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渉外商事紛争における紛争解決機関の選択

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2019年8月26日

貿易のグローバル化が進む中で、渉外商事紛争の紛争解決機関をどのように選択するのかというテーマが、中国の日系企業の関心を集めている。本稿では、渉外商事紛争における紛争解決機関について簡潔に整理し、分析する。

一、渉外的要素の判断基準

渉外商事紛争とは、即ちビジネス活動により引き起こされ、「渉外的要素」が含まれる紛争をいう。ビジネス紛争に「渉外的要素」が存在するか否かは、準拠法及び選択可能な紛争解決方法の判断に直接の影響をもたらす。例えば、「中華人民共和国契約法」第126条規定では「渉外契約の当事者は契約の紛争処理にあたり、適用する法律を選択することができる。但し法律で別途定める場合を除く。渉外契約の当事者が選択しない場合、契約と最も密接な関わりをもつ国家の法律を適用する」とされており、「中華人民共和国契約法」第128条規定では、「当事者は和解又は調停を通じて契約の紛争を解決することができる。当事者が和解、調停を望まず、又は和解、調停が達成されない場合、仲裁合意に基づき仲裁機関に仲裁を申し立てることができる。渉外契約の当事者は仲裁合意に基づき中国の仲裁機関又はその他の仲裁機関に仲裁を申立てることができる。……」とされている。従って、渉外商事紛争を処理するうえでまず解決すべき問題は、「渉外的要素」とは何を指すのかである。

中国では渉外商事関係に関して、「渉外的要素」に対する定義は各種の司法解釈上の関連規定に散見される。直近に公布された「『中華人民共和国民事訴訟法』の適用に関する最高人民法院の解釈」(法釈[2015]5号)第522条の規定によると、「渉外的要素」の判断基準は以下の通りである。
A.当事者の一方又は双方が外国人、無国籍者、外国企業又は組織である。
B.当事者の一方又は双方の経常住所地が中華人民共和国の領域以外にある。
C.目的物が中華人民共和国の領域以外にある。
D.民事関係を発生、変更、又は消滅させる法的事実が中華人民共和国の領域以外で発生した。
E.渉外民事案件として認定することができるその他の状況。

なお、中国の経済改革及び対外開放が徐々に進んでいるため、実践においてはさらに複雑な渉外商事関係が現れ、「渉外的要素」に関する判断基準については、その変化の中で複雑且つ具体的な法律関係を考えなければならない。

二、渉外商事紛争の解決機関

「中華人民共和国民事訴訟法」(2017年改正。以下「『民事訴訟法』」という)を筆頭に、一連の中国法律規定に基づくと、調停、訴訟、仲裁は紛争解決の主な3通りの方法を構成する。これに対し、調停機関、裁判所、仲裁機関はそれぞれの特性を活かし紛争解決の役目を果たしている。

中国では、「国際商事調停モデル法」などに類似した調停制度は導入しておらず、個別の渉外商事紛争調停機関も設けておらず、渉外商事紛争の調停の多くは裁判所又は仲裁機関主導で行われるため、下記渉外商事紛争の解决機関では、調停を個別に列挙することは省略する。渉外商事紛争の解決機関は以下の通りである(表1)。

機関選択方法 機関 法律上認可されるか否か 典型的な機関の名称
約定による方法 1.中国裁判所での訴訟 認可 各級の人民法院、国際商事法廷(※1)
2.国外裁判所での訴訟 認可 国外の国家/地区の各級の裁判所
3.中国仲裁機関での仲裁 認可 中国国際経済貿易仲裁委員会、上海国際経済貿易仲裁委員会、深セン国際仲裁院
4.国外仲裁機関での仲裁 認可 ストックホルム商会仲裁院、シンガポール国際仲裁センター、日本商事仲裁協会、香港国際仲裁センター
法で定められている方法 5.中国裁判所での訴訟 認可 各級の人民法院、国際商事法廷
6. 国外裁判所での訴訟 外国法による

