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「外商投資法」所定の「五年の移行期間」の最後の年に新「会社法」が公布された中での、旧「三資企業法」に基づき設立され、もとの組織形態などのままである外商投資企業の対応

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2024年5月14日

概要:「外商投資法」において、2020年1月1日から2024年12月31日までを期間とする「五年の移行期間」が設けられており、まだ時間に余裕があるように思えながらも、その最後の年に、新「会社法」が公布されたことで、かなり切迫した状況へと急転した。本稿では、旧「三資企業法」に基づいて設立され、もとの組織形態などのままである外商投資企業において、どのような対応を行う必要があるのかについて、考えてみたい。

本文:

2020年1月1日から施行されている「外商投資法」において、旧「三資企業法」(即ち、「外資企業法」、「中外合弁経営企業法」、「中外合作経営企業法」)を柱とした外商投資企業の法律体系が廃止され、外商投資企業にも「会社法」などの法律法規を一律適用すること、「五年の移行期間」以内(即ち、2020年1月1日から2024年12月31日まで)に、外商投資企業が引き続きもとの組織形態などを維持することを認めると規定している。

2024年は、「五年の移行期間」の最後の年であり、また新「会社法」が公布されたことで(新「会社法」は、2023年12月29日に公布、2024年7月1日から施行)、旧「三資企業法」に基づいて設立され、その当時の組織形態などのままである外商投資企業にとっては、かなり切迫した状況へと急転している。この中、外商独資企業又は外商合弁企業における組織形態などは、通常、実際には現行「会社法」(2018年改正)に従った運用[1]になっているはずである。中外合作企業については、今回、個別に検討を要する状況にはない(但し、特殊分野を除く)ことから、現在、早急に対応を行う必要があるのは、旧「三資企業法」に基づいて設立され、その当時の組織形態などのままである中外合弁企業であろう。本稿では、このような中外合弁企業を例に、検討を行っている。

また、新「会社法」では、コーポレート・ガバナンス構造、資本制度、董事・監事・高級管理職者の責任などの面で、大きな変更がなされている。この点は、全ての会社に関係するものであり、さらに細則を公布し明確化される必要のある内容も含まれている。したがって、新「会社法」は、本稿における検討の重要ポイントではないものの、一部取り上げている。新「会社法」の主な改正点については、第852期「里兆ニュースレター」の「最新中国法令」の説明を参照されたい[2]

以下では、旧「三資企業法」に基づいて設立され、もとの組織形態などをそのまま維持している中外合弁企業において、対応を行うべき事項、注意点について述べてみたい。

ステップ1:合弁当事者間で、協議を早急に行い、組織形態などの調整について、合意を得る

旧「三資企業法」に基づいて設立された中外合弁企業がもとの組織形態等をそのまま維持している場合、その組織形態などのうち、現行「会社法」との最も大きな違いは、最高権力機関の違いである。即ち、旧法下では、董事会が最高権力機関になっていることとは異なり、新法では、株主会が最高権力機関になっているため、最高権力機関の職権、議決の仕組み、意思決定の執行機構、監督機構、経営管理機構の権限配分などに若干違いがある。詳細は、第685期及び第686期「里兆ニュースレター」における「中外合弁企業の『外商投資法」に基づく会社ガバナンス構造の調整」での説明を参照されたい[3]

中外合弁企業における「会社法」に基づく組織形態などの調整プロセスは、実質的には、会社の統治権を、董事会から株主会へ移転するものであり、会社の統治権を再配分するものでもある。このプロセスが最も重要であり、各合弁当事者が、一番時間をかけて駆け引きする段階でもあるため、交渉を有利に進められるように、しっかりと事前に準備をしておくことが望ましい。現行「会社法」に基づく組織形態等の要調整事項、並びに新「会社法」下での留意点を下表の通り、整理している。

