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改正「スパイ防止法」のFAQ

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2023年8月9日

概要

改正「スパイ防止法」が、2023年7月1日から正式に実施される。今般の改正(第一回目の改正が2023年4月26日に行われており、以下「改正スパイ防止法」という)は、2014年11月1日に中国初の「スパイ防止法」が施行されて以来、初めての改正である。各企業及び従業員の参考となるよう、改正「スパイ防止法」に係るよくある質問とその回答を以下の通り整理する。

本文

Q1:改正「スパイ防止法」によると、スパイ行為とは?

A1改正「スパイ防止法」によると、次に掲げる行為が「スパイ行為」と認定される可能性がある。

1)スパイ組織及びその代理人が実施する若しくは他の者をして実施せしめる、援助し他の者に実施せしめる、又は国内・外の機構、組織、個人がそれらと結託し実施し中国の安全に危害を及ぼす活動。

2)スパイ組織に参加し若しくはスパイ組織及びその代理人から任務を引き受け、又はスパイ組織及びその代理人に頼ること。

3)国家秘密、情報及びその他国の安全及び利益に係る文書、データ、資料、物品の窃取、偵察、購入、不法提供、又は国家職員が反逆するよう策動、勧誘、脅迫、買収するといった活動をスパイ組織及びその代理人を除く国外の機構、組織、個人が実施する若しくは他の者をして実施せしめる、援助し他の者に実施せしめる、又は国内の機構、組織、個人がそれと結託し実施すること。

4)国家機関、秘密組織又は重要情報インフラなどに対するサイバー攻撃、侵入、妨害、コントロール、破壊などの活動をスパイ組織及びその代理人が実施する若しくは他の者をして実施せしめる、援助し他の者に実施せしめる、又は国内・外の機関、組織、個人がそれらと結託し実施すること。

5)敵に攻撃目標を指し示すこと。

6)その他のスパイ活動。

Q2:スパイ行為のほかに、企業において、防止し、制止すべき違法行為として、どのような行為があるか?

A2「スパイ防止法」及びその実施細則(改正「スパイ防止法」が公布された後、係る実施細則はさらに調整されるであろう)では、スパイ行為以外の「国の安全に危害を与える」などの行為を以下の通り定めたうえで、これら行為に対しても、国家安全機関及び公安機関が「スパイ防止法」に従って、所定の職責を遂行する必要があることを定めている。

■ 国の安全に危害を与える行為

1)国の分裂、国の統一の破壊、国家政権の転覆、社会主義制度の転覆を組織、画策、実施すること。

2)国の安全に危害を与えるテロ活動を組織、画策、実施すること。

3)虚偽を捏造、歪曲して、国の安全に危害を与える文章又は情報を発表、配布する、又は国の安全に危害を与える音響・映像製品若しくはその他の出版物を制作、配信、出版すること。

4)設立した社会団体又は企業・公的機関を利用して、国の安全に危害を与える活動を行うこと。

5)宗教を利用して、国の安全に危害を与える活動を行うこと。

6)邪教を動員し、利用して、国の安全に危害を与える活動を行うこと。

7)民族紛争を挑発し、民族分裂を煽動して、国の安全に危害を与えること。

8)国外の個人が、国内において国の安全に危害を与える行為又は国の安全に危害を与える行為を行ったとして、重大な嫌疑をかけられている人物との面会を関連規定に違反し、制止を振り切り、行った場合。

■ その他関連する違法行為

1)国家秘密に該当する文書、データ、資料、物品を不法に取得し、保有すること。

2)スパイ活動のために必要とされるスパイ専用機器を不法に生産、販売、保有、使用すること。

3)スパイ防止作業に係る国家秘密を漏えいすること。

4)他人のスパイ犯罪行為を知りながらも、国家安全機関から取り調べを受け、証拠の提供を求められた時、提供を拒否すること。

5)国家安全機関による法定の職務執行を故意に阻害する行為を行うこと。

6)国家安全機関が法に依拠して、封印、差押え、凍結した財物を隠匿、移転、売却、毀損すること。

7)スパイ行為に関連する財物であることを知りながらも、隠匿、移転、購入、代理販売又はその他の方法により隠ぺい、蔵匿すること。

8)法に依拠し国家安全機関の作業を支援し協力した個人及び組織に対し、報復すること。

Q3:改正「スパイ防止法」等の法令によると、企業にどのような義務が課されているか?

