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新「会社法」の押さえておくべき変更点及びその影響

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2024年6月18日

コーポレートガバナンス、株主の権利義務及び「董事・監事・高級管理職者」の責務の3つの視点から考察する

概要:新「会社法」(2023年12月29日公布、2024年7月1日から実施)では、現行「会社法」(2018年改正)の全面的な改正を行われている。本稿では、そのうちの有限責任会社[1]のコーポレートガバナンス、株主の権利義務及び「董事・監事・高級管理職者」[2]の責務の3つの視点から、新「会社法」において押さえておくべき変更点及びそれにより会社へもたらされる影響を考察する。

本文:

視点一:コーポレートガバナンス体制の再構築

1.組織構造の調整

改正ポイント

1)従業員数が300名以上の会社は、監事会を設置しており、尚且つ従業員監事を設置している場合を除き、従業員董事を設置しなければならない。(第68条)

2)董事会構成員の上限を最大13名とする制限を撤廃した。(第68条)

3)「執行董事」の呼び名が取り消された。(第75条)

4)法定代表者になり得る者の範囲の拡大:会社を代表して会社の事務を遂行する董事又は総経理。(第10条)

5)監事会を設置しなくてもいい状況に関する規定の追加(第69、83条):

a.董事会に監査委員会を設置している場合。

b.小規模である又は株主の人数が少ない場合において、1名の監事しか設置していない場合。

c.小規模である又は株主の人数が少ない場合において、株主全員の同意を得て、監事を設置しない場合。

ポイント解説——従業員董事

適用の前提:従業員人数≥300名。

選出方式:従業員代表大会、従業員大会又はその他民主的な形式。

任職資格:理論的には、会社と労働契約を締結し、労働関係を築いている従業員は、いずれも従業員董事を務めることが可能だということになるが、中華全国総工会の文書を踏まえれば、従業員董事は、会社の高級管理職者[3]、監事、並びに高級管理職者の近親者でない者にしたほうがいい。

権利・義務:他の董事と同等の権利・義務(法律法規又は会社定款に定める各権利・義務を含む)を有する。

例外状況:会社に監事会を設置しており、且つ監事会にすでに従業員監事が含まれている場合。

2.株主会、董事会、監事会及び総経理に係る職権の変更点

改正ポイント

1)株主会職権の縮小(第59条):

a.「会社の経営方針及び投資計画を決定する」及び「会社の年度財務予算方案、決算方案を審議し承認する」という2つの職権を撤廃した。

b.「社債を発行する」に係る職権行使の権限を董事会に付与して行使させることができることを明確にした。

2)董事会職権の拡大(第67、69条):

a.「董事会が株主会に対し責任を負う」との要求を削除した。

b.監査委員会を増設し、同会に監事会の職権を行使させるようにすることで、監事会又は監事を設置しないことが可能となる。

3)監事会職権の強化:董事、高級管理職者に対し、職務遂行報告書を提出するよう求めることができる。(第80条)

4)総経理の法定の職権に関する規定が削除された(即ち、会社定款に定める又は董事会にて授権された職権を行使することになった。(第74条)

ポイント解説——「株主会」から「董事会」へ

●董事会の職権の変更点、及び本部分の第1点目の組織構造の調整を踏まえると、新「会社法」には、会社経営管理体制における董事会の地位を引き上げる狙いがあることが読み取れる。また、新「会社法」は、後述する第3部分のとおり、董事の責務が拡充・強化されている。

●また、旧「三資企業法」に基づいて設立され、もとの組織形態などのままである中外合弁企業は、新「会社法」の規定を参照して、コーポレートガバナンス体制の調整を一度にまとめて完成させるのがよい。詳細は、第856期「里兆ニュースレター」に掲載されている「『外商投資法』所定の『五年の移行期間』の最後の年に新『会社法』が公布された中での、旧『三資企業法』に基づき設立され、もとの組織形態などのままである外商投資企業の対応」を参照されたい。

視点二:会社の成立、経営等の段階における株主の権利義務

1.出資段階

改正ポイント

1)会社の出資期限は最長で、成立日から5年とする。(第47条)

2)出資期限の利益喪失制度が設けられ、即ち、会社が弁済期の到来している債務を弁済できない場合、会社又は債権者は、株主に対して出資金の早期払い込みを請求することができる。(第54条)

