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敵が見えない時代の中国拠点マネジメント⑫駐在員が役割を果たすには

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2024年11月21日

■ 駐在員の軽量化

経営の健全な現地化では、三現主義を踏まえた本社の意向・理念を現地に浸透させ、折に触れておかしくなっていないかチェックすることが駐在員の重要な役割の一つです。

駐在員がその役割を果たすためには、「最終的なボスは自分だ」と言う根拠となる権限=人事権を握っていなければなりません

現地化を進める企業の一般的な傾向として、中国駐在員はどんどん若くなり(もしくは、すでに「上がり=定年」に近い社員)、ポジションも軽くなっています。会社によっては、販売責任者レベルの現地社員が駐在員と同等の権限を持っていることもあります。

これでは「立場の交差」が起きます。自分では何も決められず、本社ばかり見ている駐在員が現地社員の信頼を得られるでしょうか。少なくともその拠点で最も重い決裁権を持っていなければ、そしてそれを適切に行使できなければ、駐在員が拠点をコントロールするのは難しいです。

■ 本社のハンドリング強化と「評価の矛盾」

駐在員にそこまで期待しない、本社側のハンドリングを強めていくというのであれば、権限は本社で引き取るべき。現地に即した事業展開にはマイナスかもしれませんが、そこは現地属人化のリスクと、現地化しないことのリスク(非効率性など)を天秤にかけ、後者を取るという意思決定です。

功罪を判断した上で本社主導を選択し、その意思が本部から現地駐在員まで通っていれば、経営方針としてはアリです。

駐在員は、その条件の中でやりくりするしかないし、それ以上の責任を問われる立場ではなくなります。与えられた条件の下で、自分のできること・やるべきことを粛々とやればいい。

ここで噴出する問題が「評価の矛盾」です。権限を本社で引き取り、駐在員の手足を縛っておきながら、拠点ごとに業績指標だけを比較して「業績が悪化しているから何とかしろ」というのはアンフェア。明らかなダブルスタンダードです。

決裁権がないのに業績を責められても駐在員としては困ります。現地メンバーも「日本側はなぜ自分たちのことしか考えていないのか」と困惑・不満を抱くだけです。

必要なのは一貫したメッセージと経営判断。駐在員がミッションを達成するために必要な権限と責任が本当に付与されているかどうか、本社が責任を持つべきです。

本社のコントロールを強める目的で駐在員に決裁権を持たせないなら、決裁権限がない現地責任者のミッションを本社側でちゃんと定義して、権限の範囲でやるべきことを提示します。

それでは困るという会社は、駐在員に与える権限の内容を見直すか、送り込む人材を見直すことです(ここは海外人事の問題ですね)。現地マネジメントの範疇ではありません。

本社側が与える権限とミッションに筋が通っていないと、どんなビジネスでもおかしくなります。特にグローバル展開する企業は余計にシンプルにしておかないと伝わらないです。

■ 表層的なシンプル化の末路

私が見る限り、現状は「表層的なシンプル化」の方向に進んでいるようです。過去に触れた通り、特に大企業のグローバル人事は制度の形や整合性を整えることに躍起になっているように見えます。

現在進行形で駐在員のポジションを現地社員と入れ替えているという会社の中で、過去に他社で起こったトラブル事例を研究し、属人化しないための対策を打っている会社はほぼありません。日本の役員クラスに経験の蓄積がないし、リアリティを持って問題を認識できている人がいない。イメージできないことは対策も取れません。

結果、数合わせで組織の形を整えることが優先され、形が整ったところで経営層は関心を失い、目線を切ってしまいます。現地化の方針を示し、何年までに何人を現地社員に置き換えろという数値目標は出すものの、置き換えた後で何が起きるかは検証しない。数年も経てば、決定した人たちは責任をとる立場になかったりします。

これまで紹介してきたように、現地属人化の末路にはイヤというほど事例があります。海外マネジメントに明るく、そういったことにリテラシーのある人が経営層に入っていかないと、会社の未来は怪しい。

いまのところ、日本企業は相対的に他よりもリスクが低いと評価されていますが、これが最後の輝きだったと振り返ることにならなければいいなと思っています。

(続く)

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