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規律違反による解雇実務ハンズオン解説

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2020年4月23日

「労働契約法」の規定によると、従業員が使用者の規則制度を著しく違反した場合(以下「重大な規律違反」という)、使用者は労働契約を解除することができ、且つ経済補償金を支払わなくてよいとされている。規律違反による解雇は、使用者が最もよく使う解雇理由の一つであり、「労働契約法」に定めるその他の解雇理由と比べ、規律違反による解雇は実用性が非常に高い。本稿は、係る規定、政策、経験に基づき、全体の流れを踏まえながら、規律違反による解雇の実務取扱を解説する。 

一、規律違反行為の調査、証拠収集

  1. 規律違反の発見

一般的には、使用者は自ら、又はその他の従業員、関連する第三者による通報等を通じて、従業員の規律違反行為を発見することがある。規律違反行為を見つけた後、使用者は規則制度の関連規定を調べ、規律違反による解雇要件、例えば、無断欠勤、会社財産の横領、賄賂、発票の虚偽精算、会社商業秘密の侵害、無断兼任、会社との利益相反等を確認しなければならない。

  1. 調査、証拠収集

規律違反調査の方向性が決った後、使用者はその方向性及び視点から当該従業員の規律違反行為を調査しなければならない。使用者は直ちに調査を展開し、係る証拠を収集し、且つ従業員に対しては自身の規律違反行為について書面で弁明し、説明し又は始末書を書くよう求めなければならない。また、それと同時に、他の従業員の証言を収集し、又は第三者機関を起用して調査、証拠収集に協力するよう依頼することもできる。

通常、オリジナルの証拠及び従業員本人の報告書は、規律違反行為を確認する上で相対的に有力な証拠になるが、その他の従業員が組織のために証言する場合、通常、その効力はやや低くなる。したがって、、規律違反行為の発生後は、違法解雇となってしまうことがないよう、使用者は解雇の決定を下す前に、規律に違反した従業員にはなるべく書面の説明書を書かせるようにするのがよい。もちろん、使用者が十分な書証又は物証を入手しており、従業員による重大な規律違反を証明できるのであれば、直接に解雇の決定を下すことも可能である。

二、規律違反による解雇根拠の確定 

  1. 規則制度

従業員の規律違反行為が労働契約又は規則制度における著しい規律違反、労働契約を解除すべき行為に該当する場合、使用者は「労働契約法」第39条[1]に基づき従業員を解雇することができる。本条に基づき従業員を解雇する前に、使用者はまず、規則制度が適法で有効なものであるかどうかを必ず点検しておかなければならない。通常、適法で有効な規則制度は、以下の条件を満たしていなければならない。

体上

手続

規則制度の内容が適法で合理的なものでなければならない。

使用者は法に依拠し民主手続き及び公示手続きを履行しなければならない。

1)適法性:

使用者の規則制度は、国家法律、行政法規及び政策の規定に合致していなければならない。

 

2)合理性:

使用者の規則制度の内容は、情理にかなうものでなければならず、一方的な制限権を濫用し、相対的に軽い情状や危害があまりないような行為を重大な規律違反行為として定めてはならない(司法の運用上、各地の司法機関が規則制度の内容に対し合理性の審査を行うことができるかどうか、方針は一様ではない)。

1)民主手続き:

①  使用者は、規則制度の草案又は係る修正案を作成した場合、係る職員代表大会又は全従業員に説明し、意見を募らなければならない(従業員の同意は強制的に求められていないが、従業員の認可、署名を取得できるならばなおよい)。

②  使用者は上記草案について工会と協議し、意見を募らなければならない(上記と同じく、工会の同意は強制的に求められていないが、工会の捺印のある確認が取得できればなおよい)。

③  民主手続きを履行する場合、使用者は証拠をしっかりと残しておかなければならない。例えば、意見を募った際のメール、協議し検討した際の議事録、録音・録画等。

 

2)公示手続き:

使用者は、可能な限り規則制度への署名を従業員に求め、且つ署名付き受領書等の証拠を内部で残しておくのがよい。受領署名の取得がどうしても難しい場合は、組織のイントラネットサイト、公告欄等で公示するとよく、公示の過程及びその文書については、証拠をしっかりと残しておかなければならない。

