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「不良」売掛金の未然防止と対応策(連載の二/全三回)

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2016年2月24日

現代のビジネス環境において、商品引渡し時に代金の決済がなされるケースはますます減っており、大口取引における代金の受取人は、通常、支払人に対し一定の決済周期を与えるのが一般的である。とりわけ巨額の資金をやり取りし、その取引頻度も高い商業企業にとっては、決済周期は、ある意味においては、相手方の取引行為を制約する「ツール」にもなっており、このような状況の中で、売掛金が大量に存在することは避けることが難しく、「不良」売掛金の発生を防ぐためには、売掛金の回収リスクを制御し管理する必要がある。

「不良」売掛金の未然防止と対応策について、これまでの筆者の実務経験を踏まえ、事例別に以下の通り整理する。以下の事例は、いずれも個別の会社、個別の案件の秘密情報を含むものではない。
(連載の一はこちら https://chasechina.jp/reports/chinabiz/judge/5204.html

二、取引過程でできること:鮮明且つ明確な契約履行記録を残しておく

◇ 事例b

B社はある顧客と長期に亘り取引をしており、当該顧客の契約履行状況は良好であった。双方は「取引基本契約」の中で、当該顧客がB社に発注する際には所定の書式で「発注書」を作成し送付しなければならない旨を約定していたが、実際の取引では顧客は電話、WeChatなどで発注することが多かった。双方は良好な取引関係を築いていたため、B社は毎回、製品を発送するのと同時に「取引基本契約」の約定に従い、増値税発票を前もって発行していた。後に、B社は日頃の顧客名簿管理の過程で、当該顧客が主管工商部門から「経営異常名簿」に載せられていたことを発見したため、B社は当該顧客に対し、取引形態を「代金支払い後に製品を発送する」方法に変更するよう求めた。

◇ 筆者の分析

1.発注書がないことの影響

発注書がないことの影響として考えられるのは、以下の通りである。
1)外観上、売り手と買い手の双方で取引の詳細について、共同で確認することができない。
2)「基本契約」で約定されておらず、一般的に「個別契約」で約定される商業条件を適用することができない。
3)「基本契約」を適用しない場合(このような状況は少ないが)、ほとんどの商業条件を適用することができない。

以上をまとめると、実務において厳密に言うならば、万が一の場合に備える意味でも、又は取引管理上の必要性からも、各取引が個別契約・発注書に従い行われるよう、貨物の品目、数量、単価、納品時期などの内容を契約書で明確に約定する必要がある。実務においては、非常に良好な提携関係にある取引先から急ぎの発注のため、発注書の作成が間に合わなかった場合であっても、後日、発注書を追って提出するよう先方に求めることが望ましい。

取引過程で、相手方に資産信用状況、契約履行能力に影響をもたらす状況又はその他重大な不安事項が生じたことを発見した場合、直ちに相手方と交渉し、関係状況を把握するのがよく、必要な場合には、法律規定又は契約約定に従い、取引形態を変更し、担保の提供を相手方に求め、契約の履行を中止し、ひいては最終的に契約を解除するのがよいであろう。

2.「不良」売掛金

製品の売買取引を例に取ると、「不良」売掛金の外観上の構成要件は、「売り手が製品を納品済みであること」+「買い手が代金を未払いであること」であり、立証責任は、以下の通りである。
1)売り手が製品を納品済みであることの証明:通常、買い手側の者がサインし確認済みの物流ラベルなどを提出する必要がある。
2)買い手が代金を支払っていないことの証明:通常、直接に証明する必要はなく、この状況を補足的に説明する材料をいくつか提供するだけでよい(例えば、売掛金の集計表、発票など)。

上述の2つの方面に関する立証責任事項をそれぞれ単独で見てみると、それぞれ証拠は明白且つ直接的であり、立証難度は高くないが、実務においては、ある特定の状況においては、「納品済み」と「代金未払い」との間の対応関係が明確でなく(即ち、「納品済みの貨物の代金未払いについて証明することができない」、又は「代金未払の貨物を引渡し済みであることを証明できない」場合がある)、その特定の状況として考えられ得るのは以下の通りである。
1)前述の通り、売り手と買い手の双方に発注書がないため、売り手、買い手の双方で、取引の細目について、共同確認することが難しいケース。
2)売り手が買い手の決済周期を長めに設定し、その間、双方は「反複取引」を実施しており、「代金」と「貨物」との間に厳密な対応関係がないケース。

この場合、「納品済みである」ことと「代金未払い」との間の対応関係を証明することは難しく、通常、他の既存する証憑上の情報を統計して、照合し説明するしかなく、例えば、売り手が買い手に対して発票を発行済みである場合には、発票と物流ラベルに記載されている貨物の明細を照合することで、対応関係を見出すことができる可能性がある(反複取引では、統計、照合の難度がさらに高くなることが考えられる)。

3.微妙な影響を及ぼす発票の存在

売り手が納品と同時に発票を発行し、その後に買い手が支払いをするという取引方式は現在、一般的に行われている。このような、発票の発行後に支払いを行う方式は、代金の支払いがなされていない状況で仮受税額が増えてしまうため、一見すると売り手にとって不利であるように見えるが、実際には、売り手にとって、かえって有利な証明材料の一つとなる場合がある。
1)発票+その他証憑がある場合:この場合、上述の通り、発票と他の証憑上の情報を照合することで、発票は、売り手の「証拠チェーン」における「重要な部分」となる。
2)発票+「税金相殺済み資料」がある場合:実務においては、売り手が買い手の主管税務部門が発行した「仮払増値税との相殺済み」証憑を入手し、他に取引の原始証憑はなくても、裁判所に対して売り手が納品義務を履行済みであることを主張し、代金の支払いを相手方に求めた事例
があり、厳密に係る法律規定に従えば、売り手の主張が裁判所に認められることはないのだが、司法実践においては、各地の裁判所の本件に対する見方、捉え方は今日一致しておらず、全体的に見た場合、売り手が相手方の「仮払税との相殺済み資料」を提出できるならば、多かれ少なかれ、裁判所の最終的判断を左右する材料になる可能性がある。

もっとも、発票の発行タイミングを代金支払後にするのか、それとも支払前にするのかについては、一般的には商業条件として存在するものであり、「証拠を前もって残しておく」との視点から当該条件が検討されることはあまり多くはない。しかし、上述の通り、発票は司法実践において「微妙な影響」を及ぼすものであることから、企業に対しては価値ある手掛かりを提供することもできると考えられる。

実務においては、貨物明細、単価などの情報のほか、発票の備考欄において、注文番号、物流ラベル番号などを明記し、発票と他の原始取引証憑との関係を明確にしておくとよい。これら情報があることで、相手方を直接に制約することはできないが、自己の「証拠チェーン」を構成する際に、発票と他の原始取引証憑との「整合性」を高めることができる。

(里兆法律事務所が2016年2月1日付で作成)

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