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ポイント解説:「民法典」に基づく所有権留保に関するの若干の実務運用について

中国ビジネスレポート 法務
裴徳宝

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2022年10月17日

分割払い等の売買契約において、所有権留保はよく見られる取引上の手配のひとつである。「契約法」(中華人民共和国主席令第15号)の第134条と「売買契約紛争案件の審理における法律適用の問題に関する解釈」(法釈〔2012〕8号。「8号文」と略称する)の第六節は、所有権留保制度の基盤を構成し合っていた。2021年1月1日からは、「民法典」(中華人民共和国主席令第45号)及び「『中華人民共和国民法典』の係る担保制度の適用に関する最高人民法院による解釈」(法釈〔2020〕28号。「28号文」と略称する)等の関連する付帯規定が次々と発効し施行されたことに伴い、「契約法」は廃止され、8号文が修正されたことにより、所有権留保制度には実質的な変化が生じた。本文では、「民法典」等の法律規定で触れられている所有権留保に関わる重点条項を整理し、且つ会社実務に影響を及ぼす一部の変更点について分析する。

一、所有権留保制度の主な変更点

所有権留保の新旧制度を対比すると、主な変更点は以下の通りであることがわかる。

 (一)所有権留保に新たな法的性質を与えている。即ち、形式上、売主が留保するのは、他人の所有権に設定された担保物権ではなく、所有権そのものであること。しかし、機能上は、新法は実質的担保という概念を用い、所有権留保が担保機能を有することを正式に明確にしている。[1]

新旧規定の対比状況

新法:「民法典」及びその付帯規定

旧法:「契約法」及び8号文

■   「民法典」第388条:担保物権を設定する際には、本法及びその他の法律の規定に依拠して担保契約を締結しなければならない。担保契約には、抵当権設定契約、質権設定契約及び担保機能を有するその他の契約を含む。

■   28号文第1条:抵当、質入、留置、保証等の担保により生じる紛争には本解釈を適用する。所有権留保売買、ファイナンスリース、ファクタリング等の担保機能の発生に関わる紛争は、本解釈の関連規定を適用する。

——

(二)所有権留保登記制度を導入している。所有権留保は動産に限り適用し[2]、「動産と権利担保の統一登記の実施に関する国務院による決定」に基づき、所有権留保登記の取扱い及び問い合わせ用のシステムは、中国人民銀行与信センター動産融資統一登記公示システムである。

新旧規定の対比状況

新法:「民法典」及びその付帯規定

旧法:「契約法」及び8号文

■   「民法典」第641条:当事者は、売買契約において、買主が代金の支払又はその他の義務を履行しない場合、目的物の所有権が売主に帰属する旨を約定することができる。

売主が目的物について留保する所有権は、登記を経ていない場合、善意の第三者に対抗することができない

■   「契約法」第134条:当事者は売買契約において、買主が代金の支払又はその他の義務を履行しない場合、目的物の所有権が売主に帰属する旨を約定することができる。

(三)所有権留保の実現方法を更新した。主には以下の内容が含まれる。

  1. 旧法の訴訟を通じて目的物を取戻すことをベースとして、「①売買双方が協議により取戻すこと、②売主が担保物権の実現手順に準じて取戻すこと」という二通りの取戻方法を追加した。
  2. 取戻しの前に「支払の催告」という前置手続を新たに設けた。

新旧規定の対比状況

新法:「民法典」及びその付帯規定

旧法:「契約法」及び8号文

■   「民法典」第642条:売主が契約目的物の所有権を留保する旨を当事者が約定した場合において、目的物の所有権が移転する前に、買主が次に掲げる事由のいずれかに該当し、売主に損害をもたらしたときは、当事者に別段の約定がある場合を除き、売主は目的物を取り戻す権利を有する。(一)約定通りに代金を支払わず、催告を受けた後もなお合理的な期間内に支払いを行わない場合、(二)約定通りに特定の条件を完了していない場合、(三)目的物について売却し、質入れし、又はその他の不当な処分をした場合。

売主は、買主と協議し目的物を取戻すことができる。協議が成立しない場合には、担保物権の実現手続を準用することができる。

■   8号文第35条:所有権を留保する旨を当事者が約定した場合において、目的物の所有権が移転する前に、買主が次に掲げる事由のいずれかに該当し、売主に損害をもたらしたとき、売主が目的物の取戻を主張した場合、人民法院はこれを支持するものとする。(一)約定通りに代金を支払わない場合、(二)約定通りに特定の条件を完了していない場合、(三)目的物について売却し、質入れし、又はその他の不当な処分をした場合。

