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「民法典」を背景にした職務代理と企業のリスク対策

中国ビジネスレポート 法務
沈偉良

沈偉良

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2021年9月14日

概要

職務代理は企業が経営活動を行ううえで必要なものである。「民法典」が2021年1月1日から正式に発効し施行され、職務代理は「民法典」の第170条に登場している。本稿は、「民法典」における代理制度の新体系を基に、企業の経営活動における職務代理制度の実運用上の問題を踏まえ、「民法典」を背景にした職務代理の規定を考察し、企業の経営活動における職務代理制度の運用に係るリスク及びその対策について助言を行うものである。

本文

 一、「民法典」における職務代理の解釈

職務代理(agency in duty)とは、代理人が法人又は非法人組織における自己の職務に基づき、自己の職権に従い当該法人又は非法人組織に代わって対外的に民事法律行為を行うことを指す。職務代理について、「民法通則」においては規定を設けずに、企業法人の責任負担の観点から、同通則の第43条[1]に規定を設けた。「民法通則意見」においてはその第58条を通じて、これをさらに整備しているが、これらは厳密に言えば、職務代理とは性質を異にするものである。2017年10月1日から実施されている「民法総則」において、「職務代理」の条項が初めて新たに設けられた。その後、取引の安定を維持し、善意の相手方を保護することに重点を置くことを立法目的として、「民法典」の総則編において、「民法総則」に定める職務代理を下表の通り踏襲している。これら法律の沿革情況は下表の通りである。

「民法通則意見」

(すでに失効している)

「民法総則」

(すでに失効している)

「民法典」

(現行有効)

第58条  企業法人の法定代表者及びその他スタッフが法人の名で従事した経営活動により、他人に経済的損失をもたらした場合、企業法人が民事責任を負わなければならない。

第170条  法人又は非法人組織の業務任務を遂行する者がその職権範囲内の事項につき、法人又は非法人組織の名で民事法律行為を行うとき、法人又は非法人組織に対して効力が生ずる。

法人又は非法人組織が業務任務を遂行する者の職権範囲を制限していることをもって、善意の第三者に対抗してはならない。

第170条  法人又は非法人組織の業務任務を遂行する人員が、その職権範囲内の事項について、法人又は非法人組織の名で民事法律行為を実施した場合には、法人又は非法人組織に対して効力が生ずる。

法人又は非法人組織が業務任務を遂行する者の職権範囲を制限していることをもって、善意の第三者に対抗してはならない。

「民法典」における「代理」に係る章の体系構成から言えば、職務代理は委託代理に係る特別規定であり、職務代理の規定をもって法律問題を解決することができないときにはじめて、委託代理に係る一般規定が適用されることになる。

「民法典」第170条第1項は主として、職務代理の構成要件及び法律効果を規範化している。端的に言えば、業務任務を遂行する人員(行為者と被代理人との間では労働関係又はその他雇用関係、ひいては名義借り関係にある)でなければならず、且つ自己の職権範囲内において企業の名で対外的に行った職務上の行為であることが職務代理の構成要件であり、またその法律効果は当該法人又は非法人組織に帰属することを定めている。

「民法典」第170条第2項は、相手方が「善意」であれば、職務代理行為は適法且つ有効であることを定めている。

相手方が「善意」であるか否かの判断は、民事分野と商事分野とでは異なる。民事分野においては大抵の場合、自然人が「事情を知らなかった」状態にあれば、法律上「善意」であると推定されることになり、善意ではなかったことの証明責任は相手方が負うことになる。これに対し、商事分野においては、商人の理性的な思考能力、注意義務は普通の自然人とは大きく異なっており、商人の場合、善意は積極的な善意[2]であることを意味し、つまり商業上の審査義務を積極的に履行しなければならないといった内包的意味合いを持つことになる。このため、商事分野において「善意」であると推定されるには、「事情を知らなかった」ことに加えて、「商業上の審査義務を積極的に履行している」といった要件も満たしている必要がある。具体的には以下の通り。

(1)「事情を知らなかった」とは、相手方が当該従業員による職務代理行為は越権行為であることを知らなかった又は知るはずがなかったことを指す。通常、代理人の職位職責範囲又は職務に対するビジネス社会における社会通念に照らして判断する必要がある。

