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全体像が見えてきた企業情報公示制度が企業に与える影響

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2014年12月15日

記事概要

本稿では、今年10月1日に施行された、企業情報公示制度の主な内容と企業に与える影響などについて簡潔に紹介する。

概要:
10月1日から施行されている「企業情報公示暫定条例」および関連付帯制度により確立された企業情報公示制度は、中国の政府職能の転換、政府監督管理方式の転換(事前の審査許可を主としたものから、過程、事後の監督管理を主としたものへの転換)、中国社会信用体系を確立するための重要な措置と考えられている。本文では企業情報公示制度の主な内容と企業に与える影響などについて簡潔に紹介する。

正文:
中国国務院が2014年2月7日に公布した「登録資本登記制度改革方案」では、市場主体監督管理制度改革(「企業年度検査制度」から「企業年度報告公示制度」への移行)などの改革内容を明確に提起している。本改革内容に基づいて、2014年8月23日に国務院は「企業情報公示暫定条例」を公布し、その後、中国国家工商総局が「企業公示情報抜取検査暫定弁法」、「企業経営異常名簿管理暫定弁法」、「工商行政管理行政処罰情報公示暫定規定」などの付帯規定を次々と公布しており、「企業情報公示暫定条例」と関連付帯制度はいずれも2014年10月1日から施行され、これらの法令は共に企業情報公示制度(以下「公示制度」という)を構築することとなった。

一、公示制度の主な内容

公示制度は、大きく分けて「企業に対するもの」と「政府部門に対するもの」の二つの面から理解することができる。

(一)「企業に対するもの」について言えば、公示制度は主に「企業年度報告公示制度」と「企業情報即時公示制度」などが含まれ、以下のとおりである。

1.「企業年度報告公示制度」
「企業年度報告公示制度」はこれまで実施されていた「工商企業年度検査制度」(通常「工商年度検査」と呼ばれ、商務部門、税務部門、財政部門、統計部門、外貨部門の年度検査は含まず、以下同じ)に代わるものであり、企業年度報告の申告期間、公示手順および公示媒体を明確にした上、年度報告内容を企業の経営状況を直接反映できる基本情報に限定し、企業の資産総額、主要営業収入、利益総額などの情報については、企業が公示の要否を自主選択する。

2.「企業情報即時公示制度」
「企業情報即時公示制度」では、企業は情報が形成された日から20業務日以内に、企業信用情報公示システム(以下「公示システム」という)を通じて、株主(または株式会社の発起人)の引受けおよび払込み出資額、出資時期、出資方法などの情報、有限責任会社の株主持分譲渡などの持分変更情報、行政許可取得、変更、延長情報、知的財産権質権設定登記情報、受けた行政処罰の情報およびその他の法に従って公示しなければならない情報を社会に向け公示しなければならないと定めている。

企業が「企業年度報告公示制度」および「企業情報即時公示制度」の定める関連義務を履行できなかった場合、関連拘束措置に直面するが、具体的な内容については後述の「『拘束措置』の確立」の内容を参照のこと。

(二)「政府部門に対するもの」について言えば、公示制度は主に「政府部門の公示義務」、「拘束措置」の確立および「抜取検査と通報制度」の構築などを含む。それは以下のとおりである。

1.政府部門の公示義務
工商部門に対しては、その職責履行過程において生じた企業登録登記、届出、動産抵当登記、持分質権設定登記、行政処罰およびその他の法に従って公示すべき情報を公示するよう明確に求めている。その他の政府部門に対しては、その職責履行過程において生じた行政許可、変更、延長、行政処罰およびその他の法に従って公示すべき情報を公示するよう明確に求めている。

2.「拘束措置」の確立
拘束措置には主に以下の三つの面が含まれる。
1)経営異常名簿制度の構築。企業が公示義務を履行しなかった場合(所定の期限までに年度報告を公示しない場合、工商部門が命じた期限までに関連企業情報を公示しない場合、公示した企業情報に事実隠蔽、虚偽がある場合、登記された住所または経営場所を通じて連絡が取れない場合が含まれる)、工商部門が経営異常名簿に記載し、公示システムを通じて社会に向け公示した上、状況に応じて相応の法的責任を負わせる。
なお、経営異常名簿に記載された企業は、記載された日から3年以内に公示義務を履行した場合、工商部門に対し経営異常名簿からの削除を申請することができる。
2)重大法律違反企業名簿制度の構築。経営異常名簿に記載され3年が経過しても依然として公示義務を履行しない企業については、工商部門が重大法律違反企業名簿に記載し、公示システムを通じて社会に向け公示する。重大法律違反企業名簿に記載された企業の法定代表者、責任者は、3年の間、その他の企業の法定代表者、責任者に就任してはならない。
3)部門連動呼応体制の構築。地方政府およびその関係部門は整備された信用拘束体制を構築し、政府調達、工事入札募集、国有地払下げ、栄誉称号の授与などの作業において、企業情報を重要な考慮要素とし、経営異常名簿または重大法律違反企業名簿に記載された企業については法に従って参加制限または参加禁止とすることを定めた。