買い戻した目的物の価値が著しく減少し、売主が買主に対して損失の賠償を求めた場合、人民法院はこれを支持するものとする。

二、所有権留保の制度変更による実務への主要な影響

所有権留保の取引において、実務上よく見られる問題は、目的物の所有権留保期間中に、買主が契約違反し目的物を処分した場合、それに係る問題をどのように解決すかということである。本文では前述した所有権留保制度の変更点を踏まえて、この問題に特に焦点を当てて検討する。

  1. 目的物の所有権留保に係る登記が行われた場合、買主が契約違反し目的物を処分した時、取引に関係する当事者はどのように対処すべきか

目的物の所有権留保について登記が行われた場合、「民法典」第641条等の関連規定によれば、買主が契約違反し所有権留保の目的物を処分したとき、その取引相手である第三者は善意取得を援用して抗弁することができない。この場合、買主の契約違反に基づく具体的な処分行為(例えば、販売、担保設定)を特に区別する必要はなく、取引に関係する当事者(売主、買主と取引する第三者を含む)は直接に以下の方法により救済措置を講じることができる。

1)売主である場合(次のいずれかを選択することができる)

  1. 買主と協議して取り戻す。この方法では、売主と買主が合意したうえで、買主から所有権留保の目的物を取り戻すことになるのだが、当該方法は理想的な状態であり、実務上は双方が合意に達することは相対的に難しいと言える。
  2. 売主が特別な手順を踏んで担保物権を実現する。「民法典」第642条及び28号文の第64条によれば、双方の協議により取り戻すことができない場合、売主は担保物権の実現手続を準用するといった特別な手順を踏むことができ、即ち、売主は「民事訴訟法」第203条、204条に基づき、法院に対し目的物の競売や売却を申立て、担保物権を直接に実現することになり、先に訴訟を経て有効な判決を取得した後で競売や売却の申立てを行う必要がない。この点について、担保物権の実現手順の準用は、所有権留保が担保機能を有することが認められたことを示すものであると筆者は考える。説明が必要なこととしては、法院は審査の結果、担保物権の実現条件を満たしていないと認定し、さらには申立てを棄却するおそれがあり、その場合は、売主は訴訟を通じて取り戻す必要がある。
  3. 売主が訴訟手続を通じて取り戻す。「民法典」第642条の規定によれば、売主は買主と協議して目的物を取り戻すことができるが、協議が成立しない場合には、担保物権の実現手続を準用できると定められている。立法機関及び司法機関の説明と解釈[3]を参照し、関連する司法裁判例[4]を踏まえるならば、ここの「できる」は「するしかない」と理解してはならず、当事者が協議により目的物を取り戻すことができない場合は、買主と取引する第三者は目的物の物権を善意所得することができないため、売主は非訟手続の方法で担保物権を実現する以外に、目的物の所有権に基づき訴訟の方法を通じて目的物を取り戻すこともできる。

2)買主と取引する第三者である場合

先に述べたように、買主と取引する第三者は善意取得を援用することができないため、買主とその取引相手である第三者との間の紛争については、買主と取引する第三者は「民法典」第597条等の関連規定に基づき買主に対し違約賠償等の関連責任を主張することができる。

  1. 目的物の所有権留保に係る登記が行われていない状況下で、買主が契約違反し目的物を処分した場合、取引に関係する当事者はどのように対処すべきか

目的物の所有権留保に係る登記が行われていない状況下では、売主が留保している所有権は対抗力を有さず、買主と取引する第三者には善意所得を適用する余地がある。このとき、実務上買主が契約違反し、所有権留保の目的物を処分した場合のよく見られる問題には、「①買主が所有権留保の期間中に契約違反し、目的物を第三者に販売した場合、取引に関係する当事者はどのように対処すべきか、②買主が所有権留保の期間中に目的物をもって第三者のために抵当権を設定した場合、所有権留保と抵当権の順位についてどのように対処すべきか」などがある。

上記の①については、買主と取引する第三者は目的物の所有権を善意取得することができるため、売主は原則として目的物を取り戻すことはできず、このような場合、救済を必要とする売主は通常、買主に対し損害賠償を主張するか又は違約責任を追究するしかない。

