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ログイン2022年11月8日
概要
2022年4月10日、中国共産党中央委員会、国務院が「全国統一大市場の建設加速に関する意見」を公布し、全国統一大市場を建設するための行動計画を打ち出している。本稿ではメディアの報道及び専門家・学者の分析意見を踏まえ、「意見」の公布に至った背景について簡潔に紹介し、次いで「意見」で提起される法律制度・ルールに関しては、本稿では法的観点から、市場参入制度、公平競争審査制度及び独占禁止制度という3つの重要な法律制度を取り上げて考察する。
本文
2022年4月10日、中国共産党中央委員会、国務院が「全国統一大市場の建設加速に関する意見」(以下「『意見』」という)を公布した[1]。性質上、「意見」は、強制力を有する法律文書ではなく、中国共産党及び国家の戦略・方針・政策を伝える党政機関による公文書である。しかし、上層部がトップダウンで統括的に策定する綱領的文書として、同「意見」の内容は中国における各業種、各分野にわたり、重大な影響を及ぼすものである。本稿では「意見」の公布に至った背景について簡潔に紹介し、次いで法的観点から、重要と思われる制度・ルールを考察する。
「意見」の公布に至った背景についての分析
「意見」の「指導思想」では、中国全土で「全国統一の市場制度・ルールの構築、地方保護と市場分割の状況の打破、経済の循環を制約する鍵となる行き詰まりの打開、商品・要素・資源のより広範囲におけるスムーズな流通促進、高効率で規範化された、公平な競争が行われる、十分に開放された」「全国統一大市場」を建設することを明確にしている。
「統一市場」という概念が打ち出されたのは、今般の「意見」が初めてではなく、2013年に実施された中国共産党の第十八期中国共産党中央委員会第3回全体会議において「統一性、開放性、秩序ある競争が確保された市場体系を確立すること」が提言されており、その後、中国共産党第十九次全国人民代表大会以降の全体会議においても、幾度となく言及されたことがある。メディアの報道及び専門家・学者の分析意見によれば、今般、「意見」において全国統一大市場の建設を「加速化」することが提起されたのは、国内外環境等の諸要素が相互に影響し合った結果だとしている。
国内環境の要素には、例えば、経済建設、地方財政指標が政府要員昇進の考課基準となっており、各地方では現地のGDP及び地方税収を増加させるために、地元企業の発展のほうに重点を置き、地元企業を保護する傾向にあること(即ち、地方保護主義)、各地方の制度・ルールにバラツキがあるため、国家レベルの制度・ルールが、地方で確実に実施されていないこと、法執行基準がそれぞれ異なり、公平・公正性に影響を与えていること、厳格な戸籍制度と社会保険制度との間の整合性がとれていないため、労働力の自由な移動に支障を来たしていること等が含まれると考えられる。
国際環境の要素には、例えば、グローバル不況、貿易をめぐる争いの増加、ディグローバリゼーションが進んでいることで、中国の輸出主導型経済が後退したこと、また、新型コロナウィルス感染症の蔓延及び感染拡大防止対策によって、国際貿易、投資等の活動に重大な影響を与えただけではなく、サプライチェーンの維持確保等の面で、これまで以上に厳しい試練にさらされていること等が含まれると考えられる。
「意見」における重要な法律制度の考察
「意見」では、「立(制定)」と「破(除去)」を並行して実施し、6つの任務を遂行していくことを提言している。「立」には5つの面の「統一」が含まれる。即ち、①市場基礎制度・ルールの統一、②市場施設の高水準の相互接続・統一、③要素と資源市場の統一、④商品とサービス市場の高水準の統一、⑤市場監督管理の公平・統一。「破」については、市場における不正競争及び市場への干渉行為を規範化することが求められる。その過程において、法治に関係する場面が多分にあると思われるが、「意見」の「指導思想」でも、「法治の役割(牽引役、規範化、保障)を十分に発揮する」ことが強調されている。
以下では、法的観点から、「意見」に係る法律制度を考察する。「意見」は、綱領的文書であるため、その内容は幅広く、それに関係する法律制度も数多くあるが、紙面の都合上、本稿では市場参入制度、公平競争審査制度及び独占禁止制度という3つの制度のみに焦点をあてて考察する。
一、市場参入制度