  1. 労働規律

運用上、使用者の規則制度をどれだけ細かく定めていたとしても、到底、現実において発生した規律違反行為を全て網羅するのは難しい。従業員の特定の行為が規則制度に該当するとした定めが見つからない場合、使用者は重大な規律違反をもって一方的に労働契約を解除することができないのではないだろうか?その答えは必ずしも完全否定されるものではない。

「労働法」第3条[2]及び第25条[3]によると、一人ひとりの従業員がいずれも労働規律及び職業倫理を遵守しなければならず、従業員が労働規律[4]に著しく違反した場合、使用者は労働契約を解除することができる。即ち、従業員が規則制度外で、見るからに重大な規律違反に該当する行為がある場合、たとえ規則制度では明らかに定めておらず、労働契約にも明確な取決めがなかったとしても、使用者は条件に応じて、重大な労働規律違反に基づき解雇することもできる。

なお、本条に基づき労働契約を解除する場合には、やや大きなリスクが存在し、使用者はとりわけ慎重に運用しなければならない。通常、当該規律違反行為が一般大衆においても当然の労働規律に違反したと広く認識され、且つ当該規律違反行為が「重大な情状」に達したときに、使用者は初めて本条を適用することができる。しかし、普遍的な労働規律とは何か、何をもって「情状が重大」とするのかについて、法律規定及び実務上、統一した基準はない。司法の運用上、司法機関は事実関係、職位、証拠、情理、影響等の視点から厳し目に判断することになる。

三、条件の瑕疵に伴うリスク対応

  1. 情状の瑕疵

通常、使用者の規則制度には行為規範と制裁措置があり、行為の悪質性に応じて、制裁措置も重くなる。従業員が一回、又は数回にわたり規律違反行為を行ったが、解雇要件に達していない場合、使用者は特定の方面から条件を作り出し、重大な規律違反条件に該当するように仕組んだうえで解雇することができる。

従業員が会社に指示された業務手配を拒み、業務職責を履行しないことを例にとると、一般論として、当該規律違反行為が1回しか発生していない場合には、規則制度に係る規定があったとしても、通常、重大な規律違反であると認定することはできない(使用者は規則制度に基づき、別の処罰を行うことは可能)。この場合、使用者は引き続き当該従業員に対し、業務手配を指示し、従業員が再び、又は複数回にわたって業務手配を拒んだ後、制度の定めるところにより、重大な規律違反を理由に解雇するとよい。

  1. 証拠の瑕疵

使用者が収集した証拠は、従業員が著しく規律に違反したことを証明するに足りない場合、引き続き証拠を探し、収集し、又は第三者である専門機関を起用するほか、既存の証拠に基づき、退職勧告することができる。退職勧告は、通常、リスクが最も低くい、且つ従業員解雇の目的を達成することができる方法である。

実務では、通常、既存の証拠に基づき、従業員にプレッシャーを与え、心理的限界を超えさせる方式により、経済補償金を支払わずに、従業員に自ら退職願いを提出させるようにする。通常、もし従業員の規律違反行為が他の法律に違反する疑いがある(例えば、収賄、横領行為がある)場合、従業員もより辞職を選択する傾向がある。

