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ログイン2025年5月13日
概要:
「会社法(2023年改正)」(以下「新『会社法』」という)の改正に注目すべき点の一つは、従業員権益の保障及び企業の民主的管理であり、そのうち、会社に従業員董事を置くことについて、新たな要求を提起し、従業員が根本から会社の意思決定に参与し、監督する権益はさらに強化された。本稿では、新「会社法」の規定をもとに、有限責任会社の従業員董事・従業員監事について押さえておくべきポイントを解説する。
本文:
一、新「会社法」における、従業員董事・従業員監事制度の見直し
従業員董事・従業員監事制度は、企業においてマネジメントの民主化を実現する上で重要な制度であり、「会社法」が1993年に初めて公布されて以来、この制度が確立されている。その適用範囲からみると、従業員監事制度は、すべての監事会設置会社に強制的に適用されるが、従業員董事制度は、すべての董事会設置会社に強制的に適用されているわけではない。新「会社法」が実施されるまでは、従業員董事制度は、国有企業のみに強制的に適用されていた。2018年改正の「会社法」(以下「2018年版の『会社法』」という)に基づくと、国有独資会社、2つ以上の国有企業又は2つ以上の国有投資主体が投資し設立した有限責任会社については、「董事会構成員の中に、会社従業員代表を含めなければならない」とされていたが、その他の有限責任会社については、「董事会構成員の中に、会社従業員代表を含めることができる」とされていた。
新「会社法」においては、従業員董事制度について、「法により監事会を置き、かつ、その中に会社従業員代表が含まれている場合を除き、従業員数が300名以上の有限責任会社については、その董事会構成員の中に会社従業員代表を含めなければならない」という新たな規定を設け、従業員董事制度の強制的適用の範囲を拡大した。
会社の組織構造に関しては、2018年版の「会社法」と比べ、新「会社法」は単層制のコーポレートガバナンススキームを導入した。つまり、一定の条件を満たしていれば、会社は監事又は監事会を置かないことができる。[1]これによって、従業員数が300名以上の有限責任会社は、監事会を置かず、董事会を置く場合、董事会に従業員董事を置かなければならないことになる。
なお、留意点としては、新「会社法」では、2018年版の「会社法」における、小規模又は株主人数の少ない有限責任会社が董事会を置かないことができる、という規定を残している。しかし、現時点では、「小規模」「株主の人数が少ない」に係る区分基準は明確に定められていない。「小規模」については、会社において、工業・情報化部、国家統計局、国家発展・改革委員会、財政部が公布した「中小企業分類基準規定」(工信部聯企業〔2011〕300号)を参照の上、業種の特徴、売上収入、資産規模、従業員数などを踏まえ、綜合的に勘案し、事前に関係部門へ問い合わせの上、確認しておくのが望ましい。「株主の人数が少ない」については、実務上、1名~2名の株主を有する会社は、株主人数の少ない会社として扱われるのが一般的である。したがって、もし会社(たとえ従業員数が300名以上である会社であっても)が上記状況に適合する場合、1名の董事(会社の事務を執行する代表)を置く、もしくは1名の董事(会社の事務を執行する代表)+1名の監事を置くことは可能である。
従業員董事・従業員監事に関連する、新旧会社法の比較表 | ||
2018年版の「会社法」 | 新「会社法」 | |
従業員董事 | ● 第四十四条:有限責任会社は董事会を置き、その構成員は3名から13名とする。ただし、本法第五十条に別途定めがある場合を除く。
2つ以上の国有企業又は2つ以上の国有投資主体が投資し設立した有限責任会社については、その董事会構成員の中に会社従業員代表を含めなければならない。その他の有限責任会社の董事会構成員の中に、会社従業員代表を含めることができる。董事会中の従業員代表は、会社従業員が従業員代表大会、従業員大会その他の形式を通じて民主的な選挙を経て選出される。 董事会は、董事長を1名置くものとし、副董事長を設けることができる。董事長、副董事長の選出方法は、会社定款により定められる。 ● 第六十七条:国有独資会社は董事会を設け、本法第四十六条、第六十六条の規定に従い、職権を行使する。董事の任期は毎回3年を超えてはならない。董事会構成員の中には会社の従業員代表を含めなければならない。 董事会構成員は、国有資産監督管理機構によって委任派遣される。ただし、董事会構成員中の従業員代表は、会社の従業員代表大会によって選出される。 董事会は、董事長を1名置くものとし、副董事長を設けることができる。董事長、副董事長は、国有資産監督管理機構によって、董事会構成員の中から指定される。 |
