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ログイン2024年3月12日
概要:
2023年9月1日、全国人民代表大会常務委員会で「『中華人民共和国民事訴訟法』の改正に関する決定」(以下「新『民事訴訟法』」という)が可決され、2024年1月1日から施行されることになった。今回の改正箇所は、計26か所あり、そのうち、19か所の改正内容は、『渉外民事訴訟手続き』に関するものである。本稿では、特に中国・海外の企業と密接に関わるものである「渉外民事訴訟手続き」に関する規定に焦点をあてて、その押さえておくべきポイントを解説する。
本文:
「渉外民事訴訟手続き」規定とは、中華人民共和国領域内で行われる渉外的要素を含む民・商事事件の訴訟に限って適用される手続き規定をいう。新「民事訴訟法」における「渉外民事訴訟手続き」の主な改正点は、以下の通りである。
一、渉外民商事訴訟に対する中国の裁判所の管轄権を拡大した
1.中国の裁判所の管轄対象となる渉外事案の範囲を拡大した
中国に住所を有しない被告に対して提起される渉外民事訴訟については、現行の「民事訴訟法」規定(以下「現行規定」という)に基づくと、当該民事訴訟は「契約又はその他財産権益をめぐる紛争」であり、且つ契約締結地、契約履行地、訴訟目的物の所在地、差押えに供することのできる財産の所在地、不法行為地又は代表機構住所地等のいずれかひとつが中国にある場合に限り、中国の裁判所が管轄することができる、とされている。
現行の規定では、財産権益以外の紛争を射程範囲に入れていなかったが、中国の裁判所の渉外事案に対する管轄の最適化を行う観点から、新「民事訴訟法」では、管轄権の及ぶ対象範囲を「契約をめぐる紛争又はその他財産権益をめぐる紛争」だけでなく、「身分関係[1]を除く渉外民事紛争」へと拡大している。
2.「適度の関連性のある」という包括的な管轄原則を追加した
中国裁判所の渉外民事訴訟の管轄における連結点に関しては、新「民事訴訟法」は、現行規定の6つの連結点のほかに、さらに包括的条項として「適度の関連性のある」ことを要件とするルールを追加し、渉外民事訴訟の管轄において、中国の裁判所に大きな裁量権を与えている。例えば、現行規定の6つの連結点には、原告所在地が含まれていないが、この点、新「民事訴訟法」に基づけば、原告が中国の事業体である渉外民事訴訟において、理論上、裁判所は、当該民事訴訟事案は中国と適度の関連性があるとして、管轄権を行使することが可能になる。
3.渉外「合意管轄」、「応訴管轄」を追加した
「合意管轄」、「応訴管轄」に関しては、現行規定によると、この部分は総則編に記載されていることから、理論上、当該規定は渉外民事訴訟にも適用されるということになるが、この点を明記した条文はなかった。新「民事訴訟法」では、これらの内容を渉外編に追加し、さらに明確化しただけではなく、渉外「合意管轄」に対する制限を撤廃している(即ち、新「民事訴訟法」では、合意管轄に制限を設けていない)。したがって、たとえ紛争と実質的関連性のある場所が中国にない渉外事案であっても、理論上、当事者間の合意により、中国の裁判所を管轄裁判所として指定することは可能になる。
4.「専属管轄」となる渉外事案を追加した
現行規定において、中国で履行される中外合弁企業契約、中外合作経営企業契約、中外合作自然資源探査開発契約について、その管轄は、中国の裁判所のみに認められるとされている(即ち、中国の裁判所が、これらの事案に対して絶対的な管轄権を有する。したがって、他国の裁判所は、管轄裁判所になれず、また当事者間の合意によって、他国の裁判所を管轄裁判所とすることも認められない)。
新「民事訴訟法」は上記のほかに、次の2種類の「専属管轄」となる渉外事案を追加した。①中華人民共和国領域内に設立された法人又はその他の組織の設立、解散、清算、ならびに当該法人又はその他の組織により行われた決議の効力等をめぐる紛争に起因して提起された訴訟、②中華人民共和国領域内で審査を経て、付与された知的財産権の有効性をめぐる紛争に起因して提起された訴訟。
二、渉外民商事事案訴訟における管轄権の競合に対する処理原則を明確にした
国際的訴訟競合には、一方の当事者が同一の紛争につき同時に国内・国外の裁判所に訴えを提起している場合、同一の紛争につき、一方の当事者が中国の裁判所に訴えを提起し、もう一方の当事者が外国の裁判所に訴えを提起している状況が含まれる。これによって、国内と国外の裁判所の管轄権が競合することになる。
上記管轄権の競合については、新「民事訴訟法」では以下の通り、原則的な規定を設けている。
