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ログイン2023年11月22日
概要:
2022年12月30日、中国人民代表大会ポータルサイトを通じて、「会社法(改正草案第二回審議案)」(以下「第二回案」という)を公布した。「会社法(改正草案)」(以下「第一回案」という)と比べると、第二回案は、会社の組織機構、董事・監事・高級管理職の責任など、改正内容は多岐にわたる。本稿では、今般の改正点と合わせて、外商投資企業(日系企業を含む)として重点的に注意すべき点を解説する。紙面に限りがあるため、本稿では「有限責任公司」のみに焦点をあてて考察する。
本文:
着目点一:会社の組織構造の最適化と調整
1.普通董事も法定代表者になれる
現行「会社法」では、法定代表者になれる者は、「董事長、執行董事又は総経理」としていたが、第一回案では、「董事長、執行董事又は総経理が務める。本法に従い、董事会非設置会社の場合、董事又は総経理が務める」へと修正されている。
この点、第二回案では、「会社を代表し会社の業務を執行する董事又は総経理が務める」に修正し、法定代表者になれる者の範囲を「董事長、執行董事又は総経理」だけでなく、普通董事にも拡大している。
2.300人以上の「大」会社における「従業員董事」設置義務に新たな例外を定めている
董事会に従業員代表(以下「従業員董事」という)を含めることを、現行「会社法」は、法定の条件に合致する国有企業のみに義務付けている(外商投資企業は対象外)。第一回案では、従業員数が300人以上の有限責任公司は全て例外なく、従業員董事の設置が義務付けられた。
今般の第二回案では、董事会内での従業員董事の設置をこれまで通り義務付けながらも、従業員監事が含まれる監事会設置会社は例外として、従業員董事の配置を不要としている。この改正は、言わば、従業員董事設置又は従業員監事設置の選択を会社の判断に委ねるものであると言える。
3.監査委員会を監事会/監事の代わりとすることが可能、「小」会社の監事会/監事設置不要の明確化
会社の組織構造について、現行「会社法」では、「三会制度」のもと、株主会/株主、董事会/執行董事、監事会/監事の同時設置が義務付けられていた。この点、企業統治は、会社の判断に委ねるとの観点から、第一回案では、董事会に監査委員会を設けている場合、監事会/監事の設置は不要であることが、はじめて明確化された。
今般の第二回案では、第一回案と同様に、監事会/監事の設置は必須ではなくなることを明確にした上で、以下の通り関係規定を更に詳細化している。
上述の修正内容を踏まえた第二回案における会社の組織機構設置は下図の通り:
会社規模 |
董事会内の監査委員会 |
監事会/監事 |
従業員監事 |
従業員董事 |
従業員数 0-299人 |
設置の場合 |
設置不要 |
設置不要 |
設置不要 |
非設置の場合 |
監事会設置必要 |
設置必要 |
||
又は監事設置必要 |
設置不要 |
|||
従業員数 300以上 |
設置の場合 |
設置不要 |
設置不要 |
設置必要 |
非設置の場合 |
監事会設置必要 |
設置必要 |
設置不要 |
|
又は監事設置必要 |
設置不要 |
設置必要 |
||
会社規模 |
董事会/董事 |
監事会/監事 |
従業員監事 |
従業員董事 |
小規模 |
董事会を設置せずに 董事1名設置可能 |
監事会を設置せずに 1-2名の監事を設置可能 |
設置不要 |
設置不要 |
株主全員の同意取得により、監事の設置不要 |
「小規模」の「小」会社にあっては、現行「会社法」は、「株主数が少ない又は小規模」の「小」会社は、1名の執行董事及び1名の監事を置くだけでよいとしながらも、「小規模」だと判断するための基準がない状態が続いていた。第一回案、第二回案では、「株主数が少ない」との文言削除により、「小」会社だと判定するための前提条件が「小規模」のみになっている点に注意が必要である。外商投資企業は、「株主数が少ない」との理由で、「小」会社としての組織機構設置を行えなくなることが予想される。
外商投資企業でよく見受けられる企業統治と考え合わせれば、外商投資企業の組織機構設置にあたっては、以下の点に注目する価値がある。
1)第二回案及び関連法令によると、従業員董事、従業員監事は、従業員代表大会又は従業員大会全体の過半数の同意取得後、一級上の労働組合へ届出を行い、かつ労働組合の主席、副主席が従業員董事、従業員監事の候補者にならなければならず、従業員董事、従業員監事は、株主の決定により随意に任免することができない、となっている。
2)通常、従業員代表大会又は従業員大会は、会社が民主的な管理運営を実行する上での基本となるものである。従業員代表大会制度制定は、会社の義務であるか否かは、各地区によって大きく異なり、例えば上海は、「上海市従業員代表大会条例」により、会社(外商投資企業を含む)の従業員数が100人以上の場合、従業員代表大会の開催が必須となり、従業員数が100人未満の場合、従業員大会の開催が一般的となっている。
3)第二回案において、従業員董事、従業員監事の規定は、従業員代表大会又は従業員大会制度を通じて実行する必要があるとしているため、当該制度を設けていない若しくは機能していない会社は、当該制度を適時整備しておくことが望ましい。
1)従業員董事は、3つの顔(即ち会社董事、従業員代表、従業員)を持つ。会社董事としての立場から見ると、従業員董事は、任期、職権を含み他の董事と同様に、会社の経営管理及び意思決定に法に依拠し参加することができる。従業員代表としての立場から見ると、従業員董事は従業員を代表して従業員の権利を守り、従業員権益に係る重要事項(賃金、賞与待遇、人員削減など)について把握、提案、関与・監督する等の権利を有している。従業員としての立場のみから見た場合、従業員董事も会社と労働争議が生じ得る立場にある。