現行「会社法」に基づく要調整事項

新「会社法」のもとでの留意点

● 最高権力機関を株主会に調整する。

● 株主会の職権、株主会の議事方式及び議決プロセスなどを新たに追加する。

●  株主会の法定の職権が削減され、董事会に一部職権の行使を委任することが認められている。

● 董事会は決定の執行機構である。

● 董事の選出方式、董事会の職権、董事会の議事方式及び議決プロセスなどを調整する。

●  有限責任会社における董事会メンバーは、3名以上とし(13名の上限値は、取り消された)、そのメンバーの中に従業員代表を含めることができる。

●  従業員人数が300名以上の有限責任会社である場合、董事会メンバーの中に従業員代表を含める必要がある(ただし、監事会の中にすでに従業員代表が含まれている場合を除く)。

● 監事会は、監督機構である。

● 監事の選出方式、監事会の職権、監事会の議事方式及び議決プロセスなどを新たに追加する。

●  会社が単層型のガバナンス方式(即ち、監事会又は監事を設置せずに、監事会の職権を行使する監査委員会を董事会に設置すること)を選択することが認められた。

●  規模が比較的小さい、又は株主人数が比較的少ない会社では、監事会を設置せずに、1名の監事を設けるようにすることができる。この場合、株主全員の同意を得ることにより、有限責任会社では、監事を設置しないことも可能である。

● 経営管理機構は、依然として総経理である。

● 総経理、副総経理を中国側・外国側合弁当事者によってそれぞれ選任される規定を廃止し、総経理の職権を調整することができる。

●  総経理の法定の職権に関する規定が削除され、総経理の職権は、定款で定める又は董事会が授権することになっている。

ステップ2:協議の結果を書面化し、合弁契約及び定款を修正し、旧法下の最高権力機関たる董事会(以下、「旧董事会」という)によって決議を行う

中外合弁企業においては、合弁当事者間において、合弁契約を締結するのが一般的であり、この点は、旧「三資企業法」でも、法定の要件になっていたのに対して、「外商投資法」及び現行の「会社法」では、同規定はなくなり、合弁契約を審査認可又は届出のために政府当局へ提出する必要はなくなっている。従前の「合弁契約」が引き続き適用され、「合弁契約」は、定款よりも包括的な内容になっている(特に、定款内容とは別に、合弁当事者を拘束する権利・義務を定めることができる)ことから、合弁契約の修正は、定款の修正と同時進行で行われる、ひいては定款に先行して修正されるのが一般的である。また、「外商投資法実施条例」において、既存の外商投資企業の組織形態などが法に依拠して調整された後においても、各合弁当事者が、合弁契約に従前定めている出資持分又は権益の譲渡方法、収益配当の方法、残余資産の分配方法などについては、もとの約定通り対応することができると規定されている。

定款は、会社の「憲法」であり、各合弁当事者の意思を反映するものであることから、中外合弁企業の組織形態などの調整について、各合弁当事者が協議によって合意に至った後、定款を修正し、調整後の中外合弁企業の組織形態など及び準則を明確にする必要がある。

なお、旧「三資企業法」、現行「会社法」のいずれに基づいても、定款の変更は、重大な変更事項に該当し、最高権力機関における決議プロセスを経る必要がある。しかし、「外商投資法」及び現行「会社法」などでは、移行期間における中外合弁企業の組織形態などの調整に係る決議形式が明確に規定されていない。実例研究、及び政府の見解を踏まえると、「外商投資法」及び現行「会社法」に照らして株主会が決議を下すのではなく、中外合弁企業における旧董事会が最高権力機関として定款変更の決議書を発行するというのが、現在、主流の観点になっている。

ステップ3:実情に応じて、修正後の定款に基づいて、各合弁当事者において、新任の董事、監事を選出し、総経理を招聘するなど

董事、監事(もし設置の場合)、総経理の選出方式、任期などの面で、旧「三資企業法」と現行の「会社法」とで大きく異なるため、理論的には、中外合弁企業が定款修正を完成した後、各合弁当事者が修正後の定款に基づいて新任董事、監事(もし設置の場合)を改めて選出し、且つ董事会が総経理、副総経理などの招聘を決定することになる。もし董事、総経理の人選変更に伴い法定代表者の変更が必要になる場合には、さらに前任法定代表者の解任及び新任法定代表者の委任について、決議プロセスを経る必要がある。

