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ログイン2023年7月21日
本「指導意見」の改正に至った背景及び概要
2022年10月8日に、国家市場監督管理総局が新たに改正された「市場監督管理の行政処罰裁量権の整備に関する指導意見」(国市監法規〔2022〕2号、以下「新『意見』」という)を公布した。
2019年12月24日、「市場監督管理の行政処罰裁量権の整備に関する指導意見」が国家市場監督管理総局制定の行政規範性文書として初めて公布された(国市監法〔2019〕244号、以下「旧『意見』」という)。その後、2021年7月15日、新「行政処罰法」(以下「新『行政処罰法』」という)が実施され、2022年7月29日、国務院弁公庁が「国務院弁公庁行政裁量権基準の制定及び管理作業のさらなる整備に関する意見」(国弁発〔2022〕27号、以下「27号文」という)を公布した。このような背景のもと、新「行政処罰法」及び27号文の内容に合わせるべく、国家市場監督管理総局は旧「意見」の改正を行った。
新「意見」は主に、行政処罰裁量権の行使、行政処罰裁量権の適用ルール、行政処罰裁量権基準の制定と管理等を整備する観点から、改正を行っている。本稿では、新「意見」の改正において企業にもたらす影響が大きい3つのポイント(即ち、公平公正原則、裁量権基準の制定権限及び法令の優先順位、初回違法行為不処罰)に絞って解説する。
新「意見」の改正ポイント
一、公平公正の原則を追加し、「類似事案で処罰が異なる」ことを防止する
新「意見」原文 |
第三条 市場監督管理部門が行政処罰裁量権を行使するにあたっては、以下の原則を徹底しなければならない。 …… (三)公平公正原則。違法となる事実、性質、情状、社会へもたらされる危害の度合い等がほぼ同じ程度の違法行為に対して行政処罰を行う時に適用される法律根拠、処罰の種類及び幅は、ほぼ一致していなければならない。 …… |
行政法執行においては、行政機関の自由裁量の幅が大きすぎることによって、「違法行為とそれに対する処罰が釣り合わない」、「類似事案で処罰が異なる」といったことが長きにわたり問題視されている。これまでの国務院による監督検査で、陝西省楡林市轄区内の市場監督管理部門において、「類似事案で処罰が異なっている」状況があることがわかった。例えば、地元のあるスーパーは、賞味期限の切れたヨーグルトを4セット(その価値は、合計約60元)販売したとして、所轄の市場監督管理部門に2万元の過料に処された。しかし、同年度に発生した、他の事案では、他のスーパーは、賞味期限の切れたタニシ麺を販売した疑いがあるとされながらも、所轄の市場監督管理部門によって賞味期限の切れたタニシ麺を没収されただけで済んでいる。このような、行政機関の一貫性に欠けるやり方は、公平性に欠けるものであり、事業者が規制違反の未然予防をすることが難しくなる。
「行政処罰法」では、「公正性の確保」を基本原則としており、27号文においても公平性・合理性の確保が求められている。この点を踏まえて、新「意見」の改正にあたっては、「類似案件に対して同一の処罰」が実施されるよう、市場監督管理部門が行政処罰の裁量権を行使する上での基本的原則として、公平公正の原則を盛り込んでいる。
二、裁量権基準の制定権限及び法令の優先順位の整備
新「意見」原文 |
第五条 同一の行政処罰事項につき、上級市場監督管理部門がすでに行政処罰裁量権基準を制定している場合、原則的には、下級市場監督管理部門はこれを直接適用するものとする。下級市場監督管理部門が直接適用することができない場合、各地域の経済・社会の発展水準を踏まえ、法律、法規、規則に定められている行政処罰裁量権の範囲内で詳細化された量的基準を合理的に定めることができる。ただし、上級市場監督管理部門所定の法令の優先順位又は幅を超えてはならない。 下級市場監督管理部門制定の行政処罰裁量権基準が上級市場監督管理部門制定の行政処罰裁量権基準と矛盾している場合、上級市場監督管理部門制定の行政処罰裁量権基準を適用しなければならない。 |
27号文における「行政裁量権基準の制定権限の厳格化・適正化」という要求を着実に実施し、市場監督管理領域における行政処罰の裁量権基準が多数存在するなど、混乱を招かないように、裁量権基準の制定及び管理について、新「意見」第五条で、以下の3つの原則を明確にしている。
例えば、成都では、成都市市場監督管理局の意見において、四川省市場監督管理局の制定した基準を優先的に実施し、市局の基準は、省局の基準を補うものであることを明確にしている。
なお、実際に事案が発生した場合には、さらに現地の各級市場監督管理部門が制定した基準及び上述の3つの原則を踏まえ、個別に適用基準が確定されることになる。
三、「初回違法行為不処罰」制度が新設された
新「行政処罰法」に合わせて、新「意見」では「初回違法行為不処罰」制度が新設されており、これは、「寛容性及び健全性規制確保のもとで、監督管理を実施していく」ことを示すものであると言える。
実際、「初回違法行為不処罰」は新「行政処罰法」で初めて創設された制度ではなく、それ以前に、地方(例えば、2003年陝西省西安碑林工商分局)ですでに試行されている。これまで、「初回違法行為不処罰」に関する国の法律レベルで統一された規定はなかったため、各地方で運用状況が異なり、「初回違法行為不処罰」の適用条件に係る規定にもばらつきがあった。
新「行政処罰法」の実施に伴い、「初回違法行為不処罰」制度について、国レベルで統一的な運用を図るための基準(法的根拠)が設けられたことで、地方における「初回違法行為不処罰」に係る既存規定の速やかな整備と調整の必要性が高まったことになる。
なお、紙面に限りがあるため、本稿では新「行政処罰法」及び新「意見」のみに基づいて、「初回違法行為不処罰」制度において関心が高まっている以下の2点(つまり、「初回違法行為」に対する理解、「初回違法行為不処罰」と「軽微な違法行為不処罰」の適用上の違い)を解説する。
●「初回違法行為不処罰」の「初回違法行為」とは?
