したが、さる7月17日に国家統計局が発表した上半期の中国経済統計からみれば、温首相の予見はかなりあたっているといえる。輸出の変調がその端的な例である。
GDP成長率に影響する輸出の減速
中国経済は2003年から昨年(2007年)にかけて5年連続で二桁の高成長を続けていたが、これを支えていた要因の一つに輸出の拡大がある。中国税関によると、2003~07年の5年間における中国輸出の前年比伸び率は、30%にも達している。2004年(前年比35.4%増)をピークに、前年比伸び率は年々低下しているが、昨年(2007年)には依然として25.7%の伸び率を維持していた。
今年以降、中国輸出の前年同期比伸び率は春節などの特殊要因で6.5%に低下した2月を除いて、5月までにはまだ20%以上の伸び率を達成した。しかし、6月のそれは17%と、近年経験しなかった低水準となった。上半期全体の前年比伸び率も21.9%と、前年上半期のそれより5.7ポイントも減速した。
輸出の減速に対して、石油など海外の原材料の価格高騰もあって、今年上半期における中国の輸入は前年同期比30.6%も増加し、貿易黒字幅は同11.8%縮小した(132.1億ドル純減)。中国国家統計局の発表によると、今年中国の実質GDP成長率(前年同期比)は10.4%(うち第一四半期は10.6%、第二四半期は10.1%)と、昨年通年より1.5ポイントも減速したが、純輸出(輸出-輸入)の減少が最大の要因とされている。
表1 中国貿易額の推移(単位:億ドル)
|
輸出入合計 |
輸出 |
輸入 |
バランス |
2000年 |
4,742..9(31.5) |
2,492.0(27.8) |
2,250.9(35.8) |
241.1 |
2001年 |
5,096.5(7.5) |
2,661.0(6.8) |
2,435.5(8.2) |
225.5 |
2002年 |
6,207.7(21.8) |
3,256.0(22.3) |
2,951.7(21.2) |
304.3 |
2003年 |
8,509.9(37.1) |
4,382.3(34.6) |
4,127.6(39.9) |
254.7 |
2004年 |
11,545.5(35.7) |
5,933.2(35.4) |
5,612.3(36.0) |
320.9 |
2005年 |
14,219.1(23.2) |
7,619.5(28.4) |
6,599.5(17.6) |
1,020.0 |
2006年 |
17,604.0(23.8) |
9,689.4(27.2) |
7,914.6(19.9) |
1,774.8 |
2007年 |
21,738.3(23.5) |
12,180.1(25.7) |
9,558.2(20.8) |
2,621.9 |
2008年 |
12,341.7(25.7) |
6,666.0(21.9) |
5,675.7(30.6) |
990.4 |
注:カッコは前年比伸び率(%)。2008年は上半期、同伸び率は前年同期比の伸び率。
資料:中国税関統計。
労働集約輸出産業が経営難
中国の輸出商品のうち、服装、履物など労働集約的商品はまだ相当なシェアを占めている。石油を含む世界的原材料の高騰、賃金コストの上昇、輸出還付税率の引き下げ、人民元の切り上げ幅の拡大、省エネなど政策面からの圧力の増大は、これらの商品生産コストの急上昇をもたらしている。
中国の政府系シンクタンクの試算では、今年以来中国の輸出企業の輸出コストは前年同期より2割~3割も上昇している。コストの上昇は労働集約的商品を中心に中国の多くの輸出商品の価格競争力を失わせているとの見方もみられる。
実際、今年上半期中国の労働集約的商品の前年比伸び率は大きく低下し、うち服装とその付属品の輸出のそれは3.4%と、前年同期のそれより18.3ポイントも減速した。一方、履物の輸出の前年比伸び率も前年同期より4.7ポイントも低い12.5%にとどまっている(中国税関による)。
国内市場の需要がまだ充分でない状況もあって、労働集約的商品の輸出減速は、多くの輸出企業(郷鎮企業など中小企業が中心)を経営難に陥らせている。今年に入ってから広東省、山東省、浙江省、江蘇省など、民営企業を多く抱えている地区には倒産や撤退のケースが後を絶たない。
