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「商標法改正案(意見募集案)」の改正に注目すべき点

中国ビジネスレポート 法務
沙晋奕

沙晋奕

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2023年9月19日

2023年1月13日、国家知的財産権局が「中華人民共和国商標法改正案(意見募集案)」(以下「『改正案』」という)を公布し、「改正案」についてパブリックコメントを募集していた(現在、公募は、終了している)。

全体として、今回の「改正案」では、これまでの改正を上回る大幅な調整が行われており、商標のストック行為のような使用を目的としない商標の登録出願など、実務上の問題点を踏まえた見直しを行っている。主な改正内容については、すでに第807期の「里兆ニュースレター」で簡潔に紹介しているが、本稿では、今回の「改正案」の改正ポイントを踏まえ、企業における商標管理の観点から、押さえておくべきポイントについて解説したい。

なお、立法プロセスに基づくと、「商標法」の改正は、通常、複数回にわたる意見募集、審議、議決等のプロセスを経なければならないことになっている。現時点では、「改正案」はあくまでも初回の意見募集案であり、正式な公布・実施に至るまでに、複数の立法プロセスを経る必要があるため、本改正案のままで、公布・実施されるとは限らないが、「改正案」の内容を通じて、中国商標法分野における将来の立法動向及び監督管理の重要なポイントを窺い知ることができる。

着目点一:商標の構成要素になり得る要素を増やし、これまで商標法の保護対象にはなっていなかった匂いなども商標として登録することが可能になることが予測される

現行の「商標法」によると、「文字、図形、アルファベット、数字、立体的標章、色彩の組み合わせ及び音など、並びにこれらの要素の組み合わせ」を商標として登録することができるとなっている。規定では、「など」を使い、その他にもあることを示す書き方になっているが、実際には、商標の構成要素は何でもいいというわけではなく、現行「商標法」に明記されている要素のみに限定されている。

なお、「改正案」第四条では、上記条項を「文字、図形、アルファベット、数字、立体的標章、色彩の組み合わせ、音、又はその他の要素、並びにこれらの要素の組み合わせ」に修正している。この点、国家知的財産権局も「『中華人民共和国商標法改正案(意見募集案)』に関する説明」において、科学技術の進歩及び経済社会の発展に順応し、事業者の利便性をさらに高めるべく、商標の構成要素になり得る要素を増やすことを明らかにしている。

「改正案」における商標の構成要素の調整は、将来、商標の構成要素に対する制限が完全になくなり、例えば、一部の国では登録できることになっているが、中国では現在、商標法の保護対象外になっている匂い、味覚、色彩、位置、動きなども、中国で商標として登録することができるようになる可能性があることを示すものであるといえる。そうなれば、グローバル規模で事業を展開する企業にとっては、中国でもこういった新しいタイプの商標を権利化してブランド保護を図り、一貫性のあるブランドを確立するのに役立つであろう。

着目点二:商標登録までの所要期間短縮化の一方で、商標登録審査が厳格化された

現行の「商標法」では、商標登録手続きは、出願申請・材料提出→方式審査+実体審査(最長で9か月)→初期的な出願査定公告(3か月)→公告期間が満了し、異議申立てがない場合、登録が認められる→登録証交付、といった流れで進めていくことになっているものの、各プロセスにおける審査の結果次第では、これらとは別の手順をさらに踏むことになる場合もある(例えば、公告期間内の異議の審査、出願が拒絶された場合の再審査、行政訴訟など)。実践では、登録手続きを順調に進められた場合、通常、商標登録までに9か月から11か月かかる。

今回、「改正案」において、商標登録手続きを一部調整している。例えば、以下の通りである。

●「改正案」第三十六条では、初期的な出願査定公告の期限を現行「商標法」に定める3か月から2か月へと調整している。

●現行「商標法」の規定によると、初期的な出願査定公告の段階において、もし第三者が異議を申し立て、審査を経て異議申立人の主張が認められた場合、商標の登録を認めない旨の決定が下され、出願者が不服のある場合、まず再審査を申請し、再審査の決定にも不服があるときにはじめて行政訴訟を提起することができる、となっている。この点、「改正案」第三十九条においては、出願者は、再審査のプロセスを経ずに、直接人民法院に行政訴訟を提起することが可能になっている。

