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「外商投資安全審査弁法」を読み解く

中国ビジネスレポート 法務
沙晋奕

沙晋奕

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2021年7月5日

外国投資者による対中投資に対する安全審査の新たな一章 

2020年12月19日、国家発展改革委員会、商務部は「外商投資安全審査弁法」(以下「『安全審査弁法』」)を公布した。「安全審査弁法」では、国家安全に影響を与え又はその恐れのある外国投資者による投資行為は、いずれも安全審査をクリアしてからでなければ実施できないことを明確に定めている。現行の外商投資管理制度をベースとし、「安全審査弁法」では外国投資者による対中投資に対し一層高いコンプライアンス要求を提起しており、重視していかねばならない。

外商投資安全審査制度は国際的に通用する外資管理制度であり、経済利益と国家安全保障のバランスを保つうえで重要な役割を果たしている。中国では、対外開放という基本国策を実施するとともに、国家安全への重視も終始強調している。例えば「外商投資法」では、中国域内で投資活動を行う外国投資者、外商投資企業は、中国の国家安全を脅かしてはならないと明確に定められている。今般の「安全審査弁法」により確立された外商投資安全審査制度の基本的なコンセプトは、現在の参入前の内国民待遇+ネガティブリスト管理制度をベースとし、中国国内における、国家安全に影響を与え又はその恐れのある外国投資者による投資に対し安全審査を実施することである。

 一、中国外商投資安全審査制度の変遷

●2011年2月3日、国務院弁公庁は「外国投資者による域内企業の合併買収に係る安全審査制度の構築に関する通知」を公布し、2011年3月4日には、商務部が「外国投資者による域内企業の合併買収に係る安全審査制度の実施に関連する事項についての商務部による暫定規定」を公布し、その後2011年8月25日、商務部が「外国投資者による域内企業の合併買収に係る安全審査制度の実施に関する商務部による規定」を公布している。これらの法令によって、中国外商投資安全審査制度は大方確立されたが、審査対象となるのは、外国投資者による域内企業の合併買収に限定されていた。

●2015年4月8日、国務院弁公庁は「自由貿易試験区における外商投資国家安全審査試行弁法」を公布した。同法令により、審査対象となる外国投資者による投資行為はさらに拡大され、外国投資者による域内企業の合併買収だけに限定されることはなったが、同法令は上海、広東、天津、福建等4つの自由貿易区のみに適用されるものであった。

●2015年7月1日に公布、同日に実施された「国家安全法」では、国家安全に影響を与え又はその恐れのある外国投資者による投資に対しては、国家安全審査を実施しなければならないという原則的かつ包括的な規定を行った。

●2019年3月15日に公布された「外商投資法」では、国家安全を影響し又はその恐れのある外商投資に対し国家安全審査を実施しなければならないと改めて原則的かつ包括的な規定が行われた。

●2020年12月19日に「安全審査弁法」が公布され、且つ2021年1月18日から施行されることとなった。「安全審査弁法」は外商投資安全審査制度の適用範囲を全ての外国投資者の投資行為に拡大しただけでなく、適用される地域範囲も中国全土に拡大した。

「安全審査弁法」の発効後は、中国外商投資安全審査で規制される外国投資者の投資行為は、下表のように変更される。

規制対象となる外国投資者の投資行為

合併買収

プロジェクト又は企業の新規設立

その他方式

「安全審査弁法」

発効前

自由貿易区内

自由貿易区外

×

×

「安全審査弁法」

発効後

全国

備考:「安全審査弁法」における「その他方式」は、「自由貿易試験区外商投資国家安全審査試行弁法」の規定を参照すると、協議による支配、名義株、信託、再投資、域外取引、リース、他社株転換可能債券の購入申込等の方式が含まれる。また、外国投資者が証券取引所又は国務院の承認を得たその他証券取引場所で域内企業の株を購入することも、「安全審査弁法」により規制される状況に該当する(具体的な適用弁法は別途規定)。 

二、「安全審査弁法」を読み解く

「安全審査弁法」が発効するまでは、中国で現行する外商投資安全審査制度は主に「外国投資者による域内企業の合併買収に係る安全審査制度の構築に関する通知」と「外国投資者による域内企業の合併買収に係る安全審査制度の実施に関する商務部による規定」で構成される。今回の「安全審査弁法」の内容も従来の安全審査制度による実践成果をまとめた上で整備されたものであり、制度の設計上、現行の制度とある程度において相似性がある。

