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新「独占禁止法」における「垂直的独占協定」規定の変化

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2023年4月11日

概要:

「独占禁止法」(2022年改正。以下「新法」という)が2022年8月1日から正式に施行される。今般の改正は、2008年の「独占禁止法」(以下「旧法」という)施行後初の改正であり、新法は、「プラットフォーム業界における独占的行為」、「事業者集中審査」、「垂直的独占協定」、「法的責任」などの面で旧法を大きく改善している。本稿では、事業者においてその変更点及び実務への影響を把握し、それに応じた準備を行えるよう、なかでも実務上、注目を集めている「垂直的独占協定」に係る規定に焦点をあてて考察する。

本文:

旧法における「垂直的独占協定」に係る規定

新法における「垂直的独占協定」に係る規定

第14条:事業者が取引相手と次に掲げる独占協定を締結することを禁止する。

(一)第三者に対する商品の再販価格を固定すること。

(二)第三者に対する商品の再販最低価格を限定すること。

(三)国務院独占禁止法執行機関が認定するその他の独占協定。

第18条:事業者が取引相手と次に掲げる独占協定を締結することを禁止する。

(一)第三者に対する商品の再販価格を固定すること。

(二)第三者に対する商品の再販最低価格を限定すること。

(三)国務院独占禁止法執行機関が認定するその他の独占協定。

前項第一号及び第二号に定める協定について、事業者が競争を排除、制限する効果を有さないことを証明できる場合、禁止しない。

事業者が、関連市場における事業者のマーケットシェアが国務院独占禁止法執行機関の定める基準を下回り、且つ国務院独占禁止法執行機関の定めるその他条件に合致していることを証明できる場合、禁止しない。

以上からわかるように、新法における「垂直的独占協定」に係る規定の変更点は大きく2つあり、「垂直的独占協定」は、競争を排除、制限する効果を有することを前提としなければならないことの明確化、「セーフハーバー」ルールの導入が挙げられる。

一、「垂直的独占協定」は、競争を排除、制限する効果を有することを前提としなければならないことが明確にされた

 1.旧法において、独占協定の定義(すなわち、本法にいう「独占協定」とは、競争を排除、制限する協定、決定又はその他協調的行為をいう)は、旧法の第13条(水平的独占協定)に設けられていたために、競争を排除、制限する効果を有することが前提になるのは、「水平的独占協定」だけであり、「垂直的独占協定」は、競争を排除、制限する効果の有無を問わず、そのような協定を締結すれば違法となり、事業者は巨額の課徴金を負うことになるのだと解される向きがあった。しかし、実際には、垂直的に行われる価格コントロールは、必ずしも市場競争に悪い影響をもたらすとは限らず、逆に正常な市場競争秩序の維持に有益となる場合もある。例えば、市場を独占するために、有力な販売代理店が、価格の過当競争を通じて競争相手を締め出した結果、エンドユーザー又は消費者に価格の過当競争によって生じたコストを負わせることになる。これとは逆に、メーカーが、販売代理店における販売価格を一定程度コントロールしている場合には、市場価格の透明性向上に有益となり、企業における利幅が合理的に確保されることによって、有力な販売代理店が市場を独占するといった事態発生の防止につながる場合もある。

2.新法では、独占協定の定義条項(すなわち、第16条)を別途設けることによって、「垂直的独占協定」を含む全ての独占協定は、競争を排除、制限する効果を有することを前提としなければならないことを明確に示している。また同時に、新法の第18条第2項は、「価格を固定する、及び再販価格を限定する垂直的独占協定について、事業者が競争を排除、制限する効果を有さないことを証明できる場合、禁止しない」ことを再度明確にしている。しかし、新法は、実務における「違法性の推定」の法執行論理(すなわち、価格を固定する、及び再販価格を限定する垂直的独占契約について、法執行機関は一般的には、競争を排除または制限する効果を有するものであると直接推定する。競争を排除または制限する効果を有さないことを証明しようとする場合、事業者自身が証拠を示して証明しなければならない)に変更を加えていないため、事業者がこうした状況の中で、「競争を排除又は制限する効果を有さない」ことをもって抗弁しようとする場合には、関連する証拠をきちんと押さえておく必要がある。

3.「競争を排除、制限する効果を有さない」ことを判断するための考慮要素については、新法において明確にされていないものの、中国の独占禁止法に係る過去の事例を踏まえると、主に次のものが含まれると考えられる。

1)関連市場における競争は充分か:通常、関連市場における競争が充分ではない場合に限り、「垂直的独占協定」の競争効果についての判断がさらに行われることになる。

2)関連市場における事業者の市場地位:事業者の市場支配的地位又は優越的地位は、「垂直的独占協定」に競争を排除、制限する効果があるかどうかを判断する上での前提、手がかりとなる。事業者の市場地位が低く、製品のマーケットシェアが過度に少ない場合、競争を排除、制限する効果は往々にして生じにくい。

