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国務院2018年立法作業計画を簡潔に分析する

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2018年9月18日

2018年3月2日、国務院弁公庁は、「国務院2018年立法作業計画」(国弁発[2018]14号、以下「2018年立法計画」)を公示した。それによれば、多方面の法律法規が制定、改正されることになっており、そのうち、企業と関係のあるものとして、外国投資家による投資、知的財産権保護、税収の徴収管理、政府と企業間の提携、消費者権益保護、食品安全及び安全生産などの多方面の内容が含まれている。

本稿では外国投資家による投資、知的財産権、税収の徴収管理、政府と企業間の提携という4つの方面の立法状況及び見通しについて整理し、本立法作業によって企業に生じ得る影響について分析する。

(一)外国投資者による投資方面

1.法令の変遷
1)2015年1月19日、商務部が初めて「中華人民共和国外国投資法(草案の意見募集案)」及びその説明(以下「外国投資法草案」)を公示し、正式に意見を公募した。
2)2018年立法計画によると、「外国投資法草案」が本年度中に、全国人民代表大会常務委員会(以下「全国人民代表大会常務委員会」)に付議されることになっている。また、国務院は「外商投資国家安全審査条例」を制定し、外国投資者による投資環境の安定化、透明化、予見可能性をさらに促進していくことが見込まれる。
3)2018年4月27日、全国人民代表大会常務委員会が「全国人民代表大会常務委員会2018年立法作業計画」を公示し、「外国投資法草案」について、2018年12月に全国人民代表大会常務委員会で初審議が実施されることになっている。

2.筆者の評価
公示された「外国投資法草案」の内容を見る限りでは、以下の点が注目に値する。
1)「外国投資法草案」での一部内容、制度が前倒しで実施されており(例えば、「外商投資企業の設立・変更届出管理暫定弁法」などの法規や「参入前内国民待遇+ネガティブリスト」の管理手法をもってして、外商投資企業を管理するという理念がすでに広く認められ、かつ全面的に推進されている)、これにより、「外国投資法草案」の最終的な公布・施行、及び係る法律制度への安定した移行に向けた道が切り開かれた。
2)「外国投資法草案」における一部の新制度に注意を払う必要がある。例えば、「実際の支配」という概念は、その企業が外資であるかどうかを判断する際に「形式よりも実態を重んじる」とする原則を取り入れており、これは一部のビジネスプラン(例えば、契約支配型スキーム、即ち、VIEスキーム)の運用において一定の不確実性をもたらし得る。また例えば、外国投資情報報告制度では、外国投資に関する報告書等を定期的に又は不定期に提出するよう外商投資企業に求めており、「外国投資法草案」が公布されれば、外商投資企業には更に多くの厳格な報告義務が課されることになる。

(二)知的財産権方面

1.法令の変遷
1)2014年6月6日、国務院法制事務室(以下「国務院法制事務室」)は、「著作権法(改正草案の審議待ち案)」(以下「著作権法審議待ち案」)を公示した。
2)2015年12月2日、国務院法制事務室は、「特許法改正草案(審議待ち案)」及びその説明(以下「特許法審議待ち案」)を公示した。
3)2018年立法作業計画によると、今年、全国人民代表大会常務委員会に上述の「著作権法審議待ち案」及び「特許法審議待ち案」が付議されることになっている。
4)「全国人民代表大会常務委員会2018年立法作業計画」によると、「特許法審議待ち案」は2018年6月に全国人民代表大会常務委員会で初審議が実施されることになっており、「著作権法審議待ち案」は予備の審議項目に組み入れられており、全国人民代表大会常務委員会が状況に応じて、2018年以降の年度に審議を手配することになっている。

2.筆者の評価
公示された「著作権法審議待ち案」及び「特許法審議待ち案」の内容を見る限りでは、以下の点が注目に値する。
1)将来、「特許法」では、「部分的な」外観も意匠の保護範囲に組み入れられると思われる。現時点での中国「特許法」では製品全体としての外観しか保護しておらず、製品の「部分的な」外観は保護していない。このため、本制度が実施されれば、企業に一定の影響が生じることが考えられる(意匠を自ら出願する場合も、将来、他人の「部分的な」外観を使用する場合も、である)。
2)将来、「特許法」及び「著作権法」のどちらにも懲罰的賠償が追加され、法定の賠償金額が引き上げられることが考えられる。知的財産権の侵害に対して、現行の「特許法」及び「著作権法」の賠償は損失補填を原則としており、即ち、権利者が獲得する賠償は実際の損失を補填するためのものであり、実際の損失を超えてはならず、また現行の法定賠償金額は1万元以上100万元以下とされているため、被害者の損失を補填することは難しい。懲罰的賠償が追加され、法定の賠償金額が引き上げらることになれば、知的財産権の侵害行為を撲滅し、権利者の適法権益を守るうえで有益となる。
3)「組織の物質的、技術的条件を利用して完成させた発明創作」は、将来、職務発明の創作として認定されなくなることが考えられる。「特許法審議待ち案」の規定によると、「本組織の任務を実行し完成させた発明創作」だけが職務発明の創作として認定される。また、企業と従業員との間で別段の取り決めがない場合、「組織の物質的、技術的条件を利用して完成させた発明創作」の特許出願権は企業ではなく、従業員に帰属することになっている。このため、企業内部における発明創作と関係のある規則制度を改めて見直さなければならなくなるであろう。
4)このほか、「著作権法審議待ち案」及び「特許法審議待ち案」では、行政部門の法執行権限の拡大、行政処罰の厳格化、間接的権利侵害の認定追加といった方面で改正が行われ、知的財産権の侵害行為がある程度は抑制されるであろうと思われる。

