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敵が見えない時代の中国拠点マネジメント⑪脱現地化=日本化?

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2024年10月9日

■ 脱現地化で日本化?

経営の現地化は必要だが、現地を属人化してしまうと必ず問題が起こるという話をしてきました。

では、属人化ではない健全な現地化を進めるにはどうしたらいいのか、原点に戻って考えてみましょう。

「日本人」に任せればいいわけではないことは前稿でも述べました。不正は経営の属人化が根源的に持っている問題であり、任せる人の国籍や経歴に関係なく起こります。

現地経営を属人化しないためには、日本側のコントロールがきちんと効いている状態が必須です。とはいえ、日本と同じやり方を貫いて組織を「日本化」してしまっては、現地の強みも失われてしまいます。

なぜなら、日本の仕組みは社会の同質性を前提としたハイコンテクストのコミュニケーション(「暗黙の了解」「空気を読む」が前提のやりとり)に立脚しているからです。

日本は長らく同質性の高い社会でした。稲作が中心の暮らしでは、組織ごとに明確な意味を持たせたり、役割を定義して機能分化したりする必要がなかった。そんなことをしてもマイナスにしかなりません。

みんな同じような作業をしながら、協力し合い、補い合う。それが昭和型の会社組織、新卒一括で色のついていない人材を採用し、必要なところに置くという仕組みにつながっていると思います。

一方、歴史的に異民族との接触が多かった文化圏(中国もそうです)では、ローコンテクストのコミュニケーションが基本。何らかのミッションを達成するためには、役割をはっきりわけて、それぞれが持ち場で力を発揮しないと組織が動かない。

それには誰にでも理解できるシンプルなコミュニケーションが必須です。この蓄積があるから、今で言うジョブ型雇用のような仕組みがうまく回るんだと思います。

能力別賃金やジョブ型雇用が日本企業で変質してしまうのは、前提となる考え方が根本的に身についていない(合わない)せいです。

日本の組織は、組織の枠ありきで、経営者も含めて明確な職責権限を与えられて、その枠内で役割を果たすという仕事の仕方に慣れていない。またはそういうやり方がしっくりこない。そうじゃなくて、いちいち明示したり確認したりしなくても、阿吽の呼吸で動き、カバーしあえるのがいい。毎回明確なコミュニケーションを求めるのは煩わしい、という思いがあるはずです。

当然ながら、何かといえば行間を読め、空気読めというやり方は、文化が異なるエリアでは通用しません。

■ 異文化マネジメントの逆輸入

実は近年、外国に行かなくても、日本国内でさえ以前のやり方は通らなくなっています。実感を持っている人も多いんじゃないでしょうか。

新卒一括採用のプロパー社員だけで構成されている会社は、すでに絶滅危惧種に近いでしょう。中途採用組、出向組、転籍組、派遣社員、再雇用組など、属性が違う人たちが入ってきて、それぞれ組織に対する意識も帰属感も違います。

終身雇用でどっぷり会社と一体化している人もいれば、まったく帰属意識を持っていない人もいる。家のことを母親や専業主婦に丸投げしていた時代とは違い、子育てや介護などライフステージの変化も仕事に影響します。さらにこれからはAIやロボットが職場に入ってきます。

こうなっていくと、お互いに「察して」動いていては事故が起きます。ふんわりと役割を分担するのではなく、いちど止めてプログラムし直し、線引きしないと危険です。

そういう協業の仕方が日本でも求められるようになっているにもかかわらず、まだ今のマネジメント層はオールドスタイルから抜け出せていない。村社会の延長が通用した時代の日本企業の幻影をベースにマネジメントしているので、見えないところでどんどんひずみやコンフリクトが深刻化しています。

今の子供たちが社会に出てきたら、同質性を前提とした仕事のシステムはいよいよ回らなくなるでしょう。地域による偏りこそあれ、彼らはルーツの違う子供が普通に周りにいる状況で育ってきています。日々の暮らしの中で、異文化との付き合い方を自然に学べている。そんな世代に昔のマネジメントが通用するとは思えません。

かつて、異文化マネジメントは日本企業が海外に進出するときに必要な知識でありスキルでした。これからは、外で学んだことを日本側に逆輸入して応用する時代になると思います。

■ 健全な現地化と駐在員の役割

さて、話を中国拠点に戻します。現地経営を属人化させないためには、日本側のコントロールが効いている状態が必須という話でした。

しつこく繰り返しますが、現地化と現地属人化は違います。中国事業できちんと利益を上げていきたいのであれば、まったくの日本流で経営するのは無理があります。

現地で売るなら、お客様目線の三現主義は不可欠。現地で求められるスピード感、費用対効果のバランスなどの判断基準を日本に揃えるのはただの「日本化」です。現地・現物・現実を見ていない人たちだけで物事を判断したり施策展開したりしていては、現地事業の健全な成長は望めません。そういう日本化は当然NGです。

健全な現地化のためには、市場への浸透や権限の分散を考える前に、根本の「その地で事業をやる意味」を見つめなければなりません。古くは「創業家の十訓」だったり、「会社理念三か条」だったりするわけですけれども、会社が本気で大事にしている価値観を現地ナイズしてはダメです。

自社のブランドやアイデンティティを守った上で、そこから先、お客様によって変えていい部分・変えるべき部分は現地化する。その線引きはグループの最終責任者の仕事です。各拠点・地域を超えて日本側で決めます。

駐在員の大事な役割の一つは、それを現地に伝えていくこと。揺らいではいけない部分を確実に現地拠点に浸透させ、おかしくなっていないかチェックをする。現地社員でもそういったことができるように育成することも大切ですが、本社の考え方を最も理解しているのは、やはり駐在員です。

(続く)

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