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2020年度版「上海市不正競争防止条例」を読み解く

中国ビジネスレポート 法務
裴徳宝

裴徳宝

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2021年8月16日

2020年10月、上海市人民代表大会常務委員会が「上海市不正競争防止条例」(以下「条例」という)を改正し且つこれを採択した。「条例」は、上位法の直近に改正された内容に基づき調整を行い、不正競争行為について詳細な規定を行っている。本稿は、「条例」の改正内容を全体的に整理したうえで、そのうちの不正競争行為に焦点をあてて考察し、「条例」が企業の運営に与える影響を分析し、且つコンプライアンス方面での助言を行うものである。

■「条例」の改正に至った背景

 ここ数年、良好なビジネス環境を創出するために、中国において市場環境の秩序に対する監督管理強化の動きが強まっている。また、技術と経済の急速な発展に伴い、新たなビジネススキームと競争方式が続々と出現し、立法の次元からこれに関連する法律法規の更新も行われている。「中華人民共和国不正競争防止法」(以下「不正競争防止法」という)が2017年と2019年の2度の改正を経ていることから、上海市人民代表大会常務委員会は不正競争防止法の上海における法執行の経験を踏まえながら、2011年度版の「上海市不正競争防止条例」(以下「旧条例」という)を上位法に基づき改正し、そうして「条例」が形成され、「条例」は2021年1月1日から発効している。

■「条例」の改正内容

 「条例」は、総則、不正競争行為、不正競争が疑われる行為の調査、不正競争防止体制の構築、法的責任、附則という計6つの章節に大きく分かれ、計三十三条から成る。

全体として見てみると、「条例」は上位法に基づき、「旧条例」の規制対象を広げ、非営利性事業者[1]の行為を規制対象としている。「条例」は、政府及び各部門の役割分担を詳細に定め、政府と市場監督管理部門が当該職責を負うほか、財政、文化観光、民政、スポーツ、商務、公安等の各部門も各々の職責範囲内で不正競争行為の防止と取り締まり・処分実施の責任を負うとしている。また「条例」は、新たに追加された不正競争防止体制の構築に係る章節において、事業者、社会における一般主体、業種組織、監督検査部門等の観点から、これらの主体が不正競争を防止する環境を整えていくうえで如何に取組むべきかについて指導意見を述べており、その中で「条例」は、事業者が商業賄賂防止等の不正競争を防止するための健全な管理制度を構築するよう奨励し、またすべての組織及び個人が不正競争行為に対して社会的次元での監督を行うことを奨励し、支援し、保護するとしている。

さらに重要なこととして、「条例」は、係る不正競争行為を取りまとめて詳細化していることである。ここで、筆者はそのうちの重要な修正点をピックアップして下表に整理し、且つ企業のコンプライアンスに則した運営に際しての注意点等を紹介する。

関係規定の比較分析

企業への影響及びアドバイス

混同惹起行為について[2]、「条例」は上位法における関係規定をベースにして、「一定の影響力を有する他人の商品の独特な形状、番組コラム名称、企業のロゴ、ネットショップの名称、オウンドメディアの名称若しくはロゴ、アプリケーションソフトの名称若しくはアイコン等と同一の又は類似する標識を無断で使用する」といった混同惹起行為を新たに追加している。

同時に、「条例」は「標識」、「使用行為」の概念について解釈を行い、且つ係る標識を先に使用した事業者は従来の使用範囲内で引き続き使用できることを明確にしている。

このほか、「条例」は、「一定の影響力を有する他人の標識をキーワード検索に紐付けさせる」ことは、混同惹起行為を幇助する行為であることを明確にしている。

「条例」では混同惹起行為の列挙を追加し、且つ具体的な解釈を行うことで、条項の運用性を高め、混同惹起行為をより識別しやすくしている。

混同惹起行為を防止するために、企業はコンプライアンス体制を構築するに際して、以下の点にとりわけ注意を払う必要がある。

1)企業又は製品の標識を選択するに際して、必要に応じて検索と評価を事前に行い、一定の影響力を有する他人の商品の独特な形状、番組コラム名称、企業のロゴ、ネットショップ名称、オウンドメディアの名称若しくはロゴ、アプリケーションソフトの名称若しくはアイコン等と同一の又は類似するものを使用することは極力避けること。

2)企業又は製品の宣伝時に、インターネット上での「キーワード検索」方式を利用した「便乗」行為を避けること。

不正競争行為に係る争いが発生した場合、企業は自己の行為が合法的な先使用に該当するか否かを見極め、従前の使用範囲内での使用継続行為であることを主張するとよい。

商業宣伝行為について[3]、「条例」は、上位法における関係規定をベースにして、列挙プラス包括条項の形で、「商業宣伝行為」、「誤解を招く商業宣伝」について詳細な規定を行っている。

