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債権回収の視点からみた「中小企業代金支払保障条例」

中国ビジネスレポート 法務
邱 奇峰

邱 奇峰

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2021年3月9日

2020年7月1日、国務院第99回常務会議が「中小企業代金支払保障条例」(以下「『条例』」という)を可決した。「条例」は2020年9月1日からの施行であり、現在、すでに効力が生じている。「条例」は計29条あり、主には中小企業の債権が遅滞なく回収できるよう保障する内容であり、契約締結の規範化と資金の保障、支払行為の規範化、並びに信用監督の強化及びサービス保障等の方面に重点を置き、明確な規定を行っている。

本稿では、中小企業による債権回収の視点から「条例」を考察し、実務において企業からのよくある質問を整理し、回答する。

Q1.「条例」が公布に至った背景は?

■中小企業の発展は、就業を拡大し、人々の暮らしを改善するうえでの重要な要素であることから、中小企業が益々発展していくよう保障することは極めて重要である。しかし、ここ数年、国家機関、事業組織及び大手企業がその優越的地位を利用し、中小企業に対する支払を遅延させるという事態が日増しに深刻になっており、中小企業の代金回収期間が延びてしまうことで、その存続と発展が窮地に陥るといった現象はすでに国レベルでの注目を集め、一層重視されるようになった。

そのため、2018年1月に新版「中小企業促進法」が施行され、同法第五十三条には「国家機関、事業組織及び大型企業は約定に違反し、中小企業の貨物、工事、サービスに係る代金の支払を遅延させてはならない。中小企業は支払遅延当事者に対し、遅延代金の支払を請求し、且つ遅延による損失への賠償を要求することができる。」と明確に規定されている。同年の年末に、国務院が民営企業・中小企業に対する未払いの資金を見直すという特別行動を実施したところ、一定の積極的な効果が得られた。

しかし、中小企業自身が取引行為においては弱い立場にあるため、上述した法律規定も、特別行動も、支払遅延行為の発生を効果的に防ぐことは難しく、支払遅延問題を根底から解決してはいない。

■このような背景において、中小企業が機関、事業組織及び大型企業と「実質上、公平に」取引を行い、債権を確実に回収できるようにするため、最終的に「条例」が公布された。「条例」が公布されたことは、中小企業が発展していくうえでの自信を高め、事業及び生産再開を促進し、ビジネス環境を最適化するうえで有益である。

Q2.「条例」はどのような状況に適用されるのか?

■「条例」は「機関、事業組織、大型企業」と中小企業との取引に適用され、支払義務者は機関、事業組織及び大型企業に限定され、代金受領権利者は中小企業に限定される。また、支払われる代金の範囲も貨物、工事又はサービスに係る取引により発生する支払義務に限定される。

したがって、以下の状況には「条例」の規定が適用されない。

1)機関、事業組織及び大型企業の間で締結した契約。

2)中小企業の間で締結した契約。

3)中小企業が支払者であり、機関、事業組織及び大型企業が受領者である場合。

4)貨物、工事又はサービスに係る取引を除き、借入、債券発行等の金融活動に起因して発生した債務紛争。

また、留意点としては、「条例」によると、財政資金を一部又は全部使用し、中小企業から調達を行う団体組織については、機関、事業組織の関連規定に参照して実施するものとし、軍隊が中小企業から調達を行う場合、軍隊の関連規定に従い実施することになる。

Q3.何をもって「中小企業」、「大型企業」と認定されるのか?

■「条例」第三条によると、「中小企業」は国務院が承認した中小企業分類標準によって確定され、具体的には中型企業、小型企業及び零細型企業に分けられるが、中小企業以外の他の企業は、全て「大型企業」と認定されると定められている。中小企業、大型企業は契約締結時の企業規模類型に基づき確定する。即ち、契約履行過程において企業の規模に変化が生じた場合でも、契約締結時にすでに確定された企業規模類型に基づき、「条例」が適用される。

■「中小企業」を分類するための主な根拠は、「中小企業分類基準規定の公布に関する通知」「統計上の大、中、小、零細型企業分類弁法(2017)」である。具体的には、まず企業の所属業種[1]を確定してから、また各業種の具体的な分類基準(従業員、売上収入、資産総額等の指標を含む)に基づいて判断する。

■中小企業規模類型の認定について異議がある場合、「条例」第二十三条の規定によれば、自己が中小企業であると主張する当事者所在地の県級以上の地方人民政府における中小企業促進作業総合管理をつかさどる部門にて認定を申請することができる。

Q4.「中小企業」が告知義務を履行する際の方法とは?