2)よって、会社に従業員董事を置く必要がある場合、会社の利益と従業員の利益の両立及び会社の健全な発展の観点から、従業員代表大会と会社の経営管理意思決定体制との間の整合性(従業員董事配置後の董事会職権、董事の任期、董事の議決権等)が確保された制度設計となるよう、社内規則制度、会社定款等の調整、改善を行うことが望ましい。
3)従業員監事について、第二回案は、現行「会社法」規定を維持し、監事会における従業員監事設置の義務化、従業員監事の役割などに変更は生じていない。
着目点二:董事、監事、高級管理職の責任を更に整備し、董事責任保険制度が増設された
董事、監事、高級管理職に課せられる責任について、現行「会社法」では、会社の業務執行機関の一員たる董事、監事、高級管理職に法律及び会社定款に従い職務を執行することを義務付け、忠実・勤勉義務に違反した場合、社外の第三者に対してではなく、株主及び会社に対して賠償責任を負うと大まかに定めているが、第一回案では、現行「会社法」を詳細化し、董事、監事、高級管理職が賠償責任を負う状況を多数追加し、董事、高級管理職は、故意又は重大過失があったとき、対外的賠償責任を直接負うことになることが法律上はじめて明文化された。
今般の第二回案は、第一回案の董事、監事、高級管理職責任規定をほぼ踏襲し、一部状況下の責任負担方式を調整し、董事責任保険制度を増設している。以下では、第二回案の規定と合わせて、董事、監事、高級管理職が責任を問われる可能性のある主な状況を整理している(「既存規定」は、現行「会社法」規定を指し、「第二回案修正」は、第一回、第二回案において、現行「会社法」をもとに詳細化し、新設された規定を指す)。
・董事、監事、高級管理職はその関連関係を利用して会社の利益を損なった場合、賠償責任を負う。【既存規定】
・株主による出資に瑕疵があった場合、落ち度のあった董事、監事、高級管理職が当該株主と連帯賠償責任を負う。【第二回案修正】
・株主が出資金を持ち逃げした場合、落ち度のあった董事、監事、高級管理職が当該株主と連帯賠償責任を負う。【第二回案修正】
・董事会決議が規定に違反している場合、決議に参加した董事が賠償責任を負う。但し議決時に異議を表明し、且つ会議議事録に記載されている場合、当該董事の責任を免除することができる。【既存規定】
・董事、監事、高級管理職は忠実・勤勉義務に違反した場合、賠償責任を負う。【第二回案修正】
・董事、監事、高級管理職は、株主に規定に反して利益配当を行った場合、賠償責任を負う。【第二回案修正】
・董事、監事、高級管理職が規定違反の減資を行った場合、賠償責任を負う。【第二回案修正】
・会社の清算人を株主から董事へと調整し(定款に別段定めがある又は株主会決議で他の者を別途選定している場合を除く)、清算人が清算義務の履行を怠たり、会社に損失をもたらした場合、賠償責任を負う。【第二回案修正】
・董事、高級管理職の規定違反行為により株主の利益を損なった場合、賠償責任を負う。【既存規定】
・影の董事、影の高級管理職が会社の支配株主、実質的支配者の指示又は命令により、中小株主の利益を損なう行為を行った場合、支配株主、実質的支配者と連帯賠償責任を負う。【第二回案修正】
・董事、高級管理職が職務執行時、故意又は重大過失により他の者に損害をもたらした場合、賠償責任を負う。【第二回案修正】
・董事が清算人になり、清算義務の履行を怠たり、債権者に損失をもたらした場合、賠償責任を負う。【第二回案修正】
上記修正内容から、第一回案及び第二回案において、法整備上、董事、監事、高級管理職としての責任意識強化の傾向にあることが容易に読み取れる。
董事、高級管理職責任に関する規定がひとたび実施されれば、董事、高級管理職は会社、株主から賠償責任を問われるだけでなく、会社債務について対外的賠償責任を直接負うことになる可能性もあることに特に注意が必要である(例えば、故意又は重大過失により、規定違反の利益配当、減資、資産移転、清算の引き延ばし、不正会計などの行為により、会社の資産価値減少をもたらし、債権者の利益を損なった場合)。この点、外商投資企業のコンプライアンス意識の更なる向上につながる一方で、董事、高級管理職の職業リスクが大幅に高まり、企業のコンプライアンス経営に関わる董事、高級管理職にとっては大きな試練となるため、董事、高級管理職が合理的な判断のもとで意思決定を行えるよう、これまで以上に慎重に対応することが予想され(公正かつ中立的な立場にある弁護士から助言を受けるなど)、外商投資企業(とりわけ合弁企業)の意思決定プロセスにおいて、様々な意見が多数発せられるであろう。
また、第二回案で董事責任保険制度が増設されているが、本制度は中国でまだ普及していないため、当該保険で職業リスクがカバーされる否か(例えば、故意又は重大過失によるケースが保険金支払いの対象外になるか否か)は、引き続きその動向を注視する必要がある。よって、外商投資企業においては、職務執行に起因して董事、高級管理職個人に生じた損失に対して、場合によっては、会社名義で補償するといった方法も考えられる。
おわりに:
第二回案は現在まだ草案段階にあり、当該改正内容のままで最終案が確定されるかどうかは定かではないが、全体として、コンプライアンス経営が課題となる外商投資企業にとっては、一定の影響が及ぶことが予想されるため、外商投資企業は現在又は今後の法令修正状況を踏まえ、重点的に注意を払うべき部分に対する対策を事前に立てておくとよい。筆者は今後も「会社法」改正の動向を注視する。
(作者:里兆法律事務所 沈偉良、林暁萍)
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