■「条例」ではインターネット等情報ネットワークを通じて商品の展示プロモーションを行う行為は商業宣伝行為に該当することを明確にしている。商品について一面的な宣伝又は比較をし、第三者のデータ若しくは結論等の内容を前提条件若しくは必要な情報を無視して使用したり又は全く引用しなかったり、科学的に定説として確立されていない観点若しくは現象を定説として確立した事実として扱うなどした状況下で一般大衆の誤解を招くに足りる場合、誤解を招く商業宣伝行為であると認定することができる。

同時に、「条例」では、他の事業者が販売数量、ユーザーレビュー、アプリランキング、検索順位等を偽る又は誤解を招く商業宣伝を行うことを幇助する状況を列挙し、且つ被幇助者が係る商業宣伝を完成させたか否かは幇助者の違法行為の認定には影響しないことを明確にしている。

左記の詳細な規定により、係る行為の定性が明確になり、企業の宣伝行為に係るコンプライアンス体制の構築における大きな指針となる。

「条例」で規制される商業宣伝行為が発生しないよう、企業はコンプライアンス体制の構築に際して、以下の点にとりわけ注意を払う必要がある。

1)商業宣伝を行うに際しては、情報の真実性、確度に注意を払い、商品の一面的な宣伝とならないようにし、また異なる解釈の生じ得る言い回しを避けること。商品の宣伝を行うに際しては、科学的に定説として確立されていない観点若しくは現象を定説として確立した事実として扱ってしまうことも避けなければならない。

2)他の組織又は個人が商業宣伝を行うことを手伝う場合、架空取引、嘘の評価、物流ラベルの偽造、やらせレビュー等を行わないよう注意する必要がある。また、他の組織又は個人が行う虚偽の若しくは誤解を招く商業宣伝に対して、アレンジ、企画、作成、配信等のサービス及び資金、場所、ツール等を提供することなども避けなければならない。

営業秘密侵害行為について[4]、「条例」は上位法の関係規定をベースにして、列挙プラス包括条項の形で、「営業秘密」の範囲について更なる解釈を行っている。

「条例」は、営業秘密に対して講じるべき秘密管理措置をさらに列挙している。

企業は、「条例」における秘密管理措置に関する規定を参考にして、自社の価値ある非公開の商業情報に対して以下の一つ又は複数の措置を講じて、営業秘密の秘密管理性要件を十分に満たすようにしておくとよい。

1)秘密情報の開示対象範囲を限定しておくこと。

2)秘密情報の媒体上に施錠したり、秘密である旨の表示等の措置を講じておくこと。

3)秘密情報に対しパスワード又はコード等を設置しておくこと。

4)関係者と秘密保持協議書を締結する又は関係者に秘密保持を要求しておくこと。

5)秘密情報に係る機械、工場建屋、作業場等設備、場所への来訪者を制限し、又は秘密保持を要求する等の秘密管理措置を講じておくこと。

不当な景品付き販売行為について[5]、「条例」は上位法における関係規定をベースにして、「景品付き販売情報が不明瞭である」、「景品付きであると偽る」とされる状況を列挙し、且つ最高賞の金額が5万元を超える状況には、「1回の抽選における金額が5万元を超えること」及び「累計金額が5万元を超えること」が含まれるとの解釈を行っている。

このほか、景品付き販売活動の開始後、事業者は景品イベントの名称、参加条件、抽選実施方法、景品引き換え方法等の情報を無断で変更してはならず、また条件や制限をさらに設けてはならないが、消費者に有利になる場合を除くとしている。

「条例」で規制している不当な景品付き販売行為が生じないよう、企業は景品付き販売活動を展開するに際して以下の点にとりわけ注意を払う必要がある。

1)明示する景品イベントの名称、参加条件、範囲及び方式、抽選実施日と方法、賞金金額等の要件を明確に説明すること。

2)景品の価格、品名、種類、数量を明確に説明すること。

3)景品引き換え日、条件、方法、景品の引渡し方法、当選権利放棄の条件、主催者及びその連絡先を明確に説明すること。

4)景品イベントの名称、景品、賞金の金額を偽りなく設置し、明示した情報通りに景品引き換えを行うこと。

■虚偽の又は誤導するような情報を捏造し、拡散させる行為について[6]、「条例」は上位法における関係規定をベースにして、係る情報を「他人に指図して捏造、拡散させる」行為もまた規制の対象とすることを追加している。

■「条例」では、競合他社の商品に関する虚偽の又は誤導するようなリスク情報の提示もまた規制の対象となることを明確にしている。

■同時に、「条例」では列挙プラス包括条項の形で「拡散」の概念を説明している。例えば、特定の又は不特定の対象者に対して、声明文、顧客への手紙などの形で情報を伝達する行為、関連情報をマスメディアや情報ネットワークを利用して拡散させたり、他の者と組んで拡散させたり、他の者に拡散させるよう指図する行為、他の者と組み又は他の者に指図して消費者の名の下に競合他社の商品を評価し、関連情報を拡散させる行為等である。