■条例自体では「告知」方法を明確に規定していないため、理論的には書面又は口頭による「告知」はいずれも有効であると認定されるはずである。しかしながら、実務上は、余計な争い等が生じないよう、やはり書面の形式をもって告知義務を履行するのがよい。具体的には以下の通りである。

1)「条例」が施行される前にすでに締結している契約については、「条例」発効時に、契約の履行がまだ完了していない場合、中小企業は書簡、メール等の方式をもって取引先に対し告知義務を履行するのがよい。

2)「条例」が施行された後に締結した契約については、中小企業は取引契約の中で中小企業のステータスを直接に明確にしておくのでも、契約の付属文書、補充協議書、書面レター、声明書その他の書面方式を通じて別途説明を行うようにするのでもよい。

Q5.中小企業が契約締結時に「告知」義務を履行しなかった場合でも「条例」は適用されるのか?

■「条例」第三条では、「中小企業が機関、事業組織、大型企業と契約を締結する際に、自己が中小企業であることを自主的に告知しなければならない」と定めてはいるが、中小企業がこのように自主的に告知しなかった場合、又は事実通りに告知しなかった場合の法的影響について、「条例」では規定していない。つまり、この問題については今後、立法機関又は司法機関等がさらに解釈し、明確にしていく必要がある。

なお、この問題がさらに明確にされるまでは、中小企業は、やはり自主的且つ積極的に告知義務を履行したほうがよい。

もっとも、「条例」が施行される前にすでに締結している契約(「条例」施行後、まだ履行しているもの)については、契約締結時に、「条例」がまだ発効されておらず、客観的には「契約締結時に告知する」という義務もないため、中小企業は「事後速やかに告知する」方式をもって告知義務を補充し履行するのがよい。

また、留意点としては、双方が契約条項について合意するタイミングが「条例」発効前であったとしても、「条例」の中の債権回収を保障する一部の条項は、契約締結時から約定しておかねばならないと求めており、例えば、「条例」第九条では「契約双方は契約において、明確且つ合理的な検査又は検収期限を取決め、且つ当該期限以内に検査又は検収を完成させなければならない」と規定している。つまり、「契約締結時に告知する」ことを通じて告知義務を補充し履行する場合であっても、「条例」で定められた状況に合致する範囲内でしか保護を受けることができない。

従って、中小企業は条件が許されるならば、取引先と協議したうえで、「条例」に基づき契約の関係条項を併せて調整するようにするのがよい。

Q6.「条例」は中小企業の債権回収を具体的にどのように保障するのか?

■「条例」第六条では、「機関、事業組織及び大型企業は中小企業に対し、理不尽な支払期限、方法、条件及び違約責任等の取引条件を受け入れるよう要求してはならず、契約に違反して中小企業の貨物、工事、サービスに係る代金の支払を遅延してはならない」と定めている。

また、実務上は、代金支払遅延の形式は様々であることから、「条例」では焦点を絞って規制を行い、中小企業の異なる取引先の主体ごとに、実情に応じて異なる規制措置を定め、中小企業の債権が遅滞なく回収できるよう多方面から保障している。「条例」の係る規定を以下の通り簡潔にまとめる。

 

措置

条項

機関、事業組織

大型企業

財政資金の保障を強化している

第7条

●  予算を立てずに、予算額を超えて調達してはならない。

●  政府投資プロジェクトに必要となる資金は、施工業者が立て替えて建設してはならない。

●  政府投資プロジェクトに必要となる資金は、施工業者が立て替えて建設してはならない。

支払期限を規範化している

第8条

●  納入日から30日以内に代金を支払い、約定する場合は最長でも60日を超えてはならない。

●  契約の中で、履行の進捗度に基づく決済や定期的決済といった方法を約定している場合、支払期限は双方で決済金額を決めた日から起算する。

●  業種規範、取引習慣に従い、支払い期限を合理的に約定し、且つ速やかに代金を支払わなければならない。

●  契約の中で、履行進捗度に基づく決済や定期的決済といった方法を約定している場合、支払期限は双方で決済金額を決めた日から起算する。

検査・検収を明確にしている

第9条

●  検査又は検収の合格を代金支払条件として約定している場合、支払期限は検査又は検収に合格した日から起算する。

●  契約の中で、明確で合理的な検査又は検収期限を明確に約定する。検査又は検収を遅らせる場合、支払期限は約定した検査又は検収の期限が到来した日から起算する。

実質的な支払遅延を禁止している

第10、11、13条

●  現金以外の支払方式は、契約の中で明確且つ合理的に約定しなければならず、現金以外の支払方式を強要してはならず、支払期限の実質的な延長を行ってはならない。

●  法定代表者又は主要責任者の変更、内部支払手順の履行、又は契約に定めのない場合において、竣工検収批准、決算監査等の完成を待たねばならないことを理由に、代金支払を拒絶し、又は遅延させてはならない。

