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改正「会社法」に基づき強化された「董事・監事・高級管理職者の責任」を考察する

中国ビジネスレポート 法務
沈偉良

沈偉良

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2024年10月17日

概要:

2024年7月1日、「会社法(2023改正)」(以下「改正『会社法』という)が正式に施行された。「会社法(2018改正)」(以下「旧『会社法』という)に比べ、董事、監事、高級管理職者の責任が強化されたことが、今回の改正「会社法」の大きな目玉のひとつになっている。本稿において、当該改正の内容を踏まえて、Q&A形式により、改正「会社法」下における有限責任会社の董事、監事、高級管理職者(会社の総経理、副総経理、財務責任者その他会社定款に定める者を含む)の責任について、押さえておくべきポイントを解説する。

本文:

今回の改正「会社法」では、董事、監事、高級管理職者が果たすべき忠実義務、勤勉義務の具体的内容が明確化されたのと同時に、董事、監事、高級管理職者の責任になる状況、及びその責任負担形式(それには、会社に単独で賠償責任を負うこと、株主と連帯して賠償責任を負うこと、第三者(例えば、会社の債権者)に賠償責任を負うことなどを含む)が新たに多数追記されたなど、「会社法」全体の歴史の中でも、今般の改正「会社法」における董事、監事、高級管理職者の責任に関する改正は、かなり大きな進展であり、また特に押さえておくべき点でもある。

以下では、董事、監事、高級管理職者の責任について、特に押さえておくべき点を解説する。なお、後述する状況は、董事、監事、高級管理職者だけでなく、その他の主体(例えば、株主)にも責任が及ぶ場合があるものの、紙面の都合上、本稿では、割愛する。

Q1:会社が改正「会社法」の規定に違反して、株主に利益を分配した場合(例えば、税引き後利益を損失補てんに充てることなく、利益分配をした場合)、会社の董事、監事、高級管理職者はその責任を問われることになるのか?

A:

1.改正「会社法」第211条によると、同法の規定に違反して、株主に利益を配当し、会社に損害を与えた場合、責任のある董事、監事、高級管理職者が、賠償責任を負う、と規定されている。

2.改正「会社法」第191条の規定によると、董事、高級管理職者が、その職務遂行において、他人に損害を与え、尚且つ董事、高級管理職者に故意又は重大な過失がある場合、賠償責任を負わなければならない、とされている。

3.上記規定に基づくと、損害が発生した場合、董事、監事、高級管理職者はいずれも、利益の違法な配当について、会社に賠償責任を負い、ひいては、董事、高級管理職者が会社以外の第三者に賠償責任を負うことになる可能性もある。しかし、董事、監事、高級管理職者の賠償責任が認められるためには、一定の条件(例えば、董事、高級管理職者は、利益の違法な配当において、株主に積極的に協力している、監事が、会社による利益の違法な配当に対する監督義務を怠っているなど)を満たしている必要がある。

4.ここで注意すべき点としては、改正「会社法」第191条は、利益の違法な配当のみに限ったものではなく、後述するその他の場合も含み、董事、高級管理職者が、その職務遂行において故意又は重大な過失により、第三者に損害を与えたときにも、第三者に対して損害賠償責任を負い得る立場になるとなっている点である。以下では、改正「会社法」第191条についての具体的な分析は、割愛する。

Q2:会社の株主が、定款所定の期日、金額通りに、出資金を満額払い込んでいない場合、会社の董事、監事、高級管理職者が、その責任を問われることになるのか?