上記の②については,所有権留保は自己の権利を実現するために自己の物について担保を提供するものであり、「債権者の権利を実現するために他人の物に担保を設定する」という典型的な担保物権制度とは異なるが、「民法典」第388条及び28号文第1条では、所有権留保等の担保機能を有する幾通りかの行為・取引を担保対象範囲に組み込み、担保物権に関連する制度の類推適用に解釈上の前提を提供している。立法機関の関連する非公式の文書[5]を見る限りでは、売主の所有権留保と第三者の抵当権との間の順位は、どちらかというと「民法典」第641条2項を直接適用するのではなく、「民法典」第414条を適用する傾向にある。言い換えるならば、二者の順位は以下の通り取扱うことになる。

1)抵当権が既に登記されている場合、未登記の所有権留保よりも優先する。

2)抵当権が登記されていない場合は、未登記の所有権留保との間で、債権の比率に応じて弁済する。

当然ながら、当該順位の適用については様々な解釈[6]が存在するが、一体どの見解を採用するかは、最終的には司法の実務や解釈において、さらに明確にされていくことが期待される。

  1. 目的物の代金総額の75%以上を支払った状況において、買主が契約違反し目的物を処分した場合、どのように対処すべきか

8号文第36条はかつて「買主が目的物の代金総額の75%以上を支払ったにもかかわらず、売主が目的物の取戻しを主張する場合、人民法院はこれを支持しないものとする」と定められており、今回の「民法典」では、同条項を組み込むことなく、買主が約定通りに代金を支払わない場合の売主による催告手続を追加したのだが、28号文は、8号文第36条の係る内容を残しただけのものである。従って、実務上、対処に窮するケースが生じるのだが、それは、買主が約定通りに支払いを行わず、かつ催告を受けてもなお合理的な期間までに支払いを行わなかったのだが、買主が既に目的物の代金総額の75%以上を支払っているような場合、売主は取り戻すことができるのかどうか、そして、もしも取り戻すことができないとするならば、売主はどのように救済されるか、である。「民法典」の施行後の一部地方における司法の実務運用事例[7]を参考にする限りでは、以下の方法により対処すべきと考えられる。

1)売主の取戻権は75%の既払い金額に制限され、即ち、買主が既に目的物の代金総額の75%以上を支払っている場合、売主は取り戻してはならない。

2)売主が取り戻すことができない状況において、弁済がなされていない金額部分についての考えられ得る救済手段には以下のものが含まれる。一、担保物権の実現手続に関する規定に準じて目的物を換金し優先弁済を受ける方法。二、双方の約定に従い契約を解除し、買主と返品及び精算を行う方法。

  1. 売主の取戻し又は特別手続による担保物権の実現において、その他の重要な注意事項があるか。

「民法典」第642条、643条の規定によれば、売主が取り戻し、又は特別手続により担保物権を実現する際には、以下の三つの「合理的な」原則に合致している必要がある。

1)売主は、買主が約定通りに代金を支払わないことを理由に取り戻しを行う前に、買主に対し「合理的な期間」内に支払いを行うよう催告する必要がある。「合理的な期間」に関しては、「民法典」では明確にされていないが、司法の実務上は一般的に案件の事情、契約目的物の性質、取引の慣習と目的等の一連の具体的な事情に基づき総合的に判断され、通常は一般社会の公的基準に従い、買主の正常な支払に影響がないことが求められる。

2)買主が双方が約定した又は売主に指定された「合理的な買戻し期間」内に買い戻さない場合に限り、売主は競売、換金等の処分を行うことができる。「合理的な買戻し期間」についても、「民法典」ではやはり明確にはされていないが、実務上は通常、買主による目的物の買戻しを妨げないことが基準となり、買主の適法な権益は害してはならない。

3)買主が期日通りに目的物を買い戻さない場合、売主は「合理的な価格」で競売や換金等の処分を行う必要がある。「合理的な価格」に関しては、実務上は通常、市場価格を著しく下回ってはならず、又はその他の合理性に欠ける基準があってはならない。

三、今後の「所有権留保」に関する契約条項起草時の留意点について

上記の分析から、所有権留保取引の場合、所有権を留保する旨を約定するだけではもはや十分ではないことがわかる。今後、所有権留保に関する条項を起草する際の主な留意点として、次のことが挙げられる。