●  契約に別途約定があり、又は法律、行政法規に別途規定がある場合を除き、機関、事業組織及び国有大型企業は、監査機関の監査結果をもって代金決済の根拠とすることを強要してはならない。

保証金の受領及び精算を規範化している

第12条

●  工事建設において、法令・規則に依拠し保証金を設定し、受領しなければならない。保証期限が満了した場合、保証金に係る事実確認及び精算を遅滞なく行わなければならない。

支払遅延に伴う責任を明確にしている

第15、19条

●  契約及び条例に定める利率基準に従い、遅延利息を支払う。

●  支払を拒絶し、又は遅遅延させた場合、公務消費、事務用オフィス、経費の手配等の方面でしかるべき制限措置を講じる。

●  契約及び条例に定める利率基準に従い、遅延利息を支払う。

支払情報開示制度を構築している

第16条

●  所定期間内おいてに、中小企業に対する支払期限が過ぎてもまだ支払いが行われていない代金に係る契約の数、金額等の情報を社会に向けて公開し又は公示する。

苦情処理及び信用喪失制裁制度を構築している

第17条

●  中小企業に対する代金支払義務を遅滞なく履行しておらず、情状が深刻な場合、法に依拠し信用喪失制裁を実施する。

監督評価メカニズムを構築している

第20、24条

●  監査機関は、法に依拠し、機関、事業組織及び国有大型企業の中小企業に対する代金支払状況について監査監督を実施する。

●  ニュースメディアは、機関、事業組織及び大型企業が中小企業への代金支払を拒絶し、又は支払を遅延した行為に対し、世論による監督を法に依拠し強化する。

■「条例」第二十五、二十六、二十七条において、機関、事業組織、国有大型企業による「条例」違反行為に対して相応の罰則を規定している。具体的には「主管部門が是正を命じる」、「是正を拒否した場合、直接責任を負う主管人員又はその他直接責任者を法に依拠し処分する」等が含まれる。

そのうち、「非国有大型企業」については、第二十七条にて「市場監督管理部門が法に依拠し処理する」(即ち、直接の罰則規定はない)という漠然とした規定はあるが、「条例」第十七条によると、非国有大型企業が中小企業に対する代金支払義務を遅滞なく履行しておらず、情状が深刻な場合、依然として法に依拠し信用喪失制裁を受けることになる。「信用行為の共同インセンティブ・信用喪失行為の共同制裁制度を整備し、社会的信用誠実体制の構築を加速させることに関する国務院による指導意見」に基づき、「代金又はサービス料の支払を悪意により遅延させる」ことは、「市場における公平な競争秩序及び社会の正常な秩序を著しく乱す行為」に該当し、支払を遅延させた企業は、行政許可審査プロジェクトの審査を厳格に行い、生産許可証の発給を厳格にコントロールし、新規プロジェクトの審査許可、認可を制限し、資金調達を制限するといった様々な制限的措置が講じられる可能性がある。よって、「条例」には直接な罰則が定められていないとしても、中小企業は既存するほかの法律法規を通じて自身の権益を守ることができる。

 

「条例」は、中小企業に対する代金の支払遅延という注目度の高い問題に焦点をあてて、源流管理、適度な監督管理と誘導、責任と義務の強化といった措置を通じて、市場主体が自律し、政府が法に依拠し監督管理を行い、社会が共同で監督し、中小企業に対する代金支払遅延を未然に防ぎ、解消するための法制度を構築するものである。中小企業は、告知等の義務を積極的に履行し、「条例」における契約の約定、苦情申立て・救済等に係る規定を活用し、法に依拠し自身の権益を守り、債権を確実に回収できるようするとよい。

(里兆法律事務所が2020年9月8日付で作成)

[1] 企業の所属業種は国家標準GB/T4754-2017「国民経済業種分類」に基づき判断するとよい。「中小企業分類基準規定の公布に関する通知」、「統計上の大、中、小、零細型企業分類弁法(2017)」に記載されていない業種については、個別に規定を設けているかどうかについて照会することができる。例えば、金融業の中小企業分類基準は「金融業企業分類基準規定」に定められている。

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