「改正案」における商標登録手続きの調整は、商標登録の効率化及び商標出願者による権利化のためのコスト軽減の効果がある程度期待できるため、相対的に見て、企業にとって有利であると言える。しかし企業にて手続き上の権利を適時、また確実に行使できるように、商標登録手続きの変化に注意を払っておくことが望ましい。例えば、初期的な出願査定公告期限が短縮された場合には、第三者によって悪意のある抜け駆け商標出願されないよう、企業は同一又は近似する商標に対する定期的なモニタリングを強化し、初期的な出願査定公告の段階で遅滞なく異議を申し立てることができるようにしておく必要がある。

なお、今般「改正案」においては、効率化だけでなく、商標登録審査の質向上の観点からも、商標登録手続きを調整している。例えば、現行「商標法」において、国家知的財産権局は、初期的な出願査定公告段階に入った後、異議の申立てがなければ、それ以降、商標に対する実体審査を行わないとしている。しかし、「改正案」第三十七条によると、初期的な出願査定公告の後、登録認可の前に、もし登録出願している商標が「商標法」において「使用禁止となっている標章」に該当することを国家知的財産権局が発見した場合、初期的な出願査定公告を取り消し、審査を再度行うことができるとしている。したがって、企業においては、こうした点に配慮し、再審査を受けることで、商標登録手続きが長引かないよう、企業は商標登録出願前のセルフチェックを強化する必要がある。

着目点三:商標の重複出願を禁止する。重複出願を行った場合、悪意による登録を構成する可能性がある

現行の「商標法」においては、商標のストックなど行為が多発しており、その具体例としては、企業が自社の中核ブランドを守ることを目的として防衛的観点から行う商標登録出願(例えば、「老乾媽」や「老乾爹」、「老乾娘」等)、悪意による抜け駆け商標出願がある。また、継続して3年間使用されていないために、商標登録が取り消され又は異議を申し立てられ、無効になるなどの事態にならないよう、商標の有効性を維持する目的から、一定の間隔をおいて商標出願を繰り返し行うようにしている企業も存在する。これは、現行の「商標法」で同一出願者による同一商標の重複出願を明確に禁止していないためである。

「改正案」第二十一条では、商標の重複出願禁止制度が新設され、正当な理由のある場合を除き、出願しようとしている商標は、同一種類の商品について、出願者がそれ以前に出願し、登録している若しくは出願日前の一年以内に公告による抹消、登録取り消し、無効宣告を受けている商標と同じであってはならないことを明確にしている。商標の重複出願については、初期的な出願査定公告段階において、だれでも異議を申し立てることができ、登録が認められた後も、国家知的財産権局は、無効を宣告することができることになっている。

なお、上述の第三者から異議を申し立てられ、無効になるリスクのほか、「改正案」第二十二条、第六十七条、第八十七条等に基づくと、商標の大量出願、重複出願行為は、使用を目的としない悪意による登録と認定される可能性もある。一方、企業による商標登録の大量出願、重複出願行為が、使用を目的としない悪意による登録と認定された場合、企業は警告、違法所得の没収、最高25万元の過料を課される行政罰及び信用情報公示システムでの公示などの制裁を受けることになり、企業のイメージ、ブランド力が損なわれるおそれがある。この点は、特に注意を要する。

「改正案」は、企業の商標の使用の仕方に対してこれまで以上に高い要求を掲げていることから、企業は、適切な商標権を取得するための商標戦略を立てるにあたっては、商標の実際の使用場面、ブランドの将来の発展方向性等を十分に勘案の上、商標デザイン、区分を合理的に確定する必要があり、またブランド力を高めることに力を注ぎ、量より質を重んじるようにし、防衛的な商標に過度に依存しないようにする必要がある。商標登録が認められた後も、それを維持するための措置を講じておくのが望ましいと考えられる。

