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【コラム】中国現場体験記(19) 日本語と中国人、中国語と日本人

中国ビジネスレポート コラム
奥北 秀嗣

奥北 秀嗣

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2011年8月4日

記事概要

中国現地に進出している日系企業は、各社とも限られた予算の範囲内で、中国人従業員を雇用しています。今回は、日系企業が求める中国人従業員の日本語能力と日本人従業員の中国語能力に関する一考察です。

中国現地に進出している日系企業は、各社とも限られた予算の範囲内で、中国人従業員を雇用しています。事務所でホワイトカラー層を採用するか、工場でブルーカラー層を採用するかで大きな違いがあるほか、進出地が都会か田舎かでも、採用できる中国人従業員の質・程度に大きな差が生じています。今回は、日系企業が求める中国人従業員の日本語能力と日本人従業員の中国語能力に関する一考察です。

昨今、多くの日本企業は現地事務所・工場の管理レベルを上げる目的や法律上・会計上の要請に基づき、様々なアンケート調査を行う傾向にあります。国際会計基準であるIFRSや内部統制を始め、管理をする網が次第に細かくなってきているためです。

そもそも、これらの制度は、欧米の制度を翻訳のうえ、日本に導入しているものが多いだけでなく、内容も専門的です。日本人が日本語で読んだとしても内容を理解するのに一苦労する資料も多々あります。

しかし、多くの企業では、こういった資料を日本語のまま現地法人へ送付したり、せいぜい英語に翻訳したりするのが通常で(むしろ英語がもともとの言語であり、日本語のほうが翻訳である資料も多いため、日本語として通じ辛い翻訳も散見します)、中国語に翻訳したものを送付する企業は少ないようです。

また、口頭で内容を説明する場合も、日本語で説明することが多いため、担当者である中国人財経部長をはじめ、中国人従業員が十分に理解できないといった事がよくあります。言葉の問題に留まらず、専門的な内容に対する理解が難しい現状があります。

1.日本本社と中国現地法人(事務所・工場)とのコミュニケーション
(1)大量の日本語メール、日本語資料
中国現地側には、日本の本社から日本語によるメールおよび資料が毎日届きます。専門性が高い内容のものほど、日本語の難解な文章となっています。

日々の営業、生産、管理などさまざまな面を見なければならない日本人駐在員からすれば、中国語で送ってくれれば、部下の中国人幹部に任せられるのに、日本語であるため、自分で抱え込んでしまっているのが現状です。

(2)文章の書き方に関する教訓
筆者が印象に残っている上司の言葉に以下のものがあります。
①簡単なことを難しく書くのは平均点以下
②簡単なことを簡単に、難しいことを難しく書くのは平均点
③難しいことを簡単に書くのがプロ

なかなか実践は難しいのですが、真理を突く内容だと思います。ましてや、これが外国人に対してであれば尚更です。ところが、日本の本社から送られてくる資料、特にIFRSや内部統制などの管理部門が送ってくる資料の膨大なこと、また難しいこと。

(3)英語の公用語化
昨今の日本企業における流行は、英語の社内公用語化です。外国に進出している企業の場合、グループ企業がどこの国・地域に進出しても英語で不自由なくコミュニケーションを取れること(英語のグループ内準公用語化を達成)が目的となります。

華々しく報じられることが多いこの制度ですが、グループ企業とはホワイトカラー層だけの事務所を指すのか、それともブルーカラー層が大半の工場までを含むのか、については触れられない事が多いように感じます。

また、広大な中国(日本の面積の約25倍)における地域差についても考慮されていません。大都市(北京・上海・広州など)と地方都市(特に内陸の都市や南方の都市)では採用マーケットが全く異なりますし、日本語教育に比較的熱心な都市(大連など)と熱心でない都市(内陸の都市や南方の都市)との地域差然りです。

2.中国語対応
(1)中国人と華僑
世界の人口69億人のうち、13.5億人が中国人です。また、中国以外の国籍を有する華僑が全世界に散らばっています。華僑が0.5億人いるとして、少なくとも14億人の中国人(国籍は別)がいることになります。これだけで、世界の人口比5分の1です。中国語を話せる外国人を含めればその数は膨大なものとなり、その比率も高くなります。

(2)中国語しか話せない~??(kafei)~
この点に加えて、中国では地方のみならず、大都市であったとしても、中国語しか話せない中国人が大半である、ということを認識する必要があります。場合によっては、航空会社の客室乗務員であったとしても、中国国内線の場合には、中国語しか話せないこともあるのです。