● 第六十八条:有限責任会社の董事会構成員は、3名以上とし、その構成員中に会社従業員代表を含まれることができる。法により監事会を置き、かつ、その中に会社従業員代表が含まれている場合を除き、従業員数が300名以上の有限責任会社については、その董事会構成員の中に会社従業員代表を含めなければならない。董事会中の従業員代表は、会社従業員が従業員代表大会、従業員大会その他の形式を通じて民主的な選挙を経て選出される。
董事会は、董事長を1名置くものとし、副董事長を設けることができる。董事長、副董事長の選出方法は、会社定款により定められる。 ● 第一百七十三条:国有独資会社の董事会は、本法の規定に従い、職権を行使する。 国有独資会社の董事会の構成員は、過半数を外部董事としなければならず、且つ会社従業員代表を含めなければならない。 董事会の構成員は、出資者の職責を履行する機構によって、委任派遣される。ただし、董事会構成員中の従業員代表は、会社の従業員代表大会によって選出される。 董事会は、董事長を1名置くものとし、副董事長を設けることができる。董事長、副董事長は、出資者の職責を履行する機構によって、董事会構成員の中から指定される。 |
従業員監事 | ● 第五十一条:有限責任会社は監事会を設けるものとし、その構成員は3名を下回ってはならない。株主の人数が少ない又は小規模の有限責任会社は、監事会を置かず、1名~2名の監事を置くことができる。
監事会には株主代表及び適切な比率の会社従業員代表を含まなければならず、そのうち、従業員代表の比率は三分の一を下回ってはならず、具体的な比率は会社定款の定めによるものとする。監事会中の従業員代表は、会社従業員が従業員代表大会、従業員大会その他の形式を通じて民主的な選挙を経て、選出される。 監事会は主席1名を置き、監事全員の過半数により選出される。監事会主席は、監事会会議を招集し主宰する。監事会主席は職務を履行できず、又は職務を履行しない場合、半数以上の監事が共同で推薦する1名の監事が監事会会議を招集し主宰する。 董事、高級管理職者は監事を兼任してはならない。 |
● 第七十六条:有限責任会社に、監事会を置く。ただし、本法第六十九条、第八十三条に別途定めがある場合を除く。
監事会の構成員は、3名以上とする。監事会の構成員には株主代表及び適切な比率の会社従業員代表を含まなければならず、そのうち、従業員代表の比率は三分の一を下回ってはならず、具体的な比率は会社定款の定めによるものとする。監事会中の従業員代表は、会社従業員が従業員代表大会、従業員大会その他の形式を通じて民主的な選挙を経て、選出される。 監事会は主席1名を置き、監事全員の過半数により選出される。監事会主席は、監事会会議を招集し主宰する。監事会主席は職務を履行できず、又は職務を履行しない場合、過半数の監事が共同で推薦する1名の監事が監事会会議を招集し主宰する。 董事、高級管理職者は監事を兼任してはならない。 |
二、従業員董事・従業員監事の職権、選任要件及び任免手続き
1.従業員董事・従業員監事の職権及び選任要件
新「会社法」において、会社董事、監事に共通して適用される職権及び選任要件については定めているが、これとは別個に、従業員董事、従業員監事の具体的職権及び選任要件については、特段規定を設けていない。従って、現時点では、それに関連する内容は、主に「企業民主管理規定」、中華全国総工会の文書[2]などが参考にするとよい。
従業員董事・従業員監事の主な職権及び選任要件 | ||
主要な職権 | 選任要件 | |
従業員董事 | ● 会社のその他の董事の職権と同様(例えば、董事会会議への参加、董事の発言権及び議決権の行使など)。
● 董事会において会社の重要問題を検討、決定するとき、意見を表明し、会社高級管理職者の任命、解任を決めるとき、従業員代表大会による高級管理職者の民主的な評価の結果をありのままに報告する。 ● 従業員の適法な権益、又は大多数の従業員の密接な利益に関わる董事会議案、方案について、意見提出、助言を行う。 ● 従業員の密接な利益に関係する規則制度又は重大事項について、董事会に議題を提出し、董事会会議の開催を提案し、従業員の合理的な要請を反映し、従業員の適法な権益を守る。 ● 法律法規、規則制度及び会社定款に定めるその他の職権。 |
【適格事由】