また、新「会社法」において、董事・監事・高級管理職者の責務(さらに厳しい忠実義務、勤勉義務、職務遂行に際しての独立性確保の義務、会社の資本充実化義務、職務の実施の過程で他人に損害を与えた場合の賠償責任、清算義務など)が拡充されていることから、董事・監事・高級管理職者に就任する予定である、又は現在すでにそのような立場にある場合、新「会社法」のもとでの董事・監事・高級管理職者に関する各種の要求を念頭に、慎重に職務を遂行することが求められる。また、職務遂行に際してのリスクを軽減できるように、董事・監事・高級管理職者を被保険者とする賠償責任保険を付保しておくことが望ましい。

ステップ4:政府登記/届出手続きによって、組織形態などの調整を対外的に公示する

現行「会社法」、「外商投資情報報告弁法」、「市場主体登記管理条例」等関係法律法規に基づくと、中外合弁企業は、上記ステップ1~3を完成後(実際に手続きを行う際には、通常、上記ステップ1~3を総合的に勘案して、計画を立てて実行する必要がある)、中外合弁企業所在地の市場監督管理局にて申請し、定款変更、董事・監事・高級管理職者変更(もし必要な場合)に伴う届出手続き又は法定代表者変更(もし必要な場合)に伴う登記手続きを行う必要がある。中外合弁企業は、上記変更情報を個別に商務主管部門へ報告する必要はない(市場監督管理局から商務部門へ直接送付し、部門横断的な情報共有を行うことになっているため)。

また、もし所定の時間通りに調整しなかった場合には、「外商投資法実施条例」及び国家市場監督総局の通知によると、外商投資企業が、2025年1月1日以降も組織形態などの変更登記又は届出を完了していないとき、政府監督管理部門から指摘され、以下の制限措置を講じられ得ることになっており、そうなった場合、企業の正常な運営、ビジネス上の信用などに影響が及ぶことになる。

a)当該外商投資企業が申請するその他の登記事項(その他の変更登記又は届出)を受理しない。

b)外商投資企業が、組織形態などを調整していないことを公示する。

終わりに:

「外商投資法」の「五年の移行期間」の最終年度を迎え、新「会社法」の施行(2024年7月1日から施行)も間近に控えている中で、「外商投資法」及び新「会社法」の規定に適合させるための協議、整理、調整、修正などの作業を、2024年の上半期に完成させることができれば、最も理想的である。なお、各合弁者間の関係が複雑な場合もあるなど、各社で状況が異なるため、それぞれの事情に合わせて具体的に分析したうえ、解決策を検討する必要があるため、本稿における上記内容は、あくまで一般論としての参考とされたい。

(作者: 里兆法律事務所 邱奇峰、李馨)

[1] 国家工商行政管理総局(現:市場監督管理総局)が2006年4月24日に公布した「外国投資家が投資した会社の審査許可・登記管理の法律適用に関する若干事項についての執行意見」(2020年12月1日に廃止されている)第3条では、「中外合弁、中外合作の有限責任会社の董事会は会社の権力機関であり、その組織機構は、会社が「中外合弁経営企業法」、「中外合作経営企業法」及び「会社法」に基づいて、会社定款によって規定される。外商合弁、外商独資の有限責任会社及び外商投資の株式有限会社の組織機構は、「会社法」及び会社定款の規定に適合しなければならない」と規定されていた。

[2] 第852期「里兆ニュースレター」のURL:

http://www.leezhao.com/upload/20241218251010251.pdf

[3] 第685期「里兆ニュースレター」のURL:http://www.leezhao.com/upload/202072017272334056.pdf

第686期「里兆ニュースレター」のURL:http://www.leezhao.com/upload/202072018351416620.pdf

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