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ログイン2012年8月31日
筆者は、日本での債権回収業務にも多く携わってきました。社長宅へのアポなし訪問や店舗訪問、執行官補助とともにロープを使って商品の仮処分などいろいろと経験しました。今回は、中国弁護士事務所での研修時代に経験した中国における債権回収の現場について、日本での経験も交え、実務の一端を紹介します
筆者は、日本での債権回収業務にも多く携わってきました。社長宅へのアポなし訪問や店舗訪問、執行官補助とともにロープを使って商品の仮処分などいろいろと経験しました。今回は、中国弁護士事務所での研修時代に経験した中国における債権回収の現場について、日本での経験も交え、実務の一端を紹介します。
1. 債務支払いにおける心理的プレッシャー
それは華僑の本場、広東省のとある都市での事でした。
ある企業が中国企業に対する債権を回収できなくなりました。何度督促をしても、中国企業は支払いをしなくなったのです。この「ある企業」は、外資企業でした。調査をしたところ、支払いを他の支払先よりも後回しにされていたのでした。他の支払先とは、いうまでもなく中国企業です。すなわち、中国人社会では、中国企業に対する支払いは率先して行わないと中国では生きてはいけず、会社再建を期せば、中国人を怒らせるわけにはいかないのです。それに対し、外資企業を怒らせても知ったことではない、という背景があります。
中国における「関係(guanxi)」の中に、われわれ外国人が入り込むことは難しいものがあります。外資企業や外国人は、何かあったら中国から撤退するだろう、そのうち本国に帰任するだろうと、足元を見られているのです。
2. 総経理が立派な家に住み、車に乗る
その外資企業は、当該債務者企業の総経理の自宅を監視する事を決定しました。実際に監視を始めると、あれだけ支払いが滞っていた会社の総経理の自宅が大変立派で、自家用車はイタリア製のマセラッティというありさまでした。
その外資系企業の担当者は言いました。
「あの家とマセラッティを差し押さえることはできないのか?」
答えは残念ながら、「できない」というものでした。中国では、法人格を否認するほどのひどい案件でもない限り、債権者は原則として、総経理など経営者に対して損害賠償請求をすることはできず、経営者の財産を差し押さえることはできません。
さらに言えば、日本でも得てしてあることですが、立派な家や財産は、経営者の名義にはなっておらず、その家族の名義であったり、場合によっては第三者の名義になっていたりすることがあります。このことは中国でも同様です。いざという時は逃げ切ろうという心理の働きに国の違いは無いようです。
そうこうするうちに、債務者企業の事務所から人が姿を消しました。債務者企業が経営する工場を訪問すると、看板が別の企業名になっており、中に入って聞いてみると、「我々は、その債務者企業から工場を買った第三者であり、その債務者企業とは何ら関係がない」と言うのです。
しかも、債務者企業の総経理は「フィリピンに高跳びしたらしい」というのです。「ホンマかいな?」の世界です。
3. わが運転手が・・・
債務者企業の総経理の自宅や事務所を何度か訪問するうちに、なぜか債権者企業の中国人運転手が高揚してきました。何としても、自社の債権回収に役立ちたいという意欲なのか、単に面白がっているのか、債権回収にノリノリなのです。刑事にでもなったかのようでした。
運転手:「あそこに赤い貼札が見えるだろう?あれ何か分かるか?」
筆者:「えっ?春節のお祝いのでしょ?」
運転手:「何か気づかないか?」
筆者:「・・・」
運転手:「新しい・・・。最近戻ってきて張ったのだ。奴は近くにいる」
郵便ポストを透かし覗きました。
運転手:「新しい手紙が入っている。ひとつだけ。他のは、誰かが来て持って行ったんだ」
以前、債務者企業を監視している最中、人が怒鳴りながら飛び出してきたので、急いで逃げたこともあったようです。そのときには、「もうこんなの嫌だ」とこの運転手は嘆いていたらしいのですが、変われば変わるものです。
4. 結局・・・
結局、ノリノリになっている運転手の奮戦むなしく、この企業は債権回収を断念しました。これ以上頑張っても、費用対効果に見合わないと判断したのでした。まんまと債務者企業の思うつぼです。
外資企業・外国企業が、中国で債権を回収することは多大なる困難を伴います。仲間内を守る中国、華僑社会では、よそ者である我々が債権回収の段階にまで至ってしまうと、待ち構えているのは「泣き寝入り」だけということが多々あります。
中国人が中国人のことを信じず、前金を受けない限り商品を引き渡さないという常識の中、特に日系企業は与信行為を頻繁に行います。そのため、債権回収のリスクは格段に高まるのです。もちろん、商売を獲得し、リターンを受けるためには、他との差別化は必要です。内地販売取引が拡大する中、与信の拡大は趨勢でしょうが、与信調査段階から、債権保全・債権管理をきちんと行い、最悪の場合はどうなるということの想定もなく、行き当たりばったりで取引をすると大きな落とし穴が待ち構えていることを実感した現場体験でした。
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