● 会社との間で労働関係がある。 ● 従業員を代表し、その合理的な要請を反映し、従業員及び会社の適法な権益を守ることができる者であり、また、従業員から信頼され、支持される者である。 ● 会社の経営管理を熟知しており、又は関連する業務経歴を有し、労働法律法規に詳しく、経営上の意思決定に参加することができ、調整・コミュニケーション能力を有する者である。 ● 法律や規則を守り、品行方正であり、公正に処理し、廉潔性・自律性を持っていること。
【欠格事由】 ● 会社の監事、高級管理職者は、従業員董事を兼任してはならない。会社の董事、高級管理職者は、従業員監事を兼任してはならない。 ● 会社の高級管理職者の近親者は、従業員董事、従業員監事に就任する、又は兼任するのに適さない。 ● 新「会社法」第178条に定める、会社の董事・監事・高級管理職者に就いてはならない状況。
【留意点】 ● 会社定款では、選任要件について、さらに詳細な規定を定めることができる(例えば、一定の勤続年数を満たす、会社の所属業種で専門性を持つ者でなければならないとするなど)。 ● 会社の労働組合主席、副主席は通常、従業員董事、従業員監事の候補者にしなければならない。[3] |
従業員監事 | ● 会社のその他の監事の職権と同様(例えば、監事会会議への参加、監事の発言権及び議決権の行使、董事会会議の同席など)。
● 従業員の密接な利益に関係する法律法規、規則制度及び会社定款の実施状況を監督・検査することに参加する。 ● 会社における従業員給与、労働保護、社会保険、福祉厚生及び労働契約、集団契約等の制度・規定の実施状況を監督し、検査する。 ● 従業員の密接な利益に関係する規則制度又は重大事項について、監事会に議題を提出し、監事会会議の開催を提案する。 ● 法律法規、規則制度及び会社定款に定めるその他の職権。[4] |
2.従業員董事・従業員監事の任免及び留意点
新「会社法」では、従業員董事、従業員監事について、「会社の従業員が従業員代表大会、従業員大会その他の形式を通じて民主選挙によって選出されなければならない」という規定しかなく、具体的な任免手続きを明記していない。実務では、会社の従業員董事、従業員監事の選出及び罷免手続きについて、主には「企業民主管理規定」、中華全国総工会32号文、33号文及び各地の関連規定等を参考にするとよい。
従業員董事・従業員監事の任免手続き及びその留意点 | ||
従業員董事・従業員監事の選出 | 従業員董事・従業員監事の罷免 | |
候補者名簿の作成 | ● 候補者の指名方法については、以下のものが考えられる。
– 会社の労働組合が自薦、他薦の結果をもとに、従業員の意見を十分に聞き取った上で、指名する。 – 三分の一以上の従業員代表または十分の一以上の従業員が連名で推薦する。 – 従業員代表大会の合同会議で指名する。 ● 従業員董事、従業員監事の候補者名簿は、確定後、会社が上級の労働組合に報告しなければならない。 |
● 不適格の従業員董事、従業員監事については、会社の株主あるいは株主会は、それらを罷免することができず、従業員代表大会が罷免することができる。
● 罷免議案は、会社の三分の一以上の従業員代表又は十分の一以上の従業員が連名で提出する。 |
従業員代表大会
投票 |
● 従業員董事、従業員監事は、会社の従業員代表大会が、無記名投票方式により、差額選挙を行い、且つ従業員代表大会の代表全員の過半数の同意を経てから選出することができる。 | ● 罷免議案は、従業員代表大会での討議を経なければならない。従業員代表大会が討議する際に、従業員董事、従業員監事は、会議で弁解の理由又は書面による弁解意見を提出することができる。
● 罷免議案は、従業員代表大会において無記名投票の方式により採決し、従業員代表大会の代表全員の過半数の同意を経て可決される。 |
結果の届出 | ● 従業員董事、従業員監事が選出された後、着任前に公示を行い、会社のその他の董事、監事と同様に手続きを履行し、上級の労働組合及び関係部門に届け出なければならない。 | ● 罷免議案が可決された後、会社の労働組合は、罷免の結果を上級の労働組合及び関係部門に報告の上、届け出なければならない。 |
留意点 | ● 従業員董事、従業員監事、従業員代表大会の任期
