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外商投資ネガティブリストの歩み、2024年版のポイントと今後の見通し

中国ビジネスレポート 法務
沈偉良

沈偉良

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2024年11月19日

【概要】

中国の外商投資管理制度については、「承認制」から「参入前内国民待遇+ネガティブリスト」制へと切り替えられた。外資管理の関連文書である「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」は、2024年9月6日に再度見直され、2024年11月1日から実施される予定になっている。2024年版リストにおける制限措置は、29項目に削減され、製造業分野の外資参入規制が「全面的に撤廃」された。今後は、バイオテクノロジー、医療機関、付加価値電気通信といった分野における規制の更なる緩和が期待される。

「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)(2024年版)」(以下「『2024年版ネガティブリスト』」という)は2024年9月6日に公布され、2024年11月1日から実施される予定である。本稿では、「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」のこれまでの歩み、「2024年版ネガティブリスト」の押さえておくべきポイント及び今後の見通しの3つに分けて、解説する。

一、中国外商投資管理制度の変遷及び外商投資参入ネガティブリストのこれまでの歩み

「外資三法」[1]のもとでは、中国において、外国投資家による投資に対して「承認制」を実行していた。即ち、中国域内で設立された中外合弁企業、中外合作経営企業又は外資企業は、対外貿易経済合作部門(現在、商務部門)の審査・承認プロセスを経なければならないことになっていた。

2013年、中国(上海)自由貿易試験区が設立され、「中国(上海)自由貿易試験区における関連行政法規及び国務院文書に定める行政審査許可又は参入特別管理措置の一時的調整に関する決定」「中国(上海)自由貿易試験区外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)(2013年)」の公布に伴い、「参入前内国民待遇+ネガティブリスト」による管理制度は、中国(上海)自由貿易試験区において、他の地域に先駆けて試験的に実施され、ネガティブリスト外の外国投資者による投資行為は、内資・外資一致の原則に従って管理し、「承認制」から「届出制」へと調整された。

2016年、「外商投資企業設立及び変更の届出管理暫定弁法」が公布され、外国投資者による投資の届出制は、全国に普及・拡大された。2017年、中国において、初めてネガティブリストをベースに、「外商投資産業指導リスト」を改正し、外国投資者による投資参入ネガティブリストにより管理する制度の全国範囲での普及・拡大が始まった。2018年、中国において、外資規制分野を一覧化した「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」が初めて公布された。その後、2019年、2020年、2021年、2024年複数回にわたって改正され、リスト内の制限措置の削減が継続的に実施されている。

2020年1月1日、「中華人民共和国外商投資法」及び「中華人民共和国外商投資法実施条例」が正式に実施されたことにより、外国投資者による対中投資に対し、参入前内国民待遇+ネガティブリストによる管理を行うことが、中国において初めて、法的次元から明確化された。また、届出制度も撤廃され、外商投資情報報告制度へと切り替えられた。外商投資企業の設立又は変更は、それ以降、商務部門で届出手続きを行う必要がなくなり、「外商投資情報報告弁法」及び「外商投資情報報告の関連事項に関する公告」の要求に基づいて、投資情報を商務部門に報告するだけでよいことになった。これにより、外商投資企業の設立・変更手続きはさらに簡素化された。

二、「2024年版ネガティブリスト」の押さえておくべきポイント

1.「2024年版ネガティブリスト」は、「2021年版ネガティブリスト」を踏襲している

外商投資家の種類、ネガティブリストの例外規定、外国投資者による投資を制限する対象範囲などにおいて、「2024年版ネガティブリスト」は、「2021年版ネガティブリスト」の規定を踏襲している。具体的には、以下の通りである。

1)外国投資家の種類を明確化

「2024年版ネガティブリスト」では、中国において投資を行える外国投資家の種類について、引き続き制限をかけ、外国投資家は、個人事業主、個人独資企業の出資者、農民農業合作社のメンバーとしての立場で、中国域内で投資経営活動に従事してはならないとされている。

2)ネガティブリストの例外規定は、これまで通り適用

「2024年版ネガティブリスト」に基づくと、国務院の関連主管部門の審査を経て、国務院の批准を得た場合、特定の外国投資者による投資は、「2024年版ネガティブリスト」の制限を受けずに実施することが可能になっている。

3)外国投資家の対中投資に対する規制の対象範囲の明確化

従来型の外国主体による中国域内への個人的な直接投資を除き、中国域内にある企業が海外で上場取引を行う場合、中国域内の主体が設立し、又は支配している中国国外にある会社が、その中国域内の関連会社を合併・買収する場合においても同様に、「2024年版ネガティブリスト」の規制を受けることになる。具体的には以下の通りである。

