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敵が見えない時代の中国拠点マネジメント⑨日本人なら大丈夫?

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2024年5月20日

前回、経営の現地化が失敗するのは、現地経営を属人化するという方針そのものが根源的に持っている特性だという話をしました。まかせた相手が中国人だったからでも、「中国人は疑ってかかれ」ということでもありません。日本人でも、日本育ちでも、帰化した人でも、日中以外の外国人でも、経営を属人化すれば同じようなことは起こります。

日本人が大掛かりな不正を主導したケースを紹介しましょう(具体的な部分は複数のケースを組み合わせて変えてあります)。

■ 日本人幹部の不正

10年ほど前のこと。A社は自社商品を中国で販売したいと考え、中国事業部を立ち上げました。

中国の代理店と提携して中国への輸出販売をスタート。最初は苦労したものの、少しずつ軌道に乗ってきました。中国側はビジネスを発展させたいと考えたのでしょう。A社に事業拡大の話を持ちかけます。

業界的にも成長の波が来ているタイミングだし、A社と中国側で合弁企業をつくって、ここでA社製品を全面的・独占的に扱おうという計画です。A社も賛成、話はトントン拍子に進みました。

しかし、合弁企業を設立し、本格的なビジネス拡大の準備が整ったところで、ひょんなことからA社が中国側の不正に気づいてしまいます。

当初の販売代理契約では、A社と中国側で仕入単価と販売価格を取り決め、その差額が中国側の利益になることになっていました。

ところが、この代理店は実は決めた販売価格を守らず、かなり上乗せして売っていました。単純化すると、日本から単価100元で仕入れ、10元の利益を乗せて110元で販売するという契約を交わしていたのに、日本に黙って単価180元で売っていた、みたいな構図。差額の70元を丸々懐に入れていました。利益率10%のはずが80%も荒稼ぎしていたわけです。

問題を深刻にしたのは、そもそも100元という単価が日本側にとって適正ではなかったことです。中国側が「10%でも苦しいが、それ以下だとやっていけない」と強く要請したため、無理して100元に設定しました。販促に金がかかるというので、これとは別に販売支援の費用も捻出して。中国側はそれを尻目に、日本側の正当な利益を圧縮しながら売り続けてきたというわけです。しかも10年以上。

日本側は怒り心頭です。いずれは大きな利益を生むと信じ、それまで一緒に耐えるつもりで市場開拓を進めてきたのに、中国側だけが潤っていたのですから当然ですよね。いつからこの不正が始まったんだと遡って調査していくと、まさにA社が中国事業を始めた時点から仕込まれていたことが発覚しました。

■ 事業立ち上げ時に仕込まれた罠

A社はそれまで経験のなかった中国事業に乗り出すにあたって、外部から経験豊富な日本人Bさんを招聘しました。Bさんは同業大手の中国事業で責任者を歴任するなど、業界経験・中国駐在ともに長く、中国語も堪能、日本でも中国でも事業管理の経験がある。これ以上の人材はいないということで、事業責任者として高待遇で迎え、中国進出を一任しました。

A社の中国事業スキームは、Bさんがゼロから計画したものです。パートナーとなる代理店の選定、契約条件の交渉、日本からの輸入ルート確立、各種の許可申請、販路開拓方針、合弁企業の設立に至るまで、すべてBさん主導で作り上げました。組んだ代理店もBさんが見つけてきた会社です。こっそり上乗せして売っていたことを知らないはずはありません。

調査の結果、BさんはA社に引き抜かれるより前にこの代理店とつながっていたことがわかりました。どうやら、過去の会社でも同じような手法を使って代理店と利益を分け合っていたようです。過去の勤務先はどこも大手だったため、不正に気づいたものの表沙汰にせず穏便に辞めさせた(辞めてもらった)のです。このため真の姿・本当の退職理由が外に漏れることはなく、A社が拾ってしまった、というのがすべての発端でした。

■ 儲けさせたからリターンを得てもいい

さて、このケースをどう考えますか。BさんはA社を食い物にしたといえるでしょうか。中国事業を立ち上げ、軌道に乗せ、業績は拡大傾向にあった。この不正が明るみに出なければ、Bさんは中国事業を成功させた立役者としてA社での評価を確立させていたはずです。

Bさんのように大きな業績を上げた人が何らかの形で勝手にリターンを得ようとするタイプの不正は非常によく見られます。国籍にかかわらずです。本人は「俺がいなければ事業を立ち上げることも軌道に乗ることもなかった。多少の見返りを得てもいいだろう。会社は儲かっているんだし」と、大して悪いと思っていなかったりします。

「何億、何十億売り上げようとも、ルールを破ってはいけない」。多くの日本企業・日本人社員は当たり前にこう考えていますが、ひとたび日本を出てしまえば、世界的には当たり前でないことに気づきます。

国や地域によっては、業績を上げていれば大目に見てもいいという考え方もある。現在はコンプライアンスを重視する時代なので単純に理念の問題とは言えなくなりましたが、偶然から不正が発覚しなければ、A社もこのままだったかもしれません。

このケースでは、A社は潔く合弁事業を白紙に戻し、Bさんを解雇しました。一時的なつまずきより、将来的に日本側のコントロールが及ばなくなることを恐れたためです。

A社の対応は、目先の利益ではなく中長期の発展を考えれば当然だと思います。会社がどの段階でも、相手がどこの国籍でも、どんなキャリアでも、現地経営をブラックボックスにすると、こうした不正は起こります。

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