– 従業員董事、従業員監事の任期は、会社における他の董事、監事の任期と同じである。従業員董事の任期は、会社定款で定められるが、毎回三年を超えてはならない。従業員監事の任期は毎回、三年とする。 – 従業員代表大会の任期は毎回、三年から五年とし、具体的には、従業員代表大会が実情に応じて確定する。 – 原則上、従業員董事、従業員監事は、会社の従業員代表でなければならない。したがって、できるだけ従業員董事、従業員監事が従業員代表であることを確保するために、会社にて従業員董事、従業員監事、従業員代表大会の任期を三年に統一させることをお勧めする。 ● 委任関係と労働関係の競合 – 従業員董事、従業員監事の任期内に、その労働契約の期限は自動的に任期の満了日まで延長される。法に定める状況を除き、会社は従業員董事、従業員監事と労働契約を解除してはならない。 – 会社が、従業員董事、従業員監事である従業員と労働関係を解除することは、当該従業員が従業員董事、従業員監事としての職から自動的に解かれることを意味することにはならない。 – 従業員董事、従業員監事の任期が満了しても、労働契約の正常な履行に影響しない。 – 会社は、従業員董事、従業員監事の職責遂行行為に起因して、従業員と労働契約を解除してはならず、又は降格、減給その他の形で報復してはならない。 ● 従業員董事、従業員監事が罷免された場合の交代手続き – 新たな董事、監事が就任するまで、もとの董事、監事は法律、行政法規及び会社定款の規定に従い、その職務を履行しなければならない。 – 会社においては、従業員代表大会を通じて、もとの従業員董事、従業員監事を罷免するとともに、補欠選挙で新たな従業員董事、従業員監事を選出することが望ましい。 |
三、法に従い、従業員董事、従業員監事を設置しなかった場合における法的責任
会社が従業員董事、従業員監事を設置しなかった場合における法的責任について、新「会社法」において明確な規定はないものの、「労働組合法」によると、労働組合の組織のもとで、従業員代表大会及びその他の形式により、従業員が法に依拠し民主的権利を行使することを妨げた場合、県級以上の人民政府は是正を命じ、法に従い処理することとされている。したがって、法に依拠し、従業員董事、従業員監事を設置すべき会社が、会社の労働組合から要請を受けた後も依然として従業員監事、従業員董事を設置しない場合には、関係政府部門からの是正命令を受ける可能性がある。
また、2025年2月10日から実施された「会社登記管理実施弁法」によると、会社の登記又は届出申請事項に法律、行政法規の規定に適合しない状況がある場合、会社登記機関は、設立登記又は関連事項の変更登記・届出を受理しない、となっている。したがって、もし会社が法に依拠し従業員董事、従業員監事を設置しなかった場合、董事、監事等の変更登記・届出手続きを行うことができない可能性がある。
終わりに:
新「会社法」はすでに2024年7月1日から正式に実施されており、関連規定も相次いで公布されている。従業員が会社のマネジメント民主化に参加する権利を法的に保障し、新「会社法」の枠組みのもと、会社の安定的な成長を促進できるよう、会社においては、新「会社法」及び関連法律法規の規定に従い、従業員董事・従業員監事制度の適正な運用を図るための体制を適時整えておくことが望ましいものと考えられる。
(作者:里兆法律事務所 沈偉良 舒辰)
[1] 新「会社法」第六十九条:有限責任会社は、会社定款の規定に従い、董事会に、董事により構成される監査委員会を置き、本法に定める監事会の職権を行使させ、監事会又は監事を置かないことができる。会社の董事会構成員中の従業員代表は、監査委員会の構成員になることができる。
新「会社法」第八十三条:小規模又は株主人数の少ない有限責任会社は、監事会を置かず、1名の監事を置き、本法に定める監事会の職権を行使させることができる。株主全員の同意を得ることにより、監事を置かないこともできる。
[2] 従業員董事、従業員監事制度に関して、中華全国総工会によって公布された文書は主に、「従業員董事、従業員監事制度をさらに推し進めることに関する中華全国総工会による意見」(総工発〔2006〕32号、以下「32号文」という)、「会社制企業における従業員董事制度、従業員監事制度の構築強化に関する中華全国総工会による意見」(総工発〔2016〕33号、以下「33号文」という)を含む。
[3] もし会社の労働組合主席、副主席が会社の高級管理職者を兼任している場合には、従業員董事、従業員監事の候補者としては不適任と考えられる。
[4] もし会社が従業員董事を置かない場合、董事会における会社合併、分割、解散、会社変更に係る重大方案の作成、又は会社利益配当案の作成といった、従業員の密接な利益に関係する重要事項を決めるとき、従業員監事は、従業員董事に対する要求に従い、職責を履行しなければならない。
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