(2)「商業上の審査義務を積極的に履行している」とは、相手方が慎重審査義務をしっかりと果たす必要があることを指し、例えば、企業の公印、授権者のサイン、株主会/董事会決議等に対して形式審査を行う必要がある。

特に断りのない限り、後文における「善意」は、商事分野における相手方が「善意」であることを指している。

二、企業の経営活動における職務代理と無権代理及びその他代理、代表との違い

 法律規定から見れば、職務代理と無権代理との間では部分的に重なっているところがある。具体的には下図の通りである。

企業の経営活動において、対外的に民事行為(例えば、契約の締結)を行う人員によって、その行為によってもたらされる法律効果は異なる。以下では、有限責任会社を例に挙げて、その主な違いをまとめている。

区分

株主

法定代表者

董事、監事

その他人員

(総経理、財務責任者、その他スタッフを含む。以下では「従業員」と総称する)

權利の出所

株主は出資比率に応じた議決権しか持たず、会社は設立の登録を完了すれば、独立した財産と独立した人格を有することになるため、株主は会社に対して代表権又は代理権を有さない。

法定代表者は会社に対して当然に代表権を有するため、会社の定款又は権力機関によって法定代表者の代表権が制限されているとしても、善意の相手方に対抗してはならない。

他の国とは異なり、中国においては、法定代表者が一人だけである(董事長、執行董事又は総経理からしか選定できない)。

董事、監事は株主代表として、会社に対して管理、監督の職責を履行し、「会社法」に定める特定の場合[3]を除いては、会社に対して代表権又は代理権を有さない。

会社に対して代表権又は代理権を有さない。

会社の権力機関又は法定代表者による授権を得る必要があるか

必要

不要

必要

必要

会社の名で対外的に行われた民事行為の法的性質及び法律効果の帰属

民事責任は株主が負うことになるが、表見代理が成立する場合には[4]、会社が負うことになる。

会社自身の行為に相当し、その法律効果は会社に帰属する。

表見代理又は職務代理が成立する場合があり、その法律効果は会社に帰属する。

職務代理が成立する場合があり、その法律効果は会社に帰属する。

三、企業の経営活動における職務代理の「問題対応」

 企業の参考に供するべく、企業の経営活動においてよく見受けられる職務代理に関係する又は類似する行為を以下の通り列挙している。

Q1:被代理企業と労働契約を締結していない労務派遣、定年退職後の再雇用、兼職、業務委託等人員による職務代理行為は有効であるか?

「民法典」170条第1項によると、法人又は非法人組織の業務任務を遂行する者が、自己の職権範囲内の事項に関して、法人又は非法人組織の名で行った民事法律行為は、法人又は非法人組織に対して効力が発生することになっている。
職務代理については、「業務任務を遂行する人員」であることが強調されているのであって、企業との間で労働契約を締結している従業員であることは必須条件にはなっていない。司法実践においても、労務派遣、定年退職後の再雇用、兼職、業務委託等の人員について職務代理が成立した事例が多数存在している。
従って、企業のために業務任務を遂行し、しかも相手方が善意であった場合、労務派遣、定年退職後の再雇用、兼職、業務委託等の人員が行った職務代理行為も適法且つ有効である。

Q2:従業員が経営範囲を逸脱して、企業の名で善意の相手方と契約を締結する行為は適法且つ有効であるか

「民法典」第505条によると、当事者が経営範囲を逸脱して締結した契約の効力は、本法第1編第6章第3節及び本編の関連規定に照らし確定しなければならず、経営範囲を逸脱していることのみをもって、契約が無効であることを確認してはならないことになっている。

従って、経営制限、フランチャイズ、経営禁止に係る国の規定又は効力に関する法律、行政法規の強行規定に違反している場合を除き、従業員による経営範囲を逸脱した職務代理行為は通常、適法且つ有効である。

Q3:従業員が企業の許可を得ずに、企業の公印を盗用し、又は公印を偽造して、企業の名で善意の相手方と締結した契約の効力はどうなるか?