  1. 根拠の瑕疵

使用者が様々な方法を尽くしても、結局、重大な規律違反に基づき従業員を解雇することができなかった場合、実情に応じて、他の法定解雇理由を見つけ、解雇するとよい。

「労働契約法」の関連規定に基づくと、重大な規律違反を除き、使用者が従業員に対し解雇を実施できる理由には以下のものがある。

解雇の種類

解雇理由についての簡潔な説明

的根拠

業務過誤による解雇

使用者は、従業員に以下の業務過誤があることを理由に、法に依拠し解雇することができる。

1)試用期間中に採用条件を満たしていないことが証明された場合。

2)重大な職務怠慢、私利を追求するために不正行為を行い、使用者に重大な損害をもたらした場合。

3)同時に他の使用者と労働関係を構築し、当該使用者の業務上の任務の完了に重大な影響を与え、又は使用者から是正を求められたが、これを拒否した場合。

4)労働合同を締結し、又は変更する際に、詐欺、脅迫、又は人の苦境に付け込むなどした場合。

5)法に依拠して、刑事責任を追及された場合。

「労働契約法」第39条

業務過誤によらない解雇

従業員に業務過誤がない。しかし、法律規定に基づき、従業員に以下の状況が存在する場合、使用者は法に依拠して解雇することができる。

1)従業員が医療期間の満了後も元の業務に従事できず、使用者が別に手配した業務にも従事することができない場合。

2)従業員が業務に不適任であり、研修又は業務職位の調整を経ても依然として業務に不適任である場合。

3)客観的状況に重大な変化が生じたことで、労動契約の履行が不可能になり、双方は労働契約内容の変更について合意に達することができない場合。

「労働契約法」第40条

実務取扱過程において、使用者は上記の対応策を総合的に運用することで、従業員を適法に解雇するという目的を実現させることができる。

四、規律違反による解雇の法定手続き

使用者が規律違反の従業員を解雇することを決定した場合、労働契約を解除すると同時に、法定手続きも踏まえなければならない。

  1. 工会への通知

「労働契約法」第43条によると、使用者が労働契約を一方的に解除する場合、その理由を工会に事前通知しなければならない。使用者は書面にて通知し、且つ受領書への署名を工会に求めるのが望ましい。

最近、ある寧波の企業が工会通知義務を履行しなかったために、寧波市中級人民法院に違法解雇と認定され、従業員に9.8万元を賠償するよう命じる判決が下されたことがSNSで話題になった。使用者は次のことに注意しなければならない。

1)もしも使用者に工会が設置されており、又は係る工会に加入している場合、使用者が従業員を一方的に解雇する際には、当該工会に通知しなければならない。

2)使用者に工会が設置されていない場合、使用者は現地の上級工会へ通知することができる。

  1. 従業員への通知

使用者が面と向かって通知することが可能な場合、受領書にサインすることを従業員に求めるといい。面と向かって通知することが不可能な場合、EMSにより通知すると同時に、ショートメッセージ、Wechat等の方法で伝えるようにするのがよい。

五、違法解雇に伴うリスクへの対応

  1. 法的責任

使用者が従業員を解雇するために十分な理由を有し、且つ証拠が完備している場合、適法に従業員を解雇することができる。但し、理由と証拠が不十分であり、司法機関によって認めてもらうことができない場合、違法解雇に該当し、使用者は相応の法的責任を負わなければならない。「労働契約法」第48条の規定に基づき、違法解雇の場合、従業員は労働関係の回復を主張するか、又は賠償金を主張することのいずれかを選択することができる。

通常、従業員が賠償金を主張した場合、使用者は司法機関から違法解雇と認定されれば、賠償金を支払えば済むことから、一定の経済的損失を被るとはいっても、最終的には従業員を解雇する目的を達成でき、これもまた解雇方法の一つである。但し、従業員が賠償金ではなく、労動関係の回復を主張した場合は、違法解雇をしても最終的に解雇という目的を達成できない可能性がある。最終的に解雇の目的を実現させるためには、解雇の際に一定の措置を講じておくことで、労働関係が回復されるという結果にならないようにしなければならない。

  1. 労働関係の回復防止

「労働契約法」第48条では、「労働契約を引き続き履行できない」場合、司法機関は労働関係の回復を支持しないと定めている。しかし、「労働契約を引き続き履行できない」ことを如何にして判断するかについては、法律上、明確な規定はなく、司法機関の自由裁量の範疇に該当する。筆者は、実務取扱経験を踏まえながら、司法機関が通常、検討し得る視点、並びに労働関係の回復を防止するために使用者として講じ得る防止措置について、下表にまとめる。

番号

司法機関が通常、検討する視点

使用者として講じられ得る予防措置

1

元の職位は存在しているかどうか:

客観的原因により、元の職位が廃止され、なくなってしまった場合、通常、労働関係の回復は支持しない。

客観的な理由がある場合、元の職位を廃止するのがよい。

2

元の職位にはすでに他の者が就いているかどうか:

代替不可な、又は唯一の職位である場合、この職位に就く従業員を新たに雇用した後は、通常、労働関係の回復を支持しない。

代替不可な、又は唯一の職位について、当該職位を廃止していない場合、他の従業員をこの職位に就かせ、又は新しい従業員を採用するとよい。

3

従業員は、労働関係を回復したいという真の意思表示をしているかどうか:

もしも、従業員が労働関係の回復を主張するのは、仲裁、訴訟段階における賃金を請求するためであり、又は従業員が離職手続きを自主的に行い若しくはその手続きに協力し、賠償金を受領し、別の仕事を探す等の行為により、労働関係を回復しない意思表示をしていた場合、通常、労働関係の回復を支持しない。

