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知的財産権を保護し、独占を保護しない(連載の一/全二回)

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2015年11月19日

知的財産権分野における独占禁止新規定の簡潔な分析(連載の一/全二回)

2015年4月7日、国家工商行政管理総局は「知的財産権の濫用による競争を排除、制限する行為の禁止に関する規定」(以下「規定」という)を公布し、本年8月1日から正式に実施する。「規定」は正当な知的財産権の行使と競争の排除、制限との関係を定義し、知的財産権の濫用が「独占禁止法」で規制する行為に該当することを明確にした。本文では「規定」について簡潔な紹介および評価分析を行う。

中国「独占禁止法」第55条では、「事業者が知的財産権に関する法律、行政法規の規定に照らして知的財産権を行使する行為については、本法を適用しない。ただし、事業者が知的財産権を濫用し、競争を排除、制限する行為については、本法を適用する」と規定している。これは中国の知的財産権分野における独占禁止法実施の基本態度を示しており、即ち、権利者が知的財産権関連法令に基づき知的財産権を正当に行使することを承認、保護し、競争を排除しまたは制限する効果を持つ知的財産権の濫用行為に対し厳格な規制を加えている。

知的財産権の保護は革新奨励、競争促進のためであり、これは独占禁止の目的と一致している。ただし、知的財産権権利者がその権利を行使する際に法令で認められた範囲または正当な限度を逸脱し、知的財産権についての不正利用、他者の利益および社会公共利益を損なう状況が生じた場合、競争を排除、制限する弊害を伴う結果となる。このため、法律はこれに対し規制を加えなければならないのである。

知的財産権分野における独占禁止も早い段階で中国独占禁止法執行および司法の注目問題となっていた。例えば、国家発展改革委員会が2013年から前後して調査を行い、米国のIDC社と某無線通信企業との特許権濫用事件を処理した件、広東省高級人民法院の華為社が米国のIDC社を訴えた標準必須特許を巡る市場の支配的地位の濫用事件を審理した件、および中国商務部がマイクロソフト社によるノキア社携帯電話業務の買収とメルク社によるAZエレクトロニックマテリアルズ社の買収の二つの事業者集中案件を許可する際、特許許諾の面で制限的条件を付加した件、国家工商管理行政管理総局が現在、マイクロソフト社に対する独占禁止調査を行っている件などである。このような背景の下、「規定」は情勢に対応するために生まれた。

「規定」は主に「事業者間で知的財産権の行使の方式で独占協定を成す場合」、「市場の支配的な地位を具備する事業者が知的財産権を行使する過程において市場の支配的地位を濫用し、競争を排除、制限する場合」およびパテントプール、標準の制定において知的財産権を行使する行為が独占を構成する可能性がある場合の具体的な状況について規定を設けた。筆者は以下の通り表にまとめて分析、紹介する。

表一:事業者が知的財産権の行使の方式で独占協定を成す場合

独占協定 構成要件/取扱い形式 簡潔な説明
1 水平的
独占協定
・競争関係にある事業者が知的財産権の行使の方式で「独占禁止法」第13条で禁止する独占協定を成す場合。例えば、前世紀90年代にDVDの特許権者が6C、3Cのパテントプールを構成し、中国のDVDメーカーから強制的に不合理な特許料を徴収する。 ・「規定」による事業者間の独占協定合意の禁止は、基本的に「独占禁止法」の関連規定を引用、援用している。

・「規定」第5条は初めて中国独占禁止法分野における「安全港」(セーフ・ハーバー)の規則を設けた。即ち、「競争関係にある事業者の自らの行為の影響を受ける関連市場における市場占有率が合計で20%を超えない場合、または関連市場において合理的なコストで得られるその他の独立制御された代替的技術が少なくとも四つ存在する場合」、および「事業者と取引相手の関連市場における市場占有率がいずれも30%を超えない場合、または関連市場において合理的なコストで得られるその他の独立制御された代替的技術が少なくとも二つ存在する場合」、事業者の行為は免責され、「独占禁止法」で禁ずる独占協定とは認定しないことができる。

2 垂直的
独占協定
・事業者が取引相手と知的財産権の行使の方式で「独占禁止法」第14条で禁止する独占協定を成す場合。例えば、事業者が川下の代理店に対し特定の地域においては自らが商標権を保有する製品しか販売できないように制限する。
筆者からの注意点:
・「安全港」規則は事業者(知的財産権の権利者)の知的財産権の正当な行使、独占禁止法抵触の回避にとって有益な目安を提供するものである。事業者は市場調査、評価などの方法を通じて自らの関連市場における占有率を確認し立証することができ、市場占有率が低く、「安全港」の条件に合致するのであれば、関連行為が独占禁止法の規制を受ける心配をする必要がなくなる。

・無論、「安全港」は絶対に「安全」という訳ではない。「規定」は当該規則を「関連行為は独占協定とは認定しないことができる」と表現しており、このため、たとえ関連行為が「安全港」の中であるとしても、やはり独占協定と認定されるおそれはある。これについて、工商部門は法執行の実務において一定の自由裁量権を有する。

・「安全港」規則は現時点では工商部門の法執行管轄権の範囲である非価格独占協定に対してのみ適用される。価格独占協定は通常、独占禁止法が「重点的に規制」する行為に該当すると考えられており、「それ自体違法」の原則を適用して認定が行われる。このため、たとえ市場占有率が「安全港」の条件に合致しているとしても、価格独占協定を実施した場合は、やはり「独占禁止法」の規制を受けるものと思われ、価格部門は依然として取締りを行うことができる。

