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【コラム】中国現場体験記(48) 高句麗遺跡の街・集安と通化での出来事

中国ビジネスレポート コラム
奥北 秀嗣

奥北 秀嗣

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2012年5月25日

(7)吉林省集安
翌日は、朝6時47分発の列車に乗るべく、朝早く出発しました。最寄りの白河駅の周辺道路は何ら舗装がされておらず、凸凹のうえ、大きな水溜りがそこかしこにありました。そのため、駅に到着するまでに車の天井へ何度も頭をぶつけなければなりませんでした。次なる目的地は、吉林省の集安。到着予定はその日の午後1時14分。約6時間半の旅になります。

集安は、世界遺産でもある高句麗遺跡、好太王碑で有名であるにもかかわらず、交通の便は至極不便です。そのため、まとまった時間が取れないと、なかなか行く事が難しい場所だと思います。ここも川を隔てて北朝鮮という国境線の街であり、よく脱北者が逃げつく場所として報道されます。

ⅰ.高句麗遺跡、好太王碑
集安の向こう側に広がるのは、北朝鮮の山々と田園風景です。集安は野菜などの作物の実りに溢れ緑色が広がっていますが、北朝鮮側を見ると禿山の茶色や黄色ばかりという対照的な景色でした。同じ土地にもかかわらず、この違いです。中国の次期国家主席と言われる習近平国家副主席の父親である習仲勲が、かつての広東省第一書記であったとき、改革開放が始まったばかりの広東と、目と鼻の先にある香港との間に存在する厳然たる違いに嘆息し、「同じ土地であるにもかかわらず、これだけの貧富の差があるということは、制度に問題がある」と言ったそうです。まさに北朝鮮と中国の違いには嘆息せざるを得ないものがありました。

このとき見学した好太王碑および将軍墳は、大きな公園のようになっており、園内には果物のような木の実がたくさん実っていました。クコの実のような赤色の果実でしたが、周りの中国人や韓国人観光客は、その枝を勝手に折って、果実を食べていました。世界遺産など関係ないといった彼らの姿に、日本人とは異なる感を覚えたものです。

ⅱ.モーターボート
中国と北朝鮮との国境を流れる鴨緑江を、遼寧省丹東では観光船、図們では竹で作られた手漕ぎのいかだ、そして集安ではモーターボートに乗って走りました。

集安のモーターボート乗り場の前には、テーブルと椅子を広げた屋台があり、若者が北朝鮮を間近に眺めながら海鮮串焼きを食べていました。また、ボート乗り場の近くでは近所に住む女性たちが洗濯をしていました。

モーターボートは、猛スピードで北朝鮮国境近くを走ります。目の前には北朝鮮の化学工場や小学校が見えました。また、畑を耕していたり、散歩していたり、北朝鮮に住む人々の生活が間近に見えました。モーターボート乗り場の係員に聞くと、観光客の多くは韓国人とのことでした。

ⅲ.通化での怖い経験
その日の夜9時8分の通化駅発、翌日午後1時40分北京駅着の夜行列車に乗るべく、集安から2時間ほどの道のりを一路、通化まで向かいました。途中にも高句麗遺跡があり、近くの川では子供たちが高い石のうえから下の川に飛び込む水遊びに興じていました。

通化の市内に入ると、河沿いには眩いばかりのイルミネーションが連なり、打ち上げ花火が上がっていました。中国のどこにもないようなこの雰囲気と財政の豊かさの根源は何だろうかと思いながら、近くの餃子屋に入りました。テレビではサッカーワールドカップが行われていました。

夕食を終えて車に戻り、通化駅に向かって走り出したかと思うと、運転手が突然暗い路地に車を止めました。いぶかりながら降車すると、

運転手:「車代は?」
私:「えっ?!既に北京の旅行会社を通して全額払っているよ」
運転手:「もらっていない。俺のボスからも日本人から金を取ってくるように言われているのだ」
私:「そんな馬鹿な話はないよ。あなたのボスに確認してよ。それから北京の旅行会社に電話をしてみてよ」
運転手:「確認の必要はない。車に乗せてもらって、礼の金も払わないのか。日本人から800元を取ってくるように言われている」
私:「失礼なことを言うな。既に払っているものを二重払いできない」

埒が明きませんでした。私が北京の旅行会社担当者に電話をしてみても、日曜日であったため担当者は電話に出ませんでした。二重払いを求められたうえ、「日本人から金を取って来い」という言葉に怒りを覚えた私は、運転手ともみ合いとなってしまいました。すると、そこに北京の旅行会社から私の携帯に連絡が入りました。

私:「私はあなたにお金を払っているのに、この運転手はまた払えと言っている。日本人から金を取って来い、と言われた、と言っているが失礼だ」
担当者:「私が話してみますから、電話を替わってください」

運転手と担当者はしばらく話をしていました。

私:「どうだった?」
担当者:「この運転手は上司から変に話を聞いたのかも知れません。お金をもらっていないから取って来い、と言われたということを繰り返すのみで埒が明きません。明日、通化の旅行会社のボスに連絡をしてみます。運転手は興奮しています。危ないからその場を離れて、すぐに列車に乗りに行ってください。乗り遅れると大変です」

私の肩を掴み、さらに食い下がる運転手を振り切り、駅舎に入って荷物検査を終え、何とか列車に飛び乗れたのでした。その間もこの運転手は、「ガードマンを呼ぶぞ!金を払え!この日本人は失礼だ!」と叫んでいました。

翌日、北京に到着した私に、旅行会社の担当者から連絡が入りました。

担当者:「申し訳ありませんでした。通化の旅行会社のミスです。あの運転手は本当にお金をもらっていなかったため、あのような無礼をはたらいたようです」
私:「こんなに危険な目に遭うなら、日本人は通化に行けません。高句麗遺跡も世界遺産に指定され、今後日本人観光客も増えていくでしょうが、とてもではないが推薦できません。もっとまともな地元の旅行会社、運転手を起用するようにしてください。中国では色々ありましたが、このような経験は初めてです!」

(8)北京に戻って
言わずもがな、中国と日本との間には消せない歴史があります。南方では日本人嫌いの中国人が多くとも、その昔、満州と言われた東北地方では親日的な中国人が多く、日本での報道とは異なる印象を持っていました。外国では、どこに行っても何らかのトラブルに遭遇する恐れはあると思います。

このとき研修をしていた弁護士事務所で、年配の中国人弁護士にこのときの経験を話しました。

私:「・・・。こういうことが通化でありました。通化では、総経理に暴行を加え死亡させた事件が引き金となった、吉林通化鉄鋼の大暴動事件も起こっていますが、やはりカッとなり易い性格の人が多いのでしょうか?」
中国人弁護士:「通化は朝鮮族の多い土地ですから、漢族とはまた違うのだと思いますよ」

歴史問題に限らず、民族間の感情、紛争、誤解等が世界中で渦巻く現在、何の予習もなく海外に赴き、外国の文化や習慣を理解する事は、非常に難しいのだと感じさせられました。


※高句麗遺跡・好太王碑から眺める北朝鮮の工場

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