ある日、中国国内線に筆者が搭乗したとき、筆者の隣は日本人でした。客室乗務員が飲み物のサービスを始めたとき、この日本人が本場仕込みの発音で、「coffee」と言ったところ、対する客室乗務員の言葉は、「ああ?」でした。何度言っても通じないため、カーッとなったこの人は、最後は「コーヒー!」と日本語で叫んでいました。筆者が客室乗務員に、「隣の人は、咖啡(kafei)(コーヒーの中国語)と言っているのだよ」とこっそり指摘したところ、「あ~あ!(な~んだ、そういう意味か!)」と言ったのです。

(3)中国人の高給取り
以前、中国の友人たちが、中国において最も優秀な人間は基本的に役所に行き、それ以外は欧米企業に行く。それで残った人間が日本企業に行く、と言っていました。また、中国人のある女性弁護士に中国における弁護士の女性比率が高い理由を尋ねたところ、「女性の優秀な人材が弁護士や公認会計士になるのは男女平等に扱われるからです。」という回答でした。

中国人は独立志向が強いため、自分自身の成長、人脈の獲得を重視する傾向にあります。そのため、あくまで将来のステップアップに役立つ企業へ就職しようとする傾向があります。つまり、優秀な中国人の多くは一つの会社で退職まで働こうとは考えていない現実があるのです。

日本の有名企業であれば、その中国事務所(ホワイトカラー層)では、英語や日本語を話せるのみならず、能力の高い優秀な人材の獲得も可能です。しかし、当然ながら、彼らは高給取りとなります。
限られた予算で精一杯やっている地方の日系工場で働いてくれる「英語や日本語を話せるだけでなく、能力の高い人材」は、実際のところ希少といえます。なお、地方に行けば行くほどこの傾向は強まってくるようです。

(4)工場における戦略
日系工場は、周囲の日系企業同士は当然のこと、ローカル企業(中国企業)、台湾系企業、韓国系企業などとの激しい競争に晒されています。こういった環境下で、しっかりと根を張り、地位を確立していかなければなりません。そのためには、たとえ優秀な人材がいたとしても、上述のような高給取りばかりを揃える訳には行かないのです。ましてや、日本本社との円滑なコミュニケーションのためだけに、日本語ないしは英語にのみ堪能な中国人従業員を揃える訳には行かないのです。

英語や日本語が話せなくとも、優秀な中国人従業員は大勢います。もし幹部登用の基準が仕事の能力ではなく語学力ということになると、真に能力のある人間を登用できなくなる恐れもあります。

(5)アメリカ人は何語を話せる?
「中華思想ゆえ、中国人は中国語しか話せない」と揶揄されることもありますが、このことは、3億人の人口を有するアメリカ人や6,000万人のイギリス人が英語以外に何語を話せるのかというのと同じ次元の問題といえます。筆者は中国各地で、中国語を流暢に話す欧米人にも出会いましたが、中国語を話せる彼らはむしろ少数派だと思われます。

(6)拡大する中国ビジネス
中国でのビジネスが拡大の一途をたどるにつれ、外国企業の中国進出は益々加速します。
経営の仕方は各社各様ですが、落下傘で降り立った外国人幹部だけで全てを賄おうとする企業が成功するのは難しいといえます。優秀な現地中国人従業員を如何に登用し、活用していくかが成功の鍵となってきます。その「優秀」という基準がイコール「語学能力」となってしまっては、本来の目的から逸脱してしまう恐れがあります。
 
中国が世界第2位の経済大国(1人当たりのGDP日本の約10分の1ですが)となった現在、中国語という言語でのコミュニケーション手段を持たなければ、ビジネスの世界で取り残されてしまう恐れがあります。従来は共通言語=英語で良かったかも知れません。しかし、これからは中国語にも意識を向ける必要があり、中国語を話せる日本人駐在員の育成が急務となります。

トレンドに敏感にならざるを得ない現場では、すでにその対応が始まっています。例えば、中国人客の多い東京の秋葉原や銀座のデパートでは、中国語を話せるスタッフを充実させています。そのほか、中国人観光客の増加に伴い、各地の観光地でも、簡単な中国語会話ができるように研修なども行われています。