着目点四:商標使用の定義が調整され、商標使用のルールが拡充された

現行の「商標法」によると、商標的使用とは「商標を商品、商品の包装又は容器、及び商品の取引文書に使用する、又は商標を広告宣伝、展示及びその他のビジネス活動に使用し、商品の出所を識別するための行為を指す」と定められている。今回の「改正案」第五十九条では、さらに「サービスの提供場所又はサービスに関連する媒体」又は「インターネット等の情報ネットワーク」による使用も商標使用の具体例として挙げている。この点は、企業が商標の使用について立証を行う上で有利になると考えられる。

商標使用の定義調整のほか、「改正案」は「商標の使用」として認定されるための要件をさらに厳しく設けている。現行「商標法」は、登録商標の使用の面で、使用を目的としない悪意による商標登録出願の禁止制度、及び連続3年間不使用の場合に取消しとなる制度を設けているが、それほど大きな抑止力を有するものではなかった。実務では、登録商標を使用せず、そのまま放置している状況は依然として多い。

今回「改正案」では、「商標の使用」として認定されるための要件をかなり厳しく設けており、登録商標の真正な使用のほか、適正な使用の確保に主眼を置いている。例えば、以下のものがある。

●商標使用についての宣誓等プロセスの追加:登録出願しようとする商標は、指定商品又はサービスに使用している又は使用について宣誓している商標でなければならない。——「改正案」第五条

●商標使用の説明プロセスの追加:商標登録を認可された日から、毎回5年経過後の12か月以内に、当該商標の指定商品における使用状況、又は不使用についての理由を国家知的財産権局に説明しなければならない。当該期間満了後も説明しておらず、且つ通知を受領後も説明しなかった場合、商標登録は取り消されることになる。——「改正案」第六十一条

●不適正な使用に対する罰則の追加:使用時に、登録商標に無断で変更を加える行為に対して、最高で10万元の過料を課する行政罰を新たに設けた。——「改正案」第六十四条

●馳名商標として認定されるための要素の追加:馳名商標に認定されるための要素として、商標の使用方式、地域範囲、商標の中国国内・海外での出願・登録状況が新たに追加された。——「改正案」第十条

登録商標の真正な使用について:企業は先ず、商標の実際の使用場面及び商標の使用に係る法律上の定義を踏まえ、長期的視野に立って、着実に実行できる商標の使用計画を策定し、その使用計画を念頭に、商標戦略を立てて、適切な商標権を取得することが望しい。また、企業は、将来、商標取り消し手続き、馳名商標の認定又はその他商標を使用していることを示す証拠の提供が必要となる司法、行政手続きに対応することになった場合に、商標の使用に係る証拠を提供できなかったことで不利益を被ることがないように(例えば、商標の取り消し、抹消等)、企業は、商標を使用する過程で、商標を実際に使用していることを示す証拠を収集し、証明できるようにしておく必要がある。

登録商標の適正な使用について:商標の不適正な使用(例えば、登録商標のデザインを無断で変更すること)は、法的観点から言えば、上述の行政罰を受ける可能性があるだけでなく、変更後の商標デザインを使用することによって、他人の登録商標の商標権侵害に該当してしまうこともあり得るため、企業が権利侵害の責任を問われるリスクがある。また、商標の不適切な使用は、長い間、商標を使用し続けることで創出されるブランドのイメージを維持する上でも妨げとなるものであり、さらに、商標を使用していたことを司法、行政手続きで否定される可能性が高まる。したがって、登録商標を無断で調整すること(商標の構成要素、排列組合せ方法、構成比率、書体デザイン等の調整を含む)は好ましくなく、企業は、商標を使用するとき、登録した商標デザインのままで使用することが望しい。

現在、まだ意見募集の初期段階ではあるが、「改正案」において、立法及び監督管理の方向性(例えば、商標登録手続きの質の向上・効率化、商標登録の秩序を乱す行為に対する取り締まり、商標使用に対する要求の強化等)が示されており、この点は企業において、注視すべき点であると思われる。企業における商標のコンプライアンス管理に対して的確なアドバイスを行えるよう、筆者は、「商標法」改正の立法動向について、引き続き注視していきたい。

(作者:里兆法律事務所沙晋奕、林暁萍 2023年4月7日)

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