三、渉外商事紛争解決の機関選択

渉外商事紛争解決の機関を選択する場合、裁判所での訴訟又は仲裁機関での仲裁のいずれか一つとなる。それぞれが渉外商事紛争を処理する際の一部重要な特性を簡潔に下表に整理する(表2)。

区分 裁判所での訴訟 仲裁機関での仲裁
審理人員 A.裁判所が確定した専任の裁判官が審理し、裁判官は法律規則解釈を重んじる。
B.裁判官には単一的な特徴がみられ、それは英米法系又は大陸法系のいずれかに依るものである。
A.仲裁人は通常、当事者が自ら選択し確定し、業界の専門家であり、且つビジネスの実績もある。
B.仲裁人は同じ問題について、英米法系と大陸法系の間で均衡を保つ役割を果たすことが多い。
審理手続 A.法定の民事訴訟規則に基づき行われる。手続が比較的定まっており、当事者は通常、変更することができない。
B.訴訟は公権力性を有し、職権に基づき事実調査、当事者を追加することができる。
A.当事者が選定した仲裁規則に基づき行われ、手続がやや柔軟であり、当事者の要請に応じて適切に調整することができる。
B.仲裁は当事者自治に基づくため、審理手続が仲裁合意の相対性の壁を突破することができない。
審級制度 通常は二審制であり、それぞれの審級には係る期限がある。一般的に、裁判所での審理期間の方が長い。 仲裁は一審制であり、手続が迅速で弾力性がある。一般的に、仲裁の審理期間の方が短い。
秘密保持の要求 公開審理、裁判が基本原則であり、不公開審理、裁判は例外である。判決結果は原則として対外的に公開される。 仲裁判断の過程、仲裁判断の結果とも秘密が保持しなければならない。
コスト・費用 裁判所は公共機関であり、公益サービスの提供に該当する。中国を例にとると、裁判所は通常、案件受理費しか徴収せず、費用はあまりかからない。 仲裁は専門性の高い非公益サービスであり、その費用には少なくとも受理費と仲裁人費用の2つが含まれ、一般的な訴訟より費用がかかる。
仮の措置 仮の措置は強制措置に該当し、1つの国の司法主権の表れであり、本国での申立ては迅速に行うとができるが、国を跨いだ申立ては、互恵及び司法上の礼譲などから、仮の措置を国を跨いで別国の裁判所で実施することは難しい。 通常、仲裁機関は国際条約、当事者間の仲裁条項、又はその中の1つの国の国内法に基づき、仮の措置を裁定するが、裁判所の審査を経て、且つ裁判所の協力のもとで執行しなければならない。難易度はやや高めである。
裁判の執行 広範囲で執行可能な多国間条約は少ないため、二国間司法協力条約及び執行地国の法律がなければ、裁判所の判決結果を国を超えて執行することは難しい。 現在、中国を含め、世界の158か国(地区)が「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」を締結しており、仲裁判断は、一般的に広く承認、執行される。

表2の枠組みにおいて、仮に中国国内で渉外商事紛争が発生した場合、表1に含まれる中国裁判所又は国外裁判所で訴訟する場合、及び中国仲裁機関又は国外仲裁機関で仲裁する場合のそれぞれの利点、難点について、下表(表3)に整理する。