「安全審査弁法」では、審査範囲内の外国投資者による投資行為に対し、審査機構が安全審査実施の要否、又は安全審査をクリアしているか否かを決定する前において、当事者は投資を実施してはならないことを明確にしており、且つ現行の外商投資安全審査制度をベースに、相応の法的責任を詳細に規定している。その中で、「外国投資者による域内企業の合併買収に係る安全審査制度の構築に関する通知」では、法的責任を「合同会議は、商務部が関連部門と共同で、当事者の取引を終了させるか、又は係る持分譲渡、資産譲渡その他有効な措置を講じることにより、当該合併買収行為による国家安全に与える影響を取り除くよう求めなければならない」と明確に定めていたが、「安全審査弁法」では、それをさらに整備し、申告を拒否して直ちに投資を実施したり、投資禁止の決定がなされる前にすでに投資を実施したり、虚偽の資料を提出するかもしくは情報を隠ぺいして安全審査を欺くことで安全審査をクリアしたり、付帯条件に従わず投資を実施するといった規定違反行為については、期限を定めて持分もしくは資産を処分し、又はその他必要な措置を講じることで、投資実施前の状態に戻し、国家安全に与えた影響を取り除くよう当事者を命じることができ、また、不良記録を国家信用情報システムに組み入れ、国の関連規定依拠して共同制裁を実施することもできるとした。

「安全審査弁法」発効後は、中国外商投資安全審査制度の適用地域が中国全土にまで拡大されるだけではなく、法的責任も一層明確にされているため、外商投資企業はこれを重視すべきであろう。

 

外国投資者による投資行為の中で最もよく見かけられる企業の新規設立を例にとり、FAQ形式で「安全審査弁法」を以下にさらに読み解く。

Q1:現在、外商投資安全審査を実施する審査機構はどこになるのか?

「安全審査弁法」によれば、外商投資安全審査執行メカニズム弁公室(以下「執行メカニズム弁公室」という)が外商投資安全審査の日常的作業を執り行うとされており、それには、資料の受取り、安全審査の実施、安全審査の決定、監督の実施等が含まれる。執行メカニズム弁公室は国家発展改革委員会に設置され、国家発展改革委員会、商務部がこれを牽引する。なお、現行の外商投資安全審査制度における審査機構は、部門間合同会議である。審査機構が臨時的な部門間合同会議から常設の執行メカニズム弁公室へと変更されたことは、外商投資安全審査が体系化、常態化されることを体現している。

現在、外商投資安全審査の申告は国家発展改革委員会政務大庁が受理することになっている。執行メカニズム弁公室の責任者と記者との質疑応答によると、「安全審査弁法」施行後、外商投資安全審査資料を受領する窓口の変更はないとされている。

 Q2:「安全審査弁法」はどのような分野における外商投資に適用されるのか?

「安全審査弁法」は外国投資者による全ての形態の投資行為に適用されるが、その審査範囲は全ての業種分野を網羅するものではない。「安全審査弁法」第4条によれば、審査範囲には以下の業界・分野が含まれるとされている:

●国防安全分野に関わるもの。即ち、軍需産業、軍需産業関連等の国防安全に関わる分野への投資、並びに軍事施設及び軍需産業施設周辺地域への投資。

●国防安全分野に関わるものではないが、国家安全に関わり、且つ投資先企業における実質的支配権を取得する以下のもの。

・重要な農産物。

・重要なエネルギー及び資源。

・重大な設備製造。

・重要なインフラ。

・重要な輸送サービス。

・重要な文化製品及びサービス。

・重要な情報技術及びインターネット製品及びサービス。

・重要な金融サービス。

・基幹的技術。

・その他重要な分野。

なお、係る報道によると、商務部が外国投資者による域内企業の合併買収に係る安全審査を実施した際に、商務部門はより具体的な「安全審査業界表」を部門内で通達したことがあるとされている。執行メカニズム弁公室が「安全審査弁法」についてもより具体的な業界表が配布されるかどうかについて、留意していく必要がある。

上述した実質的支配権とは次のものをいう。

・外国投資者が企業における50%以上の持分を保有すること。

・外国投資者が企業において保有する持分は50%未満であるが、その議決権は董事会、株主会又は株主総会の決議に対して重大な影響をもたらすことができる。

・外国投資者が企業の経営判断、人事、財務、技術等に重大な影響をもたらし得るその他の状況。

また、上述した「その他重要な分野」及び上述の「重要」、「重大」、「基幹的」、「重大な影響」等について、「安全審査弁法」ではこれらをどのように画定するか明確にしておらず、その裁量権は執行メカニズム弁公室に託されている。

