それは、居酒屋でたまたま知り合った中国人女性の口から飛び出した「結婚」という言葉から始まりました。その女性の周囲にいる中国人の中に、日本の居留資格を得るために、ただならぬ「結婚」をしている人がいると言うのです。それは、・・・「偽装結婚」。今回は、中国人の偽装結婚と日本での「集団就職」に関する現場体験記です。

１．中国人女性と日本人男性の「偽装結婚」
（１）日本での居留資格を得るために
中国人が日本に渡航するには大変厳しい要件があります。短期滞在は１次有効の短期滞在ビザ（シングルのFビザ）でも数次有効の短期滞在ビザ（マルチのFビザ）でも厳しい要件が規定されています。緩和はされてきてはいるものの、団体観光、個人観光ビザの取得も同様です（年収要件等）。

このように多くの中国人にとっては、日本のビザ取得はいまだにハードルが高く、そのため、日本で稼ぎたいと考える中国人女性達（この目的で日本に渡航してくる中国人女性の大半が農村出身の農民戸籍）のなかには、日本人男性との「偽装結婚」を希望する者もいるようです。

しかし、中国人が、日本での居留資格、ひいては永住権まで取得するには、「適法な在留資格」が必要なのは当然のこと、日本人と結婚してから３年以上日本に居留する必要があります。

（２）報道で知るような内容が
「偽装結婚」はテレビや新聞などの報道で、その存在は知っていたものの、その具体的な内容を耳にする機会があるとは思いもしませんでした。

その女性：「日本人と中国人が偽装結婚で逮捕されたニュースを見たときには本当にびっくりしたわ。日本人は顔までテレビに出ていたわよ」
筆者：「そういう話はちょくちょくあるよね」
その女性：「私の友達にも居留資格を得るために偽装結婚した人がいるわ」
筆者：「えっ？！」
その女性：「私もびっくりした。一人は偽装結婚した後に、彼女のことを本当に気に入って結婚したいと言う人が現れたそうよ。偽装結婚の相手とは離婚（偽装結婚の籍を抜く）して欲しいと言われたって」
筆者：「偽装結婚の籍を抜くのも大変そうだね。他にも偽装結婚している友達はいるの？」
その女性：「いるわよ」
筆者：「・・・。彼女たちは何をしている人？」
その女性：「店を開いている人もいれば、普通に会社員の人もいる」
筆者：「偽装結婚はお金がかかるのではないの？高いでしょ？」

（３）「偽装結婚」費用
その女性：「Ａは一括で２８０万円と毎月５万円。Ｂは２年契約で一括５０万円と毎月５万円。でもＢは契約期間の途中で別の日本人と本当の結婚をするために“離婚”したから違約金で２００万円払わされたらしいわよ。Ｃは日本の大学を卒業したのに、偽装結婚していたわ。何だか分からないけど、社会保険料名義で毎月３万円払っているようよ」
筆者：「なぜ日本の大学まで卒業しているのに偽装結婚しないといけないの？普通に就職すれば良いのでは？」
その女性：「日本は不景気で就職難。日本人でさえ就職が厳しいのに、中国人なんてもっと就職できないのよ」
筆者：「中国の蛇頭のような黒社会の人に無理やり連れて来られた人はいないの？」
その女性：「彼女たちは全員自分の意思で日本に来て、自分の意思で偽装結婚しているわ」
筆者：「暴力を振るわれているとか、脅迫されているわけではないのか。それにしても普通に日本の大学を卒業しているのに、偽装結婚をしてまで日本にいなければいけないというのも腑に落ちないな」
その女性：「どうしても日本にいたいから、日本のある会社から偽の招聘状を出してもらったらしいわよ。その会社の中国人従業員という資格で滞在しているみたい。夜のお店（クラブ、スナック等）で働く人は、ほとんど日本の会社から偽の招聘状を出してもらっているそうよ」
筆者：「そこまでして日本にいて儲かるのかな？そんな多額の費用を回収したうえ、更に儲けられるほどの金銭を今の日本で稼ぐのは大変な気がするけど？日本は生活費も高いし、少々稼いだとしても貯蓄することは難しいのではないのかな？」
その女性：「仲介の人（ブローカー）に支払う額は、別に決まってないみたい。２８０万円ではなく、２００万円の人もいるし、もっと安い人もいるかも知れない。私も借金してまで日本に行きたいというのは良く分からないわ」

（４）生活実態の調査
その女性：「私が日本で働いていたときには入管の人が生活実態の調査に何度も来たわよ。日本の入管は厳しいわ。ビザもなかなかもらえないし。居留証を更新してもらうのも大変なの。私も１回目の更新が認められずに中国に戻された事があるわ」