「意見」の第(五)条と第(二十五)条はそれぞれ「立(制定)と破(除去)」を同時に実行し、正負の両面から、統一した市場参入制度を実施することを強調している。「意見」の第五条では、「全国において一枚のリスト」で管理する方式を着実に実施し、且つ各地区・各部門において市場参入に関するネガティブリストを独自に公布することを厳禁することを強調している。第二十五条では、法に依拠した平等な参入・撤退を阻害する規定を見直し廃止していくことを提起している。
市場参入ネガティブリスト制度とは、ネガティブリストにて、投資経営を禁止・制限する業種、分野、業務等を明記し、リストに収載された参入禁止事項については、事業者は参入してはならず、参入許可が必要な事項については、各種事業者はいずれも法に依拠し、参入申請を行い、参入方式及び参入条件に従い、適法に参入することができ、リスト外の事項については、各種事業者はいずれも法に依拠し、平等に参入することができるという制度をいう。「意見」における当該内容は、中国ですでに実施されている市場参入ネガティブリスト制度を再度表明するものである。
制度整備の面では、2016年3月、中国国家発展改革委員会、商務部が「市場参入ネガティブリスト案(試行版)」を公布し、天津、上海、福建、広東の4か所において市場参入ネガティブリスト制度が試行された。2018年末、国家発展改革委員会、商務部が「市場参入ネガティブリスト(2018年版)」を公布し、同制度は中国全土で本格的に実施されるようになった。その後、「市場参入ネガティブリスト」が数回、調整され、政府主管部門はリストを調整することにより、禁止・制限事項を徐々に減らした。しかし、市場参入ネガティブリスト制度が実施された後も、地方政府が参入条件を無断で追加したり、参入障壁を密かに設けるといった状況は少なからず存在している。そこで、市場参入ネガティブリスト制度の実施を全面的に推進するために、国家発展改革委員会は市場参入ネガティブリスト違反事例の集約及び開示制度を構築し、市場参入ネガティブリスト制度に違反した典型的事例及びその処理状況を報告するようにしている。
外商投資企業の場合、外国資本が中国市場へ参入するにあたっては、「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」が適用され審査を受けることになるが、外国資本が中国市場へ参入した後は、国内資本・外資一致の原則に従い、いずれも「市場参入ネガティブリスト」により管理されることになる。「意見」において、市場参入制度の統一化について再度明確に示されており、また同制度が着実に実施されることによって、各企業が市場参入にあたって、さらに公正、平等に扱われるようになり、また企業の移転及び地区の枠を超えた事業展開の利便性向上にもつながるであろうと考えられる。
二、公平競争審査制度
「意見」の第(六)条、第(二十四)条及び第(二十六)条のいずれにおいても公平競争審査が言及されており、公平競争審査制度を整備すること、新たな政策の公布に際して、公平競争審査を厳格に実施すること、及び入札募集・応札と政府調達に係る制度・ルールの制定にあたっては、国の関係規定に厳格に従い公平競争審査を実施することが提言されている。
公平競争審査制度とは、政策制定機関が政策を制定する過程において、自ら制定する市場参入、産業発展、投資誘致、入札募集・応札、政府調達、経営の行為規範、資格基準等といった事業者の経済活動に係る政策措置について、厳格に審査基準に従って自己審査を行い、市場への影響を評価することにより、競争を排除・制限する政策措置の公布を防止する制度をいう。現在、中国では公平競争審査制度を徐々に構築し、整備している最中である。
公平競争審査制度は、未然防止を目的とする事前審査制度である。中国では2016年以降、当該制度を構築し始めた。国務院が2016年6月に公布した「市場体系の構築において公正競争審査制度を構築することに関する意見」では、公平競争審査制度の構築を提言し、市場への参入・撤退に関する基準、商品と要素の自由な移動に関する基準、生産経営コストに対する影響の基準、生産行為に対する影響の基準という4つの方面から審査基準を制定した。2017年に国家発展改革委員会等の部門が共同で「公平競争審査制度実施細則(暫定)」(以下「2017年の『細則』」という)を公布し、公平競争審査制度について、審査体制及びその手順、審査基準、例外規定、社会的次元での監督及び責任追及等の面から詳細化している。2021年に市場監督管理総局等の部門が公布した「公平競争審査制度実施細則」は、2017年の「細則」をさらに整備している。