3.「抜取検査と通報制度」の構築
1)抜取検査制度の構築:工商部門は企業登録番号などに基づき無作為に番号を選び、管轄区内の3%を下回らない企業を選んで、抜取検査名簿を確定した上、企業の情報公示状況について検査を行うことを定めた。
2)通報制度の構築:いずれの社会主体も企業が公示した情報に虚偽の存在を発見した場合、工商部門に対し通報することができ、通報を受けた工商部門は通報資料を受領した日から20業務日以内に検査を行い、処理した上、処理状況を書面にて通報者に告知しなければならないと定めた。

二、企業に与える影響など

公示制度が企業に与える影響、その利点欠点。

「有利」な点としては主に以下のとおりである。
1.企業について言えば、「企業年度報告公示制度」に基づく処理は、「企業年度検査制度」に基づく処理と比べ、一定の利便と自主権などを享受することができる。その相違について、当所は以下のとおり表にまとめて分析した。

相違 企業年度検査制度 企業年度報告公示制度
提出書類の相違 通常は企業年度貸借対照表、損益計算書および年度監査報告書を提出しなければならない。 企業資産総額、主要業務収入、利益総額などの情報は、企業が公示の可否を自主選択する。
工商部門の役割の相違 工商部門は申告資料に対し真実性の審査を行う。 工商部門は公示内容の真実性を審査せず、企業が期日どおりに公示を実施したかについて監督するのみで(抜取検査は除く)、より多くを企業の自覚と社会の監督通報に委ねている。
完了方式の相違 オンライン申告の後、工商部門に赴いて資料を手渡しし、政府部門の審査後に完了する。 直接公示システムを通じてオンライン申告および公示を完了する。
法的責任の相違 企業が規定に従った年度検査を行わず、または申告資料に虚偽があった場合、行政処罰を受ける(過料、更には営業許可証の取上げまで)。 企業が規定に従った年度報告申告公示を行わず、または公示情報に虚偽があった場合、経営異常名簿、更には重大法律違反企業名簿に記載され、かかる拘束を受ける。
―その他の法令に違反した場合には、依然として行政処罰などを受ける恐れがある。
公示範囲の相違 いずれの年度検査申告資料も、通常、外部に公示されず、公安部門、検察院、裁判所、国家安全部門および弁護士などの特定部門ならびに人員のみが企業情報を調査することができる。 企業年度報告の内容は公示システムを通じて公示される(企業が非公開を自主選択した場合は除く)。

2.市場取引について言えば、企業は公示システムを通じて、利便良く、遅滞なく、正確に取引相手の主体状況(変更状況を含む)、資格、経営状況(取引相手が公開を選択している場合)、処罰状況などの情報を知ることができる。
―なお、公示制度は実施されたばかりであること、2014年度の企業年度報告は基本的に2015年1月1日から6月30日の期間になって初めて公示システム上で次々と公示されること、公示情報には虚偽の内容が含まれる可能性があることなどの要素を考慮すれば、企業が重要な取引を行う、または取引先を選定するなどの状況においては、慎重を期すとの観点から、やはり取引相手に対し企業信用調査またはDD調査を行うことが望ましい(弁護士、会計士などを通じて行う)。

「不利」な点としては主に以下のとおりである。
1.公示制度はある程度において企業の義務を加重するものであり、企業の関連情報に変更が生じた後(通常では工商部門の手続きの完了後)は、自ら遅滞なく(20業務日以内)公示システムを通じて公示しなければならず、さもなければ、工商部門から公示を命じられ、命じられた期限内に依然として公示を行わなければ、経営異常名簿に記載されるリスクに直面するものと思われる。
―これについては、会社管理部門の注意を喚起することが望ましい。
2.公示制度がより多くを企業自身の信用に委ねていることから、信用を顧みない個別企業が虚偽の情報を公開し、この結果、取引相手の正確な商業判断に影響を及ぼし、場合によっては最終的に不当競争を生み、または取引の安全に影響を及ぼすことを排除できない。
3.政府部門が公示制度に基づいて公表した企業動産抵当権設定登記、持分質権設定登記、行政処罰などの情報が、一連の企業に不利な情報を、取引相手により容易に把握させることになると思われる。(行政処罰情報は公示の日から5年が経過した時点で、企業信用情報公示システムには記録されるが、以後公示されることはない。)

以上をまとめると、公示制度の実施は始まったばかりであるため、具体的な実施状況、実務において生じる可能性のある問題については、いずれも現時点で判断することは困難である。これらについては、当所も継続的に注意していく。なお、弁護士としては、公示制度が支障なく実施され、中国の社会信用体系構築の助けとなることが望ましい。

(里兆法律事務所が2014年11月3日付で作成)

備考:
「企業情報公示暫定条例」
http://www.gov.cn/zhengce/content/2014-08/23/content_9038.htm
「企業経営異常名簿管理暫定弁法」
http://www.saic.gov.cn/zwgk/zyfb/zjl/xxzx/201408/t20140827_147920.html
「企業公示情報抜取検査暫定弁法」
http://www.saic.gov.cn/zwgk/zyfb/zjl/xxzx/201408/t20140827_147919.html
「工商行政管理行政処罰情報公示暫定規定」
http://www.saic.gov.cn/zwgk/zyfb/zjl/xxzx/201408/t20140827_147924.html

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