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個人の海外投資に係る公証手続きの規制

中国ビジネスレポート 法務
沙晋奕

沙晋奕

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2023年7月31日

新型コロナウィルスの感染状況が落ち着きを見せる中、中国の出入国及び移民業務も徐々に日常を取り戻しつつある。某日系会社の高級管理職Wは、高度人材として日本のビザ取得を申請中であった。手続きを行う過程で、日本の法務省から、書類(日本語)上のサインは、W本人が行ったものであることの証明として、中国の公証役場発行の公正証書も添えて提出するよう指示された。

ところが、Wは、上海で公証手続きを行う際に、困難にぶつかった。公証人は、Wの公証手続きが海外投資のためのものであることを知った後、審査で必要になるとして、文書(日本語版)及びその中訳版以外に、外貨管理局発行の認可書又は海外での職歴又は収入源の適法性など、裏付けとなる証明材料(以下「証明材料」という)も提出するよう、Wに指示した。これまでの公証手続きでは、このような「証明材料」の提出を求められたことはなく、公証役場の手続きガイドラインでも、そのような要件の記載はなかったために、Wは、納得いかず、疑義を呈したところ、公証人は、2022年から、個人の海外投資に係る公証手続きに「証明材料」の審査プロセスが追加されていること、また場合によっては、その他材料の提出を求められる場合もあることが手続きガイドラインに明記されており、今回の公証で必要になる「証明材料」がこの「その他材料」にあたることを説明した。結局、「証明材料」を提出できなかったために、Wは、公証手続きを行えなかった。

調べたところ、2022年4月、中国の司法部、中国の公証協会が、内部の業務指導文書(以下「当該文書」という)を通じて、中国公民個人による海外投資に係る公証手続きの適正化を求める指示を出しているのは事実であり、当該文書はまだ公開されていないが、実際に、公証役場においても当該文書に従い対応が行われている。

個人の海外投資に係る公証手続きの観点から、当該文書では、実体審査の要求(即ち、公証対象事項の実体内容、申請者の手続き目的の真正性、公正証書の用途に対して、厳格な審査を行うよう公証役場、公証人に指示している)を再度明確に示すとともに、申請者の資金源及び資金用途の適法性確保の観点から、当該文書では、審査に必要となる書類として、これまでの要件に加え、「証明材料」も提出しなければならないとしている。よって、もし申請者が当該要件通りに材料を提出できなかった又は実体審査を通過できなかった場合、公証手続きを行えないことになり、また、申請者が要件を満たした場合でも、以前にも増して、当該公証手続きに時間がかかることになる。

従って、Wが実際に遭遇した状況は、筆者の把握している状況と完全に一致している。

現状において、申請者が個人の海外投資に係る公証手続きを行うにあたっては、以下の対応を行っておくことが望ましい。

  1. 申請者は、公証役場に公証手続きの目的をありのままに伝えた上で、そのための「証明材料」として、具体的にどのような材料を提出する必要があるのかを公証役場に予め確認しておく。
  2. 上記1の結果をもとに、申請者は、当該「証明材料」を取得又は提出可能であるかを確認する。
  3. 当該「証明材料」を取得又は提出可能である場合、申請者は、その準備にかかる時間を予め確保しておくこと。
  4. 公証手続きを行えないだけでなく、法的責任を問われるおそれもあるため、申請者は、公証役場の指示通りに、材料を不備なく偽りなく提出する必要がある。

(作者:里兆法律事務所 沙晋奕、王思敏)

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