2012年8月10日現在、チベットから日本への国際電話は、中国の携帯電話を使っても、日本の携帯電話を使っても繋がらなくなっています。チベットとチベットの人々の現状を、筆者が青海省西寧からチベットのラサまで旅をした経験や新疆ウイグル自治区での滞在経験を踏まえて紹介します。今回は総論的に、次回以降、徐々に具体的な旅の流れに従い掲載します。

１．チベットへの入境は困難になっている
2012年8月10日現在、チベットに外国人が入境することは非常に困難となっています。外国人の個人旅行は認められておらず、入境許可が出るのは、一部の団体旅行のみとなっています。この規制は、中国共産党大会を控えた現在、緩和されることはまずないものと思われます。身分証明書で漢族であることが証明できれば簡単にチベットに入れますが、外国人およびチベット族の人々は、チベット鉄道でラサ駅に到着すると早々に、非常に厳格な管理下に置かれます。

まず、青海省西寧からラサに通じるチベット鉄道へ乗車する際、乗車券およびパスポートが必要なのは、新疆ウイグル自治区等、他の北京政府と争いのある地域と同様です。チベット鉄道が他地域の鉄道と異なるのは、列車へ持ち込む荷物の証明書がない限り、乗車が拒否される点です。筆者は、2009年7月5日のウイグル騒乱の前後２回に渡って新疆ウイグル自治区各地を旅しましたが、チベットに対する統制は、ウイグル族居住地域である新疆ウイグル自治区に対するよりもさらに厳しいと感じました。

ラサ駅の出口では、乗車券の確認だけでなく、身分証明書の提示までが要求されます。ここで漢族であれば問題なく、ラサ駅の敷地から外に出ることを許可されます。それに対し、外国人やチベット族だと、特殊警察が待機するテントまで連れていかれます。ここで、チベットへの入境許可証および荷物の証明書が確認されたうえ、入境者の登録がされることになります。この際、入境許可証に代表者として記載されている者のパスポートはあちこちに持っていかれることになります。ここで、チベットへの入境許可が確認・登録された後、ようやく外に出られるのでした。

警察・駅職員以外は、チベット駅の敷地内に入ることは出来ないので、ラサ駅の敷地外でようやく旅のガイドと運転手に会う事ができます。筆者はこのことを中国の旅行会社から知らされていなかったため、ガイドが迎えに来ていないものだと思い込みました。後で分かったのですが、チベット側の旅行会社のミスで、電話番号を間違えて伝えられていたので、ガイドに電話をしても当然繋がらず、この時は慌てました。

およそ24時間の鉄道の旅を終え、ラサ駅の敷地外でガイドに迎え入れられました。歓迎の白いカターを首に掛けられ、ランドクルーザーで一路ホテルへと向かうはずが、夜遅くに到着したにもかかわらず、外国人である筆者がチベットに入境したことを登録するために、派出所に向かうことになりました。中国の他地域でも、外国人が来たときには、ホテルから地元派出所にパスポートコピーとともにその旨、連絡が行くことになってはいます。しかしながら、チベットでは、直接派出所で手続きを行うという厳しいものでした。

２．チベットから日本への国際電話が通じない
チベットに同行した友人たちも、業務連絡のためのパソコンやスマートフォンを持ち歩いていました。チベットでは、インターネットで「ダライ・ラマ」等のキーワード検索は出来なくなっていましたが、この点は北京と大差を感じませんでした。テレビでも、海外のスポーツ中継（「直播」と言われる生放送、数秒遅れの生放送だとも言われている）なども、CCTV（中央電視台）などを通じて、中国の他地域同様に行われていました。

これに対して、日本の会社や家族・友人などへの電話連絡は、中国の携帯電話を使っても、日本の携帯電話を使っても、全く出来なくなっていました。電話をしてみると、「この電話番号は現在使われておりません」という中国語アナウンスがむなしく流れるだけでした。以前は、「電話は繋がるものの、日本側の声はチベット側には全く聞こえない。ただし、チベット側の声は日本側には聞こえる」と聞いていたのですが、それよりもさらに厳格な状況になっていたのでした。

ジョカン（大昭寺）の屋上から眺めるポタラ宮