3)「垂直的独占協定」を実施する動機及び競争効果:「垂直的独占協定」を実施する動機及び弊害は、競争を排除、制限する効果が生じ得るかどうかを判断する上での重要な要素になる。例えば、「垂直的独占協定」の実施は、市場における不正競争行為(例えば、不当廉売)を抑止することが目的であり、独占行為によって高額の利益をあげることが目的ではない場合、そのような「垂直的独占協定」によってもたらされる「競争を排除、制限する効果」はさらに弱まることになる。

二、「セーフハーバー」ルールの導入

1.新法の第18条第3項は、「関連市場におけるマーケットシェアが国務院独占禁止法執行機関の定める基準を下回り、且つ国務院独占禁止法執行機関の定めるその他条件に合致する」事業者は、「垂直的独占協定」規定の規制対象にならないとしており、これは、いわば「セーフハーバー」に相当するものである。

2.「セーフハーバー」ルールに係るマーケットシェアについて、新法では明確にしていないが、「独占協定禁止規定(意見募集案)」第15条の規定を参考にすると、「セーフハーバー」ルールに係るマーケットシェア基準は15%になっており、これは、従前の「自動車業種に関する国務院独占禁止委員会による独占禁止法上のガイドライン」、「知的財産権分野における国務院独占禁止委員会による独占禁止法上のガイドライン」では、基準を30%に設定していたことと比べると、「セーフハーバー」に係るマーケットシェアがさらに縮小されていることから、「セーフハーバー」ルールに対する法執行機関の慎重な姿勢がある程度読み取れる。

3.新法改正案では、「セーフハーバー」ルール条項が別途に設けられ、すべての独占協定に適用される形になっていたが、最終的に可決された新法においては、「セーフハーバー」ルールは、「垂直的独占協定」規定条項の中で設けられていることから、「セーフハーバー」ルールは、「垂直的独占権協定」にのみに適用されるものであり、「水平的独占権協定」には適用されないことがわかる。

4.また、「セーフハーバー」ルールの適用については、「国務院独占禁止法執行機関の定めるその他条件」に注意を払っておく必要があるほか、実務では、以下の点も問題になるであろうことが予想されるため、これら問題が解決されるまでは、事業者において、「セーフハーバー」ルールの適用に際しては、より慎重に対応することが望ましい。

1)関連市場の画定:新法では、関連市場の画定に関する規定を設けていないが、事業者においては、「A市場におけるマーケットシェアは、15%を下回るが、B細分化市場におけるマーケットシェアは15%を超える」といった状況が生じる可能性が高いことから言えば、関連市場の画定は、「セーフハーバー」ルールを適用する上で重要である。筆者の実務経験を踏まえると、製品(地域)の代替可能性が、関連市場を画定する上での重要なポイントになり、代替可能性の程度が高いほど、同一の関連市場に属する可能性も高まることになるが、具体的には実情に応じて個別に判断する必要がある。

2)マーケットシェアの計算:「独占協定禁止規定(意見募集案)」第15条によると、取引相手が複数ある場合、同一の関連市場におけるマーケットシェアは、全てを含めて計算しなければならない、としている。しかし、実態として、市場取引は複雑に入り組んでおり、一つのメーカー若しくは卸売業者が同時に数社の販売代理店と取引し、またこれら販売代理店の大多数が同時に同類製品を多数販売している場合が往々にしてあることから、こうした状況の中で、ある特定のブランド製品のマーケットシェアだけを計算するならば、事業者は「セーフハーバー」の適用対象になるであろうが、川下にある全ての販売代理店が販売する、全ての同類製品のマーケットシェアも合わせて計算した場合には、「セーフハーバー」の適用対象から外れやすくなる。

3)「セーフハーバー」ルール適用のための証明要求が高いことによるルールの「形骸化」:「独占協定禁止規定(意見募集案)」第15条、16条によると、「セーフハーバー」ルールが適用されるためには、事業者は、「競争を排除、制限することを示す反対証拠がない」ことを証明し、尚且つ提出する申請書において「協定は関連市場における競争を排除、制限することはない」ことを明記することが義務付けられているが、事業者が「競争を排除、制限することはない」ことを証明できる場合には、「垂直的独占協定に該当しない」旨の抗弁を直接行えばよいため、「ハーバーセーフ」ルールを適用する必要性はなくなる。

三、おわりに

 新法における「垂直的独占協定」規定の変更により、「垂直的独占協定」は、競争を排除または制限する効果を有する必要があるかどうかといった実務上の疑問が解消された。また、今般新たに導入された「セーフハーバー」ルールは、マーケットシェアの低い事業者にとっては朗報であるものの、実務上今後、明確化が待たれる未解決の問題も残っている。一方、「セーフハーバー」ルールの導入に伴い、今後、法執行機関が、「セーフハーバー」の適用対象外となった事業者に目を光らせるであろうことが予想されるため、当該事業者は独占禁止法遵守に細心の注意を払い、今後の法執行動向にも注意を払っておく必要がある。

(2022年8月8日 里兆法律事務所の邱奇峰、陳一夫が作成した。また、実習生の馬士曉も作成に貢献した)

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