  1. 所有権留保の登記手続を行う際の各当事者の主体の責任分担を明確にしておくこと。例えば、登記の際の提出書類の名称及び提供者、登記情報の入力主体等である。
  2. 買主が期限通りに支払わない場合の売主の催告期間、並びに催告期間満了後においてもなお買主が支払いを行わない場合の売主の対応措置を約定しておくこと。例えば、取戻し及び発生した取戻費用は誰が負担するのか、違約金は支払うのか否か等である。
  3. 売主が取戻した後の買主の買戻し期間を設置し、かつ買主が買戻し期間内に代金を支払わなかった場合の対応措置を明確にしておくこと。例えば、売主は合理的な市場価格で第三者に売却することができるなどである。
  4. 売主が取戻権を行使するその他の状況については、双方が別途取り決めを行うことができる。

(作者:里兆法律事務所 裴徳宝、李繁)

 

[1] 「『中華人民共和国民法典』の係る担保制度の適用に関する最高人民法院による解釈条文釈義」第64条の条文解説によれば、「民法典」は形式主義ではなく、機能主義の観点から、所有権留保売買において売主が目的物の所有権を留保することが、実際には目的物の担保機能を果たすものであり、ファイナンスリースにおいてレッサーがリース物の所有権を有するように、いずれも担保債権の実現を目的とすることが考えられる。このような背景の下で、「民法典」第388条は所有権留保売買、ファイナンスリース並びに遡及権付のファクタリングをいずれも「担保機能を有するその他の契約」に組み込んでいる。

「全国法院民商事審判業務会議紀要」第66段目:【担保関係の認定】当事者が締結した担保機能を有する契約について、法定無効事由がない場合、有効なものと認定すべきである。契約に約定する権利義務が物権法に定める典型的な担保タイプには該当しなくとも、その担保機能は認められるべきである。

[2] 「民法典」においては、不動産に所有権留保を適用するかどうかについては明らかにしていないが、「売買契約紛争案件の審理における法律適用の問題に関する最高人民法院による解釈」(法釈〔2020〕17号)第25条によれば、不動産に所有権留保を適用しないことを明確にし、さらに不動産物権については通常、変更登記を完了してからはじめて所有権が移転することで、所有権を留保する必要はなく、筆者の理解では、司法の実務においても一般的に不動産に所有権留保は適用しないという見方が引き続きなされるものと思われる。

[3] 「第13期全国人民代表大会における『民法典』草案に関する全国人民代表大会常務委員会副委員長王晨による説明」、「『中華人民共和国民法典』の係る担保制度の適用に関する最高人民法院による解釈条文釈義」第64条の条文解説。

[4] 例えば、四川省金堂県人民法院(2021)川0121民初4367号:当院の認識によれば、・・・徳仁病院が分割払いで鑫高益社が販売していたCT機を購入し、かつ支払金額が代金総額の75%未満であり、「売買契約紛争案件の審理における法律適用の問題に関する最高人民法院による解釈」第26条に基づくならば、鑫高益社は目的物の取戻しを主張することができるが、別途、訴訟を提起しなければならないと考える

[5] 『全国人民共和国民法典契約編解読』(全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会民法研究室主任、黄薇)第641条の条文解説によると「・・・本法は既に所有権留保売買制度において登記を導入しているため、機能上は、留保している所有権は実質的に「登記できる担保権」に属する。これにより、所有権留保は同じように本法第414条の規定を適用することができる。」とされている。

[6] 高聖平:「民法典動産担保権優先順位規則の解釈論」、『清華法学』2020第3期に掲載。

[7] 例えば、江蘇省塩城市中級人民法院(2022)蘇09執異22号:当院はの認識によれば、・・・買主が既に目的物の代金総額の75%以上を支払ったため、売主が目的物の取戻しを主張したとしても、人民法院はこれを支持しない。本案件において、深圳山木社の主張によると、江蘇楽芯社は商品代金725,658.07元とそれにかかる利息だけが未払いであり、江蘇楽芯社の支払済みの金額は75%を遥かに上回っていることがわかるため、深圳山木社のいうJ×××××-1R表面実装機4台の所有権が自社に帰属することを確認し、かつ設備を返却するよう求める主張は成立せず、棄却する。

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