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【コラム】中国現場体験記(56) 「目をそらすな!」~張家界で出会った食欲の裏側から~ 

中国ビジネスレポート コラム
奥北 秀嗣

奥北 秀嗣

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2012年10月29日

「目をそらすな!」
湖南省にある風光明媚な山々で有名な張家界・武陵源の地元食堂で、日本人の友人から筆者が言われた言葉です。人間の欲の中でも根源にある、食欲に関する中国各地の地域事情、民族事情について、張家界・武陵源の少数民族、地元料理を通じて紹介します。

1.湖南省/張家界・武陵源
2011年8月、北京での中国語学研修仲間であった他社の中国駐在員たちと湖南省/張家界・武陵源を訪ねました。張家界・武陵源は、空に向かって突き刺さるような山々が印象的な世界遺産のある場所です。アメリカの映画、「アバター」のハレルヤ山は、ここ張家界・武陵源の山々をモデルとして製作されました。
筆者は日本から上海を経由して現地に向かったのですが、ほかの友人たちは北京からであったため、湖南省張家界空港で落ち合うこととなりました。

2.土家(トゥージャー)族の運転手
このとき空港から乗った車の運転手は、地元の少数民族である土家(トゥージャー)族の男性で、人の良さそうな顔をした小太りな人でした。
「師傅(シーフ)、師傅はこの土地の人?」
「そう。ここが地元だね」
「漢族ではないよね?」
「漢族ではないよ。土家族さ」
「そうか、それは良かった。僕は少数民族が好きなのだよね。少数民族は、人も文化も食べ物も何もたまらなく魅力的だね」
「そう?それは良かった」
「でもさ・・・。土家族の話す言葉も、普通話(標準語)なのだね。土家族の言葉では話さないの?」
「もう土家族の民族語は老人しか話せなくなってきているよ」
「えー!?それは残念だね。折角の文化なのにね」

気分良く運転手と話していると、いつの間にかホテルに到着していました。チェックインを済ませると、早速、地元料理を食べに、ホテル周辺を散策しに行きました。ホテル前の通りには、地元料理の食堂が数店立ち並んでいました。一通り表から眺め、その中で最も混雑しているお店に入ることにしました。席について、壁に貼られたメニューを眺めていると、様々な野生動物の写真が載っていました。隣の席では、白酒で酔った中国人男性二人が、「飲め!」「飲めない!」と言い合い、険悪な雰囲気を醸していました。その横を店員が材料の蛇やカエルを持ってやって来ましたので、声をかけました。
「ここは地元料理屋だよね?」
「そうよ」
「地元料理って、こういう野生動物の料理なの?」
「張家界の山の料理ね。普通に湖南料理もあるわよ」
日本人は辛い料理と言えば、山椒のしびれる味が特徴の四川料理(麻婆豆腐等)を思い起こす方が多いかもしれません。しかし、中国人の場合、辛い料理として人気があるのはトウガラシで赤紫色になった湖南料理です。
次の日に山登りをする予定もあったことから普段とは違う特別な料理は自重し、張家界の地ビールを飲みながら、地元の野菜料理などで腹を満たすことにしました。

3.目をそらすな!
次の日、ハレルヤ山のモデルとなった山々を歩き回った筆者たちは、夕食に別の地元料理屋に行くことにしました。やはり、「地地道道(ディーディーダオダオ※本場の、地場の、地元の)」な料理を食べるのが旅の醍醐味です。

木造2階建ての今晩のお店は、入り口も奥も開放しており、2階の個室にいても風が流れて来て、まるで外で食べているような開放感を味わえました。
中国では、運転手と乗客が一緒に食事をする事が一般的で、この時も土家族の運転手と一緒にテーブルを囲んでいたのですが、その運転手が突然言いました。「地地道道と言えば、野生動物だね。野鳥とか、大きなネズミとか食べる?」
「・・・。食べる!」
我々は一瞬ためらいながらも、声を揃えて挑戦を決意しました。
「どうせなら、調理するところも見る?」
「・・・。見る!」

1階の調理場の近くに行くと、籠に入った、ビーバーみたいなネズミがいました。
「これだよ。あなたたちが注文したのは」
たじろいでいると、今度は畑の奥にある大きな鳥小屋から野鳥を取り出してきました。調理人は手際よく、首をひねると、包丁で捌き始めました。ここまでは大丈夫でした。
次はネズミです。
筆者は「世界ウルルン滞在記」という番組が大好きでよく見ていました。その内容は、芸能人が世界各地でホームステイをしながら現地の人と親睦を深めるというものでしたが、芸能人の中には、慣れない野生動物を使った料理を嫌がり、その残酷さに涙を流す人もありました。それを見た筆者は、(その野生動物を食べることで生きている地元の人に、それでは失礼ではないか?)と生意気にも思っていました。ところが、果たして、張家界で同じような場面を目の当たりにすると、筆者は、その芸能人たちと同じく、大いに動揺してしまったのです。

その時、筆者と仲の良い友人が、強い口調で言ったのです。
「目をそらすな!いつも地地道道って言っているだろ!」

まったくもって、反論しようがないほど、この友人の言う通りでした。筆者は口では調子が良いことを言いながら、実際の自分の反応は違ったのです。しばらくすると、まず野鳥料理が出てきました。普段食べるような鶏などではなく、本当に野鳥です。鶏とは異なり、筋肉質の体は非常に強い歯ごたえでした。
次にねずみ料理が出てきた時、運転手が言いました。
「骨ばかり多くて、あまりおいしくないよ」
正直、運転手の言う通りでした。牛、豚、鶏等、普段食べている肉の方が何倍もおいしく感じられるのでした。骨ばかりの肉を噛みしめながら、「目をそらすな!」という一言が筆者の胸の中に響いていました。


※「張家界で食べた鍋 材木をくべながら食す」

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