・将来、「安全港」規則が普遍的に独占禁止法で禁じられた各種独占行為に適用されるか、および国家発展改革委員会などのその他の独占禁止法執行機関の法執行の目安となるかなどは、依然として不確定である。

表二:市場の支配的地位を有する事業者がその知的財産権の許諾を拒否する場合

市場の支配的地位の濫用 取扱い形式/構成要件 簡潔な説明
許諾拒否 ・事業者の知的財産権はその他の事業者が行う生産経営の「不可欠施設」である。

・事業者は正当な理由なく、その他の事業者が合理的な条件で当該知的財産権を使用することを許諾しない。

・当該知的財産権の許諾拒否は関連市場における競争または革新に不利な影響を及ぼし、消費者の利益または公共の利益を損なうことになる。

・当該知的財産権の許諾実施は当該事業者に不合理な損害を与えることはない。

・「規定」はEUおよび米国の競争法における不可欠施設の概念を導入した。即ち、ある一施設が独占者の支配するものであり、競争相手が合理的に当該施設を複製できない(経済上または法律上、実行できない)場合、当該施設は不可欠施設と認定されるものと思われる。それには有形財産、例えば鉄道、電信、エネルギー、電力網などが含まれれば、知的財産権などの無形財産も含まれる。

・ある企業が「不可欠施設」に相当し、または「不可欠施設」と関連する知的財産権を保有する場合、当該知的財産権が関連市場において合理的に代替ができず、且つその他の事業者が関連市場の競争に参入する際に必要であることから、保有者は一定の範囲において合理的な条件で当該不可欠施設の使用を開放する義務を負うことになるため、許諾を拒否することはできず、さもなければ、独占禁止法を適用して規制するものと思われる。

筆者からの注意点:
・「不可欠施設は許諾を拒否してはならない」という規則は、「規定」がパブリックコメントを求めた際に大きな論争を引き起こしており、知的財産権権利者の独占権利の核心的価値に対する正当な追求を阻害するものと認識されていた。この度正式に公布された「規定」は、「事業者が不可欠施設を開放する」義務を非常に厳格、有限な範囲に制限している。ただし、事業者が実際に知的財産権を行使する過程においては、依然として本点に対し十分に注意しなければならず、関連知的財産権が「不可欠施設」を構成する状況においては(典型的な例としては通信公司が無線通信分野において保有する関連特許)、取引相手が合理的な理由を提起する状況において、不可欠施設の内容の許諾開放などが必要となる。

表三:事業者が正当な理由なく、知的財産権を行使する過程において抱合せ販売を行う場合

市場の支配的地位の濫用 取扱い形式/構成要件 簡潔な説明
抱合せ販売 ・事業者が正当な理由なく、取引慣例、消費習慣などに反し、または商品の機能を無視して、異なる商品を強制的に抱き合わせて販売し、または組み合わせて販売する。

・抱合せ販売行為の実施は、当該事業者が自らの抱合せ販売する商品市場における支配的地位を抱合せ販売される商品の市場にまで拡大し、その他の事業者の抱合せ販売する商品または抱合せ販売される商品の市場における競争を排除、制限することになる。

・これまでの独占禁止法の実務における(域外)典型的な例では、マイクロソフト社が自らのオペレーティング・システムソフトウェア分野における独占的な地位を濫用して自己のメディアプレーヤーとWindowsオペレーティング・システムの抱合せ販売を行い、正常な市場競争を阻害した。

・支配的地位の拡大は、事業者が抱合せ販売を行う商品の市場と抱合せ販売される商品の市場において同時に支配的地位を有することを指すものではなく、事業者が自らの抱合せ販売を行う商品の市場における支配的地位を利用して抱合せ販売される商品の市場において競争を排除、制限することを指す。例えば、国家発展改革委員会の行政処罰決定において、ある会社が「無線標準必須特許許諾市場の支配的地位を利用して、無線標準必須特許許諾において正当な理由なく非無線標準必須特許許諾の抱合せ販売を行った」と認定した。

・当該条項は「正当な理由」について定義していないが、理論上、「市場の支配的地位を濫用する行為の禁止に関する工商行政管理機関の規定」第8条の規定を参照実施し、抱合せ販売が事業者の自らの正常な経営活動に基づくものであるか、正常な収益のために講じたものであるか、経済の運行効率、社会の公共利益および経済発展に及ぼす影響を総合的に考慮しなければならない(後述の不合理な制限条件を付加する場合の分析においても同じ)。

筆者からの注意点:
・「規定」で言及する抱合せ販売の構成要件は、中国最高人民法院のQihoo社がTencent社を市場の支配的地位の濫用で訴えた事件における抱合せ販売行為に関する裁判の観点を参考、引用しており、即ち、独占禁止法上の抱合せ販売行為を構成するには以下の要件を満たさなければならない。1)抱合せ販売を行う製品と抱合せ販売される製品がそれぞれ独立した製品である。2)抱合せ販売を行う者が抱合せ販売を行う製品の市場において支配的地位にある。3)抱合せ販売を行う者が購入者に対しある種の強制を行い、抱合せ販売される製品を引き受けざるを得ないようにした。4)抱合せ販売に正当性がなく、取引の慣例、消費習慣などに合致せず、または商品の機能を無視している。

・以上から、現時点では行政および司法レベルで、抱合せ販売行為に関する性質認定の方針はほぼ一致しており、これに基づき形成された独占禁止法の規則は法執行および司法において統一的に適用されることになる。事業者は本点について安定的、合理的な予想を立て、ルールに適って知的財産権を行使することができる。

(里兆法律事務所が2015年9月18日付で作成)

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