中国政府は第11次5か年規画期間における課題として、輸出商品構成の調整(高度化)を含む産業構造の調整を唱えているが、企業に準備時間も与えず、あまりにも急激な方向転換を行なうことにより、失業者の増大など中国の社会安定を脅かしかねないと懸念されている。
今年以来、国務院の指導者は相次いで広東省、山東省、浙江省、江蘇省を視察し、商務部長も「調査研究」に出かけている。これらの行動は、今年下半期における中国経済の運営方針を考える材料にしたいとの思惑のほか、中国経済、特に輸出企業の現状に対する中国政府の危機感も表しているようである。
輸出企業救済に出るか
貿易など対外経済活動の主管官庁である商務部を中心に、経営難に苦しんでいる輸出企業を救済するための措置を取るべきだとの要請が強まっている。具体的内容として、服装・玩具・履物などを対象にする輸出還付税率の引き上げ、人民元切り上げのスピードダウン、金融面での支援などが挙げられている。
米国のサブプライムローン問題で米国経済が混迷の度を深めていることや、欧州やアジア諸国の経済も不確実性を増していることなどから、中国はこれまでの引き締め策を緩和すべきだとの意見も出されている。
しかし、中国にとっては、輸出の伸び率低下より物価上昇が深刻な問題である。今年上半期の中国の消費者物価指数は前年同期比7.9%も上昇し、政府が年初に決めた目標(昨年通年並みの4.8%)を大きく上回っている。この問題を克服できなければ、低所得者層を中心に国民の不満は高める可能性もある(1989年の「天安門事件」が起こった背景の一つに物価暴騰がある)。
この状況からみれば、中国政府は今年後半に従来の引き締め政策を堅持しながら、特定の地域や業種に対して特別措置を採ることになる可能性が高い。さる7月17日に今年上半期の経済統計を発表した国家統計局は、今後の経済運営方針として、「マクロ的経済政策の安定性と連続性を維持する」ことを表明したと同時に、「マクロコントロールの予見性・弾力性を強化する」ことも強調していることが注目される。
表2 中国の主な経済指標(伸び率・上昇率は前年比)
|
2003 |
2004 |
2005 |
2006 |
2007 |
2008 |
実質GDP成長率(%) |
10.0 |
10.1 |
10.4 |
11.6 |
11.9 |
10.4 |
実質工業付加価値伸び率(%) |
17.0 |
16.7 |
16.4 |
16.6 |
18.5 |
16.3 |
固定資産投資伸び率(%) |
27.7 |
26.6 |
26.0 |
23.9 |
24.8 |
26.3 |
消費財小売総額伸び率(%) |
9.1 |
13.3 |
12.9 |
13.7 |
16.8 |
21.4 |
住民消費価格上昇率(%) |
1.2 |
3.9 |
1.8 |
1.5 |
4.8 |
7.9 |
都市部登録失業率(%) |
4.3 |
4.2 |
4.2 |
4.1 |
4.0 |
— |
輸出額(億ドル) |
4,382.3 |
5,933.2 |
7,619.5 |
9,689.4 |
12,180.1 |
6,666.0 |
輸入額(億ドル) |
4,127.6 |
5,612.3 |
6,599.5 |
7,914.6 |
9,558.2 |
5,675.7 |
貿易収支(億ドル) |
254.7 |
320.9 |
1,020.0 |
1,774.8 |
2,621.9 |
990.4 |
対中投資実行額(億ドル) |
535.1 |
606.3 |
603.3 |
694.7 |
835.2 |
523.9 |
期末外貨準備高(億ドル) |
4,032.5 |
6,099.3 |
8,188.7 |
1,0663.0 |
15,282.5 |
18,088.0 |
年平均レート(1ドル=元) |
8.2770 |
8.2768 |
8.1917 |
7.9718 |
7.6040 |
6.8684 |
注:2008年は上半期、同伸び率・上昇率は前年同期比、元の対ドルレートは6月25日の基準値。
対中投資実行額は2006年以降、銀行・証券・保険部門への投資も含む(含まない場合、2006年と07年はそれぞれ630.2億ドルと747.7億ドル)。
資料:中国国家統計局。
(2008年7月記 2,572字)
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