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出張時の残業時間をどのように認定するか

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2013年4月16日

出張時は正常勤務時と顕著な違いがあり、それは移動時間、作業時間、休憩時間、休暇時間などをはさむことになるおそれがあるものの、出張時の特殊性により、従業員と会社との間では常に残業問題について紛争が生じており、会社と従業員いずれの主張もそれぞれに理があるように思える。本文では、中国の関係法令および司法判例を基に、出張時の残業問題について簡潔に分析を行う。

残業の認定要件
「労働法」第41条ならびに第44条、および関連地方規定(例えば上海、北京、江蘇、広東などにおける給与支払い規定)に基づき、司法実務における判例に照らせば、残業に関する認定要件は通常、以下の3要件である。

1. 会社指示を受けたものであること。
残業とは業務上の必要から、会社の指示により発生するものである。仮に会社が指示したものでなければ残業問題は存在せず、従業員が会社の指示または許可を受けずに自発的に勤務時間を延長したのであれば、理論上は残業と認定しないことも可能である。

2. 実際の勤務時間が法定労働時間を超えていること。
「実際の勤務時間が法定労働時間を超えている」とは、実際に業務に従事した時間が当該従業員に適用される労働時間制に関する法律で認められた労働時間を超えている場合を指し、適用される労働時間制に応じて判断する必要がある。具体的な分析は「出張時の残業に関する分析」部分で行う。

3. 具体的な業務内容を伴うこと
残業には従業員が「会社の指示した業務」に従事することが必須となる。一般的な理解では、「業務」は特定の作業内容を伴っていなければならず、非出張時の作業であれば、通常では出勤記録を作業の証拠とすることが可能であり、証拠に関する要求は高くない。ところが、出張時に法定労働時間を超えた部分については、出勤管理、監督の実施ができないなどの特殊性から、従業員が残業認定を求めた場合、裁判所は通常、従業員に対し労働に関する十分な証拠の提示を要求すると思われ、証拠に関する要求は非常に高いと言える。
例えば、深セン市中級人民法院が下した「(2010)深中法民六終字第5290号」の判決では「毛某は出国期間中に辞書を買いに行った時間が残業時間に該当すると主張したが、当人より自身の主張を証明するに足る十分な証拠が提出されなかったため、本裁判所はこれを認めない。」と認定されている。

出張時の残業に関する分析
1. 標準労働時間制
「出張時間が法定労働時間を超える場合は残業となるか」の判断については、残業の認定要件に照らして分析を始める必要がある。要件の1については、出張は通常、会社の指示であるため、判断に困ることはない。また、「出張時間が法定労働時間を超える場合」の前提自体も既に要件2の内容を満たしている。よって、残業となるかの分析において鍵となるのは、要件3の分析、即ち当該時間に具体的な業務内容が含まれているかとなるが、当然ながら、従業員が明確な証拠により、当該時間内に具体的な業務内容が含まれていることを証明すれば、残業と認定されることになるが、以下に分析を行うものは、従業員に明確な関連証拠がなく、ただ「出張時間が法定労働時間を超えている」状況のみが存在する場合についての残業認定の問題である。

勤務日、週休日、法定休日という労働時間の分類に従えば、「出張時間が法定労働時間を超える」状況もまた、出張時の勤務日に法定労働時間を超える場合、出張時の週休日、出張時の法定休日の三つに分けられる。以下は本分類に基づき分析を行う。

(1)出張時の勤務日に法定労働時間を超えた場合
出張時間の用途は主に、移動時間、作業時間、休憩時間である。これらの用途について、通常の出勤管理外であることから、移動時間に関し切符などの証拠で判断できることを除き、その他の出張時の具体時間の用途は不明であり、正確に計算、把握することはできない。このため、通常は以下のとおりとなる。
● 出張時の勤務日に8時間を超えた部分の時間について、関連判例によれば、司法の実務においては従業員が自主的に休息を行っている時間と推定し、通常では残業と認定されない。
● たとえ超過部分の時間が移動時間であったとしても、通常は残業と認定されない。移動時間には業務任務完了のためという、ある程度の業務性を伴うが、一方では休息としての性質も有する。なお、出勤日の8時間の労働時間にも通勤時間は計算に入らない。例として、上海市長寧区人民法院が下した「(2011)長民一民(初)字第1637号」の判決では、勤務日において「出張移動時間は出勤時間に該当しない」と認定した。
(2)出張時の週休日
● 出張期間に週休日を含む場合、法定労働時間を超えているといえども、業務内容を伴わないのであれば、通常、残業とは認定されない。例えば、北京市第一中級人民法院の下した「(2010)一中民終字第15760号」の判決では、当事者が出張中の土日の休みにおける残業(具体業務)を証明できない状況については、残業と認定されていない。また、上海市浦東新区人民法院の下した「(2009)浦民一(民)初字第23254号」の判決では、「原告の求める土日の休みに関する出張残業代の支払いについては、これを認めない」と明確にしている。
● 週休日に移動時間が含まれていた場合、移動時間と業務との関連性を考慮すれば、バランスの観点より、8時間以内の実際に発生した時間については残業と認定するが、8時間を超えた部分については、通常、残業と認定されない。例えば、上海市第一中級人民法院の下した「(2010)滬一中民三(民)終字第1790号」の民事判決において関連認定がある。
(3)出張時の法定休日
出張期間に法定休日を含む場合、法定労働時間を超えたことになり、時間の用途を問わず、通常は残業と認定される。これは要件3を一部突破しており、その基本となるのが、法定休日は主として家族の団欒、親戚訪問または旅行観光などを目的としており、より私的な時間であるが、業務のための出張により権利を奪われたとの考えである。よって、たとえ出張時の法定休日に具体業務を伴わなかったとしても、従業員への補償という観点に基づき、通常では残業と認定される。