2021年10月に公布された「独占禁止法(改正案)」では、その第5条に公平競争審査制度に係る規定を新たに追加している。立法者が公平競争審査制度を重視する傾向が強まっている中で、改正後の「独占禁止法」が正式に公布された時、当該条項がそのまま残される確率が高い、ひいては将来、公平競争審査制度が法律として格上げされる可能性もあると考えられる。
公平競争審査制度を構築するには長期的な取り組みが必要だと考えられる。地方保護、市場分割、取引相手指定等、全国統一市場の建設と公平競争の妨げとなる各規定、やり方を見直し、廃止すること、外資企業と他地域の企業に対しての不当な扱いがなされている現状及び地方保護主義的な各種の優遇政策を見直すこと、新たに公布された政策に対する厳格な公平競争審査を実施する、といった措置は、公権力の行使を規範化、また行政機関による行政権力を濫用した市場への不当な干渉により、事業者の利益が害されることを防止するのに役立つものであるため、このような措置によって、各地方・各部門においては、外資企業・国内資本企業、国有企業・民間企業、地元企業・他地域の企業のいずれかであるかを問わず、平等に扱うようになるであろうと考えられる。
三、独占禁止制度
「意見」の第(六)条と第(二十二)条は、独占禁止行為に関連する問題に焦点をあてている。行政権力による独占、公平競争審査制度のほか、「意見」では事業者集中及びプラットフォーム企業による独占禁止行為等の問題についても取り上げている。
「意見」の第(二十二)条では、事業者集中に対する分類・等級分けによる独占禁止審査制度を最適化することを提言している。本来、事業者集中は、中国「独占禁止法」に定める独占方式の一つである。なお、「等級分け、分類」による監督管理方式を事業者集中の審査と組み合わせるといった発想は、「意見」において初めて打ち出されたものである。これに基づくと、理論的には、事業者集中に係る独占禁止審査を行うに際して、業種を「分類、等級分け」してから、審査基準を確定する、という仕組みは各業種に適用されていくであろうことが予想される。また、このような発想から、将来、中国の独占禁止審査作業が細分化され、的確に行われるようになるであろうことが窺える。
「意見」の第(二十二)条では、プラットフォーム企業によるデータ独占等の問題を解消することを強調している。プラットフォーム経済における独占禁止法違反行為は、全国統一大市場を構築する上で、一つの難点となると思われる。2021年2月、国務院独占禁止委員会が「プラットフォーム経済分野に関する独占禁止ガイドライン」(以下「『ガイドライン』」という)を公布し、同ガイドラインは、プラットフォーム経済分野における独占禁止法執行作業を指導することを目的としている。なお、現状として、プラットフォーム経済分野においてスタートアップ企業又は新興企業を対象とした「キラーアクイジション」が頻繁に行われている。このような状況に対して、「ガイドライン」の第十九条は、申告基準に達していないが、潜在的な競争相手を消滅させることで競争を排除・制限する目的を実現する可能性のある合併買収行為について、規定を設けている。法執行の面では、2021年に国家市場監督管理総局がインターネット分野における違法な事業者集中事案を多数、集中的に処理し、最大50万人民元の課徴金を課している。その処罰対象には、中国国内の超大手IT企業が多数含まれている。上記した立法及び法執行の現状からみれば、中国はすでにプラットフォーム経済分野が伝統的な業種とは異なる特徴を持つことを認識した上で、この分野における公平な競争の保護に力を注いでいることがわかる。しかし、中国では、当該分野を対象とした独占禁止法の制定及び法執行はまだ模索段階にあり、具体的な制度と措置をさらに整備する必要があると思われる。
終わりに
「意見」で言及されている法律制度には、既存の法律規定を再度明記するものもあれば、将来の法整備の計画及び見通しを示すものもあった。全国統一大市場を構築する綱領的文書として、「意見」において言及されている法律制度については、原則的、包括的な内容しか記載されていない。係る制度をどのように詳細化し、法執行及び司法においてどのように着実に実施していくかについては、今後もその動向を注視していかなければならない。
(筆者: 里兆法律事務所 沙晋奕 王思敏)
[1] 中国共産党中央委員会、国務院による「全国統一大市場の建設加速に関する意見」http://www.gov.cn/zhengce/2022-04/10/content_5684385.htm。
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