■「条例」で規制している虚偽の又は誤導するような情報を捏造し、拡散させる行為が生じないよう、企業は以下の点にとりわけ注意を払う必要がある。

1)情報の真偽が定かではない場合は、オンライン又はオフライン上でいかなる第三者にも悪意をもってその情報を流さないこと。

2)他の者と組んで、又は他の者に指示し消費者の名の下で競合他社の商品を評価し、虚偽の情報若しくは誤導するような情報を拡散させてはならない。

3)競合他者の商品に対し、虚偽の又は誤導するようなリスク情報を提示してはならない。

■技術的手法を利用したインターネット上の不正競争行為について[7]、「条例」は上位法における関係規定をベースにして、その行為類型として、「他の事業者が合法的に提供するネットワーク製品又はサービスを正当な理由なく、遮断、閉鎖する等の妨害行為」、「ユーザーの意思に反してアプリケーションプログラムをダウンロード、インストロール、実行することにより、他の事業者が合法的に提供する設備、機能又はその他プログラムの正常な稼動を妨げる」、「基本的な機能以外のアプリケーションプログラムにアンインストール機能を提供しない又はアプリケーションプログラムのアンインストロールを妨害することにより、他の事業者が合法的に提供している設備、機能及びその他プログラムの正常な稼動を妨げる」という3つの行為を新たに追加し、且つこれら3つの行為は、他の事業者が合法的に提供するネットワーク製品若しくはサービスの正常な稼動を妨げる行為に該当することを明確にしている。

■「条例」で規制される技術的手法を利用したインターネット上の不正競争行為が生じないよう、企業は以下の点にとりわけ注意を払う必要がある。

1)正当な理由がある場合を除き、他の事業者が合法的に提供するネットワーク製品又はサービスを妨害しないこと。

2)ダウンロード、インストロール、実行に係るアプリケーションブログラムを設置するに際しては、ユーザーから明示的同意を得たうえで、他の事業者が合法的に提供する設備、機能又はその他のプログラムの正常な稼動を妨げないようにすること。

3)当該プログラムが基本的な機能のアプリケーションブログラムに該当することを証明できない場合、アンインストロールできるようにし、係るプログラムのアンインストロールを妨げないようにすること。

■終わりに

 「条例」は不正競争行為の方面において、企業向けにさらに明確なガイドラインを示すと同時に、また政府部門の次元においては各部門の権責を明確にしており、不正競争行為を防止するための法執行の効率をさらに高め、企業にはより良質のビジネス環境を提供するうえで有益である。

企業は運営過程において、上表に紹介したアドバイスをもとにコンプライアンス体制の構築を展開していくとよい。なお、「条例」の規定によると、企業が不正競争防止法違反の疑いで、行政機関、司法機関による調査を受けた場合、当該企業における内部制度の構築とその実施状況が企業に係る責任を負わせるかどうかの判断要素になり得るとされている。したがって、企業の運営過程における不正競争防止法違反のリスクを軽減できるよう、企業は自社のコンプライアンス体制の構築を自主的に推し進め、商業賄賂等の不正競争行為を防止するための健全な管理制度を構築していくのが好ましい。

また「条例」では、上海市が長江デルタ(以下「長江デルタ」と言う)地域における不正競争行為防止作業の実施を推し進め、地域の枠を超えた連携と連動型の法執行体制を展開し、法執行情報の共有、法執行基準の統一を実現させ、長江デルタ地域における不正競争行為防止に係る重大な政策面での調和と市場環境の最適化を進めていくことに言及している。これは、「条例」が長江デルタ地域における最新の不正競争防止条例として、長江デルタ地域内の他の省及び市における法律整備及び法執行に一定の影響を与えるものであり、また長江デルタ地域における法執行基準の一本化を促進し、長江デルタ地域の企業にとっての大きな利点となり、中国全土の企業にとっても大いに参考に資するものであることを意味している。

里兆法律事務所が2021年3月19 日付で作成

[1] 「旧条例」は「営利性」サービスに従事する主体のみを規制対象としていた。実際には、幼稚園、高齢者介護施設等の非営利性主体も同様に事業活動に従事し、市場競争に参加している。「条例」では「不正競争防止法」の規定に基づき、「営利性」という表現を削除しており、このことは非営利性の事業者の行為も規制対象になることを意味している。

[2] 当該条項の詳細は、「不正競争防止法」第六条、「条例」第八条を参照。

[3] 当該条項の詳細は、「不正競争防止法」第八条、「条例」第十条、第十一条を参照。

[4] 当該条項の詳細は、「不正競争防止法」第九条、「条例」第十二条、第十三条を参照。

[5] 当該条項の詳細は、「不正競争防止法」第十条、「条例」第十四条を参照。

[6]当該条項の詳細は、「不正競争防止法」第十一条、「条例」第十五条を参照。

[7] 当該条項の詳細は、「不正競争防止法」第十二条、「条例」第十六条を参照。

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