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敵が見えない時代の中国拠点マネジメント⑩駐在員は傷ついている

中国ビジネスレポート 組織・経営
小島 庄司

小島 庄司

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2024年7月2日

■ 広がる情報格差

これまで現地属人化すると起こる事態を見てきました。今回は、現地属人化が進んでしまう背景にはどんな事情があるのか考えてみましょう。

一つは、中国現地の情報に疎い会社が想定外に多いということです。コロナの時期を経て、情報格差は広がっているような気がします。詳しい人は詳しいけれど、中国に事業を展開しているのに、まったくキャッチアップしていない会社もあります。日本のウチとソトの壁が厚く高くなっているのかもしれませんね。

少なくとも中国において、私はこう感じますが、他国のことに詳しい方は、この辺をどう見ているのでしょう。お便りいただけたら嬉しいです。

中国の現地責任者と話すと、いちばん困っているのは、自分たちの置かれている状況や近未来に起こり得る事態について、日本側が理解しようとしないことだと言います。

どう伝えたら日本側に問題を認識してもらえるのか。どう言えば本気で対応策を講じたり、現地で必要な判断・決裁をしたりしてくれるのか。日本側の理解・支援がなさすぎて現地駐在員は本当に困っています。それ以前に関心の薄さに傷ついているようにも見えます。

二言目には「現地のことは現地に」。日本側にいる多くの人たち、特に意思決定権を持つ人が、結果にしか関心を向けようとしない。日本側が理解するための努力を一切していないケースは驚くほど多くて、日本は海外事業に興味がないのかなと思うほどです。

もちろん、高い壁の中に閉じ込もっている人ばかりではありません。日本から出たことがなくても、情報感度が高い人はいます。いろいろな場所に行き、いろいろな人に話を聞き、熱心に研究している。いまの時代、SNSを活用するだけでもいろんなことがわかります。知ろうと思えば、多少偏っているにせよ、情報を得ることはできますよね。

情報に触れるだけで、現地との向き合い方は大いに変わるはずです。なのに、マメに報告を上げても見てくれない、相談しても梨のつぶて、と駐在員たちが嘆いているのが現実……。売上の大部分を海外に依存するようになれば、多少は変わるでしょうか。

■ 業績好調の裏で起こっていること

顕著なのは自動車業界です。円安もあって、いま日本の業績は絶好調。過去最高益を挙げ、需要が多すぎて受注をストップする事態になっています。北米も欧州も好調という一方で、中国は芳しくありません。東南アジアではEVドミノでどんどん中国勢が進出していて日本勢のシェアは危険な状況になっている。

でも、足元が最高益だとアジアの現実は誰も見ようとしません。「中国市場の魅力も下がってきたし、商売もやりにくくなってきたし、ひとまず現状維持でいい。グローバル事業における中国の位置付けを下げよう」。日本側はこんな感じになっています。

現地は「このままだと現状維持も無理」「日本が得意だった市場も取られそう」「手をこまねいていたら一気にひっくり返される」と悲鳴をあげているけれど、全然本社に届かない。いま手を打たないとグローバルレベルで中国にやられると報告しても、社内の主流派からは「こっちは中国のことばかり考えていられないんだよ」と白い目で見られてしまいます。

こうした感覚の経営層は、ちょっと現地視察に来たって変わらないです。役員登用の段階で「アジア拠点を4年以上経営していない人は立候補できない」というぐらいの制度改革をやってほしいですね。そういう仕組みにしないと、少なくない日本企業でゆでガエル化が進んで、気づいたときには手遅れにならないか危惧しています。

■ 靴に合わせて足を切る愚

もう一つ、現地属人化の背景を挙げておきます。

規模が大きく、グローバルに拠点を持つ会社の場合、各拠点間の幹部の人事制度を統一したいという意向を強く持つところが多いです。ところが、契約主義・ジョブ型に馴染む欧米拠点をベースとした制度を、中国のような拠点で形だけ統一導入してもうまく行きません。

無理にあてはめると組織が機能しなくなるため、結局は現地で陰のルールや基準を作って運用することになります。

一方、グローバルに整合性を取りたい本社側は、中国でも現地から副社長クラスを登用しろとか、何年以内に部長を何人出せ、みたいな指示をしてきます。

現地では数合わせのために資質のない人材を無理やり昇進させなければならない。本社の指示なんだから、現地としてはしょうがない。まさに靴に合わせて足を切る、になっています。資質のない人に権限を持たせれば、その後の惨事は容易に想像できます。

日本は日本で、グローバル人材になんてなりたくない、海外に魅力を感じないという風潮が、特に若手の間で顕著になっていたりします。駐在員を出そうにも人材がぜんぜん足らない。結果、現地は数合わせで渋々昇進させ、本社は「現地でポジションを埋めたんだから駐在員は減らしてもいいだろう」。どんどん悪循環が加速します。

人事部門にとっては、強い組織をつくることでなく、統一制度を導入したり、自社のグローバル人材バンクの形をきれいにすることが目的になってしまったりしている。組織の健全化や成長を阻害する「整った人事制度」なんて、本末転倒だと思いませんか。こんなところにも現地属人化の罠は潜んでいます。

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