 「全国裁判所民商事審判作業会議議事録」(「九民紀要」とも言う)の第41条によると、司法実践において、意図的に公印を2個ひいては数個作成している会社もあり、また、法定代表者又は代理人が勝手に公印を作成して、届出を行っていない公印又は偽物の公印を契約締結時に悪意をもって捺印し、紛争が発生した時に、偽物の公印が捺印されていることを理由に、法人が契約の効力を否認するケースは少なからずある。人民法院は事案を審理する際、契約締結者は捺印時に代表権又は代理権を有していたか否かを主に審査し、代表又は代理の関係規則に基づき契約の効力を確定するようにしなければならない。法定代表者又はその授権を受けた者が契約に法人の公印を捺印する行為は、契約が法人の名で締結されたことを意味することになるため、「会社法」第16条等の法律にその者の職権について特段の定めのある場合を除き、法人が係る法律効果を負わなければならない。法定代表者の代表権は事後的に消滅していること、捺印されているのは偽物の公印であること、捺印されている公印は届出を行っている公印と一致していないこと等を理由に、法人が契約の効力を否認しても、人民法院はこれを支持しない。代理人が被代理人の名で契約を締結するに際しては、適法に授権を受ける必要がある。代理人が適法に授権された後、被代理人の名で締結した契約について、被代理人が責任を負わなければならない。代理人の代理権は事後的に消滅していること、捺印されているのは偽物の公印であること、捺印されている公印は届出を行っている公印と一致していないこと等を理由に、被代理人が契約の効力を否認しても、人民法院はこれを支持しない、ということになっている。

従って、従業員が企業の許可なく、企業の公印を盗用した、又は公印を偽造し、企業の名で善意の相手方と契約を締結した場合、契約は有効である。その場合、企業はこれによって生じた損失を従業員に求償する権利を有する。

 Q4:従業員が離職後も、企業の名刺、紹介状、委任状、捺印された白紙の契約書等の職務上の書類を所持したまま、企業の名で善意の相手方と締結した契約の効力はどうなるか?

「民法典」第172条によると、行為者が代理権を有さず、代理権を逸脱し、又は代理権が終了してもなお代理行為を実施し、相手方が行為者に代理権があると信じるに足る理由がある場合、その代理行為は有効であるとしている。

従って、従業員が離職した後、企業が関連する職務上の書類を適切に回収しておらず、また合理的な方法で相手方に通知しておらず、相手方が「従業員に代理権があると信じるに足る理由がある」場合、表見代理が成立し、契約は有効である。企業は、これによって生じた損失を当該離職した従業員に求償する権利を有する。

しかし、相手方が事情を知っていた、又は相手方に過失がある場合(例えば、慎重審査義務をしっかりと果たしていなかった場合)、当該離職した従業員の行為は無権代理となり、表見代理は成立しないことになる。企業はそれを追認しないことができ、その場合、当該離職した従業員によって締結された契約も企業に対して効力を生じない。

Q5:法定代表者が企業の名で締結した契約に公印が捺印されていない場合、契約の効力はどうなるか?

「民法典」第61条によると、法律又は法人の定款の規定に基づき、法人を代表し民事活動を行う責任者が法人の法定代表者であり、法定代表者が法人の名で行った民事活動の法律効果は、法人が負う。法人の定款又は法人の権力機関により、法定代表者の代表権が制限されていることをもって、善意の相手方に対抗してはならないことになっている。

企業の日常的な経営活動において、法定代表者は法律規定によって、会社を代表して経営活動に対外的に従事する絶対的自由が与えられているため、法定代表者が企業の名で締結した契約は公印が捺印されていなくても、適法且つ有効である。

Q6:行為者が企業の公印、契約書又は委任状等を偽造し、企業の名を冒用し、善意の相手方と締結した契約の効力はどうなるか?

 「民法典」第171条第1項によると、行為者が代理権を有さず、代理権を逸脱し、又は代理権が終了してもなお代理行為を実施し、被代理人によって追認されなかった場合、被代理人に対して効力が発生しないことになっている。

従って、契約は企業に対して効力が発生しない。企業は行政部門、公安部門に苦情を申し立て、通報し、当該行為者の法的責任を追及することができる。

 Q7:従業員の職務外の個人的な行為によって、職務代理が成立するのか?

 「民法典」第170条第1項によると、法人又は非法人組織の業務任務を遂行する人員が、その職権範囲内の事項について、法人又は非法人組織の名で民事法律行為を実施した場合には、法人又は非法人組織に対して効力が生ずることになっている。

職務代理に係る3つの構成要件(業務任務遂行、職権範囲内の事項、企業の名)と合わせて考察する必要がある。例えば、従業員が企業の名で行動し、従業員の行為が行われた場所が企業の会議室であり、従業員の行為は自己の職権範囲内のものと関連性がある場合、従業員の行為は職務上の行為であるかのような外観を呈することになるため、善意の相手方に対して職務代理が成立する可能性もある。逆に言えば、職務代理に係る3つの構成要素と全く関係のない個人的な行為によって、職務代理が成立することはないということになる。

Q8:企業内における職位職責範囲を逸脱した職務代理行為は有効であるか?