A:

1.改正「会社法」第51条によると、董事会は、株主の出資状況を検査しなければならず、期限通りに、出資金を満額払い込んでいない株主がいることが判明した場合、会社が、同株主に対し、書面による督促状を発しなければならない。前述の義務履行遅延により、会社に損失が生じた場合、責任のある董事が、賠償責任を負わなければならない、とされている。

2.上述規定及び改正「会社法」第191条によれば、董事が、株主の出資状況について、会社、第三者に対する賠償責任を負うことになるのは、株主の出資状況の検査を適時に行っておらず、払込の実行を同株主に対して書面で催促していない場合に限られる、ということになる。

3.所定の期日、金額通りに、出資金を満額払い込んでいるかどうかについて、監事、高級管理職者は、法律上、検査、催促を行う義務はないため、この点においては、通常、会社に対する賠償責任を負う立場にはない。

Q3:会社が改正「会社法」の規定に違反して、減資を行った場合(例えば、債権者への通知をせずに、減資についての公示を行っただけである場合)、会社の董事、監事、高級管理職者が、その責任を問われることになるのか?

A:

1.改正「会社法」第226条では、改正「会社法」に違反した減資により、会社に損失を与えた場合、責任のある董事、監事、高級管理職者が、賠償責任を負わなければならないと規定されている。

2.上記規定及び改正「会社法」第191条によれば、董事、監事、高級管理職者はいずれも、規定違反の減資により、会社から、賠償責任を問われ得る立場にあり、ひいては、董事、高級管理職者は、会社以外の第三者に対し賠償責任を負うこともあり得る。もっとも、その場合、董事、監事、高級管理職者が、賠償責任を負うことになるのは、一定の条件(例えば、株主による規定違反した減資において、董事、高級管理職者が積極的に協力している場合、監事が、会社による規定違反した減資において、監督職責を怠っている場合など)を満たした場合に限られている。

3.また、2024年7月1日から施行されている「『中華人民共和国会社法』登録資本金登記管理制度の実施に関する国務院の規定」によると、2024年6月30日以前に設立された会社について、その出資期限までの残りの年数が、2027年7月1日から起算して、5年を超えている場合、2027年6月30日までに、出資期限までの残りの年数を5年以内に調整しなければならない。つまり、登録資本金の出資期限までの残りの年数は、最長でも2032年6月30日を超えてはならないことになっている。このため、賠償責任を負うことにならないように、董事、監事、高級管理職は、出資期限を速やかに調整するよう、若しくは法に依拠し、速やかに減資手続きを行うよう株主に注意喚起しておくことが望ましい。

Q4:董事が、清算義務の履行を遅延した場合、その賠償責任を問われることになるのか?

A:

1.改正「会社法」第232条、第238条によると、董事が、会社の清算義務者になっており、董事は、その清算義務の履行を遅延した、又はその清算の職責を履行した際に、故意又は重大な過失などがあったことにより、会社若しくは債権者に損失を与えた場合、賠償責任を負わなければならないとされている。

2.上述の賠償責任を負うことになる状況には、会社に法定の清算事由(経営期限の満了、営業許可証の取消など)があるなかで、所定の期限内に清算手続きを進めていない場合、債権者に通知せずに直接、抹消を申請した場合、清算手続き(財産の整理など)を行わずに、直接抹消を申請した場合などが含まれる。

3.なお、旧「会社法」規定では、会社の清算義務者は、株主になっていたが、改正「会社法」における清算義務者は、董事へ変更されたことは、今回の改正「会社法」における大きな改正点であり、その分、清算手続きにおける董事の責務がかなり重くなっている。しかし、筆者の実務経験からいえば、現在、市場監督管理部門においては、董事全員を清算組のメンバーとして任命することまでは求めておらず、清算組のメンバーに董事が含まれていればよく、清算組の残りのメンバーは、以前と同じく、専門家(弁護士、会計士)が務めることも可能になっている。しかし、この点について、各地の市場監督管理部門ごとに運用方法が異なり、変更が生じる場合もあるため、清算手続きを行うにあたり、事前に現地の市場監督管理部門へ再度確認を行っておくことが望ましい。

Q5:株主が出資金を持ち逃げした場合、会社の董事、監事、高級管理職者が、その責任を問われることになるのか?