1.中国の裁判所が法に依拠し管轄権を行使する:中国の裁判所が法に依拠して当該事案につき管轄権を有する場合には、中国の裁判所は、受理することができるが、もし当事者が外国の裁判所を専属的合意管轄裁判所とする旨の合意を書面で交わし、尚且つ中国の専属管轄に関する規定に違反しておらず、中国の主権、安全又は社会公共の利益にも関わるものではない場合、中国の裁判所はこれを受理しないことができる。
2.受理した順に従い、決めることを原則とする:国内・国外の裁判所の両方が受理しているが、もし中国の裁判所のほうが先に受理している場合、中国の裁判所が優先される。もし中国の裁判所のほうが後であった場合、当事者は、中国の裁判所へ訴訟中止を申し立てることで、中国の裁判所が訴訟中止の裁定を下すことができる。但し、中国の裁判所が管轄する旨の合意がある、又は中国の裁判所が専属管轄裁判所になっている、又は中国の裁判所が審理したほうが、利便性が著しく高まるといった場合は、この限りではない。
3.不便宜法廷地原則:中国で受理されている渉外民商事訴訟について、もし①事案の審判の基礎となる事実の発生地は、中国領域内ではないため、中国の裁判所が事案の審理を行う、及び当事者が訴訟に参加することが著しく不便である場合。②中国の裁判所が管轄する旨の合意が存在しない場合。③中国の裁判所が専属管轄裁判所になる事案ではない場合。④中国の主権、安全又は社会公共の利益に関わる事案ではない場合。⑤外国の裁判所で事案を審理するほうが、利便性が高まる、といった5つの状況が同時にある場合において、被告に管轄権の異議を申し立てられた時、中国の裁判所は、提訴を却下する裁定を下して、当該訴訟の審判にとって、より適した外国の裁判所へ訴えを提起するよう、原告へ告知することができる。
なお、上記要件に合致している場合、中国の裁判所は、受理、不受理、訴訟中止、提訴却下などを「することができる」となっており、「しなければならない」とはなっていないため、実務では、中国の裁判所の裁量によるところが大きいことがわかる。しかし、もし中国の裁判所が訴訟中止又は提訴却下の決定を下し、外国の裁判所が管轄することになった場合で、外国の裁判所が管轄権の行使を拒否したとき、又は事案審理のための必要な措置を講じていなかったとき、又は合理的な期限内に審理を結了しなかったとき、中国の裁判所は、訴訟手続きの再開、又は事案受理を「しなければならない」となっている。
三、渉外民商事訴訟送達の変更点
渉外送達に関して、以前より、「送達難」という問題が指摘されている中で、中国の裁判所から中国域外の当事者への送達の利便性向上、訴訟手続きの円滑化等の観点から、新「民事訴訟法」では、さらに柔軟性を持たせた対応を取っている。
具体的には以下の変更点がある。
1.現行規定における、訴訟代理人が「当事者に代わって送達を受ける権限を有する」という権限に係る制限規定を削除した:これは、受送達者から事案の処理を委任された訴訟代理人はいずれも、送達を受けるべき者である、ということを意味するため、中国域外にいる当事者が、委任状に「司法送達を受け付けない」ことを明記しても、送達を受けることを拒むことはできなくなる。また、受送達者が中国に設立した分支機構も、同様に「当事者に代わって送達を受ける権限を有する」という要件は、適用されない、ということになる。
2.受送達者が中国に設立した独資企業への送達を追加した:新「民事訴訟法」施行後、裁判所は、受送達者によって中国に設立された独資企業へ送達することにより、送達を完了することができる。
3.自然人と法人との間の代替的な送達が適用される状況を追加した:新「民事訴訟法」施行後、もし受送達者が外国法人又はその他の組織であり、尚且つその法定代表者又は主要責任者[2]が中国にいる場合、その法定代表者又は主要責任者へ送達することにより、送達を完了することができる。もし受送達者が外国人、無国籍者である場合、その者が中国に設立した法人又はその他の組織で法定代表者又は主要責任者を務め、尚且つ同法人又はその他の組織が共同被告である場合、当該法人又はその他の組織へ送達することで、送達を完了することができる。
4.「受送達者が同意したその他の方式」を包括的条項として追加した:当該規定から、当事者の自由意思原則のもと、実情に合わせて、当事者にとって最適な送達方式を選択する余地を当事者に与えることによる柔軟性を確保することで、裁判所による送達の確実性を向上させたいとの思いが読み取れる。
5.渉外事案における公示送達の期限を短縮した:新「民事訴訟法」では、渉外事案における公示送達の期限を「三か月」から「六十日」へと短縮した。