 「民法典」第170条第2項によると、法人又は非法人組織が業務任務を遂行する者の職権範囲を制限していることをもって、善意の第三者に対抗してはならないことになっている。

職務代理は委託代理とは異なる。委託代理の場合、明確な授権書があるのが一般的であり、相手方は授権書をもって代理人の権限範囲を判断できるのに対して、職務代理の場合、企業が従業員に権限を付与するに際しては、企業と従業員との間における労働契約、雇用契約における職務条項を通じて包括的に定めたうえで、従業員が従事する業務範囲、職位職責等を通じて具現化される場合が多く、通常、各業務ごとに権限を個別に付与することはないため、相手方は社会通念や取引習慣(例えば、総経理、販売総監は売買契約締結の権限を有し、企業内部の行政総務人員は売買契約締結の権限を有さないなど)から判断するしかない。

従って、相手方が事情を知っていた又は相手方に過失がある(即ち、相手方は「善意」ではない)場合を除き、原則的には、企業内において従業員の職位職責が配分されていることをもって、善意の相手方に対抗できないため、その場合、職務代理が成立し、その効果は企業に帰属することになる。

Q9:従業員が自ら設立した又は間接的に支配する会社と締結した契約は有効であるか?

「民法典」第168条によると、代理人は被代理人の名で自己と民事法律行為を実施してはならない。但し被代理人が同意している又は追認している場合を除く。代理人は、被代理人の名で自己が同時に代理している他の者と民事法律行為を行ってはならない。但しこの両被代理人の同意又は追認を得ている場合を除くことになっている。

企業の経営活動においては、従業員が自ら設立した会社を通じて、又は自分の親戚、友人が設立した会社を代理して企業と取引を行うことはよくある。このような従業員による「自己代理」又は「双方代理」は、無権代理であり、その場合、企業及び(又は)相手方から事前の同意又は事後の追認があった場合に限り効力が発生することになる。

もっとも、従業員と相手方が悪意をもって結託し、企業の適法的な権益を害した場合、締結された契約は無効であり、従業員及び相手方は企業に対して連帯責任を負わなければならない。

Q10:従業員が無断で企業の名にて対外的に提供した担保は有効であるか?

「会社法」第16条第1項によると、会社がその他の企業に投資し、又は他人のために担保を提供する場合は、会社定款の規定に従い、董事会又は株主会、株主総会が決議する。会社定款が投資又は担保の総額及び個別の投資又は担保の金額について限度額を定めている場合は、所定の限度額を超えてはならないことになっている。

先ず、社会通念及び取引習慣から言えば、従業員による対外的な担保の提供は職務上の行為であるかのような外観を呈していなければならず、次に、相手方は企業から提供された対外的担保に係る決議(具体的な決議機関は企業の定款にて定める)に対して形式審査を行わなければならない。この2つの前提要件を満たしていれば、従業員が企業の名で提供した対外的担保が成立することになると考えられる。

従業員が無断で企業の名で対外的担保を提供するに際しては、通常、権力機関の決議書(董事会会決議又は株主会決議)を提供することは不可能であり、相手方も係る決議書に対する形式審査を行うことができないため、相手方に過失があることになり(即ち、相手方は「善意」ではない)、当該対外的担保提供行為は企業に対して効力が発生しない。

四、職務代理等に対する企業におけるリスク対策

企業の経営活動においては、法定代表者以外の者が契約を締結することはよくある。従って、「企業を代理して行われる行為」によって企業に生じる外的リスクを防止し、従業員が職権を逸脱することにより生じる内的リスクを減らすために、企業は以下の点を参考にして、ルールを定め改善しておくことが望ましい。

1.企業内部におけるルール化

● 企業の情報を公示するためのルートを構築し整備し、従業員の職権一覧、重大業務の運営プロセス、重大な人事変動情報等を企業の公式サイト、公式アカウント又はその他合理的な方式により公示する。企業における各部門、責任者の責任境界線を明確にし、「企業を代理して行われる行為」に係るリスクの発生を防止する。

