こんにちわ、ゲストさん

ログイン

中国の地名商標の特徴―前編

中国ビジネスレポート 知的財産
王 倩

王 倩

無料

2013年1月18日

 「溈山」茶の登録商標争いを巡って―①

 地名商標とは、地理的な名称を商標の内容として使用あるいは登録する商標を指す。
 中国の現行商標法は中国国内の県レベル以上の行政区画の地名または消費者に知られた外国地名の商標としての使用が禁じられている。しかし、それ以外の地名は、商標として使用、登録することが可能である。
 ただし、地名商標の特徴として、消費者は当該商標を使用した商品あるいは役務を、特定の産地と結びつける傾向があることがあげられる。従い、地名商標は自他商品の識別機能(顕著性)が実質的に弱いと言わざるを得ない。
 地名商標における地理的な名称自身の意味は「第一の意味」(本来の意味)と称されるが、それに対し、長年の商標としての使用によって、その本来のイメージを超えて、地名としてではなく、新たに「第二の意味」(出所を表示する機能)が形成される可能性がある。「第二の意味」を有した場合、消費者がこの地名商標を見ると、特定する商品・役務の提供者を思いつく。この場合、商標の識別力が肯定される(たとえば、「芧台」といえば、消費者がまずイメージするのは、貴州省の地名としての「芧台鎮」ではなく、白酒の「台酒」を思いつく)。
 逆に、地名商標の商標権者は、地名商標を使用する過程で、この「第二の意味」を強調することを怠った場合、識別力がないとして、登録された商標の取消しのリスクを負うことがある。
 また、2011年度「中国最高法院知識産権審判案例指導」に収録された「山」商標をめぐる争いを通して、地名商標に、地名の文字のほかに、図形も付されている場合、その識別力の判断に対する影響、および地名商標の保護に関する特徴について2回に分けてご紹介する。

一、「溈山」商標の争いの事実関係
 「山」は湖南省に位置する山の名前である。長沙山茶業有限公司(以下「山茶業公司」と称す)は、他社から、「山」商標の専用権を譲渡された後、同じ溈山で茶業を営んでいるほかの業者が、茶の商品に「山」という文字を使うことを阻止する動きがあり、お茶の関連商品につき、「山」という公共資源を独占しようとした。これで、湘名茶場など六社のお茶生産者が連合して、商標評審委員会に対し、「山」商標の取消を請求した。
 商標評審委員会、北京第一中級人民法院(一審)、北京高級人民法院(二審)は、山茶」は長い伝統のあるお茶の品種で、この山毛尖緑茶の品質は、山地区の独特の自然環境と深く関わっている。係争商標には図形も付されたが、一般の消費者は文字の部分を商品の主要な認識部分かつ呼称の対象として、当該商標に対する呼称は消費者が商標を認識する際の主な方法となるので、図形の部分は全体に識別力を持たせることができない、と認定した。
 山茶業公司は、北京高級人民法院の二審判決を不服として、最高人民法院に再審を申請した。最高人民法院は再審を行い、北京高級人民法院の二審判決を覆し、最終的に、「山ブランドおよび図形」の登録商標は識別力を有すると判決をした。
 最高法院は、係争商標は「山ブランド」という文字とピン音(中国語の発音表記方法)だけから構成されているのではなく、図形もその重要な部分を占めているので、「山」という記述的な文字があるからといって、直ちに全体に識別力がないと認定できないと論じた後、当該商標はすでに二十年間の使用を経て、また、2002年に、湖南省の著名商標(「著名商標」とは、全国的に周知された中国「馳名商標」と違い、各省はそれぞれの省内の企業の商標を評価する制度)に認定されたこともあり、市場において、ある程度の名声を確立されたことに鑑み、関連公衆(商品の購買に関連する消費者)は係争商標をもって、商品の出所を識別できると認定でき、識別力があると認めた。
 従い、「山ブランド」商標は、商品の品質、特徴を表しているものの、すでに長年の使用を経たこと、また、一度湖南省の著名商標に認定されたこと、また、付された図形は商標の重要な構成要素であることなどの事情を総じて、最終的に商標全体としての識別力が具備したとの認定を受けた。
 ただし、この判決の裏を返してみれば、商品の品質、特徴を表している地名商標は、もし、長年の使用を経ていない場合、あるいは、文字のほうが主となっている場合、全体上の識別力を有しないと判断される可能性が十分あるということが伺える。

二、「溈山」商標の争いからみる地名商標の保護と登録、使用における注意点
山」商標は地名であるのみならず、商品の産地を表しているため、実質上は一種の地理的表示に属する。
 このような地名商標の特殊性から、商標権者が地元のほかの関連企業の関連商品・役務におけるこの地名の表示を阻止しようとすれば、強い反発を受けることは当然想定できる。当該地域と関連する企業は連合して、識別力の欠如を理由に、或いは商標権者は登録商標を規範に沿って使用していないなどを理由に、当該知名商標の取消請求をする措置をとって、商標権者に対抗していく可能性が非常に高い。従い、地名商標の商標権者は、商標権侵害を主張する前に、必ずもう一度、商標自身の識別力と登録商標の使用は規範に沿っているかの基本事項を確認して、慎重に判断する必要がある。一般的に、以下の問題点に留意する。

1.地名商標自身が、商品の品質または特徴を表している場合、登録時に、文字のみの商標を避けて、図形も付して、全体としてひとつの商標として出願する。

2.商標の使用および保護をする際、なるべく地名の「第一の意味」(本来の意味)を強調せず、絶えず、地名商標の「第二の意味」(出所を表示する機能)を強調するように心がける。

 地名商標の使用と保護において、その商標と地名の緊密な関係ではなく、地名商標が得られた「第二の意味」を強化すべきである。すなわち、商標使用の効果として、当該地名の文字を聞くと、特定の地域の名称だけではなく、同時に、当該地名商標権利者の長年にわたる使用を通して、すでに消費者の間では、その文字と商標権者の生産する商品または提供する役務が強く結びつく。地名商標を登録後も、さまざまな方法を通じて、なるべく地名商標の「第二の意味」、つまり地名商標の識別力を強化すべきである。
 また、この地名商標は中国語において、地名を表示する以外の意味もある場合、また、当該地名は商品の産地または品質特徴と関連しない場合、宣伝活動においても、これを強調すべきである。

 地名商標の権利者は、なるべく同時に商標と同一の商号も使用するか、または当該商標と同一の商号を持つ会社に対して、使用許諾をしたほうがよい。たとえば、本判例において、商標権者の会社の名称は「長沙溈山茶業有限公司」となっている。
商標権者は長年地名商標を使用して、すでに一定の市場信用を得ている場合、積極的に省レベルの「著名商標」を申請すべきである。地名商標が「第二の意味」を有する場合、「第二の意味」の消費者に与える印象が深いほど、地名商標の保護範囲もより広くなる。

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