3.日系企業の失敗事例
英語能力や日本語能力のみに目を向けて失敗した日系企業の事例を挙げます。

(1)日本語べらべらの人事・総務部長の事例 ~日本人はどこまで許す?~
中国を全く解さない日本人がある地方都市に所在する工場の総経理に就任しました。この工場の中国人人事・総務部長は日本語に非常に流暢だったうえ、この日本人総経理に気に入られるよううまく立ち回った結果、思惑通りに総経理の信頼を得ることになりました。しかしながら、業務で外出すると行き先は遊び場であり、裏では会社の財産を使ってやりたい放題でした。

このことは他の中国人従業員からの内部通報によって知らされたのですが、日本人総経理は日本語ができる唯一の従業員であるこの人事・総務部長がいなくなってしまうと会社運営に支障が出ると考えたためか、または自己の管理責任を追及されることを恐れてか、この不都合な事実に目を瞑ったのです。

当該人事・総務部長は、この日本人総経理の足元を見てうまく行動したと言えます。中国では隙を見せると足元を見られ、付け込まれるのです。

筆者にも経験がありますが、中国人(特に南方人と言われる漢族)が悪いことをした場合、叱っても、その時は殊勝なふりをするのですが、しばらくすると、同じ事を繰り返します。このように、日本人がどこまでなら許すか、大目に見るかという判断基準を測っているのです。

(2)日本語べらべらの総務部員の被害にあった営業部員の事例 ~恨み骨髄~
ある日系企業に日本語を良く話す中国人総務部員がいました。この人も立ち回りがうまかったこともあり、日本人総経理のお気に入りとなりました。その結果、毎年の給与査定は、営業も含め、いつも1位でした。

ところが、日本人総経理の見ていないところでは、仕事をしないばかりか、用事を作っては外出し、遊んで帰ってこない有様でした。彼の父親は人民解放軍という触れ込みだったのですが、当該日系企業にとっては、その人脈も一体何の役に立ったのかわからないままでした。しかも、通訳の仕方がいい加減で、通訳できる箇所は通訳し、できない箇所は知らんふりだったのです。当然、周りの営業部員の士気は下がり、会社としての成績は一向に上がりませんでした。

かかる状況下、査定を上げてもらえなかった一人の中国人営業部員(英語も日本語も話せない)が、会社を退職して貿易会社を設立しました(独立後、代理店となるのは、中国に多いパターン)。その後、当該日系企業内で担当していた客先を回り、顧客を次々に奪っていきました。この中国人従業員は、顧客に対し、以前の会社や日本人総経理の悪口を言い、仕事を奪い取るとまで公言していたとのことです。

4.中国人とのコミュニケーション
(1)中国語能力は必須?
特に、大都市の事務所(ホワイトカラー層)で働く場合、日本人駐在員にとっては、中国語能力は必須ではありません(ただし、役所対応・国有企業対応の多い首都北京は例外)。
実際、中国語を話せなくても、中国人従業員とのコミュニケーションが上手な日本人経営者も少なくありません。

以前、ある日系企業の総帥が中国人従業員とレストランで食事をしている場面を見かけた事がありますが、この方は、片言の中国語でコミュニケーションを上手に取っており、周りにいる中国人従業員に大変好かれている様でした。レストランの中国人従業員も同じ感想を言っていました。

(2)信頼感の醸成
この方のように信頼感を醸成できれば良いのですが、やはり一般的には、日本人側もある程度は中国語ができるに越したことはありません。

ある日系企業の中国総代表が言っていた、「英語や日本語のできる人がいても、その人だけが得をするようでは、会社にプラスになるとはとても思えない。やはり信頼できる人と中国語で会話出来ない限り、いつかは裏切られる。」という言葉が印象に残ります。

(3)パワーバランス
別の日系企業の総経理曰く、「単に語学のみに堪能な総務部長(管理部長)を置く、という発想は、従業員100人程度の会社であれば機能するだろうが、300人規模になると機能しない。財務、営業、製造などに関することは各々の責任者がいるため、その責任者を差し置いて全てを総務部長が仕切ることになると、中国人従業員間のパワーバランスが崩れる。結局、総務部長が他よりも一段上の扱いとなり、語学ができない人の意欲が下がる。」

別の日系企業の管理担当役員経験者曰く、「英語が達者な日本人駐在員が日本からやって来て、問題ばかり起こした。だから英語は話せなくても、日本国内で取引実務の経験の深い人員を送れと日本の本社と喧嘩した。」

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