①「2024年版ネガティブリスト」に基づく投資禁止分野に従事する中国域内企業が、海外へ株式を発行し上場する場合、国の関連主管部門の審査、同意を得なければならず、海外投資者は企業の経営管理に参画してはならず、海外投資者の持分比率は、海外投資者による中国域内での証券投資管理に係る規定に照らして実施する。

②中国域内の会社、企業もしくは自然人は、中国域外で適法に設立し、又は支配する会社をもって、関連当事者関係にある中国域内会社を合併買収する場合、外商投資、海外投資、為替管理等の関連規定に基づき取扱う。

2.「2024年版ネガティブリスト」における、「2021年版ネガティブリスト」に対する変更点

「2024年版ネガティブリスト」では、「2021年版ネガティブリスト」第6条の「出版物の印刷は、中国側がマジョリティを有するものとする」及び第7条「漢方煎薬の蒸らし、炒め、炙り、焼成などの調製技術の応用及び漢方薬秘密配合製品の生産への投資を禁止する」の2つの項目を削除した。今回の改正により、全国外商投資参入ネガティブリストの制限措置は、31項目から29項目に削減され、製造業分野の外商投資参入制限措置は、全て撤廃された。

三、外商投資参入ネガティブリストの今後の見通し

中国における対外開放の拡大に伴い、外商投資参入ネガティブリストの更なる「スリム化」が進められていくことになる。最近、中国政府から公布された政策文書によると、バイオテクノロジー、医療機関、電気通信分野の対外開放はすでに試験運用が始まっており、この試験運用で功を奏した後、全国に普及・拡大されるであろうことが予測される。

1.バイオテクノロジー

中国商務部、国家衛生健康委員会、国家薬品監督管理局が2024年9月7日に「医療分野における開放拡大の試行作業に関する通知」(以下「『通知』」という)を公布し、「通知」の公布日より、中国(北京)自由貿易試験区、中国(上海)自由貿易試験区、中国(広東)自由貿易試験区及び海南自由貿易港では、外商投資企業が、製品の登録・発売及び生産に使われるために、ヒト幹細胞、遺伝子診断、治療技術の開発・応用に従事することを認め、登録・発売されている、生産許可を得ている製品は、すべて全国範囲で使用することができるようになっている。この点は、「2024年版ネガティブリスト」第17条の「ヒト幹細胞、遺伝子診断、治療技術の開発・応用への投資を禁止する」という規定を打ち破る内容になっており、大きな進展であると言える。

2.医療機関

「通知」によると、北京、天津、上海、南京、蘇州、福州、広州、深セン及び海南全島において外商独資病院(中医学を除き、国立病院の合併買収を含まない)の設立を認める予定である。なお、外商独資病院を設立するための具体的な条件、要求や手続きなどについては、別途通知する、となっている。この点は、「2024年版ネガティブリスト」第22条の「医療機関は合弁に限る」という規定を打ち破る内容になっており、大きな進展であると言える。

3.付加価値電気通信

中国工業・情報化部が2024年4月8日に公布した「付加価値電気通信事業の対外開放拡大試行作業に関する通告」によると、付加価値電気通信事業は、北京市サービス業拡大開放綜合モデル区、上海自由貿易試験区臨港新片区及び社会主義現代化建設けん引区、海南自由貿易港、深セン中国特色社会主義先導区において、他に先駆けて試行するとともに、インターネット・データ・センター(IDC)、コンテンツ配信ネットワーク(CDN)、インターネットアクセスサービス(ISP)、オンラインデータ処理・トランザクション処理、及び情報配信プラットフォーム・配信サービス(インターネットニュース・情報、インターネット出版、インターネットオー視聴、インターネット文化事業を除く)において、情報保護・処理サービス事業の外資持分比率の制限を撤廃している。この点は、「2024年版ネガティブリスト」第12条の「付加価値電気通信事業の外資持分比率は50%を超えてはならない(電子商取引、国内多者間通信、ストア・アンド・フォワード、コールセンターを除く)」という規定を打ち破る内容になっており、大きな進展であると言える。

ポジティブリストが長文になっているのとは異なり、現在、中国における外商投資参入ネガティブリスト管理制度では、参入が禁止・規制されている項目のみの記載となっており、簡潔で分かりやすい内容になっており、外国投資者が、中国の市場情報を獲得しやすくなっており、この点は、対中投資環境の透明度を強化していこうとする姿勢が読み取れる。今回、製造業分野の制限措置は「クリア」できたが、将来、中国はさらに、外商投資ネガティブリストを合理的に削減し、電気通信、インターネット、教育、文化、医療などの分野の開放・拡大を秩序立てて推進していくであろうことが予測される。

(作者:里兆法律事務所 沈偉良、王思敏)

[1] 「外資三法」とは、「中華人民共和国中外合弁企業法」、「中華人民共和国中外合作経営企業法」、「中華人民共和国外資企業法」をいう。

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