3)株主権利喪失制度が設けられ、即ち、株主が、所定の期限通りに出資金を払い込んでおらず、董事会が払い込みを催促しても払い込まなかった場合、董事会は決議プロセスを経て、株主に対し、当該出資の株主権利喪失を通知することができる。(第52条)

4)持分譲渡の場合における出資責任の分配。即ち、出資を引き受けた場合、出資期限が満了するまでに、実際に払い込んでいない持分については、譲受人が主たる責任を負い、出資期限が満了したが、実際に払い込んでいない持分については、譲渡人が主たる責任を負う。(第88条)

5)出資方式が拡充された(即ち、債権、出資持分での出資が認められた)。(第48条)

ポイント解説——5年の出資期限及び出資期限の利益喪失制度

●株主の出資期限が、最長で5年になったことによる具体的な影響:

 ■現時点では、「『中華人民共和国会社法』登録資本登記管理制度の実施に関する国務院の規定(意見募集案)」[4]の規定では、3年間の経過措置期間を設けている。即ち、会社の出資期限は、2027年7月1日から起算し、5年未満の場合、出資期限を調整しなくてもよい。そうでない場合は、経過措置期間内に、出資期限までの残りの年数を5年以内に調整しなければならない。したがって、会社において、早急に出資期限を確認の上、株主と協議し、対応策(払込資本金、減資などを含む)の検討を行うことが望ましい。

 ■今後、会社の新設、増資を行うにあたっては、謹慎に検討を行い、相応の準備を行っておく必要がある(即ち、現に支払いに充てることのできる資産の確保が必要になる)。

●出資期限の利益喪失制度による具体的な影響:

 ■債権者の視点から、債権回収の手段が新に設けられており、具体的には、国家企業信用情報公示システムが挙げられ、これによって、債務者の株主出資状況を調べ、もし出資金を払い込んでいない株主がいれば、当該株主に払い込みを請求することで、会社に債務弁済を請求するといったことが可能ではあるが、その運用細則が、さらに実践を通じて、明らかにされる必要がある。

 ■株主にいたっては、速やかに出資金を払い込むほか、今後、出資金をめぐってトラブルにならないために、会社に対外的公示義務を履行するよう促すといった対応が考えられる。

2.投資後の管理段階

1株主の知る権利の拡充。(第57条)

●閲覧可能な範囲に、株主名簿、会計伝票、及び100%子会社に係る資料も追加された。

●複写可能な範囲に、株主名簿及び100%子会社に係る資料が追加された。

●会計士事務所、法律事務所等の仲介業者を通じて閲覧できる。

2利益配当の最終期限は、半年とする。(第212条)

●これまで、「会社法司法解釈五」[5]第4条の規定によると、利益配当の最終期限は1年になっていたが、新「会社法」では、半年に短縮されている。

3株主が会議に参加しなかった場合、決議取消の訴えを提起することができる。(第26条)

●株主が、株主会会議への参加通知を受けていない場合、株主会決議が下されたことを知り、又は知るべきであった日から60日以内に、決議の取り消しを求めることができる。だたし、最長で1年を超えてはならない。

4株主の二重代表訴訟。(第189条)

●株主は、会社に損失をもたらした「董事・監事・高級管理職者」を相手取り提訴することができる。

●株主は、100%子会社に損失をもたらした100%子会社の「董事・監事・高級管理職者」を相手取り提訴することもできる。

5支配株主、実質的支配者の忠実・勤勉義務。(第180条)

●支配株主、実質的支配者は、会社の董事を務めないが、実際に会社の日常経営管理に関与している場合、董事同様の忠実義務、勤勉義務を負う。

6支配株主、実質的支配者が董事、高級管理職者に指示を下した場合における連帯責任。(第192条)

●支配株主、実質的支配者が、董事、高級管理職者をして、会社又は株主の利益を害する行為を行わせた場合、支配株主、実質的支配者は、当該董事、高級管理職者と連帯責任を負う。

7水平的法人格否認制度。(第23条)

●現行「会社法」に定める垂直的法人格否認制度とは別に、新「会社法」では、水平的法人格否認制度を新に設けている(即ち、株主が自ら支配する2つ以上の会社を利用して、2社間で資産を移転し、債務から逃れることで、会社の債権者の利益が害された場合、各社が、そのうちの一つの会社の債務について連帯責任を負うことになる制度)。

視点三:董事、監事、高級管理職者の責務

1忠実義務、勤勉義務。(第180から185条)

