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海外拠点の闇〜不正リスクポイントと対策 01

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2021年8月19日

不正との戦い…これをテーマに選んだ動機

■あるベテラン駐在員からの助言

海外事業において、「不正」との付き合いは避けて通れないといっても過言ではないでしょう。厳重注意で済ませられるものから、現地経営に深刻な影響が生じる、日本の社長が引責辞任するなど重大なダメージを受けるものまでさまざまです。

発覚した不正にどう対処するかも大切ですが、最も理想的なのは、そもそも不正が起きないこと、怪しい動きは芽のうちに摘んでおくことです。

しかし、特にアジアではなぜか、そう思わない経営者が非常に多いのです。

私も中国に来たばかりの頃、あるベテラン駐在員に言われました。「あのね、小島さん。実を言えばウチだって不正はそこら中に埋まってるよ。でも、アジアでこれは必要悪。手を突っ込み出したらキリがない。郷に入れば郷に従えでしょ。ある程度は目をつぶってやってかないと仕事はできんよ」。

当時は自分も初めての異文化体験のど真ん中だったので、この言葉の印象は強烈でした。ベテランの割り切りはすごいと思ったものです。

でも、あるきっかけを経て、「やっぱり悪いことをする人を見過ごしてはならない」と思うに至りました。その体験を少しお話しします。

■自分が経営者として痛烈に感じたこと

中国で最初に私が経営を任されたのは、(着任してみてわかったのですが)売上もゼロなら仕事もゼロ、このままなら間違いなく半年で資金がショートするという会社でした。採用も含めて最初から事業をやり直せればいいんですけど、社員はもういるし、創造性も生産性も専門性もない仕事が当たり前になってしまっている。マイナスからのスタートでした。

その時のメンバーに、どうしても私と合わない社員が二人いました。一人は投資方からお目付役で送り込まれた出向者で、国有企業の事務員タイプ。仕事に対する熱意が全くない人でした。もう一人は最年少の女性で、誰かがちょっとまじめに働こうとすると横から茶々を入れて冷やかし、場を白けさせていました。

そんなある日、事件が起きました。夏の夕刻、何人かの社員が会議スペースにこもって出てきません。ボソボソと話し声が聞こえ、明らかにいつもと様子が違う。もう定時を過ぎてるのに何やってんだろう、とのぞいてみると、みんな目を真っ赤にして、一人は明らかに泣いていたようでした。これはただごとではないと無理やり聞き出すと、例の最若手に、「あんたたち、最近なに頑張っちゃってんの、日本人のイヌみたいね、ふふ」と鼻で笑われたと言うのです。

歴史的な背景から、「日本人のイヌ」という言葉は中国人にとって字面以上の侮辱の意味を持ちます。よほど悔しかったんでしょう。皆、ぶつけどころのない怒りに震えていました。

この時、私は腹をくくりました。ここにいる社員たちをちゃんと守らなかったら、会社はもうダメだ。それまでは「あの二人、自分から辞めてくれたらいいな?」などと考えているだけでしたが、これで心が決まりました。あまりに強烈な体験だったので、西日が入る部屋の情景まで目に焼き付いています。私の組織づくりの原点です。

とはいえ「ハイ、解雇」というわけにもいかず、二人を何とかしなければいけないと思ってから実際に成し遂げるまで数か月かかりました。もう顔を見るのもイヤ、あと1日も耐えられないと、日々、心が揺れました。

後になってみると、この時期も自分にとっては財産になっています。問題社員を切るに切れない経営者の気持ちもわかるし、我慢して我慢して、視界が晴れた後に訪れる平和の素晴らしさも骨身にしみてわかります。

二人が去ると、組織のまとまりは段違いによくなりました。新人も採用し、手探りではありましたが、冷めた目で眺めたり余計なまぜっ返しをしたりする人はいなくなり、全員が一緒に試行錯誤してくれる。私にとってはそれが励みであり、他に何もなかった組織にとって唯一の、そして強力な取り柄となりました。

この経験から、やっぱり組織はまじめな社員を守らなきゃダメだと痛感しました。悪いことをする人というのは、周囲に負の影響を及ぼします。ベテランの助言ではあるけれど、私は放置せず、自分の感覚を優先してやっていこうと決意しました。

■無数の戦いを通じて体得したこと

その後、さまざまな揉め事の相談を受け、トラブルの火消しをやってきました。不正の手口というのは本当に感心するほどあります。一つとして同じ局面は現れません。場数を踏んでいくと、経験値はどんどん上がっていき、やらかす側よりもこっちの方が悪事の引き出しが多いという状況になってきました。

どんな不正でも、腹を決めて立ち向かうと何とかなるものです。相談者が覚悟を決めていて、こっちも全力で取り組んだのに、相手の方が上手でどうしようもなかったという案件は今まで一つもありません。もちろん全く犠牲を払わずに済んだものばかりじゃないですけれど、相手に肉を切らせても、骨はしっかり断ってきました。

皆さんには、自分や会社のためだけじゃなく、ちゃんと仕事をしている中国の社員たち、日系企業全体の名誉と信用のためにも、「中国だから」と諦めず、「ダメなものはダメ」を貫いてほしいです。中国に来たばかりの私には助けてくれる人はいなかったけど、今なら私たちやチームの弁護士が相談に乗れます。本社対策から裁判まで、助けられる力を持っています。

■駐在員経営の弱点

厄介なのは、不正との戦いは1回で終わらないことです。日系では駐在員が入れ替わるたびにリセットされ、過去が繰り返される。日本本社から支援してくれた人も異動でいなくなったりして、経験が継承されません。

正直なところ、駐在員も千差万別で、会社をよくしたいと強い気持ちを持って赴任する人もいるし、そんな使命感は全然ない人もいる。すると、せっかく2~3年かけて問題を片付けても、退治した人がいなくなると、また次の問題が蓄積されはじめる。後任者が熱心に対応するとは限らないので、長いスパンで見たら最初の問題を退治する前より事態が悪化してしまうこともあります。これは本当に悔しいです。

この不毛な繰り返し、賽の河原の石積みを何とか脱却できないか。もしかしてネットに書いておけば、困った人が検索してたどり着いてくれるかもしれない。そんな思いから、このコラムで扱うことにしました。

ここで「ダメなものはダメ」を貫こうとする人たちを勇気づけたり、具体的な手口を紹介して、ズル賢い従業員にやり込められないための知恵をお貸しできたりしたらと思っています。

次回から、具体的な不正が組織のどこで起こるのか、部門・領域ごとにポイントを紹介します。

(続く)

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