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ログイン2015年12月8日
(連載の一はこちら https://chasechina.jp/reports/chinabiz/judge/5036.html)
表四:事業者が正当な理由なく知的財産権を行使する過程において不合理な制限条件を付加する場合
市場の支配的地位の濫用 | 取扱い形式/構成要件 | 簡潔な説明 |
不合理な制限条件の付加 | ・取引相手に対しその改良した技術を独占的にグラントバックすることを求める。
・取引相手が自らの知的財産権の有効性について質疑を提起することを禁止する。 ・取引相手が許諾契約期間満了後、知的財産権を侵害しない状況において競争関係にある商品または技術を利用することを制限する。 ・保護期間満了済みまたは無効と認定された知的財産権について継続的に権利を行使する。 |
・独占的グラントバックとは、権利者がライセンシ―に対し改良後の技術を独占的方式で再度許諾させることを指す。当該行為は不公平にライセンシ―の権利と権益を奪い、ライセンシ―の革新への積極性を損ない、且つライセンシ―とライセンサーの間の競争を著しく損なうものである。よって、当該行為は独占を構成しているとの認定を受けるおそれが大きい。
・実際には無効である知的財産権は法律の保護を得ることはできず、これについての許諾などは信義誠実の原則に反する。よって、独占禁止法では、事業者は取引相手に対し知的財産権の有効性について質疑を提起することを禁じてはならないと規定している。 |
筆者からの注意点: ・「独占禁止法」公布の前に既に存在していた法律、法規および司法解釈なども独占的グラントバック、無効な知的財産権の許諾などに対し禁止的な規定を設けていた[1]。 このため、たとえ関連事業者が市場における支配的地位を具備しないために、上記行為を実施した際に「独占禁止法」の規制を受けることはないとしても、依然としてその他の法律、法規および司法解釈の強行規定に違反するおそれがある。 ・現在の独占禁止法執行の実務においては、既に一部の市場において支配的地位にある事業者が知的財産権を行使する際に不合理な制限条件を付加する状況に対し調査および決定を行っており、例えば、国家発展改革委員会がある無線通信企業に対し下した行政処罰はその一例で、当該企業はライセンシ―に対し期間満了特許について許諾料の支払いを求めた容疑である。 ・実務においては、事業者が知的財産権を行使する過程において、特に技術輸入、譲渡、許諾などの契約を締結する際には、その中で不合理な条件を付加しないようにしなければならない。通常では、規則に適った方法で行うことが考えられ、それにはライセンシ―に対し改良技術の非独占的な授権のみ要求すること、契約において取引相手と知的財産権の有効性について事前に合意を得ること、期間満了した知的財産権を技術許諾契約の中に組み入れないなどが含まれる。 |
表五:特定種類の知的財産権濫用行為
二つの特別な状況 | 取扱い形式/構成要件 | 簡潔な説明 | |
① | パテントプール | ・パテントプール構成員はパテントプールを利用して生産量、市場区分など競争に関するセンシティブな情報を交換し、「独占禁止法」第13条、第14条で禁止する独占協定に合意する。
・パテントプール構成員がパテントプール以外で単独のライセンサーとして特許許諾を行うことを制限する。 ・パテントプール構成員またはライセンシ―が単独で、或いは第三者と共同でパテントプール特許と競争関係にある技術を研究開発することを制限する。 ・ライセンシ―が改良した、または研究開発した技術を独占的にパテントプール管理組織或いはパテントプール構成員へ許諾させることを強要する。 ・ライセンシ―がパテントプール特許の有効性について質疑することを禁止する。 ・条件が同じであるパテントプール構成員または同一の関連市場のライセンシ―に対し取引条件において異なる待遇を実施する。 |
・パテントプールとは、二人または二人以上の特許権者がある種の形式を通じて各自が保有する特許を共同で第三者に許諾する協定の仕組みを指す。その形式は本目的のために独立の合弁会社を設立することができれば、あるパテントプール構成員またはある独立した第三者に委託して管理を行うこともできる。