適用対象:董事、監事、高級管理職者(そのうち、「監事」は、今回の改正により新たに追加されたものである)。

概念の具体化:忠実義務とは、董事・監事・高級管理職者は、個人と会社の利害が対立する状況が生じないようにしなければならないことを指す。勤勉義務とは、董事・監事・高級管理職者が職務遂行過程で、合理的な注意義務を果たす必要があることを指す。

「董事・監事・高級管理職者」に対する禁止行為:現行「会社法」と一致している。禁止される行為には、会社資産の横領、会社資金の流用、会社資金の個人口座への移転、賄賂又はグレーな収入の収受、コミッションの収受、守秘義務違反などが含まれる。

「董事・監事・高級管理職者」に対する制限行為:会社定款の規定に基づき、株主会の決議又は董事会の決議プロセスを経て可決された場合に限り、「董事・監事・高級管理職者」は、下記の行為を行うことができる。

 ■本人又は近親者が直接、又は間接的に会社と契約する、又は取引をする。

 ■職務上の便宜を利用して、本人又は他人のために、会社の商機を獲得する。ただし、会社が法律法規により、商機を利用できない場合を除く。

 ■就任している会社と同類の事業を自ら又は他人のために経営する。

関連董事の表決回避制度:制限行為に関わっている董事は、表決に参加してはならず、尚且つ、参加しないことによって、他の董事の人数が3名未満になる場合、当該事項を株主会に付議し審議するようにしなければならない。

2会社資本の充実を維持する義務。(第51条)

●新「会社法」では、株主の出資状況を精査し、株主の出資を催促するなどの義務を董事会に課した上で、もし董事会がこれらの義務を履行できなかったことにより、会社に損失をもたらした場合、責任のある董事が、賠償責任を負わなければならないことを定めている。

3職務損害賠償責任。(第191条)

●通常、董事、高級管理職者が職務遂行のために、第三者に損害をもたらした場合、会社が賠償責任を負うことになっている。この点、「民法典」における職務行為の規定と一致している。

●董事、高級管理職者に故意又は重大な過失があった場合には、当該董事、高級管理職者も賠償責任を負わなければならないことになっており、董事、高級管理職者が職務を遂行する上での注意義務が強化されている。

4清算義務。(第232条)

●新「会社法」では、現行「会社法」における「清算組は、株主から成る」という規定を改め、清算義務者は、董事であり、清算組は、原則、董事によって構成されることを明確にしている。

●また、清算義務を適時履行しなったことに伴う責任を追加している。即ち、会社又は債権者に損害をもたらした場合、清算義務者が賠償責任を負わなければならない。

5董事責任保険。(第193条)

●新「会社法」では、董事が、会社での職務遂行期間中に、業務上のミス、不適切な行為によって、民事上の賠償責任を追及された場合に、補償してもらえるようにするための董事責任保険制度に関する規定を設けている。

●会社が董事責任保険を付保した場合、速やかに係る情報を株主会に報告しなければならない。

おわりに:

紙面の都合上、本稿は上記内容に絞って考察する。今回の改正は、全体として、抜本的改革をもたらすものということができ、改正内容も多岐にわたるため、各社において、新「会社法」規定に照らして検討、協議を行い、コーポレートガバナンス体制、会社定款及びその他内部制度に係る書類を調整、変更する必要がある。新「会社法」の変更点が多く、新規定も多数含まれていることから、具体的運用方法(実務上、どのように実施するのか、どのようにさじ加減するのかなど)は、今後、関連細則及び実践などを通じて、さらに明確にされる必要がある。私どもも引き続き動向を注視する。

(作者:里兆法律事務所 邱奇峰、李馨)

 

 

[1]特に断りがない限り、本稿にいう「会社」は有限責任会社を指す。

[2]特に断りがない限り、本稿にいう「董事・監事・高級管理職者」は、董事、監事、高級管理職者を指す。

[3]新「会社法」第265条第1号の規定に基づき、「高級管理職者」とは、会社の総経理、副総経理、財務責任者、その他会社定款に定める者を指す。

[4]「『〈中華人民共和国会社法〉登録資本登記管理制度の実施に関する国務院の規定(意見募集案)』に係る意見の公開募集に関する市場監督管理総局の公告」リンク先:https://www.samr.gov.cn/hd/zjdc/art/2024/art_f9f3f2d431474f0aa453786a9e5dd5cb.html

[5]「『中華人民共和国会社法』の適用に係る若干事項に関する最高人民法院の規定(五)」2020年12月29日公布、2021年1月1日から実施。

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