(三)税収の徴収管理方面

1.法令の変遷
1)2015年1月5日、国務院法制事務室は、「中華人民共和国税収徴収管理法改正草案(意見募集案)」(以下「税収徴収管理法改正草案」)を公示した。
2)2018年立法計画によると、「税収徴収管理法改正草案」が今年、全国人民代表大会常務委員会に付議されることになっている、また、「企業所得税法実施条例」、「車両購入税法」、「耕地占用税法」、「資源税法」などの法律法規の改正と制定も2018年立法作業計画に組み入れられている。
3)「全国人民代表大会常務委員会2018年立法作業計画」によると、「税収徴収管理法改正草案」は2018年10月に全国人民代表大会常務委員会で初審議が実施されることになっている。

2.筆者の評価
公示された「税収徴収管理法改正草案」の内容から見る限りでは、以下の点が注目に値する。
1)将来、「税収徴収管理法」は、税務機関による強制措置を多様化させる。草案の内容によれば、納税者が規定通りに納税しなかった場合、税務機関はその者の不動産に対し優先弁済権を設定し、且つ財産権登記部門に登記を行うよう通知することができる。なお、この優先弁済権は納税者の財産に対する所有権、使用権を納税者から取得したり、剥奪するのではなく、ただ単に他の債権よりも優先して弁済を受けられること、そして、財産権登記部門で登記手続きを行うことから、当該不動産の抵当価値が大きな影響を受けることが注目に値する。
2)将来、「税収徴収管理法」により、「先に納税し、後で不服審査を行う」制度が廃止される。現行の「税収徴収管理法」では、納税者が税務機関との間で納税行政処罰について争いが生じた場合、先に納税した後で不服審査を行うことができると定められているため、納税者の救済権がかなり制限されていた。しかし、「税収徴収管理法改正草案」ではこの制度が廃止されており、これによって、税務機関と納税者の不平等な関係が改善されることになる。
3)また、将来、「税収徴収管理法」では、電子商取引が税務徴収管理分野に全面的に組み入れられることになっているが、電子商取引における源泉地の確認、及び税金をどのように徴収するかについて、法律法規でさらに明確にされる必要がある。

(四)政府と企業間協力方面

1.法令の変遷
1)2017年7月21日、国務院法制事務室は、「インフラ施設及び公共サービス分野における政府と社会資本の協力条例(意見募集案)」(以下「PPP条例(意見募集案)」という。PPPの正式名称はパブリック・プライベート・パートナーシップであり、政府と社会資本が提携し、公共インフラ施設の建設に参与することをいう)を公示し、パブリックコメントを正式に募集した。
2)2018年立法計画によると、国務院が今年、「PPP条例」を制定する。

2.筆者の評価
現在、政府と企業間での提携は、社会で広く関心が注がれているテーマであり、公示された「PPP条例(意見募集案)」の内容を見る限りでは、以下の点が注目に値する。
1)「PPP条例」によって、PPP事業の法的位置付けが引き上げられる。現在、PPP事業に対する法律文書は主に部門規則、国務院・部門の規範性文書に散見され、各部門委員会の文書において矛盾し又は抵触する箇所が常に存在しており、これを規制する統一した上位法がない。「PPP条例」が行政法規の形で、今まで空白であったPPP事業の上位法としての役割を補うことになる。
2)「PPP条例」は、指導目録という形式をもってPPP事業を明確にする。具体的に「ネガティブリスト」又は「ポジティブリスト」のいずれを採用するかについては、立法部門がさらに明確にする必要がある。筆者は将来、指導目録は「ポジティブリスト」の形式が採用されるのではないかと考える。なぜならば、現在、実務上、PPP事業は「氾濫化」傾向にあり、「ポジティブリスト」形式を採用した場合、その範囲をインフラ施設と公共サービス分野に限定することができると考えられるためである。
3)「PPP条例」では様々な所有制・形態の社会資本によるPPP事業への参与を奨励し、PPP事業の履行は、行政区画の調整、政府の再編成、政府関係部門・機関若しくは職能の調整、責任者の変更による影響を受けないとしている。
4)このほか、「PPP条例(意見募集案)」では、PPP事業における提携期間を10年から30年に限定している。

係る法令の最終案は、現時点での意見募集案、草案の内容と相違が存在する可能性があるため、今後も引続き、動向に注意を払っていきたい。

(里兆法律事務所が2018年5月7日付で作成)

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