● 従業員の職位職責、社内の承認権限を明確にし、すべての契約書に法定代表者がサインするようにする制度を実施する。

● 企業の印鑑及び委任状、捺印されている白紙の契約書、白紙の紹介状等職務上の書類の管理を強化し、これらを使用するための登録制度を導入し、印鑑を盗用する、職務上の書類を無断で発行する等の行為が発生しないよう厳重に管理する。電子署名を用いた契約に対しては技術的な管理及びリスク審査をさらに強化する。

● 従業員の異動又は離職の際、委任状、契約書、紹介状、名刺、社員カード等の職務上の書類を速やかに回収したうえで、取引相手に速やかに書面にて通知を行い、企業の公式サイト、公式アカウント等においても公示する。

● 企業のオフィススペースの使用要件を規範化し、外部からの来訪者に対する実名登録制度を実施する。業務用メールボックスの管理を強化し、定期的にメールデータをバックアップする制度を実施する。

● 従業員による職権を逸脱した代理等の行為を厳しく罰する旨の規定を労働契約、就業規則、懲戒規定において定めておく。

2.企業外部に対するルールの整備

● 取引相手に契約を締結する権限があるか否かについて疑問に思った場合には、取引相手の法定代表者又は授権者に公式なルートを通じて書面にて確認する。その確認が完了するまでは契約の履行を開始しないこと[5]

● 法定代表者以外の者がサインする場合、委任状又は証明の提出を取引の相手方に求めるようにする。サイン者に変更が生じている場合、若しくはサイン者が契約の定め等と異なる場合、委任状又は証明を改めて提供するよう求めるようにすること。

● 企業の契約ひな形において、署名権限者のサイン欄を設ける又は公印が捺印されている場合に限り有効となることに関する条項を追記しておく。メールの署名箇所において、提携に関する正式な確認はいずれも書面にて行い、且つ公印が捺印されている場合に限り効力が発生する旨を明記しておく。

● 可能な限り正式な場で、又は双方当事者が予め合意している正式なルート、手段で契約を締結するようにする。

● 担保に関わる事項である場合には、取引相手における決議書に対する形式審査も同時に行っておくこと。

● 対外的経営活動において払うべき注意義務に係る法的意識とリスク防止意識を高めるために、事業担当者向けに職務代理をテーマにした研修を実施する。

おわりに

上述の内容は、企業の経営活動においてよく見受けられる職務代理に係る問題について、筆者の実務経験を踏まえて、まとめたものである。企業において職務代理を運用する際の一助になれば幸いである。職務代理が企業の経営活動において広く運用されるようになるにつれて、多くの複雑で、他に類を見ない特異なケースが発生することが見込まれる。また、職務代理の実務的な観点も司法実践を重ねるごとに絶えず修正され、「民法典」における「職務代理」に関する条項の理解と適用についても、社会経済、ビジネス環境、法観念の発展に伴って、さまざまな解釈が生じるであろう。今後、企業が職務代理を運用するに際して、新たなリスクや課題に対処できるよう、筆者も動向を注視し、情報を更新していきたい。

(執筆者:里兆法律事務所 沈偉良)

(共同執筆監修者:里兆法律事務所マネージングパートナー 趙強)

 

[1]《民法通則》第43条:企業法人は自社の法定代表者及びその他スタッフによる経営活動に対して、民事責任を負う。

[2]筆者が司法実践における多くの裁判事例及び学説上の観点を研究したうえで、商事分野における「善意」の認定基準を整理したものである。

[3]例えば、董事は会社の機関メンバーとして、経営上の意思決定を行い会社の意思を実現させることができる。監事は会社の権益を守るために董事、高級管理職者に対して監督の職責を履行し、ひいては監事代表訴訟を提起すること等もできる。

[4]《民法典》第172条:行為者が代理権を有さず、代理権を逸脱し、又は代理権が終了した後に、なお代理行為を実施した場合において、相手方が行為者に代理権があると信じるに足る理由がある場合、その代理行為は有効である。

[5]「民法典」第503条:無権代理人が被代理人の名で契約を締結する場合において、被代理人が契約義務の履行をすでに開始しており、又は相手方の履行を受け入れている場合、契約に対する追認であるとみなす。

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