A:

1.改正「会社法」第53条では、株主が出資金を持ち逃げし、会社に損失を与えた場合、責任のある董事、監事、高級管理職者が、同株主と連帯して賠償責任を負わなければならないとされている。

2.司法実務上、虚偽の計算書類・会計書類を作成し、利益を水増しして配当する行為、架空の債権債務関係にかこつけて、出資金を外部へ振り込む行為、関連当事者との取引を利用し、出資金を外部へ振り込む行為など、法定手続きを経ずに、出資金を引き出す行為は、いずれも出資金の持ち逃げに該当すると認定され、もし董事、監事、高級管理職者がこういった行為に関与していた、又は監督の職責を果たしていなかったことにより、会社に損失を与えた場合、株主と連帯して賠償責任を問われ得る立場にあると考えられている。

3.なお、上述の出資金の持ち逃げに関する規定は、董事、監事、高級管理職者が株主と連帯して賠償する規定が、極めて少ない状況のなかで、設けられたものであり、また、出資金の持ち逃げについて、董事、監事、高級管理職者が、株主と連帯賠償責任を問われ得る立場にあることが、法律で、明文化されたのは、今回が初めてであることからみても、改正「会社法」を通じて、出資金の持ち逃げを断固として認めない姿勢が強く感じられる規定になっている。したがって、董事、監事、高級管理職者は、株主の指示内容(とりわけ、不正会計が疑われるような内容の場合)を遂行するにあたっては、慎重に判断する必要がある。

Q6:董事、監事、高級管理職者又はそれらの近親者などは、会社と契約を締結して取引を行うことができるのか?

1.旧「会社法」第148条によると、董事、高級管理職者が、会社と契約を締結して取引を行うことは、定款に定めるところによるか、又は株主会の同意を得てはじめて、行える。さもなければ、取引により得られた収入は、会社の所有に帰属する、となっている。

2.改正「会社法」第182条は、上記のもとに整備し詳細化している。具体的には以下の内容が含まれる。

●董事、監事、高級管理職者が、会社と契約を締結して取引を行うとき、事前に董事会又は株主会へ報告し、定款の規定に従い、董事会又は株主会の決議プロセスを経て可決されていなければならないことが、明確化された。

●董事、監事、高級管理職者が、会社と契約を締結し取引を行うケースには、会社と直接又は間接的に(例えば、その他の関連主体を経由して会社と取引する)取引を行うことが含まれることが、明確化された。

●監事、董事・監事・高級管理職者の近親者、董事・監事・高級管理職者又はそれらの近親者が直接若しくは間接的に支配する企業、並びに董事、監事、高級管理職者との間でその他の関連関係をもつ関連当事者をすべて規制対象者に組み入れた。

3.したがって、改正「会社法」において、董事、監事、高級管理職者又はそれらの近親者などは、会社と契約を締結して取引を行うことが絶対禁止だというわけではなく、事前の報告、承認プロセスをきちんと得ることにより、行えることになっており、このプロセスを怠った場合に、改正「会社法」第186条によれば、当該取引により得られたすべての収入は、会社の所有に帰属することになる、となっている。

おわりに

以上のことから明らかなように、改正「会社法」は、董事、監事、高級管理職者が果たすべき忠実・勤勉義務について、かなり厳しいルールを設けており、なかでも、董事、監事、高級管理職者の対第三者責任に関する規定が、新たに設けられたことで、董事、監事、高級管理職者の職業リスクが大幅に高まっている。これまでの中国の司法実務において、有限責任及び会社の独立主体性の原則のもと、董事、監事、高級管理職者の対第三者責任に関する判定においては、かなり消極的であったが、改正「会社法」の下では、裁判実務にも徐々に変化が訪れることになるであろう。

したがって、会社の董事、監事、高級管理職者は、その職務を遂行するにあたり、慎重に行動するとともに、必要に応じて、専門家の助言(弁護士、会計士などの独立した立場にある者からの意見を含む)を得ておくことが望ましい。また、董事、監事、高級管理職者の職業リスクを最小限に抑えるように、会社においては、董事、監事、高級管理職者のためにD&O責任保険に加入しておく、又は董事、監事、高級管理職者の職務遂行過程で被った損失を別途補償するといった方法も考えられる。

(作者:里兆法律事務所 沈偉良、林曉萍 2024年9月24日)

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