2. 変形労働時間制(総合計算労働時間制)
● 出張期間の勤務日および週休日における残業認定の可否は全体の勤務時間が法定労働時間を超えているかによって決まる。まず、標準労働時間制から出張残業を認定する方法に基づき、残業と認定されるべき時間を勤務時間として計算し、その後、これらの勤務時間と平時の勤務時間を合算したものを全体の勤務時間とした上で、最終的に全体の勤務時間が変形労働時間制を適用する期間に相応する法定労働時間を超えた場合は、残業と認定される可能性がある。
● 出張期間の法定休日については法定労働時間を超えたことになり、通常は残業と認定される。

3. みなし労働時間制(不定時労働時間制)
● 出張期間の勤務日および週休日については、勤務時間に法律の規制がないため、時間外の問題は存在せず、通常は残業と認定されない。
● 出張期間の法定休日について、法定労働時間を超えているかおよび残業と認定されるかは、現地の給与支払い規定によって決まる。現地でみなし労働時間制に対する法定休日の残業適用を認められている場合、通常は残業と認定される(例えば上海、深セン)。また、現地でみなし労働時間制に対する法定休日の残業適用を認められていない場合、通常は残業と認定されない(例えば北京、江蘇、広東など)。

出張手当と残業代
出張は確かに従業員の生活にある程度の影響を与えるため、多くの会社は従業員に対し出張手当を支払い、存在するであろう残業問題への代替または補償としているが、このような考えは誤った認識を生んでいる。法律上では、出張手当と残業代の性質は全く異なるものであり、二つの異なる事項である。出張手当は法律の強行規定ではなく、会社の福利であるため、原則として、支払いの要否は会社の自主決定による(社内規則において規定を設けている場合は、会社は当該規定に照らして支払う)。一方、残業代は法律の強行規定であり、残業の事実が存在しさえすれば、残業代を支払わなければならない。このため、特段の規定がない限り、会社はたとえ出張手当を支払ったとしても、残業代の支払義務を免除されることはなく、原則として、両者を相互に代替させることはできない。

以上の分析より、会社が残業として処理することを極力避けたいと望むのであれば、以下の措置を講じることが考えられる。
1. 原則として、「通常は残業と認定されない時間」について、会社は残業として処理しないものとし、従業員から異議を提起された場合は、従業員に対して確かな証拠に基づき具体的な業務内容の存在を証明するように求めることが考えられる。証拠に対する会社の審査の重点は「労働の連続性の有無、労働と出張任務または日常業務との関連性、証拠の真実性」となる。
2. 社内規則において、出張手当の性質は残業代であると定める表現にする。例えば、「出張において残業が生じた場合、出張手当を残業代として支払う。なお、不足する場合は会社が追加補填する。」と規定し、出張手当と残業代の二重支払いを回避することが考えられる。
3. 長期または頻繁に出張が行われる職務については、可能な限り労働部門への変形労働時間制またはみなし労働時間制(みなし労働時間制を優先させる)の申請を行うことで、残業認定をある程度回避することが可能となる。

なお、出張時の残業問題についての明確な法律規定は存在しないため、状況によっては、または状況が同じであっても地域、裁判官ごとに、裁判所から異なる判断が下される可能性もある。

備考:
係る判例の全文の内容を確認する場合、以下のURLをクリックしてください。
(2010)深中法民六終字第5290号
http://www.szcourt.gov.cn/shenwu/cpview.aspx?id=109960
(2011)長民一民(初)字第1637号
http://www.hshfy.sh.cn:8081/flws/text.jsp?pa=ad3N4aD0xJnRhaD2jqDIwMTGjqbOkw/HSuyjD8Smz9dfWtdoxNjM3usUmd3o9z
(2010)一中民終字第15760号
http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=836448
(2009)浦民一(民)初字第23254号
http://www.hshfy.sh.cn:8081/flws/text.jsp?pa=ad3N4aD0xJnRhaD2jqDIwMDmjqcbWw/HSuyjD8Smz9dfWtdoyMzI1NLrFJnd6PQPdcssPdcssz
(2010)滬一中民三(民)終字第1790号
http://www.hshfy.sh.cn:8081/flws/text.jsp?pa=ad3N4aD0xJnRhaD2jqDIwMTCjqbum0rvW0MPxyP0ow/Ep1tXX1rXaMTc5MLrFJnd6PQPdcssPdcssz

(里兆法律事務所が2013年1月7日付で作成)

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