A3改正「スパイ防止法」によると、企業及び従業員には、スパイ行為を防止・制止し、国の安全を守ることが義務付けられていることから、各地において、当該スパイ防止義務に係る細則が公布されるはずである。例えば、「上海市スパイ防止安全防衛条例」において、企業に次に掲げる義務が課されている。

1)スパイ行為の防止・防衛に関する宣伝・教育・研修を実施し、本組織における人員の安全防衛意識及び対処能力を向上させること。

2)本組織におけるスパイ行為の防止・防衛のための管理を強化し、防衛措施を着実に実施すること。

3)スパイ行為が疑われる状況及びその手掛かりを速やかに報告すること。

4)国家安全機関等の関連部門によるスパイ行為の防止・防衛作業のために便宜を図り、又は協力して、国家安全機関の法による業務遂行に協力すること。

5)その他法に依拠し、履行すべきスパイ行為の防止・防衛義務。

Q4:改正「スパイ防止法」等の法令によると、従業員にどのような義務が課されているか?

A4前述の通り、改正「スパイ防止法」では、スパイ行為を防止し、制止し、国の安全を守ることを従業員にも義務付けている。「上海市スパイ防止安全防衛条例」を例に挙げると、従業員に課されている義務には、以下のものがある。

1)国家安全機関等の関連部門によるスパイ行為の防止・防衛作業のために便宜を図り又は協力すること。

2)スパイ行為が疑われる状況及びその手掛かりを速やかに報告すること。

3)スパイ行為の防止・防衛のための教育を受け、知り得たスパイ行為の防止・防衛上の国家秘密を守ること。

4)国家安全機関による調査・証拠収集作業に協力し、偽りなく状況説明を行い又は証拠を提供すること。

5)その他法に依拠し、履行すべきスパイ行為の防止・防衛義務。

Q5:スパイ等違法行為を行った場合の刑事責任は?

A5スパイ罪:スパイ組織に参加した若しくはスパイ組織及びその代理人から任務を引き受けた、又は敵に攻撃目標を指し示したことにより、国の安全に危害を与えた場合、10年以上の有期懲役又は無期懲役に処され、情状が軽い場合、3年~10年の有期懲役に処されることになる。国及び国民に対して、かなり深刻な危害をもたらし、情状がかなり劣悪である場合、死刑に処される可能性がある。

国の安全に危害を与えるその他の犯罪:スパイ行為及び国の安全に危害を与えるその他の行為は、さらに国の安全に危害を与えるその他の犯罪に認定される可能性がある。例えば、国の秘密・情報を海外のために窃取、偵察、購入、不法に提供した罪。

Q6:スパイ等の違法行為を行った場合の行政責任は?

A6スパイ等違法行為に対する行政責任を下表にて整理している。

【表】

責任主体

処罰の内容

個人

–        犯罪の成立要件を満たしていない場合、国家安全機関が警告を与える、又は15日以下の行政拘留に処し、過料を単科又は併科した上で(5万元以下の過料に処する。なお、違法所得が5万元以上の場合、違法所得の1倍~5倍の過料に処する)、関連部門が法に依拠し処分を行うことができる。

–        他人のスパイ行為を知りながらも、その者に情報、資金、物資、役務、技術、場所等を提供することにより、これを支援し、協力した、又は隠匿、庇護したが、犯罪の成立要件を満たしていない場合、前述の基準に従い罰する。

