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人材にロイヤリティーを求めるな

中国ビジネスレポート コラム
森辺 一樹

森辺 一樹

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2013年1月30日

 海外法人に駐在している多くの日本人トップと話をすると、「現地人は会社に対するロイヤリティーが無くて困る。。。」という嘆きの声を多く聞く。
 要は、現地採用した現地人の社員を数年かけて教育し、ようやく一人前になったと思ったら、より良い待遇や条件の他社に転職をしてしまい、良い人材が定着しないというのだ。

 国により差はあれ、確かに現地社員は、より良い条件や待遇の会社へと転職を繰り返す。成長著しい新興国では尚更そうである。勿論、国民性も大いに影響を及ぼしているが、基本的には全てが豊かで安定した環境にいる先進国の人材より、豊かで安定した環境を手に入れる最中の新興国の人材の方が転職を繰り返す傾向は強い。なぜなら現状にはまだ甘んじられず、より良い、より豊かな生活環境を求めているからだ。既にある程度のレベルでは満たされた日本人よりも遥かに強い欲を持ち、一生懸命生きている。だからこそ新興国は今、当に高い経済成長を維持し続けているのだ。

 このような前提のある国々で、日本人の言う“粗無条件に近いロイヤリティー”を現地社員に求めることは難しい。そもそも日本人はなぜ会社に対するロイヤリティーが高いのかを考えれば、なぜ現地社員にそれを求めることが難しいのかが理解できる。
 
 今でこそ違うが、かつて、日本人にとって会社は人生そのものであり、日本企業は、終身雇用という絶対の約束で、当人は勿論のこと、その家族までをも守って来た。国は外資企業を規制し、日本企業を守り、官民が一体になり豊かな生活を目指しこれまで成長をしてきた。この国を支えてきた団塊の世代にとっては会社が全てであり、会社にロイヤリティーを持つことなどは当たり前の常識であった。しかし、時は流れ、日本企業の終身雇用が絶対でなくなり、成果主義といった概念が持ち込まれた現代、社員のロイヤリティーは薄れ、優秀な若手になればなる程、より良い環境、より高いスキルを磨ける環境へと身を移すように変化した。
 
 要は、日本は、世界的に見ても会社に対するロイヤリティーという面では特殊なのだ。これら日本の特殊な環境が社員を完全に守って来たため、社員も会社を全てと考えた。このような特殊な常識を現代の現地社員に押し付けても受け入れられる訳が無い。
 そもそも会社へのロイヤリティーという考え方自体がどの世界を取っても、現代には既に合わない考え方なのかもしれない。しかし、ロイヤリティーは得られなくとも、“定着”を得る事は可能だ。

 転職を繰り返す優秀な現地スタッフはなぜ転職をするのか?他社がより高い評価をしてくれるからだ。では、評価とは何か?“条件”と“環境”である。
 日本企業には独特の目に見えない評価が存在するが、世界でそれは通用しない。目に見える“条件”と“環境”で確り社員を評価する仕組みを持てば、現地社員の定着は容易なことなのである。

(2012年1月執筆)

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