・パテントプール自体は合法であり、独占禁止法はパテントプールを禁止していないが、パテントプールを利用して実際にはパテントプール構成員、ライセンシ―が競争に参加することを制限すれば、知的財産権濫用の独占行為となる。
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② | 標準必須特許 | ・標準制定に参加する過程において、故意に自らの特許情報を標準制定組織に開示しない、または明確に自らの権利を放棄したにもかかわらず、ある項目の標準が当該特許に関係した後に当該標準の実施者に対し自らの特許権を主張する。
・自らの特許が標準必須特許となった後に、公平、合理的、且つ差別的原則に反して、許諾拒否、抱合せ販売商品または取引時にその他の不合理な取引条件などを付加し、競争を排除、制限する行為を行う。例えば、ある無線通信会社の独占禁止事件においては、標準必須特許と非標準必須特許を抱き合わせて許諾し、完成品価格を計算基数としており、また、当該事件において、ライセンシ―に対し無償で特許を許諾させるように求め、いかなるライセンス料の相殺も拒否した。 |
・標準必須特許とは、当該標準(国家技術規範の強行要求を含むがこれに限らない)の実施に欠くことのできない特許を指し、それには有効な特許および特許出願を含む。
・標準必須特許権者は公平、合理的、且つ非差別的条件で他者へ標準特許実施を許諾する義務を負う(即ちFRAND原則)。 ・標準必須特許事業者の市場における支配的地位の認定に区分を設ける。強制的標準必須特許の保有者については、それが供給関係において絶対的地位にあることから、市場における支配的地位にあると推定される。非強制的標準特許の保有者については、「独占禁止法」第18条に基づいて市場における支配的地位にあるかを判断する。 |
筆者からの注意点: ・近年、全世界範囲で知的財産権濫用事件の典型となっているのはFRAND原則への違反である。中国広東法院が判決を下した華為社が米国IDC社を市場における独占的地位の濫用で訴えた一件は当該分野において関心を集めた事件であった。 本件において、中国の裁判所は初めて司法判決の方式でFRAND原則を認可し適用した。即ち、「標準必須特許権者が必須特許使用料の談判において、公平、合理的、非差別的原則に反し、例えば、高過ぎる定価、差別的定価の実施、抱合せ販売などの市場における支配的地位を濫用する行為は、独占民事権利侵害を構成すると認定され、相応する法的責任を負わなければならない」。前述した判決は事業者が独占禁止法の枠組みと要求の下で標準必須特許を規範的に実施する際の重要な参考にすることができる。 |
本文の冒頭で述べたとおり、独占禁止と知的財産権の保護は共通の目標を有しており、即ち、競争と革新の促進、経済運行効率の向上、消費者利益と社会公共利益の保護である。ただし、知的財産権権利者が自らの権利を濫用すれば、市場の公平競争を損なうものと思われる。この場合、独占禁止法が介入し、知的財産権濫用行為を規制する必要がある。「規定」第17条の関連規定によれば、「独占協定を実施し、または市場の支配的地位を濫用する事業者に対し、工商行政管理機関は違法行為の停止を命じ、違法所得を没収した上、前年度売上高の1%以上10%以下の過料に処す。未だ合意した独占協定を実施していない場合、五十万元以下の過料に処すことができる。」となる。
筆者の理解するところ、「規定」の公布および施行は事業者の規則に適った知的財産権の行使、市場競争への秩序ある参入に規範的な指針を提供することになり、事業者が知的財産権の価値を最大限に利用する助けになると同時に、独占禁止法の規制と調整を受ける状況に陥ることを回避する助けとなる。「規定」が正式に実施された後で企業に及ぼす実際の影響などについて、筆者は引き続き注目していく。
(里兆法律事務所が2015年9月18日で作成)
[1]例えば、「中華人民共和国契約法」第329、343および344条、「中華人民共和国対外貿易法」第30条、「中華人民共和国技術輸出入管理条例」第27条から第29条、「中華人民共和国中外合弁経営企業法実施条例」第43条、「技術契約紛争事件を審理する際の法律適用に係る若干事項に関する最高人民法院の解釈」第10条
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