解雇した従業員に対して、当該従業員には離職手続きを行うよう積極的に要求していくこと。例えば、離職にあたっての業務引継ぎリスト、賃金精算の領収書等の文書への署名等を従業員に求めること等が考えられる。

4

双方間の矛盾が労働関係を回復できないほど深刻なものになっているかどうか:

もし、双方間の矛盾がかなり深刻になってしまっており、労動関係を回復した後の労働契約の継続履行に非常に不利になる場合、通常、労働関係の回復を支持しない。

使用者は、解雇の実施期間において、従業員の態度も、行為も悪く、両者間で大きな確執が生じ、両者間の矛盾がすでに調整不可能であることを裁判所に説明するとよい(もしそのような状況があれば)。

なお、自由裁量の範疇に該当するため、最終的に「労働契約の継続履行が不可能」として認定されるかどうかは、司法機関の具体的な案件の状況に対する判断の如何により決まってくる。

(里兆法律事務所が2020年02月21日付で作成)

 

[1] 「労働契約法」第39条によると、「労働者が次の各号に掲げる状況のいずれかに該当する場合、使用者は労働契約を解除することができる。……(二)使用者の規則制度に著しく違反した場合。……」とされている。

[2] 「労働法」第3条によると、「……労働者は労働任務を完了し、職業技能を高め、労動安全衛生規程を執行し、労動規律及び職業倫理を遵守しなければならない。」とされている。

[3] 「労働法」第25条によると、「労働者に次の各号に掲げる事由のいずれかがある場合は、使用者は労働契約を解除することができる。……(二)労働規律又は使用者の定める規則制度に著しく違反したとき。……」とされている。

[4] 「『労働法』若干条文に関する労働部の説明」第25条に基づくと、「労働規律に著しく違反した」行為は、「企業職員賞罰条例」及び「国営企業における規律違反職員辞退暫定規定」等の関連する法規に基づいて認定することができる。しかし、現在、上記の法規はすでに失効しているものではあるが、何をもって労働規律を定義するのかについて、これらを手本にする価値が多少はある。

「企業従業員賞罰条例」第11条:

以下の行為のいずれかに該当する従業員については、注意教育後も是正しない場合、状況に応じて、行政処分又は経済的処罰を行わなければならない。

(一)労働規律に違反し、日常的に遅刻・早退し、無断欠勤し、職務を怠り、生産任務又は業務任務を遂行しなかった場合。

(二)正当な理由なく、業務分担及び配置転換、指揮に従わず、又は言いがかり、集団的騒ぎ、殴り合いのケンカを引き起こし、生産秩序、業務秩序及び社会秩序に影響を与えた場合。

(三)職務怠慢をし、技術取扱規程及び安全規程に違反し、又は規則に違反して指揮したことにより事故が発生し、人民の生命、財産に損失をもたらした場合。

(四)仕事に責任感がなく、不良品の発生が多く、設備・工具を損壊し、原材料、エネルギーを無駄に使用したことにより、経済的損失を引き起こさせた場合。

(五)職権を濫用し、政策法令に違反し、財政経済規律に違反し、脱税し、上納すべきであった利益を私的に流用し、賞与を無断で支給し、国の資金・財産を浪費し、国や組織の利益に損を被らせ、私的利益を追求し、国及び企業が経済的に損失を受けた場合。

(六)汚職、窃盗、投機取引、密輸、密輸品・禁制品の販売、贈収賄、恐喝による金銭の巻き上げ及びその他違法・規律を乱す行為を行った場合。

(七)その他重大な業務過誤を犯した場合。

「国営企業における規律違反従業員辞退暫定規定」第2条:

企業は以下のいずれかの行為の一つに該当し、教育又は行政処分を行っても効果がなかった従業員を辞退することができる。

(一)労働規律に重大な違反があり、生産、業務の秩序に影響をもたらした場合。

(二)取扱規程に違反し、設備、工具を損壊し、原材料、エネルギーを無駄遣いし、経済的損失を起こさせた場合。

(三)接客態度が悪く、いつも顧客とケンカし、又は消費者の利益を損害した場合。

(四)正常な配置転換に従わない場合。

(五)汚職、窃盗、賭博、私利をはかるための不正行為を行ったが、刑事処分には達していない場合。

(六)言いがかり、殴り合いのケンカをし、社会秩序に重大な影響を与えた場合。

(七)その他重大な業務過誤がある場合。除名、解除条件を満たしている従業員は、「企業従業員賞罰条例」の規定に従い実施する実施しなければならない。

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