なお、「安全審査弁法」第5条の規定によれば、当事者が執行メカニズム弁公室に外商投資を申告する前に、係る相談事項を執行メカニズム弁公室へ問い合わせを行うことができるとされている。よって、投資する予定のある分野が審査範囲に該当するか否かについては、外国投資者が事前相談の方式により執行メカニズム弁公室へ問い合わせて確認するとよい。

Q3:外商投資安全審査の申告体制及び審査手順はどのようになっているのか?

「安全審査弁法」における外商投資安全審査の申告体制及び審査手順は現行の制度と比べあまり変わっておらず、下図にまとめた。

上記した手順の中で、次の事項について留意しておくのがよい。

●「安全審査弁法」に定める申告体制は、当事者の自主申告が主となり、申告は「投資実施前」に行わなければならないが、企業を新規に設立する場合、投資実施前とは具体的にどの時点(投資意向を確定した時点、企業を設立する時点等)を指すのか明確にされていない。さらに、中国の現在の外商投資市場参入制度に基づくと、ネガティブリスト内の外商投資については、特別管理措置の要件を満たすか否かは、商務部門でも審査も必要であり、この2つの手続きをどのように行うか、どの手続きを先に行うべきかについて、現規定だけでははっきりしていない。今後、引き続き関連措置の公布に注意を払う必要がある。

●当事者の視点から見ると、外国投資者による投資が審査範囲内に該当するか否かを確定できない場合には、執行メカニズム弁公室にて安全審査申告を行い、安全審査の要否に関する書面決定を取得しておくのが最も安全な進め方である。ただし、企業は申告前にまず執行メカニズム弁公室へ事前相談を行ってみて、もしも執行メカニズム弁公室から審査範囲の要求を明らかに満たさないと認定されたときには、安全審査を行わないとすることができる。

●現行の外商投資安全審査制度と異なる点は、「安全審査弁法」は外国投資者による安全審査申告を認めるほか、域内当事者による申告も認める点である。よって、域内外の主体が外国投資者による投資について協議する際には、国家安全影響の評価及び安全審査の申告をだれの責任で行うのかについて話し合うことを検討するとよい。

●「外商投資法」の規定によれば、法に依拠し行われた安全審査決定は最終的決定であるとされており、安全審査決定が行政上の終局的なものであり、安全審査決定について行政訴訟を改めて提起してはならないということが明確になっている。よって、外商投資安全審査が進められている際に、いきなり投資禁止という終局的な決定が下されてしまうことがないよう、当事者は執行メカニズム弁公室と積極的に意思疎通を行い、投資方案を修正する必要があるかどうかを確認し、又はどのような条件を付帯することで投資許可の決定が得られるかを協議しておくのがよい。

●条件付きで安全審査をクリアした外国投資者による投資について、「安全審査弁法」では、執行メカニズム弁公室は係る証明資料の提出を求め、現場検査を実施する等といった方式を通じて、付帯条件の実施状況について事実確認を行うことができると定めている。よって、もしも当事者が条件付きでの安全審査クリア決定を取得したのであれば、執行メカニズム弁公室に対応できるよう、付帯条件を確実に実施していくよう注意しなければならない。

●「安全審査弁法」によれば、安全審査不要又は安全審査クリアの决定を取得したとしても、その後、企業が投資方案を変更し、国家安全に影響を与え又はその恐れがある場合には、改めて執行メカニズム弁公室へ再申告しなければならないとされている。

終わりに

 「安全審査弁法」は現行の外商投資安全審査制度を統合した上で、より整備され、体系化した規定がなされてている。しかし、手続きについてはまだなお不明瞭なところもあり、今後、企業は引き続き「安全審査弁法」の関連規定に留意し、監督管理の度合いの変化に注意を払っていくのがよい。外国投資者及び域内当事者は、取引交渉段階から国家安全影響評価を行い、また、「安全審査弁法」に定める申告前の相談制度を十分に活用し、執行メカニズム弁公室との意思疎通を行い、コンプライアンスリスクを軽減しておくようにするのがよいであろう。

(里兆法律事務所が2021年3月5日付で作成)

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