新「意見」において、「初回違法行為不処罰」とする規定が設けられているが、ここでいう「初回違法行為」(つまり、初めての法律違反)だと認定されるための要件は、新「意見」において、言及されていない。また、新「意見」の上位法である新「行政処罰法」においても、この点を明確に示していない。新「行政処罰法」における「初回違法行為不処罰」に対する司法部関係者の説明を参考にすると、「初回違法行為」は特定の期間、地域及び領域などの実情を踏まえて合理的に確定されることになると考えられる。
なお、市場監督管理部門、又はその他行政部門においても統一した規定をしていない。
なお、現時点において「初回違法行為」について統一した規定はないため、市場監督管理領域における「初回違法行為」の認定方法について、国家市場監督管理総局によって明確にされる、又は地方の市場監督管理部門にてそれぞれ基準が設けられる必要がある。
●「初回違法行為不処罰」と「軽微な違法行為不処罰」
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軽微な違法行為不処罰 |
初回違法行為不処罰 |
条文 |
新「意見」第十一条 次に掲げる状況のいずれか一つに該当する場合、法に依拠し行政処罰を行わないものとする。……(三)違法行為が軽微なものであり、且つ速やかに是正され、危害をもたらしていない場合。…… |
新「意見」第十二条 初回違法行為に該当し、且つ危害が軽微なものであり、且つ速やかに是正した場合、行政処罰を行わないことができる。…… |
構成要件 |
1) 違法行為が軽微なものであること。 2) 速やかに是正したこと。 3) 危害をもたらしていないこと。 |
1) 初回違法行為に該当すること。 2) 危害が軽微なものであること。 3) 速やかに是正したこと。 |
法的効果 |
「軽微な違法行為不処罰」が確定的となる(即ち、上述の構成要件を満たしていることになるため、市場監督管理部門は処罰を行うことができないということになる)。 |
「初回違法行為不処罰」は不確定的となる(即ち、上述の構成要件を満たしている行為であっても、それに対し処罰を実施するかどうかは、市場監督管理部門の裁量に委ねられているということになる)。 |
「初回違法行為不処罰」と「軽微な違法行為不処罰」は、対等の関係にある2つの処罰免除制度であり、両者は互いに独立している。
まず、両者の違法行為に対する要件が異なる。「軽微な違法行為不処罰」の場合は、「違法行為が軽微なもの」でなければならず、「初回違法行為不処罰」の場合は「初めての違法行為」でなければならないことを要件としている。「違法行為が軽微なものである」と「初回違法行為」との間で部分的に重なっているところがある。軽微な違法行為として認定することができないものであっても、その違法行為が初めてのものである場合、なおも「初回違法行為不処罰」制度が適用され、処罰を免除される可能性がある。
次に、両者の危害に対する要件が異なる。「軽微な違法行為不処罰」の場合は、「危害をもたらしていない」ことを要件としており、「初回違法行為不処罰」の場合は、「もたらされた危害が軽微なものである」ことを要件としている。よって、危害をもたらした行為に対して、「軽微な違法行為不処罰」が適用されないことは明らかである。
また、「初回違法行為不処罰」及び「軽微な違法行為不処罰」の構成要件を踏まえれば、「軽微な違法」と比べ、「初回違法行為不処罰」は、以下の場合について、処罰免除となる余地を残している。
なお、市場監督管理領域において、何をもって「違法行為が軽微なものである」、「危害が軽微なものである」と認定されるのかについて、国レベルで統一的な運用を図るための規定はなく、地方規定及び法執行の実務状況を踏まえると、通常、複数の要素を加味して総合的に判断することになると考えられる。筆者はある地方の規定をもとに、参考として主な判断要素を以下の通り整理している。
なお、上述の主な判断要素はあくまでも参考程度のものであり、実際に「違法行為が軽微なものである」又は「危害が軽微なものである」のいずれに該当するのかを判断しなければならななくなったときには、さらに現地の市場監督管理部門の規定及び法執行基準を踏まえて、個別に検討する必要がある。
おわりに
新「意見」では、「処罰の相当性の確保、寛容さと厳しさの両立」の原則をさらに具現化し、市場監督部門の裁量権の行使について、その権利の内容及び行使するための手続きをさらに整備している。しかし、新「意見」では、その規定の多くが依然として原則的内容のままである。例えば、新「意見」では、運用細目(「初回違法行為」の画定など)を明確に示していない。この点、企業においては、法令規定及び典型的な法執行事例を通じて、運用細目に対する国及び地方の市場監督管理部門の対応動向に引き続き関心を払う必要がある。
(作者: 里兆法律事務所 沙晋奕、王思敏)
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