紛争解決方式 中国国内 中国国外
裁判所での訴訟 法的環境 難点:外国側の経営陣が本国ほど中国法律及び司法体制に詳しくないため、不安を感じやすい
利点:商取引は主に中国国内で発生するため、中国法律を適用し中国国内で審理したほうが、事実の解明及び法律の適用がしやすい。
利点:経営陣がその本国の法律及び司法体制についてより詳しく、訴訟の是非の判断はしやすくなる。
難点:商取引は主に中国国内で発生するため、国外裁判所は審理の過程において、事実の解明、法律の適用を正確に行うことが難しくなるおそれがある。
調査、証拠収集 利点:審理手続が進められやすく、中国現地での調査、証拠収集が能率的である。 難点:国外裁判所が中国で調査、証拠収集する場合、さらに多くの障害に直面する。
判決の執行 利点:中国の裁判所で審理すれば、中国国内で判決を執行しやすい。 難点:司法共助条約がなければ、国外裁判所の判決は通常、中国で執行されることは難しい。(※2)
仲裁機関での仲裁 費用の見込み 利点:機関仲裁の形式により比率で課金する場合、通常、概算費用を把握できる。 難点:アドホック仲裁又は機関仲裁では、いずれもタイムチャージにより料金徴収されるため、コストをコントロールしにくい。
仲裁人の選任 難点:中国は仲裁の歴史がまだ浅く、仲裁規則、仲裁人の選任などの方面において、国外の有名な仲裁地とはまだ開きがある。 利点:仲裁人の選任において、業務水準、外国語能力、法律背景といった考慮されるべき要素が多く、仲裁結果の公信力はやや高めである。
仲裁手続 利点:仲裁手続上、やや順調に行われ、仲裁地、法律適用などの制限にかけられず、仲裁判断は承認と執行の手続が避けられる。 難点:仲裁手続は国外で行われるため、仲裁判断を中国で執行するためには承認と執行の手続を行う必要がある。

上記の比較、分析、及び筆者の実務経験を踏まえると、渉外商事紛争に関して、紛争解決機関の選択について、おおよそ以下の結論を導き出すことができる(表4)。表の中、○は第一候補を表し、▲は第二候補を表し、Xは選択を勧めないことを表す)。

考慮すべき要素の一部 中国国内裁判所 中国国内仲裁 中国国外裁判所 中国国外仲裁
案件の事実状況が簡単である X
案件の事実状況が複雑である X
係争金額が小さい X
係争金額が大きい X
仮の措置 X X
秘密保持の要求 X X
中国法の適用 X
外国法の適用 X X
裁判の国内での執行 X
裁判の国外での執行 X X

(注:現在、国際司法共助体制が整備されていないため、裁判文書を中国国内で執行する必要がない場合を除き、通常、国外裁判所で訴訟することを通じて渉外商事紛争を解決することは勧め難い。)

なお、以上は原則的な助言にすぎず、渉外商事紛争の解決方法を如何に選択すべきかについての画一的で、終始適用される基準というものはなく、渉外商事紛争の具体的な状況を踏まえ、諸要素を勘案しながら、最適な判断をしていく必要がある。

(里兆法律事務所が2019年1月10日付で作成)

(※1)当事者は合意により国際商事法廷を選択することができる。その根拠は、「国際商事法廷の設立の若干事項に関する最高人民法院の規定」であり、第二条の規定によると、「国際商事法廷は以下に列挙する案件を受理する。(一)当事者が民事訴訟法第三十四条の規定に基づき、合意により最高人民法院の管轄を選択した場合で、且つ対象額が3億元以上の第一審国際商事案件」とされている。

(※2)中国は「裁判所の選択の合意に関する条約」に署名したが、当該条約は批准段階にあり、中国に対してはまだ効力をもたない。従って、国外の裁判所を渉外商事紛争解決機関とする必要が確かにある場合、現時点で中国と二国間の民事、商事司法共助条約を調印した国(計37ヵ国)を把握しなければならない。それにはエチオピア、ブラジル、アルジェリア、クウェート、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アラブ首長国連邦、韓国、アルゼンチン、チュニジア、北朝鮮、リトアニア、ラオス、ベトナム、シンガポール、ウズベキスタン、モロッコ、タジキスタン、キルギス、ハンガリー、キプロス、ギリシャ、エジプト、タイ、ブルガリア、ベラルーシ、カザフスタン、キューバ、ロシア、スペイン、ウクライナ、トルコ、イタリア、ルーマニア、モンゴル、フランス、ポーランド、ペルーが含まれる。

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