四、中国の裁判所による中国域外での調査・証拠収集の方法を追加した
現行規定の下、中国の裁判所は、中国が調印又は加盟している国際条約(例えば、ハーグで締結された「民事又は商事に関する外国における証拠の収集に関する条約」、二国間司法共助条約等)、互恵原則又は外交ルートにより、中国域外で調査・証拠収集を行っている。しかし、実務では、これらの方法により調査・証拠収集を行うと、多くの場合、期待する効果を得られず、また、時間もかかる。
そこで、新「民事訴訟法」では、上記の域外調査・証拠収集方法の代用として、さらに、中国の裁判所が域外調査・証拠収集を行うための方法が新たに規定されている(例えば、所在国の法律で禁止されていない限り、特定の場合において、中国の裁判所は①当事者、証人の所在国にある中国大使館・領事館に委託して、証拠収集を代行させる、②インスタントメッセンジャーを通じて証拠収集を行う、③双方当事者が同意したその他証拠収集の方式により行うことができる)。
五、外国の裁判所による判決(裁定)、中国域外における仲裁判断の承認・執行を最適化した
1.外国の裁判所による判決(裁定)を承認・執行しない五つの状況を明確化した
新「民事訴訟法」は、「全国裁判所渉外商事海事審判作業座談会議事録」等、これまでの実績を踏まえて、次に掲げる状況に該当する場合、外国の裁判所による判決(裁定)を承認・執行しないことを明確にした。
2.外国の裁判所が事案に対して管轄権を持たないとの判定を下すための基準を明確にした
外国の裁判所が、事案に対して管轄権を持たないと判定される状況には、次のものが含まれる。①外国の裁判所は、自国の法律によれば、事案に対する管轄権を有しない、若しくは自国の法律によれば、事案に対する管轄権を有することにはなっているが、同事案に係る紛争と適度の関連性がない場合。②中国の専属管轄に関する規定に違反している場合。③当事者間における専属的合意管轄裁判所に関する合意内容に違反している場合。
3.中国域外における仲裁判断の認定方式を調整し、中国域外における仲裁判断の承認・執行を行える管轄裁判所を追加した
新「民事訴訟法」では、中国域外における仲裁判断の認定方式を調整している(即ち、「国外の仲裁機関による裁決」を「中華人民共和国領域外で下された仲裁判断」へと修正している)。つまり、もし国外の仲裁機関が中国領域内で下した仲裁判断であれば、理論上、承認・執行の手順を経なくてもよいということになり、また、中国の仲裁機関が、中国領域外で下した仲裁判断は、中国域外における仲裁判断に該当するため、中国域外における仲裁判断の承認・執行という手順を経なければならないことを意味している。
また、新「民事訴訟法」では、中国域外における仲裁判断の承認・執行の申請を行える管轄裁判所の対象範囲を拡大している。通常、当事者は、被執行人の住所地又はその財産の所在地にある中級人民裁判所に申請することになるが、もし被執行人の住所地又はその財産が中国領域内にない場合、当事者は、申請者の住所地又は裁決の対象となる紛争と適度の関連性のある地における中級人民裁判所に申請することができる。
4.承認・執行の裁定に不服である場合における救済方法を明確にした
当事者が承認・執行する、又は承認・執行しない旨の裁定に不服である場合、裁定が送達された日から10日以内に、一級上の人民裁判所へ不服を申し立てることができるとされている。
六、終わりに
新「民事訴訟法」においては、渉外管轄、送達、証拠収集、承認・執行等の面において、中国の裁判所に大きな前進が見られることから、今後は、中国の裁判所が、これまでに以上に積極的に渉外民商事紛争に関わっていくであろうことが予測される。また、新「民事訴訟法」における「渉外民事訴訟手続き」の規定は、絶対にこの規定通りに対応しなければならないということではなく、裁判所に一定の裁量の余地が与えられているため、今後の司法裁判の動向を注視する必要がある。
(作者: 里兆法律事務所 邱奇峰、陳一夫)
[1] 中国に住所を有しない被告に対し、身分関係に関する訴訟を提起することについては、現行「民事訴訟法」第23条の規定によると、原告の住所地又は常居所の裁判所が管轄するとされていたが、新「民事訴訟法」でも、この点に変更はない。
[2] 「『中華人民共和国民事訴訟法』の適用に関する最高人民裁判所による解釈」第533条第2項の規定に基づくと、外国企業、組織の主要責任者には、同企業・組織の董事、監事、高級管理職者等が含まれる。
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