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5年超居住する個人賃金に対する個人所得税の納税義務について

中国ビジネスレポート 税務・会計
王 穏

王 穏

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2016年12月19日

中国に進出する日系企業からよく相談される内容といえば、労務問題や商業賄賂等、中国の文化や法律の違いからくるのものが多い。一方、その日系企業に勤める駐在員の相談多いものは自身の中国生活と密接に関連した「納税」問題である。日中租税条約の183日ルールはよく知られているが、もう一つ、中国では「183日」のほかに「1年」や「5年」もターニングポイントとなる。つい先日も「今年の夏に中国の滞在が5年目となるが、個人所得税の納税義務が発生するのか」について質問があった。今回は、この5年超居住のケースを例にとり、駐在員の納税義務について分析したので、参考に供したい。

【事例】
A氏は、あるメーカーに勤めており、2011年10月中国に駐在員として派遣された。日本の本社と中国現地法人の両方から給料が支給されている。A氏は2016年10月に駐在年数満5年となり、2017年も帰任せず、引き続き駐在予定である。

【分析】
■ 183日ルールと合わせた納税義務簡易分析表は、以下の通りである。

中国就労期間中現地法人からの支払い 中国就労期間中日本本社からの支払い 一時出国期間中現地法人からの支払い 一時出国期間中日本本社からの支払い
中国累計居住が183日を超えない × × ×
中国累計居住が183日超え1年未満 × ×
中国居住満1年5年未満 ×
中国居住満5年、6年目から居住満1年

【注】 ○:要納税  ×:納税不要 
※一般的に駐在員は、「住所を有さない個人」(居住者)と見なされる。
※一時出国とは、一回の出国が30日を超えない、或いは累計出国日数が90日を超えない出国。
※中国居住満5年、6年目から居住満1年の場合は、賃金に限らず、すべての収入について納税義務が発生する。
※原則上、中国においてその他収入がある場合は、滞在期間を問わず、すべて納税義務が発生する。

■ 『中国に住所を有さない個人についてどのように中国居住満5年を計算するかの問題に関する財政部、国家税務総局の通知』によると、中国居住満5年となる外国人で、6年目以降居住期間が満1年に達する場合、全世界での賃金収入を対象に中国で納税申告しなければならないと規定されている。

■ 満5年後の6年目以降をリセットするには、滞在期間が90日以下である必要がある。また、6年目の滞在が1年未満の場合(連続30日あるいは累計90日を超える出国があった場合)は、中国での就労期間中の現地法人・日本本社からの支払い分に納税義務が発生し、満5年はリセットされない。そのため、7年目の滞在が満1年になると、中国外の賃金収入についても納税義務が発生する。まとめると、以下の通りである。

中国就労期間中現地法人からの支払い 中国就労期間中日本本社からの支払い 一時出国期間中現地法人からの支払い 一時出国期間中日本本社からの支払い
満一年
1年未満 × ×
累計90日以下 × × ×

【注】 ○:要納税  ×:納税不要 
※一般的に駐在員は、「住所を有さない個人」(居住者)と見なされる。
※入国日、出国日は、いずれも「1日」として計算。法定休日等を含む。
※課税年度(1月1日~12月31日)が対象。年を跨ぐ場合は、リセットされる。
※一時出国の場合は、控除対象とならない。つまり、その期間は、中国に滞在していたものと見なされる。

■ 183日ルールの場合は、183日を超えた時点で適用され、それまでの183日分の賃金についても申告しなければならない(最初から183日を超えると予想できた場合、先に納めていても問題はない。
■ 上記原則により、A氏は、2011年は含めず、2012年からの計算となる。つまり、実際は、2016年末をもって満5年と見なされる。つまりA氏の場合は、満5年に満たないため、「中国就労期間中の現地法人・日本本社からの支払い分と一時出国期間中の現地法人からの支払い分」について、納税義務が発生する。なお、2016年の間に連続30日以上若しくは累計90日以上の出国ができれば、満5年はリセットされる。

【法的根拠】
《中国国内に住所がない個人賃金収入の所得の納税義務問題に関する国家税務総局の通知》(国税発[1994]148号)
《中国に住所を有さない個人についてどのように中国居住満5年を計算するかの問題に関する財政部、国家税務総局の通知》(財税字[1995]98号)
中華人民共和国個人所得税法実施条例
日中租税条約 など

【まとめ】
中国に滞在するときの納税義務は、183日・満1年・満5年がターニングポイントとなるが、いずれも課税年度を「1月1日~12月31日」としていることに注意が必要である。そのため、このリセットをうまく活用し、駐在員を派遣すれば、一部納税義務を回避することができる。
実務においては、税務局の取り締まりも各地でその程度が異なるため(各税務局査察担当職員の自主性とも関連あり)、処罰されたケースはあるものの、数としてはそれほど多くはないという印象である。但し、 傾向としては、日本で上場しているような大企業は、通常は現地法人に対してもコンプライアンス重視という点から上述の納税原則を遵守させることが多いため、これを機に、駐在員の納税状況の見直しを検討することも必要である。

2016年12月14日

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