組織

–        組織ぐるみで該当行為を実施した場合、国家安全機関が警告を与え、過料(50万元以下。もし違法所得が50万元以上の場合、違法所得の1倍~5倍過料に処する)を単科又は併科し、且つ直接責任を負う主管者及びその他の直接の責任主体を、個人が責任を問われる場合に適用される処罰基準に従い罰する。

–        違法行為の情状等によっては、さらに生産停止・操業停止を命じられ、許可証を取り消されるなどの可能性もある。

外国籍者

–        外国籍者については、もし国家安全機関が「国の安全に危害を与える可能性がある」と認定した場合、当該外国籍者は、出入国を一定期間、制限される可能性がある。

–        該当違法行為を行った外国籍者は、国外退去処分に処され、その後十年間は、中国に再入国できなくなる可能性がある。

前述のA2で取り上げた「その他関連する違法行為」、例えば、スパイ専用機器等を不法に保有し、使用していても、犯罪の成立要件を満たしていない場合、国家安全機関が警告を与える、又は10日以下の行政拘留に処することになっている。また、違法行為の態様によっては、前述の処分に加えて、3万元以下の過料を併科できることになっている。

Q7:スパイ等違法行為を発見した場合、どのように通報すればよいのか?

A7通常、以下の方法で、実名又は匿名にて通報することができる。

1)通報受付窓口(電話番号12339)に電話をかける。

2)通報ウェブサイト12339.gov.cnにアクセスする。

3)国家安全機関へ投書する。

4)国家安全機関に出向いて通報する。

5)その他国家機関又は通報者の所属組織を通じて、国家安全機関へ報告する。

なお、故意に事実を捏造し、他人を陥れるために通報したことによって他人の権利を侵害した場合、法により民事責任を負わなければならず、通報にかこつけて、トラブルを引き起こし、国家安全機関の業務を妨害し、「治安処罰法」等の法律に違反した場合、法に依拠し行政罰に処され、情状が重く、犯罪の成立要件を満たしている場合、法に依拠し刑事責任を追及されることになっているため、この点にも注意を払いながら、通報を行うようにする必要がある。

Q8:法執行機関の調査を受ける際に、外国籍者は、通訳人の同席を求めることができるのか?

A8中国語を話せない外国籍者は、通常、通訳人の同席を法執行職員に要請することができる。通訳を介する際には、自分の言いたいことが相手方に明確に伝わるような話し方を心がける必要がある。中国語が堪能である場合には、法執行職員から、通訳は不要であることを表明する書面の提出を求められるのが一般的である。

Q9:中国国外にある関連会社とのメールでのやり取り又はビデオ会議を行うに際して、何か注意すべき点はあるか?

A9特に留意すべき点:

1)中国の軍事基地、政府機関、辺境・チベット地区・香港・マカオ・台湾等、敏感な地区に係る情報の共有、又は中外関係に悪影響を及ぼすようなコメント又は発言をしないようにすること。

2)歴史事件の記念日、突発事件・テロ事件の持続期間中、重要な政治・外交・国際会議・イベント等、敏感な時期の前後において、イベントもしくは事件に関連する、又は中外関係に悪影響を及ぼすようなコメント又は発言をしないようにすること。

3)軍事演習、抗戦記念活動等、機微なイベントについて、中外関係に悪影響を及ぼすようなコメント又は発言をしないようにすること。

4)中国の国家、軍人、国民イメージについて、中外関係に悪影響を及ぼすようなコメント又は発言をしないようにすること。

終わりに

「スパイ防止法」の改正は、中国が、国の安全を守ることを重要課題としていることが読み取れるため、企業は、経営管理において、改正「スパイ防止法」をよく理解した上で、改正「スパイ防止法」遵守を念頭に、係る取組(例えば、全従業員を対象としたスパイ防止法に係る研修会を実施し、スパイ行為の防止を企業のコンプライアンス対応業務の一つとするなど)を推進していくことが望ましく、また実務上、スパイ防止法執行機関による調査を受けた場合、積極的に協力する必要がある。

(作者:里兆法律事務所 邱奇峰、曽潔)

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